4.天窓の洞窟と妖精街
………はい。
『赤錆びた土』10個出るまで頑張ってみたけど『鉄鉱石』も出なかった。やはり『初心者のツルハシ』だと採れるアイテムに限りがあるのだろう。まあ、狙いは『赤錆びた土』だったので問題なし!
『岩石』は『真贋』に適うものがひとつ採れたし、重たいのもあったので楽しみだ。
ひたすら採掘しているうちに、そろそろ夜も深まってきたらしい。周囲もぞろぞろと移動し始めたようだし、精霊スポットへ向かう。
説明を聞いた限りでは坑道が山肌へ出てしまっているのだと思っていた精霊スポットだが、そうではなかった。
天窓のようにぽっかりと開いた天井の穴から、キラキラと月光が差し込んでいる。
ううん、天窓の洞窟。
金月夜の精霊スポットだって、風猫族のミーさん(仮)から聞いたっけ。白月で鏡月になる日はここに来るとよさそうだ。いつだろ? 白月はしばらくここへ通うことにしようかな。
いや、その前に精霊使いをランクアップさせないと新しい精霊が入手できないのか。や、やることが…!
さておき洞窟の中での月見も乙なものである。月光の差し込む地面がやたらとキラキラしている。『精霊砂』になったりするのかもしれない。
精霊は天井の穴からふわふわと降ってくる形式で、他の場所で見た精霊よりずいぶん小さい。その分、雪が降っているみたいでなかなか幻想的だ。
思わず手を差しのべてみると、手のひらの上にふわりと積もる。これは1粒で1体じゃなくて、集合体で1体になるタイプなんだろうか??
鞍の上でお座りしていたロニが立ち上がった気配を感じてそちらを見る。すると、ロニがむしゃりと降ってくる光を食べた。
食べた!?
と、共食い!?
いや、待て待て、そうだ融合することだってあるんだからこれも普通のことかもしれない。きっとそう。
ポコンとハートが出たのでデリシャスだったのかもしれない。ためしに猫の手に積もっていた光の粒を差し出して見ると、ぺろりと食べた。
ポポポンと3つほどハートが出る。おお、嬉しいのか、そうか……。まあいいか!
ロニのステータスを見てみるとMPが上がっていたので、こういう精霊のパワーアップもあるっぽい。なるほどなあ。そういうことにしておこう…。
周囲の声を聞いてみると、どうも精霊契約はうまくいっていない人が多いみたい。いや、でも出来てる人もわずかながらいるっぽい?
もしかしたら月明精霊がいないんだろうか。
本来は鏡月の精霊のスポットだから、かもしれない。いや憶測なのでなんともいえないか。
「ん、にゃ??」
ぼんやりと天窓から降ってくる光の雪たちを眺めていると、壁の一部が光って見える。
んんん?
あれ、その前に立っているのはレキか? お使いに行っていたのでは。
しかもなにやら手招きをしている。間違いなくうちのレキだな?
よくわからないが壁の方へ近づいてみると、なんだか浮き上がるような不思議な足の進み具合。まるでレキと契約した青月夜のときみたいな。
なんだろう、これ。
そして壁へ辿り着いた、と思ったらそこに壁はなく、猫たちが通れるくらいの穴が空いている。
『岩妖精ガナムの妖精街 へ入りますか?』
「はい」
妖精街なんて気になる場所、入らないわけにはいきませんな!
一瞬の暗転、それから目を開けると広がるのはドゥーアを小さくしたような洞窟の街。
ところどころに緑色の明かりが点っている。よくみるとそれはランタンではなくて、光るキノコだったり、ゆらゆらと燃えるホタルブクロのような草だったりする。
レキは普段なら猫よりずっと小さいんだけど、この街に入ったとたん、同サイズになった。むしろ猫より大きい。これは、猫たちが縮んだんだな。
レキは猫を見下ろして、フンと鼻を鳴らすと顎をしゃくって歩き始める。…レキったら大きくなったらふてぶてしさが2倍!
とことことルイに乗ってレキを追いかける。
この妖精街は、ぐるりと一周する円形になった商店街になっているらしい。
洞窟の一部が向こう側へ続いているんだけどレキはそちらへ行かなかったので、猫に許されてる範囲がこれだけなんだろう。レキが案内してくれるので、レキに従う。
商店街はカウンターだけある店が並んでいて、ちょっと露店通りみたいで面白い。
店主がいたりいなかったり、かと思えばカウンターの奥に花がいっぱい詰まってたり、石がいっぱい詰まってたりと謎だ。
数ある店のうちひとつで、レキが立ち止まり、なにやら店主と交渉し始めた。そして猫の方を向いて手を出す。
うん、これは「ビー玉よこせ」のやつ! 猫は詳しいんだ。
早速ビー玉を渡すと、また少し店主と話す。すると猫の前にぴろんとお店の表示が出た。おお、メニュー表だ。
メニューは『鉄鉱石』『赤錆びた土』『魔鉄』『錆びついた心臓』『錆びついた腕』『???』『?????』となっている。
『魔鉄』は、最初のダンジョンに繋がってる廃坑ダンジョンで採れるらしいアイテム。『???』とかはわからないし置いておくとして、『錆びついた心臓』? てなに?
『ビー玉』1000個と交換してくれるらしい。さすがにそんなに持ってないな!
岩妖精ガナムは人工物が好き、たぶんガラスが好きなはずだ。てことで交渉してみよう。
「にゃん~…こういうのはどうにゃん?」
レキに差し出すのはまず『ガラス岩』。パッと取り上げられたあと店主と話す。
メニューの表示が変わる。『ガラス岩』なら700個。ご、強欲…!
なら次はこれだ。『硝子玉』。
おお、ぐっと減って30個になった。
『ムーンキャッチ』だと350個。ふむ、硝子の方がいいらしい。
そこで満を持してこれです。『宝硝子』。
…10個! 持ってるけどもう一声!
これでどうだ『無魔硝子』!
…1個!
やったぜ。
交換してもらい、『錆びついた心臓』を手に入れた。
レキに睨まれているような気がするのはこれまで『ビー玉』しか渡したことがないからかもしれない。いや、別に出し惜しんでたわけじゃなくて、あげる機会がなかったのである。だってレキ、すぐいなくなっちゃうし!
とりあえず『ガラス岩』をあげておいた。
またティアラさんにお願いしてあれこれ仕入れさせてもらおう。
他に『赤錆びた土』なら『ガラス岩』ひとつで10個と交換できたので、3つほど換えてもらう。よしよし。
レキのおかげでガラスで交渉出来ることがわかったので、他の店も回ってちょっとお買い物。
気になっていた光るキノコや燃える花も購入出来るようで、それぞれ『発光茸』と『闇ホタル草』。
単体でもかなり明るくて面白いので、自分用とお土産用にいくつか購入した。40個もあれば十分だろう。たぶん畑で栽培とかは無理だろうしね。
これは『ビー玉』1つで1個と安かったのだが、『ガラス岩』は受け付けてくれず、『宝硝子』で交換してもらったら40個だったのだ。まあよし!
店によって交換品もいろいろ違いがあるようで、交換自体受け付けてくれない店もあった。なかなか難易度が高いけど、物々交換は楽しい。
ちなみに店主はみんな、帽子を目深にかぶっているので違いが帽子の色くらいしかわからない。こうして並んでいるところをみると、レキは思ったより特徴があるんだなあ。
などと観察をしているうちに突然パッと目の前が暗くなり、ぽいっと街の外へ出されていた。
何事!?
メニューから確認したら、妖精街にいられるのは15分間だけだったらしい。なるほど、時限方式だったか。
他にも見たい店があったがそれならば仕方ない。次回に期待しておこう。
…次回もきっとあるはず!
たぶん月夜がキーだろう。色が関係しているのかはまではわからないけども。それまでにレキの好感度を稼げるようにがんばろう。
なお帰ってくると月夜は終わっていた。どっちこっちなのかもね。まあ今回は精霊を仲間に出来るわけじゃなかったし、運がよかった。
やはり月光の当たっていた場所が採掘スポットになっていたのでみんなで拾っていく。『精霊砂』でした。うむ、確定演出だったもんね。
帰りの採掘はなかなか盛り上がっていた。どうやら月夜後に確変が入るようで、あちこちで大騒ぎの声が聞こえる。
猫? 猫はほら、『初心者のツルハシ』だから…。『赤錆びた土』がたくさん手に入ったからいいんだ……。くぅ!
そんな感じで採掘で確変が入ったものだから、コボルトやゴーレムとは帰りも戦えずじまい。残念。
まだしばらくドゥーアにはいる予定だから、また今度来たらいい。
それに実は猫、コボルトを飼えるか心配なんだよね。主にMP的な問題で。ロニが装備じゃなくなっちゃったもんだから、猫のMPはレトでカツカツなのだ。コボルトはそんなに召喚MPはいらないといわれているけど、それでもレキほど少なくはない。
となると、猫ったら何も出来なくなってしまうのでは?農業を手伝ってくれる相棒はほしいが、それで自分はなにもしないというのはなんか違うしなあ。
ううん、MP問題。
外付けMP装備を考えないといけない。ロニみたいにMPを増やしてくれる月明精霊装備をつけるのがいちばん早いのだから、さっさとナナちゃん先生に会いに行くべきなのだろう。
くっ、ジョンさん…!
せめて『クリスタル』読んでからにしよ……。
さて、思わず買ってしまったけど、『錆びついた心臓』ていったいなんなんだろうな?
いや、猫だってもちろん考え無しに買ったわけじゃない。もしかしたら人形の材料になるのかな?と思ったのである。
でもたぶん、まずは錆び取りだよね。
このゲームでは錆びた素材はプレイヤーの『鍛冶』の範疇外となっている。しかし錆びた素材は鍛冶ギルドで買い取ってもらえるらしい。となると『鍛冶』ギルドで聞くのが早い。
でも猫、『鍛冶』持ってないんだよね。まあこういうものは専門家に投げるに限るのだ。人形連合のナマナマさん辺りならきっとなんとか解明してくれるに違いない。
やるぜ、丸投げ!
ドゥーアに戻って、運送ギルドから『錆びついた心臓』を配送。メールを送ってお任せだ。ソイッ!
猫は明日からのタマちゃん孵化に備えて、畑作業が待っている。
猫は『ビー玉』でクリアしてますが『ガラス瓶』などでも要求に答えることが出来ます。『宝石』ももちろん好き。人の手で加工されたものが好きなので、他にもガナムたちの琴線に触れるものはたくさんある。
評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。
前回はにゃんにゃんにゃん(222)話のお祝いありがとうございました!
今週も月水金に猫をお届け!
次回更新は3/5(水)です。
まったりいきましょう~




