15.ゴーレムの鍵
「ふむふむ、こちらは子ども向けの絵本ですな」
「へえ、子ども向けの。童話とかですか」
「左様、懐かしいですな。むかしは若に絵本を読んで差し上げたものです…」
「どんなお話にゃん?」
絵本を撫でてしみじみするクラノスケに尋ねると、朗読してくれることになった。
本の内容は『お菓子の国』を地鼠族目線にしたような話、だろうか?
地鼠族が完成したクルミ割り用のゴーレムに乗り込むも自力では出られなくなり暴走してしまい、慌てて助けを求める。外から鍵を開けてもらいゴーレムから脱出。ゴーレムは止まるけど、壊れてしまう。やれやれ、まだまだ研究が必要だね、と金平糖をもらって慰められるストーリー。
「ゴーレムって中に入って動かすにゃん??」
「魔道傀儡によるゴーレムは肉体の延長線上にあるものですぞ」
「ゴーレムって全部中身入りなの!?」
「いやいや、まさか」
クラノスケの話によると、廃坑や最初のダンジョンで動いているゴーレムは旧時代、まだ魔道傀儡が一般的な技術だった頃の名残だという。
「『魔道傀儡』は我らが姫君から受け継いだ技術でありました。ところが、我らと姫君では体の大きさも、時の長さも違いすぎた。そのほとんどが、受け継がれずに今に来てしまったと伝え聞きます」
『精霊傀儡』同様、『魔道傀儡』も本来はルイネアが持っていた技術だったってことか。
「遺失していた今もゴーレムたちは動いてるみたいだけど?」
「あれらは坑道に異界の扉が開いたことで、全てが過去のまま保存されておるのです」
「なるほどそういうことでしたか」
ダンジョンがループ再生する法則が適用されているのか。たとえば庭園ダンジョンを荒らしまくっても、次に来たときには庭園も元通り、というアレね。
「異界化する前から地鼠族が住んでたにゃん?」
「いかにも。我らの故郷は異界によって失われた…」
う、うんん?
ドゥーアに乗っ取られたんじゃなくて異界に乗っ取られた話になってる?
時系列が混乱してるんだろうか。
地鼠族の地底王国→異界化→ビオパールから地人族の入植→ドゥーア完成ってことかな?
「左様。まこと嘆かわしいこと」
オヨヨヨ、とクラノスケは涙をふくような仕草をする。……あ、オヨヨアクション。そういうのがあるのね。はい。
『……たぶんなんだけど』
『にゃん』
『クラノスケの話は信じちゃダメだと思うよ』
『そうね。いろいろ話の辻褄が合わないことが多いの。もちろんドゥーアの歴史そのものが改変されてるってこともあるかもしれないけど』
『クラノスケ自身がちょっと凝り固まったお爺ちゃんって感じだね』
『もしくは陰謀論にやられちゃった感じの…』
『あー……』
ポユズさんとリーさんからの内緒話に、ノーカさん共々なんともいえない顔になってしまう。
『もう何人かの地鼠族に会いたいところにゃんね~』
『そうですね。証言としてもひとりではなんともいえません』
クラノスケのことはまあ、今は置いておくとして。
読んでもらった絵本によると、鍵はゴーレムからの緊急脱出用ということになる。
「鍵を開けたらゴーレムは止まっちゃうにゃん?」
「操縦者の安全のためにそういう仕様になっておりますな」
「中身がいない場合は?」
「いなくても同じです。メンテナンスのためにそういう機能がついておるものです」
ふむふむ?
『アライアンスチャットで廃坑組に伝えて、『錆びた鍵』や『古びた鍵』が出たら使ってみるよう促してみましょうか』
『それはよさそうにゃん!』
早速伝えると『試してみるにゃん~!』と返事があった。どう使うのかがわかっていれば後が楽だもんね。
「操縦者は鍵が開いたら安全に出られるようになってるにゃん?」
「もちろん、操縦者の安全が第一の設計になっておりますぞ」
『鍵さえ手に入れば、若様の安全は確保できそうにゃん?』
『かな? あとはキングトレントをどうにかすることになるのかも』
『キングトレントはまあフーテンに任せればいいよ。風魔法は斬特性が多いからね』
期待してるぞ大商人!
その後もミニチュア部屋を回ってみたけど収穫は特になく。やっぱりそうそう、イベントなんて起こらないものだよね。
「いやいや、鍵のこと見つけてきてるだけでも十分お手柄よ」
「バッチリ! 開きましたからねゴーレム!」
「BOSSが一瞬でガチーン!てなって!」
「いやあ、弱点属性がなくてひたすらぶん殴るだけのゴーレムにこんな方法があったなんて…!」
廃坑からみんなが戻ってきた。成功したようで何よりである。冒険者ギルドの酒場でひとまず休憩だ。
鍵は最初どう使うのかわからなかったけど『投擲』で命中すれば効果が出たらしい。エドさんいわく「命中率が2割減くらい」とのこと。
鍵を当てると一瞬でゴーレムが倒せるそうだ。そしてドロップが『古びた鉄の心臓』とか『古びた鉄の動力部』などの限定ドロップになったらしい。
「『錆びついた心臓』も取れましたよー!」
「取れてよかったにゃん!」
「この分だと『圧縮』でも全然行ける数、手に入るかもです!」
「やったにゃん~!」
新しいレシピを試さなくてもいいなら楽ちんで嬉しい。
そして肝心の鍵はというと。
「新しいのは全っ然、取れなかったんだよね~~」
「『錆びついた鍵』はいっぱい取れたんだけどね」
「にゃん~、これは『錬金術』してみてもいいにゃん?」
「そうね、やってみてもいいかしら?」
「是非!」
そんなわけでレッツ・アルケミー。
マイルームから『中級錬金釜』を持ち出して、ひとまずは無属性、それからやはり金属だし、と金属性で『圧縮』を試みる。
はいドン!
無属性が鉄色の緑リボンの鍵で『鉄色の鍵』、金属性が金色の赤リボンで『ゴーレムの鍵』になった。
「お、正解!」
「赤リボンがマスターキーって感じかね~?」
「なにかしら格はありそうですよね」
実際『錆びついた鍵』は低層のゴーレムしか開けなくて、『古びた鍵』はナイトゴーレムしか開けないなど、ちょいちょい差はあったらしい。
『鉄色の鍵』もこれで止められるゴーレムがいるのだろう。
「これで廃坑の攻略が進む…!」
「バンザイ先生よかったねえ」
地人族にとっては廃坑の攻略が種族クエストに繋がっているとかで、重要らしい。
「それじゃあ次は、山頂行って鍵を開けて、若様救出してキングトレントを倒す……?」
「忙しいな!」
「あと地鼠族にミニチュア家具を用意しておいた方がいいかもしれないにゃん~」
「ミニチュア家具ならお任せください!」
「なら俺も家具部門かぁ」
頼もしく請け負ってくれたのはショーユラさんだ。最近はぬいぐるみの家具を作ることにはまっているらしい。骨組などが必要なときは、ナマナマさんが作っているのだとか。
「あとは金平糖もですかね」
「金平糖……なんかクエストがあったなそういえば」
「作るやつ? 買うやつ?」
「買うやつ。ドゥーアの屋台の裏メニューみたいなやつだったような…うっ、大分前なので記憶が怪しい」
「思い出して!!」
タスクさんが金平糖関連のなにかがドゥーアであったことを思い出したので、改めて屋台の隠しクエストで掲示板を調べたところ、見つかった。
V.S.キングトレントについては、火属性持ちの人形連合は手も足も出なかろうと不参加を決めた。猫も不参加だ。トレントは攻撃範囲が広いので、下手に参加するとお荷物になりかねない。
なのでその前段階でお役に立とうということで『ゴーレムの鍵』をたくさん作った。もちろん『錆びついた鍵』は猫、持ってなかったので、廃坑に通ってたバンザイさんたちから協力してもらったり、マケボで買い占めたりして準備。後で清算予定とのこと。
そんなわけでキングトレント戦をするのはフーテンさん一行、ヒーラー兼タンクでノーカさんが参加。
戦力外はショーユラさん率いるミニチュア家具作り班、タスクさん率いる金平糖回収班に別れる。
猫は金平糖班に参加だ。同班はタスクさん。掲示板に書いてある情報を元に屋台へ向かうだけなので、人数が最小限。ちなみにアルミハクさんはクラノスケと一緒にミニチュア家具班に入っている。やはり使う側の意見も大切だろうということで。
タスクさんがすでにクエストをこなしていたこともあって、移動してちょっと話しただけで『金平糖』は入手できた。
クエストというより、串焼き屋の店主の実家がお菓子屋さんで、メインではないけど金平糖も扱っているという話。単純に「他に(売り物)ないの?」というだけで選択肢に現れる。しかし店によっては怒られる台詞なので手当たり次第言うわけにもいかないというやつ。
「いや他の店は塩とソースと選べたりするのに、この店は塩しかなかったからソースないの?てそれだけの話だったんだよ。そしたら裏メニュー出てきちゃって」
「なるほど、そういうことにゃん」
「もし、そこな方々…」
「にゃん?」
「んん?」
買い終わって、冒険者ギルドまで戻ってきた。ミニチュア家具組とは出来上がり次第ギルドの酒場で落ち合う約束なので、先に現地入り。テーブル席を確保していたらば。
テーブルの上にちょこん、と座ったマルモがこちらを見上げている。レトではない。
「地鼠族!?」
「おお、我らのことをご存じなのですね、旅の方」
感激するようにこちらを見上げてきた地鼠族は、クラノスケと同じく金色でぽわぽわの毛並み。ちょっと和装にも見える装束で、こちらへ頭を下げた。
「旅の方、無礼を承知でお願いいたします。お持ちの『金平糖』を譲ってはいただけないでしょうか」
「にゃあ」
『渡すのは問題ない数あるけど、渡したらすぐ立ち去られそうな気も』
『ちょーっとお話聞いておきたいにゃん?』
さてどうする、とふたりで目配せをしあうと、タスクさんはじっと猫を見つめてきた。
猫が交渉するの!?
ま、まあいいか。
「『金平糖』が欲しいにゃん?」
「いかにも。拙では店は門前払いを食らってしまうのです。悲しいことに…」
まあ見た目はマルモだし、お店に出入りするのはたしかに難しいのかもしれない。
「お代はお支払しますので、どうかお譲りいただけないでしょうか」
「譲るのはかまわないにゃんよ~、『金平糖』が好きにゃん?」
「ありがとうございます、いえ、拙の主の好物なのでございます」
「主さん」
「ええ、主が喜びます」
「もしかしてクラノスケさんにゃん?」
「まさか!!」
地鼠族はひっくり返る勢いで驚いた。うん、違うとは思ったんだけど、なにせ若様のお名前を知らないのだ。聞き忘れた。
「いえいえまさか、あのような輩に! もしや旅の方、あやつをご存じなのですか!? では、ではもしや若の行方も!?」
「にゃあ」
『若様が家出したからクラノスケが出てきたんじゃなかったっけ?』
そう聞いていたけど、こっちの地鼠族の言い方だとクラノスケが連れてきたように聞こえる。むむ。
『素直に言っちゃっていいにゃん?』
『言っちゃえ! ここで隠しても意味ないっしょ』
「若様はゴーレムに乗って山頂で大暴れしてるにゃんよ~」
『言い方ァ!』
マイルドにして伝わらなくても困るかと思って!
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