21.マルモのレト
ギルドに戻って早速、レトを召喚してみる。
テテテッと腕をかけあがり、帽子の上に乗ったようだ。MPコストは50。猫の最大MPは150なので召喚コストはなかなか重い。3匹で0になっちゃう。
マルモという最弱召喚獣でこれなのだから、召喚獣を戦闘に使うとか無理そう。いや、マルモは初期召喚獣にしてはコストが重いんだっけ? そこも含めて使いづらいらしいから。
しかし用途が決まっているし、何よりチケットで取ったし、まったく後悔はない。
ちなみに『召喚石』を持っていなくても、妖精や魔物の魂がついてきてしまう、いわゆる召喚のラーニング状態というのもあるらしい。
魔物の場合は『魔物の呪い』と呼ばれるもので、その状態でサモナーギルドにいくと特別に『召喚石』を売ってもらえる。そして契約するとラーニングとなるそうな。
呪ってくるのはレイドボスなどが多く、MPコストが重すぎてそもそも召喚すら出来なかったり、召喚しても大きすぎて邪魔で役に立たない上に召喚主にデバフが乗るなどして、まさしく呪いと言われているそうな。ひどい話だ。
サモナーギルドの売店で確認すると『召喚石』は最初の3つまでは3万z。1つ無料でもらってるので残り2個まで。
契約可能になったときに持ってないと悔しくなりそうなので、2個買っておく。次からは5万zらしい。
さ、さすがブルジョワスキル…。
なお召喚石はマケボで販売出来る。召喚師が出先で召喚石がないのに契約可能になったときに、召喚師が出品してるボッタクリのやつを悔しがりつつ買う心暖まらない関係があるらしい。
なので予備は持っておくに越したことはない。
魔物の魂がその場に止まるのは1~3時間ほど、強い魔物ほど長く止まる。ついてくる(呪ってる)場合は3日だそうな。
貢ぎ物で契約可能になった場合はそのときによりけりで、契約なしでもついてきてくれることもあれば、しばらくするといなくなってしまうこともあるらしい。なるべく早く契約するに越したことはない。
お、召喚獣用の装備とかもあるのか。マルモ用はスカーフらしい。
ルイは赤、私は黒のスカーフなので、レトは緑にしようかな。効果は何もないのでそこまで高くない。ただの目印装備だ。
ついでに資料室も見にいく。
マルモなどの魔物について載ってる本と、あとは指示の出し方みたいなのがわかる本があるといいな。
資料室に入ると、ぴょんとレトが飛びおりて本の上を走っていった。
ええ!?
あわてて追いかけるが、司書さんが「マルモはこういう場所が好きなので、構いませんよ。虫も取ってくれますし」と笑って放し飼いの許可をくれた。ありがたい。
サモナーギルドでは大丈夫かもしれないが、他所では気をつけねば。リードとかないし。
レトは自由にさせておき、魔物の本と、指示の出し方の本を読む。
魔物の本は『召喚獣総覧』だ。
ふむふむ。
マルモは草原に生息するものと、室内に生息するものといるが基本的に同じ種類。学習能力が高く、迷路などいりくんだ場所もすぐさま抜けられる天然の斥候。スキルは覚えないが、地図を覚えられることから空間把握に優れ、また絵などを認識する視力もある。人慣れして学習した個体は賢く、ペットとしても人気。光り物が好き、というよりも不思議なものが好き。水晶石が好きなのは、上下逆さまに世界が映るから、らしい。
マルモは召喚しっぱなし推奨なのか。いいというまで飛び出さない、みたいな躾は必要か。
魔物の本にポルクスもあったので、戦うときの参考に読んでおいた。なになに。
……大きな耳にほっそりとした体、ふさふさの尾、毛皮を求めて狩られることも多い。尻尾の多いものが特殊個体と見られがちだが、尻尾が多いのは通常進化。特殊個体は毛の色が赤や銀になる。魔法属性に由来。銀のものは妖精化しかけている。
魔石の要求量は多め。属性を揃えると早い進化が可能。性格は狡猾で戦闘好き。町中や室内での常時召喚を嫌がる傾向がある。ダンジョンも場所によっては好まない――
いろいろわがままな子らしい。ためになったのは進化個体の見分け方くらいだな。狩り方は、狩人ギルドの方にあるのかも。投擲取ったらね!
召喚獣の本だからか妖精についてはなかった。あの小人について知りたかったんだが。
次は『指示の出し方』の本。
……契約をかわしているので、一度するなと言われたことはしないし、しろと命じられたことはする。好感度のようなものに関係なく、言われた指示はこなす一方、それ以上をしてくれるかどうかというのは共鳴度とは別の指数があると考えられている。
いわゆるご褒美的なアイテムはすべて進化のためと加算されるので無効。
しかしたとえばポルクスであればミミットの肉を与えるとすこし従順になる(一時的なものだが)し、ミミットを狩らせて与えると喜ぶ。召喚獣は契約するとそれまでの肉体は失われ、召喚主の魔力で出来た別の肉体を与えられる。食事などは必要なくなるが、それはそれとして生きていた頃の嗜好や性格がなくなるわけではない。時にはそれを褒美とするのも良好な関係を続ける一手である――
それはマスクデータとしての好感度なのでは??
生前とまったく異なる生活を強いるのだからときどき発散させてやれ、ということだろうか?
……一方で、魂が残りやすい魔物というものがある。それはその肉体としての生活に不満があったものが多い。これは捕食されるものに多く、代表的なものでいえばマルモだ。
草原のマルモはなぜか魂が残りやすいし、簡単な貢ぎ物で封印に応じてくれることで知られている。マルモにとって召喚主は守護者であり、同時に新しい住処の担い手だ。
マルモは好奇心旺盛だが、その好奇心ゆえに死にやすい生き物でもある。ゆえにその好奇心を満たすことこそマルモにとってのご褒美となりうるだろう。
このように、それまでの生活では不可能であったことを喜ぶ種もまたいるということは、心の片隅に覚えておいてほしい――
ふむ?
この本でもマルモはとにかく放し飼いしとけ的に書かれているな。資料室を出る前に『勝手に何処にでも行かない』『飛び出さない』『何かする前に猫の許可をとる』だけ指示しておいたら、放し飼いでもいいか。
あと妖精の本と、進化のための貢ぎ物の本を探して読むか。
妖精については『召喚妖精総覧』があった。
絵付きなのでわかりやすい。…あ、あった。『岩妖精ガナム』かな?
……ガナムは採掘中に岩などから出てくる妖精。その他の妖精と同じく、青月夜には隠れて出てこない。
岩の妖精ではなく、岩が好きで採掘している妖精なので、鉱石や石のようなもの(そう見えるもの)を渡すと喜ぶ。特に人の手が加わったものを渡すと、天然には存在しないため興味を引きやすい。
採掘の手伝いの他、石に穴を開ける作業などが得意なため、宝石装飾師の召喚妖精として人気。
契約のためには一定数の取引をすること。すると他の妖精と同じく、青月夜に向こうから現れてくれる――
はい。
ビー玉を渡したのはよかったらしい。
そして青月夜に会うことはないが、青月夜ではないときに好感度をあげておくと向こうから仲間になりにくるのが妖精らしい。
ならチュートリアルで好感度をあげた人々も無駄ではなかったのでは…? その後の続報を見てないけど、きっと召喚妖精にしているのだろう。会いに行って無視されてたりしたらかわいそうだもんね。
しかし一定数の取引っていくつなんだろ。結構多そうだが。まあ来てもビー玉はたくさんもらってるので大丈夫だ。ティアラさんにお礼を言っておかねば。
貢ぎ物の本は『召喚における特殊進化について』で合ってるかな?
……封印した召喚個体の体は召喚主の魔力で構成されている。魔力と魂の繋がりを強固にするために必要となるのが、進化のために与えるアイテムである。
このアイテムは魔石や宝石、あるいは強い魔力が込められた素材などが多い。
召喚獣によっては、自分と同種の魔物の素材を求めるものも少なくない。それは共食いというより、その形や魔力の記憶を元に自らの体をよりたしかに魔力で形成しようとする働きである。それらの素材を要求された場合、その個体は身体的な進化を求めていると考えていいだろう。次の進化は体が大きくなったり、強靭となるはずだ。
同種素材は魔石しか受け付けない個体もいるが、こちらは現在の自身の種とは別の進化の可能性があることを示唆している。欲しがる素材があるならば積極的にあげてみるといいだろう。
とはいえこれらの素材だけで進化することはなく、進化にはかならず魔石か、宝石を必要とする。逆に言えば、素材は与えずとも進化させることが出来る。しかし進化の回数は限られているため、出来る限り要望に応えた素材を与えることをおすすめする。
魔石は小さな魔石でも構わないが、ヒビの入った魔石や、割れた魔石は好まれない。無理に与えることも出来るが、あまり進化の足しにならないため、通常品質の魔石を用意すること。
宝石は進化の決め手になるアイテムだ。とはいえ初期の進化に大仰な宝石は必要ない。半貴石と呼ばれるような石で十分だ。場合によってはガラス玉や石ころでも構わない場合もある。
市場価値や稀少さにとらわれず、召喚個体にとっての『価値ある石』が選ばれるとする説もある。
多く言われるのは、最初の進化で必要になる宝石は、契約のときに渡した石と同じものがよい、という話だ。どうやら契約に奮発し過ぎるのもよくないらしい――
はい。
最初の進化が始めに渡した石と同じなの、絆の再確認って感じで胸熱では。
レトはビー玉で大丈夫そうなので安心だけど、今後宝石を求められるかもだから、採掘もしていかないとなあ。
さて、一通り読み終わったし次へ行こう。その前にレトはどこへいったのか。
棚の下とか潜ってると大変だな、と思ったけど、机の上にいた。出しっぱなしの本が開いて置いてあったのだが、それをまるで読んでいるように眺めている後ろ姿が面白い。
本は『森の仲間たち』という絵本のようで、開かれているページには森の絵の中にさまざまな魔物や動物、虫や植物が書き込まれている。なかなかすごい絵本だ。レトは色々な方向へ回っては本を眺めている。
…本当に見てるのかもしれん。地図を見れるって言ってたし。
ぽふぽふと机を肉球で叩いてレトの注意を引き、頁の端を掴む。ぱらりとめくって見せると、大慌てで次のページ側へ廻ってそわそわするのが面白い。わはは、本読んでる。
頁を完全にめくってあげると、レトはまた熱心にくるくる廻っては眺めはじめた。
しかしこの絵本、よく出来てるな…。
森のどの辺りに何が出るか、どんな植物が生えていて、それを狙ってどんな魔物がくるかなどが絵しかないけどなんとなく理解できる。
この本ほしいな! なぜ本は買えないのだろうか!?
『羽根大全』も欲しいけどこの『森の仲間たち』もほしい。あと『冒険者の知恵~採取すべき植物について~』も欲しい。
世界観が写本時代ならあきらめもつくが、ポスターもチラシも結構あるし、活版印刷くらいはありそうなのに!
『総合知識』の恩恵か一度読めば思い出せるけど、それと物品としての喜びは別というか!
次の頁待ちなのか、レトが私の手に両手を揃えて乗せて見上げるポーズをする。絵面として猫とネズミだが、この猫はネズミは食べない猫にゃん。
頁をめくってあげるとまた大興奮になるのをまったり眺める。前をうろちょろされても狩猟本能が刺激されたりとかはないので、ガワだけ猫ちゃんでよかった。猫舌もないしね。
つい人前で猫を被ってにゃんにゃん言いたくなるのは許してほしい。にゃん。
最後の頁まで読んだらおしまい…と思ったが、どうやら真ん中あたりで開かれていたらしく、反対側もあるっぽい。
真ん中まで戻して、今度は前へめくっていく。また熱心に眺めるレトと一緒に読む。繰り返して最初の頁までいって、読了。
いやあ、いい絵本だった。他にも読みたい召喚獣ちゃんがいるかもなので、最初の状態に戻しておく。
「面白かったにゃん?」
レトに尋ねると、くしくしと顔を洗っていた。目が疲れたのかもしれんね。絵の多い本を見つけたらまた見せてあげよう。
司書さんにレトを遊ばせてくれてありがとうの礼をいって、サモナーギルドを出た。
あ、出る前にレトに指示出しだ。勝手に離れて何処にでも行かない、飛び出さない、何かする前に許可を取る、と。ふんわりレトが光ったので、たぶんこれで指示が成されたことになるはずだ。
ルイとレトは出会ってもお互い目を合わせた後は興味ない素振り。しかし私がルイに乗ってる間は、レトも私の頭から降りてルイの頭に乗っていた。揺れが違うのかもしれない。
仲間がふえた。
再びの読書回。
『羽根大全』は『世界の美しき鳥の羽根』『羽根識別マニュアル』などを想像してます。
『冒険者の知恵』は冒険図鑑とかああいう感じ。
『森の仲間たち』はむかし見た絵本をモチーフにしてるんだけど、その絵本のタイトルが思い出せない…。
『真円の書』はアルケミスト双書系。生産には『○○の書』というのがいっぱいある。『亜麻紡績の書』とか『キノコ出汁の書』とか。
評価、ブクマ、イイネ、感想ありがとうございます。
自分だけが楽しかった小説を誰かも楽しんでくれているなんて、一粒で二度おいしい。すごく幸運なことですね。