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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
5章 金欠猫には旅をさせよ~わくわくの森旅編~

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22.精霊の祠

 ふたりで精霊の祠、の横の建物にやってきた。

 ちょうど授業が終わったタイミングらしく、子どもたちがワーッと飛び出していく。寺小屋ならぬ精霊の祠小屋(?)といったところか。

 いや、精霊教室って言ってたっけ。精霊について教えてくれるなら猫も習いたい。

 そんな話をするとペチカちゃんもうなずいてくれた。


「私、ここにきたとき精霊はまだ持っていなかったんですよね。なので気になります」

「授業の内容は聞かなかったにゃ?」

「ほんの手習いなので、マレビトが受けるような授業ではありませんよって言われましたね」

「にゃあ」


 それは残念。しかし前とは事情フラグがちょっと違うからいけるかも。

 子どもたちを見送っている、先生らしきふくよかな女性に話しかけてみることにした。


「まあ、授業をですか? ほんの手習い程度のものですから、マレビトさんたちには向かないと思いますけども…」

「手習いって、たとえばどんなことを習うにゃん?」

「文字の読み書きですとか、単語の理解ですとか、そういったものです。マレビトさんは、こちらの言葉は文字も会話も十分でしょう?」


 精霊の授業ではなかった。

 それはたしかに受けても意味がなさそうかな、と納得したのだが、なんだかレトが騒がしい。猫の肩の上で何かしている。


「あらまあ、マルモちゃんは授業を受けたいのかしら?」

「にゃ!?」


 たぶん猫の肩で手をあげるなりなんなりして主張をしていたのだろう。

 そ、そういうこと!?

 文字を習えば、レトも本が読めるようになる!?

 思わずペチカちゃんと顔を見合わせてしまった。


「受けましょうか!」

「受けたいにゃん~!」


 これでレトとムムちゃんに特別授業を受けさせてもらえる! と思いきや、残念ながらそうはいかなかった。


「今日はもう授業は終えてしまいましたので…」

「にゃん…」

「よければ、手習いカードを作っていきませんか?」

「手習いカード、ですか?」

「ええ、自分で文字を写すことで教材にするんです」


 なるほど、自分で教材を作る。写本して教科書を作って、文字は覚えられるし一石二鳥、みたいなやつ。

 さすがにマルモに字を書くのは難しいので、猫たちが作って、レトたちの教材としてはどうか、というお誘いだった。


「作るにゃん~!」

「是非お願いします!」

「ホホ、カード代は請求させていただきますわね」


 ちゃっかりしてる!!



 ペチカちゃんと教室でふたり、カードを写し終えた。

 カードは1枚につき1文字書くタイプの教材だ。

 このゲームの文字はひらがなを変形させたような文字で50音ある。濁点半濁点、小文字なんかの考え方も一緒だ。漢字やカタカナがないぶん、文章はいつもちょっと長い。そして文章が書かれているときには下に字幕が出るので、別に解読しなくてもいい仕様。


「たしかに私たちには必要のない授業ですね」


 カードを書くのは簡単だった。カードに触れると文字が現れるのだ。猫たちマレビトは文字を書ける設定だからだろう。

 レトやムムちゃんは、猫たちがカードに触れていくのを目を輝かせて見つめていた。

 そして出来上がったカードを並べつつ読んであげると、レトは1枚ずつ、2枚を手に取る。


「れ」「と」

「天才にゃん!?」


 読めてる!

 ちなみにムムちゃんは「む」を1枚とってしょんぼりしていたので猫の分のカードを渡してあげた。


「私がムムちゃんにしたばかりに……!」


 ペチカちゃんは落ち込んでいたが、ムムちゃんは2枚の「む」を手にご満悦だった。


 試しにルビーやラモ、ロニ、ラージたちにもカードを見せてみたが、興味を示すのはレトだけだ。やはり、ビブリオマルモへの布石だったのかな?

 これが正規ルートだったのかもしれない。


「もう文字を覚えられたんでしょうか」

「わからないけど、ちょっと前進だと思うにゃん!」


 レトは並べたカードをせっせと集めて、がま口にしまった。そして1枚をさっと出す。


「ま」

「ま?」


 ま、てなんだろう。なにか「ま」で始まるものあったっけ。

 続きを待ってみたが、レトは「ま」を掲げたまま胸を張っている。な、なにもわからん…!

 1文字だけ示されても会話は難しいということがわかった。まあ元々ジェスチャーだけでやってきたからいいんだけどね。


 カード教材を作って教室の外へ出ると、さっきの先生とは違う、老爺が廊下にたたずんでいた。

 昼日中、明かりがついていない室内の暗がりに白いローブ姿のおじいさんはちょっと驚く。


「ひえ…!?」


 ペチカちゃんなんて小さい声で悲鳴をあげていたくらいだ。怖がりなんだっけ。


「おや、精霊の祠へようこそ。お参りですかな」

「にゃあ、お参りしてもいいにゃん?」


 昨日は関係者以外お断りで、精霊の祠の中には入れてもらえなかったんだけども。


「今日は精霊が騒がしいのです。きっと客人に気づいたのでしょう。さあ、どうぞこちらへ……」

「にゃあ」


 どうする?とペチカちゃんを窺うと、ちょっと青い顔をしつつもうなずいた。


『精霊の祠って、今はルイネアじゃないと入れないって聞いたんですけど』

『猫も昨日は断られたにゃん。なにかフラグを踏んだにゃ?』

『ムムちゃんたちの文字訓練くらいしかないですけど、それがフラグになりますかね?』

『にゃん~?』


 全然関係なさそうに見えるけど、同じところで得たフラグならイベントが次へ進む展開もあり得る、かな?

 ひとまずおじいさんの後をついていく。


 精霊の祠と、精霊教室の建物は繋がっているわけではないらしく、一旦外へ。

 明るい場所に出てもおじいさんが消えたりはしなかったので、ペチカちゃんはちょっとほっとしていた。

 外にはルイを待たせていたけど、このまま精霊の祠に入るなら乗れない。いったんマイルームへ帰還させる。


 祠は白い石造りの建物で、かなり年代が古そう。大きいんだけど形が単純で四角い。遠目に豆腐に見えるので、情報サイトや掲示板ではそのままトーフとも呼ばれていた。

 そんなトーフな祠だが、昔はルイネア以外も入れたらしい。メインストーリーの進行で入れなくなったそうな。

 たしか第二エディションが出る少し前って聞いたかな。ここルイネで大きなイベントがあって、それがルイネアにとって敵対行動だったので締め出されてしまった、という展開だったはず。

 そうそう、それが冒険者の街フロントであった、保守派と推進派に別れて争うストーリーに繋がっちゃったのだ。そして争ってる内に魔物の大群が現れて、林檎の木の切り株が燃えてヨハンの子孫死亡、という流れ。

 メインストーリーも俯瞰して見るとめちゃくちゃやってるなあと感心する。


 猫が余所事を考えている間におじいさんは開け放たれた扉の向こうへ入っていく。

 扉はないけど中に衛兵さんがいて入れない、というのが昨日の精霊の祠だったのだが、今日は衛兵さんがいない。


『人がいませんね…』

『にゃあ』


 豆腐建築には窓がないらしく、奥は真っ暗だ。


「さあ、英霊を参られるとよろしかろう…」

「にゃん…、中に入ってもいいにゃん?」

「もちろんですとも」

「明かりは灯してもよろしいですか?」

「もちろんですとも」

「ルイネアじゃなくても大丈夫にゃ?」

「もちろんですとも」

『ひぃ!!』


 ペチカちゃんが顔を覆っている。ちょっと気持ちはわかる。メエメエ様が頭を過っちゃったよね。

 ホラーじゃないと信じたい。猫、見えるやつはいいけど見えないやつは苦手なのでホラー展開なら見えるやつでお願いします。


 ……なんて思っていたからだろうか。


 『灯』を浮かべて進んだ真っ暗闇の先に、ユラユラと揺らめく緑色の炎。なにもないところに浮かんでいる。


『鬼火……ですかね?』

『幽霊にゃん? 進んでも大丈夫にゃ?』

『大丈夫です! いきましょう』


 それにしても、暗くてだだっ広い空間というのはそれだけでかなり心細いものなのだと知る。猫ひとりだったら緑の火が見える前に帰っちゃったかもしれない。

 どこかに水場があるのか、水琴窟のように四方八方から水音が聞こえるものだから、なにも目印がなければ迷ってしまいそうだ。更に雰囲気がある。

 見えてから辿り着くまで少しだけ距離があった。つまり、緑の火は思ったより大きかった。

 人の頭サイズの火の玉かと思ったら、普通に人間サイズのでかさだった。

 近づいても熱くないし、眩しくもない。ただゆらゆらと揺れているだけだ。


『なんでしょうね、これ…』

『精霊ってわけでもなさそうにゃん』

『なんだか人間くらいの大きさですし、話しかけてみます?』

『にゃあ、やってみるにゃん』


 ペチカちゃんは猫の前に進み出て、深呼吸して話しかけた。


「こ、こんにちは!」


 声が祠の中に反響する。


「……」

『喋ってないけど喋るにゃん』

『ログが動きましたね…』


 沈黙ではあったが会話ログに「……」と出た。

 たとえば石像に話しかけてもこういう表示は出ないので、これは会話要素がある存在、のはず。


『どうしましょう…』

『なにかヒントとかあったにゃん?』

『文字カードで会話するとか??』

『まるでこっくりさん』


 文字カードを差し出してみたり、並べてみたりしたが反応無し。

 うーん、なんだろう?


『お手上げですね。掲示板見てみましたけど、緑の火っていうのはウィル・オ・ウィスプと同じようなもので、『あやかしの火』と呼ばれているそうです』

『ウィル・オ・ウィスプっていうと、沼地に現れるとかいう』

『ですです。人の魂とか鬼火とか諸説ありますけど、このゲームでは幽霊か妖精の二択だそうです』

『にゃあ、『切れた妖精リボン』を使ってみるにゃ』

『はい!』


 ……反応無し!!


『これだ!と思ったんですけどね…』

『残念にゃん~』

『幽霊だとしたら、未練でもあるんでしょうか』

『未練……、『未練のネックレス』は持ってるにゃ』

『あ、林檎の幽霊の。あのサブクエストも鬼火が出てくるんですよね』


 ペチカちゃんはサブクエスト履修済みか。流れが違うらしいけど、一応掲げてみる。

 ……反応無し!


『わからないにゃん~、あきらめるにゃ』

『きっと情報が足りなさすぎるんだと思います。メエメエさまのときみたいに』

『にゃあ~』


 あれも情報足りないまま突き進んでラストで判明したもんね。

 今回はちゃんと情報収集をしよう。


『そういえばここって、精霊の祠ってことですし、どこか参るところがあるんでしょうか』

『そういえばそうにゃんね。奥まで行ったらあるのかもしれないにゃ?』

『奥まで向かってみます?』

『にゃあ…、これを追い越していくのはよくない気がするにゃん』

『ですよねえ。祠に入っておいて祈らないというのもなんですし、ここで祈っちゃいましょうか』

『了解にゃん~』


 たしかに祠に入っておいて祈らないのは変なフラグを踏みそうで怖い。ほら、堕ち神さまとかね。

 少し緑の火から下がって、二人で一緒にお祈りアクション。


「……ああ、鐘が鳴る」

『喋った!?』

『お祈りが鍵だったにゃ!?』


「大地の収穫、大地の生物、大地からなる大地と触れあうものを集めよ」

『にゃん?』

「すでに備えているものもある……しかし足りない」

『備えているけど足りない? なんでしょうね』

『なぞなぞにゃん?』

「……鐘が鳴るまえに、鐘が鳴るまえに」


 それきり緑の火は沈黙。


『にゃあ…、よくわからないけど、集めてきたらいいにゃん?』

『さっぱり背景がわかりませんが、たぶん?』


 うーん、やはり初手なので情報が足りない。

 大地の収穫、大地の生物、大地からなる大地と触れあうもの。

 まずはこの謎に挑まねばならないようだ。

冒険者の街フロントのメインストーリー→2章8話

『未練のネックレス』→2章6話

メエメエ様→3章47話辺りから


評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

廃都編が2章から始まってるので、関連用語やストーリーが遠投…! 最近すっかり忘れていたインデックス、久しぶりにつけておきました。

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― 新着の感想 ―
野菜と動物と、ゴーレムかな?
大地の収穫は自家製野菜でどうにかなりそう。白ラコラなら大地の生物と兼任出来るかもw
もしかして『まま』と認識されてる?
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