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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
1章 初心者猫はお金が欲しい
24/281

23.新しい羽根

 なかなか時間のかかったギルド巡りだが、思い出して農業ギルドで『毒草の種』と『薬草の種』を20個ずつ買った。

 これは錬金術用だ。念のため全属性圧縮を試してみようと思って。


 それから土も多めに買っておく。

 プランターをもうひとつ買うか、どうするか迷う。


 いや、明日辺り庭を耕すから、庭の土も使えるようになるだろうし、庭で家庭菜園を始めると別途必要になるものもあるだろうし、ここは我慢!


 それからずっと忘れてた商業ギルドへ行き、売店で『露店黒板』を買った。

 これは露店で「本日のおすすめ」とか「〇〇買い取ります」とか「ご依頼承ります」とか書いておくために必要なアイテムだ。露店で売るものがなくて毎回困るので、買取を出したかったのだ。


 ちなみに売り物枠を買取枠にすることが可能。1枠につき3商品登録しておける。

 露店は無人でも買い物が出来るので、実は店主がいても会話せずに買物可能だ。会話どころか商品に触れずとも、露店に表示されるウィンドウで買い物できる。アイテム名と品質が表示されるので、それで事足りる場合は楽だ。


 買取も事前に受け付けるアイテムと品質、金額、買取個数または上限金額を書いておくと自動で対応してくれる。

 露店では『買取』としか表示されないので『露店黒板』で何をいくらで買い取るか書いてあるとわかりやすい。

 一応ウィンドウに触れれば何を買取りしてるかはわかるけど、いちいち触らなきゃわからないのも不親切だし。


 さて今度こそ料理以外の用事は片付けたぞ。


 あとは本屋…、は行きたいけど、地図によると鳩ポッポ商店街の更に北にあるのでまた今度。

 露店通りへ行って、時間が余るなら生産施設で料理ラーニングとしよう。


 執事さんことセルバンテスさんが、先ほど露店を開いた旨メールくれたのだ。

 向こうが露店を開くか、こちらが露店を開くかしたらお互いに連絡して落ち合う約束をしていたのである。

 そんなわけでGPS付きメールをもらったのでお邪魔しちゃう。


 ちなみにティアラさんは日々露店の位置を変えつつ、身代わり店主で出店しているようだ。彼女の場合は行く前に連絡してGPSをもらう方式。

 フーテンさんは猫の店に呼びつける方式。だって本人がそう希望してるから…。


 フーテンさんは暇なときに気が向けば露店してるだけっぽい。セルバンテスさんもそうみたい。商人ゴリラの生態なのか…?



 そんなわけでセルバンテスさんの店に到着。


「お邪魔しますにゃーん!」

「いらっしゃいませランさん」


 今日は優雅に椅子に座っている執事さんだ。斜め座りで決まっている。


「やはり椅子がある方がかっこいいにゃん」

「私も快適です。なぜ今まで買っていなかったのか不思議でなりません。露店の椅子、おすすめです。椅子があると他も揃えたくなるのだけが難点ですね。総合的に星四つです」

「減点の理由が商品に由来しないダメなレビューにゃん」

「ふふふ。先日は羽根の件でご迷惑をおかけしてしまいましたね」

「全然問題ないにゃん!猫も知らなかったし、その後は錬金釜をほったらかして遊びに行ったから、気にしないでほしいにゃん。それで、お試しで2種類出来たけど、どっちがいいにゃん?」

「ありがとうございます。どれ、拝見いたします」


 『大陸羽根』と『大陸大羽根』のふたつを渡すと、セルバンテスさんはかちゃりと片眼鏡を鳴らして羽根を眺めた。

 あれ、その眼鏡はオシャレじゃなくて実用品だったの? いやでも執事さんだからただのロールプレイかもしれん。どうなんだ。


「ふむ、こちらの大羽根の方がより性質が引き出されているのを感じます。しかしやはり素材としての加工は難しそうですな。このサイズならば指揮杖のように使うのも取り回しがよさそうです」

「手首から肘までくらいの長さがいいらしいにゃん。猫には長いにゃんねえ」

「そうですねえ、切るわけにもいきませんし…。小型種族は総じてMPが低めですから、もしかしたらこの羽根を指揮杖として扱うには向かないのかもしれません」

「残念にゃん~」

「そこで本日お持ちしました新商品がこちらです。はいドン!」


 セルバンテスさんは懐からでっかい木箱を出して、言葉通り地面にドン!と置いた。

 木箱の蓋を開けると、中から『露店 de ショッピング!』と書かれた看板が出てくる。


「なにか始まったにゃん!?」


 看板の下から圧縮した大陸羽根と同じくらい、長さ50cm程度の青紫に白い水玉模様の羽根を取り出した。


「こちらは自由都市から西へ行った先にあるヤバい山ことヤンバ山の中腹に巣を作るたっぷりハッピーことスターベリーハーピーの羽根です」

「なんて?」

「冒険者はしょうもないあだ名をつけがちなんですよ。スターベリーハーピーはとにかく数が多いので、全滅させれば確率的に必ずレアが出ます」

「それはものすごい数なのでは?」

「超強い魔法使いがドーンしてバーンですよ。そこを私がうち漏らしをペシペシするお仕事で掠め取るわけです。これが地味にうまい」

「堂々としたハイエナ宣言に猫は戸惑いを隠せないにゃん」

「巣を襲撃されるとハーピー無限沸きみたいなものですからね。ヤバイ山はしばらくはスーパーハッピータイムです」

「たっぷりハッピーなのかスーパーハッピーなのかどっちにゃん?」

「そんなわけでおこぼれをもらうんですけど、まあハーピーも半分人とはいえ、鳥ですからね。鳥系魔物の宿命、むしってもむしっても羽根です。ロックランドバルバトロスよりはマシ、でも4回むしって全部羽根もわりとある、そんな感じ」

「鳥系あるあるにゃんね」

「はい、倉庫が羽根であふれるわけです。弓師は鳥撃ちメインですからね。もうありとあらゆる羽根がとっちらかってます。そんな中であなたにおすすめなのがこれ!」

「にゃん?」

「実はこの羽根、『星鳥人の風切羽根』は加工出来ません」

「にゃんと!?」

「正確にいうと加工先が1種類しかない上に消耗品じゃないので供給過多すぎるんです。今までは装備作れる人に格安で押し売りしてきたのですが今回はあなたに押しつけてみようと思います」

「押しつけるっていっちゃってるにゃん!?」

「今なら100本セットで1000z!1000zのご奉仕価格となっております。そして今から30分以内にご注文の方になんと! もう1セットついてくる!」

「買うにゃん!」

「まいどありがとうございます。可能なら錬金術で出来たアイテムを拝見させてくださいね。矢羽根に出来そうなら買い取らせていただきます。あ、もちろん無理はならさなくても結構です。もし製作に時間がかかるようでしたら、捨て置いていただいても構いません」

「にゃん~、中級釜を買ったから、初級釜とふたつ体制で作れるにゃん! 大丈夫にゃん!」

「おやまあ。これは初心者装備と侮ってしまいましたな。お金持ちでいらっしゃる?」

「猫は錬金術師だから不用品をお金に変えられるにゃん。今は万能薬が熱いにゃん」

「そういえば掲示板が燃えてましたねえ。どなたかが掲示板に万能薬と初心者ポーションについて書き込んでしまったので、万能薬の相場が崩れるとかなんとか。わりとすぐ鎮火しましたし、一瞬乱高下した相場もすぐ安定しましたね」

「たくさん作っても転売屋さんがすぐ回収してくれるからウハウハにゃん。稼げる内に稼いで装備を整えるにゃん!」

「いやはや頼もしいですねえ。羽根や鳥関連の素材が必要なときは、いつでもご用命くださいね」

「またお願いするにゃん! この『大陸羽根』たちは猫には扱いづらいみたいだから、お礼に両方ともあげるにゃん~」

「いやいやダメですよ猫さん。世の中には加工賃というものがございます。まして釜の罠を踏ませてしまったわけですし」

「加工賃……?」


 初めて聞いた言葉ですね…。

 いや、あるのはわかってるんだ。必要なことも。でも錬金術の加工賃って謎なんだよ。

 掲示板が過疎ってるし、その辺の基準になる情報がまったくないの。

 こちとらスキル生産なんだから加工賃寄越せやって話はスレで出てたけど、具体的な金額はなかった、と思う。


「…猫には相場がわからぬ…。釜をチンして暮らしてきた…」

「……執事も新アイテムには人一倍鈍感であった…」


 二人してちょっと考えたが、やはり加工賃の相場も、まして加工した羽根の相場もまったくわからなかったので、コンゴトモヨロシクということで済ませることにした。


 …セルバンテスさん、やはりガワがインテリなだけで中身は脳筋である。猫も人のこと言えないけど。


 『星鳥人の風切羽根』は200枚1000zで買わせてもらい、お別れした。


 ちなみに『執事の店』は羽根ショップなわけではなく、矢とか売ってる。

 羽根の目利きが出来るセルバンテスさんは、たぶん『矢師』なんだろう。矢だけなら『木工』のみでなんとかなるので、弓師の生産として『木工』は多い型らしい。それでも『矢師』まで鍛えるのは珍しいらしいけど。



 せっかく来たので何かいいものないかなーと露店を探して歩いたけど、特に目ぼしいものはなく。

 やはり武器防具や戦闘用消耗品(ポーション類)、素材、オシャレ装備などの店が多くて、道具や小物類はあまり見掛けない。


 初心者の生産者がスキルLVとジョブランク上げのために作るアイテムはNPC買取や報告に回されるものが多いので、初心者生産者は露店販売はしないのだ。


 『生産総合スレ』でも、初心者は露店に憧れるかもだが『交易』スキルをとるのはまだ早い、初級か中級になって製造アイテムが倉庫からあふれるようになってから考えるのでも遅くない、と書かれている。

 消耗品系はマケボで十分だし、装備類は少なくとも中級にならないと初心者に売る装備さえ安定的に作るのは難しいというのが理由だとか。


 初心者生産者さんの失敗品とか買い取りたいところなのだが、それほど資金もないしやめておく方が無難かな。


 お、初心者圧縮pot……売られているのは初めて見た。え、すごくお高い!?

 圧縮potの隣にあるのは玉? ビー玉じゃなくて、魔法玉まほうだまってやつかな? 錬成陣で作れるという噂の。


 へええ! 錬金術師の露店だろうか。それにしては両方とも驚きのお値段だし、少数しか置いてないみたいなんだが。

 なんだろ、展示販売??


 気になりつつも、店主は商談中のようなのでそのまま通りすぎる。


 魔法玉、気になっているんだよねえ。

 中に込められた魔法が一回こっきり使えるという消耗品。おそらく、錬金術師の主力商品なんじゃなかろうか。


 早く錬成陣も使ってみたいが、やりはじめると大変そうだ。

 なにせ『真円錬成陣(Ⅰ)』は、かなり前の錬金術スレでほんのり話題に出て即、消えている。


 そこに特筆すべき流れはない。

 錬成陣が現れた当初、スレで最初に『真円錬成陣(Ⅰ)』を買った人が性能面の紹介をして「総合的に出来ることは少ない」と評した。その後すぐに「少し資金を足して次の『菱形錬成陣(Ⅰ)』を買ってみた」という人が現れた。

 そして出来ることが大幅に増えることがわかり、真円の出番はあっさりと終わった。


 主に使用するアイテムが同じこと、同じ量のアイテムを使っても、出来るものの幅が菱形の方がかなり多かったこと、真円で作れるものは菱形でも作れることなどが理由である。


 真円を買った人が菱形買えばよかった、と嘆いて終わっていて、その後は真円買った報告には『>>過去スレ』が案内され、ショックを受けて去っていくまでがテンプレとなっている。

 …まあそれも過去の出来事みたいで、今となっては錬金術スレ、マジで動いてないんだけどね!


 錬金釜や錬成陣などの職限定アイテムは、マケボで販売出来ない。『農業』の植木鉢、プランターなんかも同様。

 『召喚石』がマケボ販売できているのは消耗品だからで、更に『召喚』スキルがない人にはマケボでも購入出来ない制限アイテムとなっている。


 そのため、使えないアイテムを買ってしまうと売却出来ず丸損になってしまう。それで真円は忌諱されるようになった。


 猫はそんなもんよく買ったなって?

 いや、だって普通に考えて初級アイテム飛ばすっておかしくない??

 まして『錬金術』はスキルLV関係なくアイテムが作れる、レシピと道具に依存するスキルなのだし。


 ……とかなんとか後付で言ってみるけど、単純に見た目がね、菱形より好みでした。真円のがカッコいい。コンパクト。アガる。はい。

 見目がよければ使えなくても家具になるじゃない。


 ちなみにマケボではなくプレイヤー間の直接取引(露店含む)なら、スキル持ってない人にも錬金窯などは販売できたりする。錬成陣はやはり販売出来ないそうなので、初級の基本アイテムだけっぽい。たぶんラーニング用?

 生産のラーニングは金を注ぎ込むものというか、SPを金で買うものらしい。

 錬金術は元々湯水のようにアイテムを使うものだけど、ラーニングしようとしたらどれだけかかるんだろうね?


 基本スキルのラーニングで方法が判明しているものは結構あって、『料理』が有名だけど、次に有名なのは『召喚』だったりする。


 『召喚』は古参はだいたいみんな持ってる人気スキルだ。何故なら騎獣が手に入るのが『使役』か『召喚』だけだから。手軽さでいうと『召喚』に偏るのは仕方ない。

 騎獣のためだけに『召喚』を取ったという人も少なくないが、同時に、騎獣の取得のためだけにSP使いたくないとラーニング頑張った人も少なからずいた。

 だから『召喚』はラーニング方法が解明されているのである。


 いうて『レイドに参加してダメージディーラーを担い呪いを受ける』とか『滅多に遭遇できない野生の妖精を探し、何度も貢ぎ物をして青月夜はフリーで待つ(数週間)』とか茨道しかないが…。


 ちなみに青月夜は青月が満月になることを指す。このゲーム世界の月は独自ルールで赤青白の三色が浮かんでいる。衛星ではないどころか、厳密にいうと星ですらないらしい。じゃあなんなのさ!? て感じだが、そこはよくわからない。そういうの詳しく書いてある本、ないんだもん。


 とにかく月は星ではなく独自ルールで動いている。それぞれの月毎に違う運行をして、異なる満ち欠けをし、3日毎にいずれかの月が満月になる。そしてだいたい15日に1度ほど、そのときの満ち欠けに関係なくすべての月が消えて、暗黒夜となる日がある。

 いうまでもなくレイドが起きたりとかダンジョンボスが復活したりする、冒険者のパーリーナイトである。


 閑話休題。

 錬成陣早く私も使いたいなあ!


 あ。

 そういえば15属性コンプリートしてポーション圧縮した連絡をまだフーテンさんにしてなかったな。


『生活魔法15属性コンプリートしたにゃんよ~~実験結果も充実にゃん~』

『待っって猫ちゃん15属性ってなに?? 属性は13種類のはずなんですけど』


 露店通りの波に流されつつメールを送るとやはり秒で返ってくる。暇なのか大商人。


『猫に聞かれてもわからないにゃん? 圧縮したポーションが15種類にゃん』

『めちゃくちゃ気になるけど、今ダンジョンにいるから聞きにいけないにゃん~~残念~~』


 おや。フーテンさんちょっと時間かかるとかいうことは多いから、別の街や遠い狩り場にいることも多いんだろうなと思ってたけど、今日はガチ攻略っぽいな?


 いつも猫が呼びつけているので、来れなかったりしても何の問題もない。そもそも露店開いたわけでもなかったし。


『無理せずいつでも構わないにゃん~。フーテンさんは猫に貢ぐ用意をしっかり整えておくにゃん』

『え…猫ちゃんあればあるだけ使っちゃうからこわいんだけど』

『猫は500万z貯めることにしたから、庭の拡張以外の無駄遣いはしないにゃん』

『なんか具体的な大金の目標を立ててる!? ああ~どうしよう~~明日の朝でもいい?』

『いいにゃん! 明日のお楽しみにゃん。首を洗って待ってるがいいにゃん』

『借金取りかな???』


 追い剥ぎにゃん。


 メールしている内に露店通りどんぶらこっこで排出されていた。

 うーん、流れがあると時には便利?


文字数と区切りのバランスが難しく、執事の再登場回(稼げネコス)と、錬成陣と錬金術周りのあれやこれやが混ざっております。


評価、ブクマ、イイネありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
>「…猫には相場がわからぬ…。釜をチンして暮らしてきた…」 「……執事も新アイテムには人一倍鈍感であった…」 笑いましたw 執事さんもノリがいいw
走れメロスのパロディネタ?
[一言] 「…猫には相場がわからぬ…。釜をチンして暮らしてきた…」 「……執事も新アイテムには人一倍鈍感であった…」 ここすき
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