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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
5章 金欠猫には旅をさせよ~わくわくの森旅編~

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23.ユーリハー

 緑の火にはもう一度お祈りアクションをしてみて、なにも起こらないのを確認してから精霊の祠を出た。

 途端に大声で呼び止められる。


「我が英霊の祠を荒らすは誰ぞ!」


 なんだなんだ、イベントが始まっちゃう?

 逆光で現れたのはスラリとした女性の人影。耳の先が尖っていて、目映い銀色の髪をしている。ルイネアだ。

 彼女はずかずかとこちらへ近づいてくると、猫をチラリと見たあと、ペチカちゃんをキッと睨み付けた。

 あっ。この顔、猫知ってるぞ!?


「ヨハンの墓を探しておったのもそなたじゃな!?」


 メインストーリーで出てくるNPC、ハイティーンのじゃ姫のユーリハーじゃないか!


「にゃん~、ヨハンさんの墓を探してたのは猫にゃんよ」


 猫がペチカちゃんの前へ出るも、ユーリハーは首を振る。


「風猫族が策を弄するとは思えぬ。そのように庇わぬでもいいのじゃ。……人間、そなた卑怯であるぞ!」

「ひえええ!?」

「ごっ、誤解にゃん~~!!」


 思い込みの激しい暴走JKという掲示板評は、間違いじゃなかったんだね!?




わらわの早合点で、すまなかった」


 ユーリハーはペチカちゃんへ向けて頭を下げる。

 始まりの村にある宿屋併設の酒場にて、ようやく誤解が解けた。

 最初は全然話が通じなかったユーリハーだが、ゆっくり話していると次第に気持ちを落ち着かせていった。

 ……猫、基本的にさんづけしたい方なんだけど、ユーリハーはすでにNPCとして見知っていたせいか、ついつい脳内では呼び捨てになってしまうな。


「いえいえ、本来お邪魔してはいけない場所に入ってしまったのも事実ですから」


 ペチカちゃんも頭を下げる。

 そう、あのおじいさんはどうやらやはり実在しない人だったみたいなのだ。そしてそういう風に招かれてしまう人族がたまにいるんだって。

 そういうクエストがあるのかな? 後で調べておかねば。


「しかし、それであやかしの火に願いを託されたのじゃろう? は、妖精の導きじゃて」


 妖精の導きか~。

 本来なら、『切れた妖精リボン』の情報を探したかったんだよね。これがどこかで妖精のリボンに繋がるといいんだけども。


「あやかしの火はよく祠に出るにゃん?」

「まさか! 我らの神聖なる祠じゃ。悪霊の出る隙などないわ。聞けば、人間大の火だったというではないか。並の霊ではあるまいぞ」

「いい霊だったんでしょうか?」

「浄化された祠におるものじゃ。悪霊ということはなかろう」


 ふむふむ。滅多に出ない、悪霊ではない力のある霊であったと。

 あやかしの火が妖精ではなく幽霊だとして、それはいったい何の、誰の霊なのかってことは知りたい…


「あの祠に、最近眠った方がいるにゃん?」

「最近、といっても数百年前になろうか」

「どういった方でしょうか?」

「……最後にあの祠に眠ったのは、ヨハンじゃ。精霊の祠こそヨハン・フロントの墓でもある」

「にゃあ」


 そうなの!?


「冒険者の街フロントにもあるにゃ?」

「あれは後にハリスの建てた石碑ぞ。……亡骸は妾が引き取ったのじゃ。あれに頼れる身内はおらなんだからの」


 ふむ。孤児を養子にとっていたというヨハンだが、養子は頼れる身内とは言えないだろう。そんなに長生きしなかったとも聞くし。

 それでユーリハーが遺体を引き取って自分とこの墓で埋葬しちゃったと。その後にハリスさん――ヨハンの養子がたしかそんな名前だったはず――が勝手に墓を作っちゃった、そんな感じだろうか。


『ということは、あやかしの火はヨハンさんの可能性が高いんでしょうか?』

『猫もそう思うにゃん』

『宗派の違う埋葬はむずかしいと聞きますし』


 そ、そういう話!?

 たしかにそこはデリケートな問題だけども!


「あやかしの火……妖精……いや、まさかな…」


 ユーリハーが小さな声で呟く。


「なにか思い当たることがあるにゃん?」

「いや、むかしヨハンと契約していた妖精ならば、あるいは……と思ったが、さすがに時が経ちすぎておる。妖精とて、もう縁は切れているじゃろう」

「どのような妖精だったのでしょう?」

「ヴィという美しい妖精じゃった。火属性魔法と幻属性魔法が得意でな」

「幻属性! めずらしいにゃんね~」


 なんだか久しぶりに聞いたぞ。

 ヴィは妖精の種類だ。『未練のネックレス』に関連する妖精だったと記憶している。やっぱりこのクエスト、『未練のネックレス』に関係しているんだろうか。


『妖精説も消せないにゃん~』

『ですねえ』

「なんにしても、今季は青の大月じゃ。妖精の園に繋がっても、死者の国に繋がってもおかしくはない。関わるのであれば、十分に用心するがよろしかろう」


 そう言うとユーリハーは去っていった。

 彼女がいる間はイベント空間に入っていたようで、立ち去るとプレイヤーの姿がどっと増える。


「メインNPCって初めて見たにゃん」

「私は2回目です。メインストーリーを追いかけていくと、遠目に姿を見るイベントがあるので…。でも対面したのは初めてでびっくりしちゃいました!」

「驚いたにゃんね~」


 話しつつ、いったい何のイベントフラグを踏んでしまったのかを二人で調べる。

 そしてわかったのは、どうやらフラグを踏んでいたのは猫らしいことだ。知ってた! ペチカちゃんルイネに来たばっかりだもんね!


 まず、猫が勘違いしていた「ヨハンの墓がルイネにある」がまずかったらしい。この情報を持ってルイネに入り、精霊の祠を二度訪れる。すると妖精の導きによりどの種族でも精霊の祠に入ることが可能になるらしい。

 猫の場合は情報を持ってきたわけじゃないけど、行政施設の受付で聞いちゃったからフラグが立っちゃったんだろう。そういう立て方もあると掲示板にあった。

 精霊の祠ではヨハンの墓を実際に発見し、そこで「隠された秘密に辿り着きました」のアナウンス、スキル開示、SPを入手という流れになるそうな。


「全然違うルートにゃん」

「うーん、ユーリハーさんも出てきちゃってますし、別物ですよねえ」


 ちなみに開示されるスキルは『第六感』と、大変気になるスキルだった。SPだって欲しい! どうしてそのルートじゃなかったんだろう?


「青の大月だったから、てことでしょうか?」

「時期限定イベントにゃんね。その可能性が高いかもしれないにゃん」


 たとえばハロウィン的なものとして、大月の季節だけ別のイベントが仕込まれている、というのは理解できる。

 そういえば幽霊船のときもそうかも、て思ったっけ。

 あのときは年1回ではなーと思ったけど、よく考えたらそれぞれの色月で大月があるから、年4回あるはずなんだよね。それならまあ、わからないでもないか。


「あとは、タイミング的にムムちゃんたちも関わってるかも、とは思いました」

「にゃあ…」


 召喚マルモ連れはたしかに珍しい。しかしそれがフラグになるかというと……あ。


「にゃ、大地の生き物ってマルモかもしれないにゃん」

「にゃん!?」

「風猫族みたいに、地鼠族って妖精族がいるにゃん?」

「あーっ、それ私、本で読んだことあります。風は猫、地は鼠、火は狗、水は蛇ってやつですよね」

「それにゃん!」

「ということは、要求したものをもう持っていたから現れたのかもしれないですね」

「『すでに備えているものもある……しかし足りない』って文言はそれのことだったかもしれないにゃんね」

「なるほど! じゃああとは『大地の収穫』と『大地からなる大地と触れあうもの』ですね」


 うんうんとうなずきあう。

 それにしても猫はまたやらかしてしまった。


「妖精リボンの情報収集のはずが、ペチカにゃんには悪いことしちゃったにゃん~」

「いえ、全然!」


 ペチカちゃんは両手を大きく振って否定した。


「ユーリハーさんにも会えましたし、この泥棒猫!て言われたみたいでちょっとときめいちゃいました…!」


 そこときめくところなの? 相変わらずペチカちゃんは猫には理解できない感性をしている。


「ユーリハーさんも言ってましたけど、あやかしの火は妖精の化身って話もあります。ヨハンさんの幽霊じゃない可能性も高いと思うんですよ。なにせ数百年も前の方ですし、今さら亡霊というにはちょっと古すぎるかと」

「たしかにそれも気になるところにゃん~」


 ユーリハーの言っていたヴィについては猫、見たことある。

 前にフーテンさんやリーさんたちが召喚していた、大きめの妖精だ。身長1mほどで、金髪で耳がキツネのように大きくて、顔もキツネっぽいやつ。あれがヴィというらしい。尻尾の数が強さによって変わるとかで、おそらく九尾の狐がモデルといわれている。


「九尾の狐なら、多少長い時が経っても出てきそうなイメージあるにゃんね」

「たしかに。そういえば、ヴィは『未練のネックレス』のサブクエストでも出てきますね」

「サブクエ報酬で手に入るにゃんね」

「はい。あっ、内容ネタバレ大丈夫です!?」

「問題ないにゃん!」


 『未練のネックレス』のサブクエストでは、ネックレスの主、つまり林檎の幽霊の使役妖精としてヴィが登場するらしい。彼女がもう亡くなっていることを示し、ネックレスを渡すと消えていってしまう。

 けれどこれでヴィと縁が出来るので、次の青月夜でヴィと契約が出来る、というのが『未練のネックレス』のサブクエストだ。ヴィ取得者が多い理由でもある。有用な召喚妖精なんだって。


「それで、ヴィが登場するときに鬼火の姿で出てくるんです」

「ちょっと似てるにゃんね」

「始まりが精霊の祠のNPCってとこも似てますよね」


 ううむ。しかし『未練のネックレス』には反応がなかったから、林檎の幽霊のヴィではないのだろう。

 違った以上、これはもう考えても仕方ないので次へいく。


「大地の収穫、といっても当てはまるものがたくさんあるにゃん」

「畑からとれるものならなんでも、とも取れますもんね」

「猫、畑の収穫物なら各種インベントリに入ってるにゃん」

「そうなるとすでに備えていた可能性も出てきますね」


 だったら、残りひとつの謎に絞れて楽なんだけども。


「『大地からなる大地と触れあうもの』……これが何か、さっぱり分かりません」

「大地からなる、だからきっと金属とか、土とか石にゃんね」

「ですね。それでいて、大地と触れあうもの。大地と触れあうってなんでしょうか……?」

「にゃん~~」


 これも情報収集が必要そうだ。

 ちなみに揃えてきたとして精霊の祠にまた入れるのだろうか?という疑問は解決している。ユーリハーが衛兵さんに伝えておいてくれたそうだ。猫たちしばらくフリーパス。


「あと気になるのは、鐘にゃんね」

「鐘が鳴るまえに集めないといけないってやつですね。流れでいくと、月夜かなと思うんですけど」

「やっぱりそうにゃんね」


 次の青月夜、実は今夜なんだよね。

 時間が無さすぎる!


「そうと決まれば急がないといけませんね!」

「にゃん~! 手分けして探すにゃん?」

「時間もないし、それがいいかもしれません」


 ペチカちゃんは村の北側を、猫は村の南側を聞き込みすることにして、ひとまずお別れ。

 情報収集していくぞ!

ユーリハー→2章6話、2章8話

フーテンたちのヴィ→4章17話


評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

4章47話を少し修正(加筆)しています(サモナーのランクアップを忘れていたためです)。

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― 新着の感想 ―
「ネタバレ大丈夫です!?」「もちろんですとも」 「手分けして探すにゃん?」「もちろんですとも」 みたいにさりげなく会話に混ざってきてたら悪霊認定してたにゃん
「この泥棒猫!じゃなくて泥棒人!」ってやつか~、難しい謀を考えるのは苦手な風猫族って昔から思われてたのね?そうじゃないんだけどなあ~w
プロスコッパーの二人はやはりヒキが強い……時間が時間が迫る、間に合うかどうかドキドキですね。
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