26.ヴィ
月光の橋を渡ってやってきました妖精界。頭上からは星明かりが降り注ぎ、足元からは淡い青の月光が照らしている。
猫の目の前には、小さな白いヴィ、金色の大きなヴィと小さなヴィ、それから完全に獣型の狐――ポルクスに似た大きな獣が色違いで2体。
魔法タイプのヴィと、肉弾戦タイプのヴィがいるんだろうか?
魔法タイプのヴィは、狐獣人っぽい容貌をしている。ヒトというには少しサイズが小さいし、顔もかなり独特の造形なので獣人とは間違わないけども。
猫は連れてきてくれた白いヴィを選ぶ。縁があるからというのもあるけど、この子だけ『幻属性魔法』持ちで気になったのだ。
ちなみに他に持ってるスキルは『火属性魔法』『隠れる』。3スキル持ってるのでラーニングはしない個体、魔法アタッカータイプ。
『召喚妖精に名前をつけてください』
「シロビ」
召喚系はレ始まりにしようと思ってたけど、ラ行はもうあきらめました。レヴィも考えたけど、ルビーと響きが似ちゃうし。
そんなわけで命名は、白狐の九尾から。わかりやすさが大事。
契約が終わるとシロビは召喚石に吸い込まれ、猫は花畑の上に戻ってきた。妖精界、行くときは幻想的な道があるのに帰りはポイってされるからびっくりする。
戻ってきた花畑はプレイヤーであふれていてにぎやかだった。
ペチカちゃんも戻ってきた。
ふたりで顔を見合わせて、揃って新しい召喚妖精を呼び出す。ペチカちゃんも真っ白なヴィだった。小さなヴィたちは、空中でくるんと回ると小さな白狐に転変した。
幻属性の魔法なのかな?
白狐たちは、マルモがいない方の肩に乗る。肩に乗るにはでかいけど、重さが全然ない。魅惑のふわふわだ。
「モモちゃんです!」
「ビビちゃんじゃなかった!」
「ビビちゃんはもういるんですよ~、『未練のネックレス』で仲間になってくれた子が。でもそちらはもっと大きい子ですね」
なるほど、ペチカちゃんは2体目のヴィか。
「猫はシロビにしたにゃん~」
「真っ白ですもんね!」
シロビの召喚コストは60と思ったより軽め。ヴィって優秀な召喚妖精なんだなあ! そりゃマルモが敬遠されてしまうはずだ。
シロビの持つ幻属性の魔法は『ドロン』で、特定の姿に変化する魔法だった。白狐になるのはこの魔法なんかな。他の魔法を使用すると解除される、いわば隠れるための魔法らしい。シロビは『隠れる』も持ってるし、HPもかなり低いので完全後衛タイプ。
猫の求めていた魔法アタッカーで嬉しい限りだ。
ちなみに召喚妖精として求めてくるアイテムはどういうわけか白ラコラだった。なぜ…? 馬車だったから? また白ラコラを栽培しないといけない……。宝石とかよりは全然マシなんだけど、なんだか納得がいかない。
改めてレイドのリザルト確認。やったことといえば馬車の回復くらいで大したことはしてない、と思ったら大きいの踏んでた。
『シークレットクエスト:DP50』
はい。シンデレラは青月夜のシークレットクエストだったか。
掲示板で調べたところ、猫以外にも踏んでたひとはいたらしい。
馬車が何台か出撃してたという情報が寄せられていた。そして実際にシンデレラな謎解きに挑んだ人も掲示板に書き込みがあった。
共通していたのは『未練のネックレス』を所持していること。つまりサブクエストからの派生だ。かつ精霊の祠に入ることが出来、PTを組んでいることが発生条件。
掲示板に書き込みに来ていた人はルイネアが仲間にいたそうなので、たぶんそっちが正規ルートだったんだろう。
『未練のネックレス』をまだ持っているということで、初心者を狙ったシナリオだったのでは、という見方が大きい。アイテム自体は失われていないので、本来のサブクエストも挑戦可能ということだ。
ヴィ2体を労せず手に入れられるのはうらやましい!という声もある一方、貴重な召喚枠をマルモで潰すほどの価値はないかも、という意見もある。
ペチカちゃんが憤慨していた。
「マルモ可愛くて賢いですのに!」
「にゃんね~」
レトはルビーの絨毯に乗って、「そ」を掲げていた。なんだろな、そ……。なにもわからない。
またマルモが足りず謎が解けなかった人のなかにはユーリハーといろいろ話したという人もいた。
その人によると、ユーリハーはヨハンの誕生季(ヨハンは4月21日生まれ)なので墓参りに来ていたらしい。そういう理由で祠に来てたのね。ユーリハーが来た理由なんて考えもしなかったな…。そういうもんだとばっかり。
『ユーリハーはこれから辺境領に行くっていってたから、会いたいやつは南に行くと会えるかも』なんて掲示板には書いてあった。辺境領か~。敵が強くなるんだよね。猫には無理そう。
他に、「あやかしの火はヨハンだったのか、ヴィだったのか?」という考察も盛り上がっていた。たしかにどっちとも取れる感じの演出だったなと思う。
妖精と縁が結べたのだからヴィと主張する派と、ヴィなら最後に消えるのがわからないからヨハンではと主張する派がある。
「うーん、私はヨハンの未練にヴィが応えてくれたんじゃないかと思いますね」
「そうにゃん?」
「死しても愛する人を守るために力を貸す……っていうのは定番の展開ですし」
「猫はこの、ヨハンの墓をずっと守ってたヴィって説も捨てがたいと思うにゃんね」
「それもさみし切なくていいですよね~!」
そんなわけで探してみたけど、『切れた妖精リボン』にまつわる話はなかった。
しかし気づいたのだが、白狐のヴィはみんな見てるけど、白狐のヴィを召喚妖精として選択できた人はいないっぽい。
「特別な縁を結ぶためのアイテムだったのかもしれないにゃんね」
「ですね。『切れた妖精リボン』があったからヨハンさんと同じ召喚妖精を選択できたんだと思います。またランさんのクエストに乗せてもらっちゃいましたね」
「にゃん~、丸く収まってよかったけど、『妖精リボン』のヒントにはならなかったにゃん~」
「いや、今回で思ったんですけど、もしかしたら『妖精リボン』て、『切れた妖精リボン』しか存在しないアイテムなのかもしれません」
「にゃん??」
「リボンを長い間妖精が装備することによって『妖精リボン』になって、それは切れないと我々の前には現れない、そういうアイテムなのかもしれないなって」
「つまり、新しい妖精と縁が結べるアイテムはない…?」
「そうなっちゃいますねえ…」
なんだかそれはちょっと残念だけど、たしかにペチカちゃんの言いたいこともわかるような気がする。
要は『未練のネックレス』のような、特定の妖精と縁づいてるアイテムが『切れた妖精リボン』であり、どの妖精とも仲良くなれる『妖精リボン』というアイテムは存在しないということだ。
「あ、でも『切れた妖精リボン』にも模様があって、それが少しヒントになってるかも?ということはわかったので、これからも探してみます!」
「もし見つけたらまた教えてほしいにゃん~」
「はい、是非!」
自由都市で骨董品店を見に行くというペチカちゃんを見送って、廃都ルイネにひとり残留。
そうそう、ペチカちゃんとヨハンさんの墓参りしようとしたら、今度は衛兵さんに止められてしまい出来なかった。ユーリハーの威光は、イベント限定だったらしい。
さて、ひとりになったのでやることがある。
『属性変換』クエスト。うっかり忘れるところだった。
ルイネで受けて、巡礼の旅として学園都市まで神殿巡りすると『光属性魔法』を取得出来るようになる、というクエストだ。猫はすでにスキルリストに『光属性魔法』は出ているんだけど、神官やるなら世界観をちゃんと知るためにもこのクエストやっておこう、と思っていたんだよね。
はじまりはルイネにある小さな神像。いや本当に小さくてびっくり、見過ごすところだった。精霊の祠みたいに大きい建物じゃないし、民家とほとんど変わらないし、攻略サイト見なければ気づかなかったんじゃなかろうか。
うーん、猫ったら最近、そういうの見逃してしまっているな。やはりちょっと慣れてくると色々なものが目新しくなくなっちゃうというか、そういう時期なのかも。
やることいっぱいあるし、月夜は待ってくれないし、仕方ない面もあるんだけどね。
小さな神像、これはなにの神様なんだろうな。そういえば攻略サイトには書いてない? 考察は色々あるみたい。
ここから始まり光属性に辿り着くのだから、光の神なんじゃないかとか。精霊と神の関係が出てからは光の大精霊説が出て、そこから派生していや廃都ルイネの初代王とかなのでは、なんてトンデモな説まで出てきている。
いいねいいね、猫けっこうそういうの好き、トンデモ説。
廃都ルイネがどんな都市だったのか、というのはほとんど明らかになっていないしね。
そんな諸説ある神様の像へ向けて、お祈りアクション。何も起きないが、そのままあと4回繰り返す。
『あなたの上に導きがありますように――』
すると啓示を授かり、次の神像のマークがマップに現れる。
こういうの、最初に見つけた人はすごいよね。ちなみに村人から聞いた話で、ということらしいが。
ここから先は、さまざまな場所に安置されている神像にお参りする許可をもらい、そこにいる神官に儀式を取り持ってもらう、というイベントを重ねていく。
なかなか面倒なクエストとはいえ、ここでしか聞けない話などもあるらしい。ちょっと楽しみ。
ひとまずルイネではこの神像を参ることしか出来ないので、続きはまた今度だ。ドゥーア、アルテザ、フロント、マケットと続いていく。まあ少しずつ、予定の合間に入れていこう。
そんなわけで、ルイネ観光はやり尽くしてしまった。
うーん、しかしせっかく南側に来たからにはもうちょっとうろうろしておきたいな。なにしろルイネが小さな村だったものだから、なんだか不完全燃焼。
なにかないかな~と見ていて思い出したのが『石壁の街ボウフォル』だ。廃都の東側にあるという街。いつだったか、自由都市の投擲専門店『緑の軌跡』で『投石玉』を見てもらったときに教えてもらった。
調べてみると、道中の敵ならLV30でも対処可能っぽい。ボウフォルにあるダンジョンの方は推奨LVもう少し高いんだけど。
街だけなら行ける、というならちょっと行ってみてもいいかも。
それに、猫には気になっていることがひとつある。
アルラウネが言っていた「青い林檎は滅びた都の向こう側」だ。あれ、辺境領のことなんじゃない?
辺境領には林檎の木がいくつかある。もう枯れてしまった切り株も合わせると結構あると言われているし。
ただ問題は、猫ひとりでは辺境領まで辿り着くのが難しいということだ。フーテンさんたちも種族クエストが佳境で忙しそうだし。
そんななか、唯一行けそうな辺境領が『石壁の街ボウフォル』なのである。
これは行くしかないだろう!
投擲専門店『緑の軌跡』→2章32話
評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。
次の次から辺境編にはいります。まだそちらは書き上がっていないので、しばらく不定期更新が続きます。週1は確保していく予定です。なんとかなれーッ




