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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
5章 金欠猫には旅をさせよ~わくわくの森旅編~

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31.トロンポス・ベル

「にゃあ…」

「ここ、放浪型ワンダリングBOSSがいるんですよ」

「なるほど」

「1層には出ないみたいけど、2層から4層まではさまよい出るとか」

「範囲が広いにゃんね~」


 ワンダリングとは、いわゆるBOSS部屋で現れるBOSSではなく、フロア内をうろつくタイプのBOSSをいう。どこに現れるかわからないので探すのが大変だし、タイミングが合わなければ他の誰かに倒されてしまう。同時に別にBOSS狙いじゃないプレイヤーももれなく轢かれることがあるため、なかなかめんどくさい相手といえる。


「火だけで倒すとドロップテーブルが変わるらしいですよ。それが種族クエストに関係してるとかで」

「あえての火属性で挑む意味があるにゃんね」

「ですです。私は系譜ブラッドスキル関係ないんで、又聞きなんですけどね」


 猫もだけど、サッサさんも小人族なので、人族の種族クエストで必須とされる系譜ブラッドスキルには縁がない。なんか大変そうだなあ、と想像するばかりである。


「サッサさんの種族クエストは進んだにゃ?」

「今はまだ、LV上げてるところですね~。これもスキルなんですよ」


 サッサさんの栗色の前髪の下には、花蕾のような小さな紋様が描かれている。それはいずれ第三の目に育つとかで、花が開くまでは待ちの姿勢なのだという。

 久しぶりに見せてもらうと、前は淡いグリーンだったのがほんのりピンクになっていた。


「つぼみが膨らんできてるみたいにゃんね」

「でしょでしょ? ちょっとずつ成長してるみたいなんです。ただどういうタイミングで経験値入ってるのかまだ謎なので、一気に成長させられないのが歯がゆいですね!」


 他の採掘グループが減ったことで、猫たちに回ってくるフィラメントが増えた。猫はせっせと『投石玉』を投げてはドロップを回収する係に。その間にもカンカン掘っていたサッサさんは、さくさくと『魔鉄』を採掘してくれている。手際がよい。

 1層の採掘ポイントを掘り終えたので、一旦ダンジョンの外へ。採掘ポイントは時間復活なので一度掘り尽くしたら先へ進むか、戻って休むのがパターンなのだとか。


「『魔鉄』はそこそこ集まりましたね」

「『きれいな火花』も集まったにゃん~」


 サッサさんには『精霊砂』、それから『きれいな火花』も等分より多めに渡すことにして、猫には取りづらい『魔鉄』をもらう。たくさん!

 『きれいな火花』の方が高いのだから売って『魔鉄』を買えばいい話ではあるが、猫はいま火花より『魔鉄』が欲しいのでいいのである。

「いいのかなー? せめて『白い炎』はそっちで持っていってくださいね!」

「にゃあ、もらっておくにゃん!」



 石碑探しのヒントも特にないし、時間が余ったので楽器を作ってしまうことにした。


「お願いしますにゃん~」

「よしきた、任せてくれ!」


 材料と手間賃1万zを渡すと、楽器屋さんはフル回転で楽器を作ってくれる。鎚を振り下ろすごとに形づくられていく様は、まるで早回しの作業動画みたいだ。

 あっという間に『トロンポス・ベル』が出来上がった。


「そら完成だ!」

「ありがとうにゃん!」

『楽器と楽譜を入手しました。『演奏』スキルが取得可能になります』


 おめでとうアナウンスじゃないからSPはなし、残念。

 LV30になったときにSP10を手に入れているし、早速『演奏』を取得しちゃう。


『『演奏』スキルを取得したけど、楽士にはどこでなればいいにゃん?』

『取得してから吟遊詩人に話しかけると『見習い楽士』になれる仕様ですよ! ロッテンでも大丈夫だと思います』


 各地の吟遊詩人から依頼をもらったり、曲を教えてもらったりしてランクが上がる変則的なジョブらしい。ジョブにもいろいろあるんだな。


 早速『トロンポス・ベル楽譜』を開くと、4つの呪歌を覚えた。『キュリオスティ』『朝の挨拶』『ストライクバード』『リリー・リリー』。

 『キュリオスティ』『朝の挨拶』はごく短い曲で、継続効果はないタイプ。前者はヘイトを集め、後者は眠っているものを確実に目覚めさせる。このふたつは、金管楽器にはよくある呪歌らしい。

 『ストライクバード』は曲が聞こえている間、命中率を上げる呪歌。

 『リリー・リリー』は『トロンポス・ベル』の専用楽曲で、曲が聞こえている間、氷属性への耐性上昇効果がある。ふむ、湖畔の街ビオパール生まれっぽい効果だ。


 『トロンポス・ベル』は吹いてみるとトランペットに似た音がする。

 演奏はミニゲームっぽくなっていて、吹いている『トロンポス・ベル』の先を左右に振ったり上げたり下げたり、といった感じで音階が出る。スイングすると音が出るのはちょっと謎だが、まあわかりやすいのでよし!

 自力演奏も出来るけど、楽譜にある曲は最初の6音を吹くと自動演奏が始まる仕組みになっている。最初の6音だけは覚えないといけないけど、まあ今のところは4曲だけだしなんとかなりそう。

 試しに『リリー・リリー』を吹いてみると、楽器職人さんは満足げにうなずいた。


「うん、我ながらいい出来だな。大切にしておくれよ」

「もちろんにゃん~!」

「マレビトさんがご当地楽器を使ってくれるというのは嬉しいものだな」

「そうにゃん? そういえば、ボウフォルは『トーチベル』って楽器があるって聞いたにゃ。どんな楽器にゃ?」

「おや、『トーチベル』を知っているのかい? 今はもう廃れてしまった楽器なんだ。昔はどこででも奏でられていたっていうけれど…、残念な話だよ。音色に導かれて精霊さまがやってきたという、古い言い伝えもある楽器なのに」

「はっ、古い言い伝えですか!?」


 サッサさんが食いついた。


「はは、残念ながら、本当にそれだけしか伝わっていないんだけどもね」

「ああ~、それは残念です…」

「楽器を求める人は、みんな古い物語を求めているね。やはり楽器は精霊の声を模したものだからだろうか」

「にゃあ、そうだったにゃん? 神様の声はたしかに楽器みたいに聞こえるけども」

「おや、神の声を聞いたことがあるのかい? マレビトさんたちは特別なんだな。神の声も精霊の声もみな美しいものだから、それに近づけたくて楽器は生まれたんだそうだよ。いわば精霊への語りかけ、祈りのようなものだね」

「ははあ、そういうものなんですね」


 この世界の楽器の成り立ちはそういうふうになっているのか。ちょっと面白い。


「それじゃあ『トーチベル』は火の精霊の声に似てるかもしれないにゃんね~」

「音色は代々受け継がれていくものだと聞くから、本当にそうなのかもしれないね」

「そう聞くと俄然気になってきてしまいますね! 全く伝わってないんですか?」

「ベルというくらいだから鈴のような楽器だとは思うけれど、『トロンポス・ベル』の例もあるしねえ。もし楽器のレシピやなにか詳しい話を見つけたら、こっちが教えてほしいくらいだよ」

「わかりました、出来たら探してみますね!」


 サッサさんは『トーチベル』が気になるみたいだ。

 猫も、遺失されてる楽器なんて聞くとたしかにちょっと気になってしまう。


「じゃあ明日、ロッテンさんに会いにいくにゃんね」

「よろしくお願いします! 実は石碑でちょっと気になっていることがありまして」

「12個目のことにゃん?」

「それもですけど、ほら、文頭に『(てん)』と『(くろまる)』がついてたじゃないですか。あれ、もしかしたら楽譜だったのかも、と思いまして」

「にゃん!?」

「もしトーチベルが、音階はなく鳴らすか鳴らさないかという打楽器のような楽器だったら、ああいう楽譜になるかも、なんて」


 た、たしかにその可能性はあるのかも。猫は全然気にしてなかった。さすが楽士さんである。


 ログアウト前に『石ころ』をドサッとチンして明日に備える。もし『トーチベル』のレシピが見つかったとしたら『魔鉄』や『きれいな火花』が必要になるだろうし、備えておくにこしたことはない。

 しかしマケボで見ると『石ころ』も高くなったなあ! 錬金術師が増えてきているみたいでちょっと嬉しい。嬉しいけど『石ころ』高いのはなんだか悔しい。ぐぬぬ。


 そういえば『竜果の採取』なんて依頼があったし、ダンジョンの奥では竜果が育っているのだろうか。それとも別の場所? 一度育ってるところを見てみたいけど、猫の適正LVじゃないしな。

 ところで『竜果の種』の元になった『火竜鳥の糞』はあと圧縮1回分残っている。これもせっかくだから使いきってしまえ。悩むけど、これはあえての無属性にしてみた。反作用属性?とやらに期待しているけど、どうなることやら。

 にゃふん、新しい圧縮はいつだって楽しみだ。




 翌日、泉の前でサッサさんと合流。目の前に吟遊詩人のロッテンさんもいます。早速ふたりで話しかける。


「こんにちはにゃん~」

「おや、昨日の。楽器を手にしたんだね。新たな楽士に祝福を」


 ロッテンさんがそういうと、光の輪が猫の足元から沸き上がり、猫は『見習い楽士』のジョブについた。

 サッサさんが喝采アクションでお祝いしてくれる。やんややんや。


「よかったら『リリー・リリー』を聞かせてくれるかい? あの懐かしい故郷の調べを」

「いいにゃんよ~」


 突然のリクエストに驚いたが、楽譜を見つつ最初の6音を吹く。

 『リリー・リリー』はシンプルな旋律でちょっと哀愁のあるメロディー。演奏時間は1分ほどだった。


「ありがとう。谷底の百合が目に浮かぶようだったよ。しかしやはり、この曲の真髄は楽譜では伝わらなかったようだね」

「にゃん? 中途半端だったにゃ?」

「ああ、『リリー・リリー』には秘密があるんだ」


 ロッテンさんはそう言うと懐からフルートを出して奏で始めた。さっきと同じ旋律が吹かれる。メニュー画面をちらりと見ると、バフは氷属性耐性ではなく、氷属性強化になっていた。耐性と強化じゃだいぶ違うな。

 んん、でも同じ曲だったんだけどな? フルートとトロンポス・ベルでは違うってこと?

 猫が首をかしげていると、ロッテンさんは微笑んだ。


「『リリー・リリー』は『アイスブレス』を使いながら奏でるのが本式なんだ」

「『アイスブレス』にゃ?」

「氷属性魔法だよ」

「にゃあ、猫は使えないにゃん~」

「おや、それなら覚えるといいよ。ブレス系魔法は楽士の基礎になるからね」

「それって『歌唱』だけじゃなくて『演奏』も関係ある話だったんですか!?」

「もちろんだよ」


 『アイスブレス』は氷の吹雪を口から吹く魔法だ。口から吹くという特性上射程が短く、更に吹く動作をしないと使えないことから人気のない魔法である。ブレス系でいうとまだ火を吹く『ファイアブレス』の方が人気がある……いや、こちらもネタ枠だけどね。

 しかし吹く曲が魔法付きだと変わるなら興味があるな。『アイスブレス』教本、今度探してみようっと。


「教えてくれてありがとうにゃん~! 猫たちもロッテンさんに古い物語をお届けしにきたにゃ」

「どういたしまして。それは楽しみだな」

反作用属性?→2章幕間ロマン砲専用スレ


評価、ブクマ、リアクション、感想、誤字報告ありがとうございます。

なろうの仕様により、感想欄の内容は末尾で見えます。感想1件削除しました。

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― 新着の感想 ―
属性を乗せる必要があるのか他の属性曲もイロイロ有りそう
[良い点] 更新にゃーん [一言] ブレスは息吹(Breath)にして祝福(Bless)だったか…… 楽士って結構精霊使いと相性良さそうですね……って確かこの話前にもどっかで見たような?
つまり、放射熱線ブレスを吐きながらチンドン屋よろしく練り歩く怪獣王もありえる?
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