幕間:猫に真珠
公式の季節先取りイベントが始まった。まだ初夏だけど、海イベントだそうだ。
海といえば港町ポーツ。今だけ限定ダンジョンがオープン、LV別に難易度も別れた親切設計で連日にぎわっている。
猫?
猫はソロ活してダンジョンちょっと回って、誘われて人形連合とちょっと回って、その後は生産缶詰してる。
だってめっちゃ『貝殻』取れるんだもん。
『貝殻』がノーマルで、プチレアが『歪真珠』、レアが『白真珠』に『黒真珠』。
真珠はイベントNPCが限定アイテムと交換してくれる。猫もちょっと覗いてみたんだけど、戦闘職向けの装備で猫には不向きだった。魔法銃の新しいのはちょっと魅力的だったけど、猫にはロアンがいるしね。
さておき真珠である。
『貝殻』を100個圧縮して出来る『歪真珠』の最低品質を『変成』して作るレシピに『白真珠』『黒真珠』がある。
これが今、高額取引されているのだ。おまけにマケボには材料が溢れている。ここで儲けないわけにはいくまい。猫は金持ちになるぞ!!
『貝殻』が『歪真珠』になるのは知られた話だが、その後『変成』して真珠にするレシピはまだ掲示板に出ていない。あれは錬金術師バルトロさんのイベントで手に入れるレシピだったからか、あまり知られていないようだ。
バルトロさんが逮捕された後、あのイベントどうなってるんだろうな…? 革命イベントの導線だったから、すべての世界線でバルトロさんは牢屋にいるんだよね。まあやらかしちゃったから仕方なくはあるんだけども。
『貝殻』を買い、売りに出されている最低品質の『歪真珠』も買い、ひたすら錬金釜に放り込んで『変成』していく。
『白真珠』に使うのは光魔法と『星の砂』、『黒真珠』に使うのは闇魔法と『星の石』。出来る真珠のレア度は同じ。
『星の砂』はポーツでは砂の採取ポイントから希に取れるアイテムだが、今回のイベントではmobドロップとあって入手は楽々。よって『星の砂』を買い集めて『白真珠』を量産している。
ちなみに『星の石』はポーツではなくドゥーアで取れるレアアイテムで、武器製作時に混ぜるとクリティカル率に変化が出る。これもイベントで入手可能になってるみたいだけど、用途があるのでお高め。
『星の砂』は、他素材も集めて家具屋に持っていくと『夏の思い出』というボトルシップ家具にしてもらえるのだが、今のところ用途といえばそれだけなので人気はあまりなかったりする。家具の素材要求個数はえげつないけど、いらない人はいらないし、いる人も1個作ったら満足するやつだからね。
そんなわけで猫の3つの錬金釜がフル稼働している。『歪真珠』の圧縮は10秒程度だがタイムラグがあるし、真珠への『変成』は数分かかる。まああちこち釜セットしてるとすぐ過ぎる時間だから、そこまで気にはならない。
ポイポイ釜に放り込みつつ、マケボを見ては『貝殻』『歪真珠』を買い込んでいく。
にゃふふん、金儲けは気分がよい。
さすがにイベント残り日数が半分を切ったら、レシピを掲示板にオープンしようと思ってる。レシピが載ったら『歪真珠』は安く手に入らなくなるだろうからね。
今は猫の懐が寂しいので黙って金策である。
しかし『貝殻』、猫がせっせと集めていた分があっという間に追い抜かれるほどの出品数だ。もちろん猫が買取してたときよりは高い。『歪真珠』が『錬金術』で作れるという話は、わりとイベント初期に出たものだから。
「んにゃ~~、さすがに飽きてきたにゃ」
『白真珠』は作れば作るほど売れるし盛況ではあるが、ずっと同じことをやっているのも飽きる。錬金釜も1個ずつじゃなくて5個ずつくらいまとめて作れると楽なんだけど、そういう仕様にはなっていない。残念。
資金が300万を越えた辺りから飽きてきたのがまた、我ながらわかりやすい。こいつは慢心、慢心ですな。
500万くらいまで稼いでおきたいが、それにはあと2日くらいかかるだろう。イベントの勢いも弱まってきてるし。
最終日の駆け込み需要に期待して温存しておくべきか、いやいや……?
うむ、本格的に飽きてきた。
そんなわけで海へやってきました。今回はソロ活なので気楽なものよ。
初心者向けの観光コースを巡ることにして、いつもの面子にせっかくなのでラモをいれる。種族的にモリーとスーニャは海が苦手だろうから避けてみた。
海イベントの初心者向けダンジョンは、開放的な無人島だ。水平線までなーんにもない海を眺めつつ、採取しながらお好みに応じてmobを倒す。mobは攻撃するまで動かないノンアクティブなので、戦闘をしたくなければ避けることも可能だ。
ノンアクティブmobはカニだったりヤドカリだったり、鳥だったりする。のんびり動いてるので、のどかな光景。カニが掘った穴を採取すると『貝殻』が出てきたりする。なんとなく夏休み感。
ちなみに釣りスポットもあります。チッギョ…。
初心者散歩コースを2周ほどして、せっかくなので中級者コースもいく。
中級者コースは浜辺の洞窟だ。ポタポタと天井から滴る水を眺めつつ、明るい洞窟をいく。干満で水没する洞窟がモデルなんだろう。満潮時に船で来たらすごそうだが、残念ながら潮の満ち引きはない。
こちらはアクティブmobもいて、魚が海から飛び出してきたり、シーマンティスというカマキリ?シャコ?が出てきたりする。青いカマキリだが下半身がエビなのでなんともいいがたい。そして結構強い。発見が遅れると厄介だけど、目立つので問題ない感じかな。
今回は行かない中級者コースその2はパーティー向けで、そちらはもうちょっと暗い洞窟だった。道中、水没した道を行くこともあって、『水中移動』のスキルか『アクアブリージング』の魔法を必要とするやつだ。この辺は漁師御用達のスキル。やはり海ステージだけある。
このダンジョンではいつかオードリーさんから相談を受けたドリームブレスシェルも出て圧倒的『鍵魔法玉』不足になっているらしい。錬金術師は金儲けに忙しいから仕方ないね。
猫もちょっと息抜きに『鍵魔法玉』作ってもいいかもしれない。『錬成陣』と『錬成釜』を使う錬金術はまた違うものだから。
中級者コースも2周したら、今度はポーツの屋台通りへ。
イベント限定屋台の『つわもの焼き』が美味しいのだ。ドリームブレスシェルの切り身を串に刺して醤油で焼いたものらしい。ぎゅっと旨味が詰まっていて、ひとくち毎にあふれる海の味がたまらない。
名物の『フィッシュリング』に、見かけた屋台の『フローズンアイスティー』を飲みつつ、夕日が落ちるのを眺めればリゾート気分も満喫だ。やはりポーツは別荘地。
さて、息抜きが終わったら『錬金術』で金策を再開。
稼いじゃうにゃん~!
「……ていうイベント期間だったにゃんね~」
「そしてツヤツヤ成金猫になっちゃったにゃんね」
「にゃふふん、ほうら、明るくなったにゃん…」
「金貨が眩しいにゃん」
自由都市、いつもの露店通り。
件の成金ムーブは札じゃないから出来ないが、気分としてはバッチリ成金猫だ。ありがとう運営、ありがとうバルトロさん。
ちゃんと残り半分の辺りでレシピをオープンしたので、真珠は値下がったし、『貝殻』は値上がりした。その頃には猫も目標金額届いてたしね。ちょっと惜しい気もしたが、お互い様である。めんどくさくなってきただけ、というのもまあ否定できない……。
いやいや、掲示板のレシピにはお世話になってるし!
ちなみにフーテンさんたちはリーさんの『錬金術』によって無事、お目当てのアイテムを交換することが出来たんだって。「猫ちゃんのおかげよ~」とのこと。まあ、人のためになったならよかったよかった。
「でも今回のイベントで猫の金策手段はひとつ、つぶれちゃったにゃん~」
「『貝殻』すっかり値上がっちゃったもんねえ」
そうなのだ。『歪真珠』だけでも色付きにすればかなりの価格で売れていたのに、今回のことで『歪真珠』の色付きはもちろん、『真珠』も大幅に値下がってしまった。残念~~。
「無価値なものに価値を与えていくのが『錬金術』にゃ。これはもはや宿命にゃん……」
「長らくレシピ解禁にならなかったのも、今回のを見ると仕方ないのかもね~」
LVが関係ない生産って本当にレシピ勝負だからな~。
猫もオープンにしたのは『白真珠』『黒真珠』のレシピだけだったんだけど、検証班によってあっという間にバルトロさんからもらったレシピ、丸裸になっちゃったもんね。
いやあ、数の力って怖い。まして材料が簡単に手に入る状況だったから、明かされるまでがはやいことはやいこと。びっくりしてしまった。
しかし『投石玉』の『石ころ』に続き、『貝殻』まで高くなったのは痛恨の極み。
最低品質素材も地味に値上がっている今日この頃、買取露店で素材を集めるのは難しくなってきている。
「新しい金策が必要にゃん~」
「地道に稼ぐのもおすすめにゃん? 猫ちゃんのレベル帯にも金策ルートなかったっけ?」
「猫もついにミミズを推奨されるレベルになってしまったにゃん…」
「あー、ね………」
ミミズというのは、自由都市の東にある砂漠のサンドワーム狩りである。サンドワームは狩り方が最大効率化されており、もはや作業といわれる。金銭効率はいいが、いかんせん飽きると評判だ。
飛び道具の場合の倒し方も効率化されてるので、淡々と狩ることの出来るモチベーションさえ維持できればいいんだけどね。
「あそこ本当になにもないからな~……」
「そうにゃんね~」
猫は動画で見ただけなんだけど、本当に砂以外なにもないの。空と砂だけ。サボテンとかもない。砂丘もない。サンドワームも地中でうごめくだけなので、本当になーんにもない。
360度なにもない青と黄色の空間だというのに、なんとソロ専用ダンジョンなのでひとりでしかはいってはいけない。孤独に何もないところにいるの、猫は嫌。せっかくVRなんだから、景色のいいところがいいです。
「ネタとして行くのはよくても、通うのは嫌にゃん…」
「わかる~」
「やっぱり猫はドカンと稼ぎたいにゃんね~~」
「成金猫ムーブにゃん。また本屋さんに出禁食らわないようにするんだよ~」
「それは気を付けるにゃ……」
くぅ、あれから本はまだ買ってないのだ。ちゃんと買う本を吟味して買おうと思って。
やはり従魔法の本かなー。写し伝いっぽくて気になるしね。
写し伝いといえばインクも気になっている。『惑えるインク』は作るだけ作って使ってないし。たぶん『魔道工』用。そう、『魔道工』もやってみなければ…。
あわわ、ひとつ思い出すとやれてないことが走馬灯のようによぎる……!
やることリスト、やることリストが必要だぞ。
金策手段が失われつつあるんだから、今度の成金生活は慎重にいかないといけないし。
にゃん~、やりたいことも買いたいものもいっぱいにゃん~~!
錬金術師バルトロ→4章5話
#インデックスミス失礼しました、修正しました!
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