14.金平糖と鍵
『思ったんだけど』
ちょこんと手を上げてタレイアさんが発言する。
ドゥーア組は一旦、冒険者ギルドの酒場に集まり会議することになった。とはいえアルラウネの村にいるみんなとも話せるよう、アライアンスチャット利用だ。
『クラノスケが出てきたから混乱するけど、改めて考えると侵略してくるネズミの王様、といえば普通は『クルミ割り人形』じゃない? いや、王子だから違うかもだけど』
『たしかに、名を知らなかったらそうなってたかもしれませんね?』
『てことはゴーレムを味方に出来るパターン?』
『ゴーレム手に入るなら嬉しい』
ナマナマさん欲望に素直…! 猫もほしい。
ざっくりいえば忠臣蔵は吉良と内蔵助が対立する物語。クルミ割り人形もネズミの王さまとクルミ割り人形(ゴーレム?)が対立する物語なので、ダブルでかかっていたとしても矛盾はない。
問題は忠臣蔵はクラノスケが正義、クルミ割り人形はゴーレムが正義の物語だということだ。
『うーん、ドゥーアからみるとクルミ割り人形、地鼠族からみると忠臣蔵なんじゃないかな』
『それだ!』
『とはいえ、どちらにしても若様が生きていれば物語にならんわけで、つまり問題は若様の死亡フラグか』
『間違いなくトレントとの戦いが問題になるやろなあ』
あ、そうか。もし若様が亡くなったら、王様が出てきちゃう可能性もあるわけか。それは阻止すべきフラグだな。
47匹の地鼠族をどう捕獲すべきかとかいう問題じゃなかった。
『クルミ割り人形は、剣を与えると呪いが解けるらしい』
『原作の方だよね。バレエはまた話がちがったりする』
『や、ややこし…!』
クルミ割り人形のあらすじを調べたらしいタスクさんに、ポユズさんが言う。
『バレエの方は主人公のクララがスリッパ投げて窮地を救うんですよね』
『お前がクララになるんだよ?』
『いや、それだとトレントの味方になっちゃうんじゃない?』
うーむ、とみんなで頭を悩ませる。
猫も考えてみたけど、やっぱり物語がまだ始まってないから、なんともいえない。
『まだ物語が始まってないなら、物語に囚われる必要はないのかもしれないにゃん?』
『それはそう』
『まあその前に若様を捕獲なり、説得なり出来ればそれに越したことはないわな』
『トレントの王が成り上がるまではそれを目指す方向でいいんじゃないでしょうか』
『考えるに、たぶんこれ、赤月夜には物語装置が出来上がってると思うんだよね~』
『あー。赤月夜オンリー参加プレイヤーだと忠臣蔵orクルミ割り人形になってる寸法?』
『ありそー』
なるほど、猫たちのドゥーア入りが早かったってことか。赤月夜まではあと1日ある。いや、1日しかない。
『タイムリミットが近いにゃん!』
『今夜辺り怪しいかもしれん』
『とりあえず、それまでに山頂付近へ上がる道を探さないといけないですよね!』
『それもあったか』
『あ! そうだ、洞窟内から外が見えるって場所、なかったっけ?』
『白月夜の精霊スポットか』
『そこから外って、出られないのかな』
『考えたことなかったな。『登攀』か?』
『壁登りなら任せるにゃん~!』
猫の無属性魔法、『フック』『マジックロープ』が火を吹くぜ?
そんなわけでチーム再編成。アルラウネの『調薬』『農業』講習も一段落ついたそう。
まずドゥーアに残る地鼠族を探してみるチーム。ついでにキングトレントの情報も出来れば集める。アルミハクさん、タスクさん、エンジェルさん、ヤマビコさん、ポユズさん、ショーユラさん。主にマルモ連れと『農業』メンバーで構成されている。クラノスケもここに参加。
次に魔道傀儡の弱点や性能についてを探ってくるチーム。リーさん、バンザイさん、ナマナマさん、ティアラさん、ココロさん、タレイアさん。こちらは『鍛冶』持ちメイン、それから錬金術師も必要だろうということで構成されている。
双方共に山頂を目指す道をドゥーア内で探す役割も担う。
それから最初のダンジョンから山頂ルートを開拓するチーム。エドさん、フーテンさん。
猫?
猫はノーカさんと聞き込みの続きだ。なんでノーカさんとなのかというと「混ぜたらなにか起きそう」だという。
なにかとは???
せっかく猫の『軽業』と無属性魔法が生かせるときが来たと思ったのに、無念無念。しかしエドさんは『登攀』持ちだし『フック』も持っている。任せたぜ。
猫はさておき、ノーカさんは天然のイベントハンターと聞く。きっといい方向へ導いてくれることだろう。やることはさっきと変わらないので気軽にいくぞ!
「冒険者ギルドは回りましたから、次は採掘ギルドへ行きましょうか」
「ノーカさんは『採掘』持ってるにゃ?」
「採集系は一通り持ってますね」
「猫と一緒にゃん~」
話しつつ採掘ギルドを回ったが、こちらは特に何も聞けずじまいだった。
崖崩れの理由についても「調査中」で、崖の上へ行く方法についても教えてくれない。
『なんだか箝口令でも敷かれてるみたいにゃん~』
『ゴーレムの通達をしたことでイベントが進んだのかもですね』
教えてくれない以上しかたない、とあきらめて次は行政施設へ。
「図書室にミニチュア本棚があったにゃん」
「ソファやカウチ、ハンモックなんかはよく見ますが、本棚は珍しいですね」
「猫はミニチュア見たのはこれが初めてだったにゃ」
図書室へ入ると、早速レトが小さな本棚へ。ノーカさんのマルモは躾がしっかりしているのか、勝手に駆けていったりはしないようだ。
「いえ、こいつは寝ているだけです」
「なんと」
「夜行性?らしくて昼はだいたい寝てます。夜は元気ですよ」
「にゃあ…、いろいろいるにゃんね」
猫はレトの睡眠を不安に思って調べたので知ってる。召喚獣に睡眠は特に必要ないと。つまり、ノーカさんのマルモは寝るのが好きなだけだ。でもノーカさんがそれで納得してるなら、余計な口を出すところではないだろう。
マルモにもいろいろな個性があるんだな。
「せっかくだから本も調べていきますか」
「トレントとかアルラウネに関してはこっちの本に書いてあったにゃん。錬金術関連の本はなかったにゃんね~」
「ということは魔道傀儡についてはあまり期待できそうにないですね。クルミ割り人形や忠臣蔵に似た話がないかを見ておきましょう」
「探してみるにゃん~」
しばらく捜索して見つかったのは『ドゥーア昔話』と『お菓子の国』。双方とも絵本で、そう厚い本ではない。すぐ読み終えた。
前者には地人族が採掘で投げた些細な土で迷惑を被り、プンプン怒っては戦を仕掛ける地鼠族の話が紹介されていた。
「今回の若様もこういう感じにゃん?」
「その可能性も高そうですね。地鼠族が怒ること自体は、よくあることだったのかも」
地鼠族の怒りは新しく穴を掘ってあげること、小さな家具を作ってあげること、それから金平糖をあげることで和らいだという。
「塞がったところさえわかれば穴を掘るのは容易でしょう」
「やはり地鼠族を見つけて話を聞きたいにゃんね~」
猫は嫌われてるので無理そうだけどね! だからマルモ持ちだけどマルモ班には入ってないのである。地鼠族発見の本命はあっち。
「ミニチュア家具はまあ納得といえばそうだけど、気になるのは金平糖にゃん」
「クルミ割り人形にも金平糖が出てきますしね」
『お菓子の国』はクルミ割り人形と似ているようでいて微妙に違う話だった。
魔女の怒りに触れて巨大な人形となった王子が、鍵を渡されると元の姿に戻り、金平糖に埋もれて喜ぶ話となっている。
「だいぶ省略されているみたいですが、この挿し絵」
ノーカさんが指差すのは王子が元に戻ったシーンの挿し絵だ。
「尻尾があるにゃん」
「金平糖に喜ぶって辺りから考えても、地鼠族の話と思います」
「そうなると、巨大な人形はゴーレムで、ゴーレムから出すには鍵が必要にゃん?」
なるほど!とうなずきあったものの、問題はある。
鍵ってなに??
首を傾げてはみたけれど、なんか最近、聞いたことがあったような。
「鍵、鍵……、なんだったかにゃん…?」
「アライアンスで聞いてみますか?」
聞いてみたらすぐ解決した。
『ドゥーアで鍵っていったらあれじゃない? 『錆びついた鍵』に『古びた鍵』』
『廃坑ダンジョンのゴーレム各種から出るレアドロップですな。御入り用なら出せますぞ』
『にゃあ、赤いリボンに金色の鍵にゃん?』
本の挿し絵はそうなっている。
『いや、『古びた鍵』は青いリボンに銀古美の鍵、『錆びついた鍵』はリボンなしで緑青っぽい錆びの鍵ですな。もし金の鍵がイベント用アイテムなら、廃坑で取れるのかもしれませんぞ』
『にゃにゃにゃ…悩むところにゃん~~』
『こちら鍛冶班、全然情報が集まらず行き詰りを感じているので廃坑何層かにもよるけど行けそうなら行きますが! むしろ行かせてください!』
『『古びた鍵』の方は廃坑3層のナイトゴーレムですな。錆びつきの方はどのゴーレムでも出たかと』
『いったん廃坑いってみてもええんちゃう?』
『あ、こっち登れてダンジョンから今出たとこ。山頂への道が見えてる』
『おお、ルート確保!』
『ただダンジョン内だからロープの保護とかは出来なかった。毎回登り直しだが、まあなんとかなるだろ』
ということで山頂への道は確保。
他は行き詰りを感じてるってことで、希望者は廃坑へ向かうことになった。残ったのはクラノスケを連れたポユズさんと、廃坑ではお役に立てそうにないというリーさんだ。
図書室で待ち合わせて合流。
「やることなくなっちゃうのよねえ」
「地鼠族探しはまだ回りきっていないし、クラノスケを廃坑に連れていくのは心配だしね」
「ヤヤッ、姫の心配するほどには拙者、弱くはありませんぞ!」
いつの間にかポユズさんがクラノスケの姫になっとる。
思わずポユズさんを見ると「ルイネアは全部姫みたい」と肩をすくめた。
なおノーカさんも居残りだ。「ヒーラーが他にいるなら出張ることもないですし」とクールだった。
「あ。そうだ、クラノスケはこの本棚は読めますか」
ノーカさんがクラノスケをひょいとつまみ上げて、ミニチュア本棚へと案内する。
「なっ、なにを……、おや、本棚ですか。どれどれ?」
クラノスケがパラパラと本をめくりだすのに、レトがショックを受けた顔をして「!」と吹き出しを出すのは見なかったことにした。
……ちゃんと読める道を探すからね!
評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。
次回更新は3/28(金)です
250327 覚えるだけ覚えて使ったことなかった→あったね! ということで『フック』『マジックロープ』の箇所を訂正しました。指摘ありがとうございます




