41.猫の宅配便、一歩前へ!
その後もトレードしたり、栞を置いてみたりとあれこれした結果、16枚を消費することが出来た。
猫は妖精召喚の栞は持っていない、と思っていたがなんと植物の精密画シリーズはすべて妖精召喚だった。頭に葉っぱが生えてる妖精がワラワラ出てきてちょっとびっくりした。カラフルで大変ピクミ……ごふん、本葉が歩いているみたいで可愛かった。
栞効果はこれ。
『召喚タイプ:攻撃 1/1
ぼくたちたたかう』
『なにこれかわいい』
『愛せる』
『たぶん1/1は攻撃力/生命力?』
『どっちがどっちかわからんけどたぶんそう』
ちなみに他の栞と同じく、光ったあとちょっと姿が見えて、本葉たちは消えてしまった。連れ歩くタイプではなかったようだ。ちょっと残念。
本葉たちは木属性だったので風のマナがもりもりしたはずだが、特に何か起きた感じはなく、何もわからなかった。マナとはいったい…?
それからペチカちゃんの妖精召喚に必要だった茨の輪も、無事解決した。
裁縫互助会の面々が唐突に『なかったら、作ればいい!』『それだ!』て叫んであっという間に栞の絵そっくりの造花リースが出来上がったのだ。さすがである。
はたしてこれがシステムに認められるのかは疑問だったが、無事突破し、召喚が成立した。アライアンスチャットは大変盛り上がった。
SSR(たぶん)だけあって、効果も破格。
『召喚タイプ:補助/魔 5/10
薔薇のおまじない:この妖精が存在する限り、味方に矢が届くことはない
花散らし:荒れ狂う風がすべてを吹き飛ばす マナを10消費』
『んんん?』
『敵にもよるけど『花散らし』は破格?』
『敵味方区別ない吹き飛ばしぞ? このカード自身が含まれるかどうかにもよるなこれ』
『普通は魔法カードなんよ』
『それな。あと吹き飛ばされたカード?が破棄されるかスタックに戻されるのかにもよる』
『吹き飛ばす、だから破棄じゃない?』
『補助カードのわりに殺意高い』
『マナには本葉ちゃんたちで苦労してなさそうだけど、これどうやって撃つの? ランダム?』
『ランダムはやべえだろ』
アライアンスが栞効果の憶測でワイワイしたが、結局なにもわからず。ぶっつけ本番困るよね!
それにしてもなかなかいいカード?だったみたいだし『ここで使っちゃって本当によかったのか?』とペチカちゃんは聞かれていたが、『私、カードゲームは七並べしかわかりません!』と言いきっていた。何故に七並べ…。
そんなわけで妖精召喚は無事達成!
残った栞は、泉、虹、それからトレードしたら別の形で戻ってきちゃった月の3枚だ。交換したらすぐ使える栞になるパターンも多かったけど、全部が全部うまくいくわけではなかったね。
もうちょっと時間はあるけど、さすがにこの3つはもう見つからないだろうし、トレードNPC探しも飽きてきちゃったな~、な頃合い。
『ポーター限定!直行便出します。力持ち歓迎@2』の看板を持っているプレイヤーを見つけた。
「にゃあ、直行便なんてあるにゃん?」
「うん? ああ、あれ、たぶん運送神の神官だね~」
「運送神の!」
マイナーと噂の運送神官か!
「たしかPTで大荷物を運ぶほど速度が出る神聖魔法があったはず。……猫ちゃん、興味ある感じ?」
「気になるにゃんね~、猫、もう出来そうなクエストが運搬くらいしかないし」
「大活躍だったわけだし、ゆっくりしてても問題ないと思うけどね~」
そうだろうか?
でも混雑してるからゆっくり回るって感じでもないしな~。
「下手に回って変なクエスト引っかけても困るにゃん」
「それはそう」
フーテンさんが真顔になる。待ってほしい、猫だってそんな歩けば棒に当たるみたいにイベント引き当てたりしてない! 犬じゃないんだから。
ただ好奇心が猫をにゃんにゃんしてしまうだけ…。にゃんにゃん。
「気になるけど違うPT入ったらアライアンス抜けることになっちゃうし、あきらめるにゃんよ~」
「や~、交渉次第じゃない?」
そういうとフーテンさんは看板を持ってるプレイヤーと話し始めた。一言、二言話すとプレイヤーが驚き、それからまた話して大きくうなずく。
『アライアンスお邪魔します!』
『ようこそようこそ』
『いらっしゃいにゃん~!』
『にゃん~』
『にゃん~!』
おお? アライアンスに引き込んじゃったのか。
なるほど、これなら猫は運送神官のPTに着いていくことが出来る。ありがたや~。
「ありがとうにゃん~!」
「どういたしましてにゃん~! 向こうとしても、こっちに中継点が出来るのは歓迎だったみたい。クラン関係ないアライアンス参加しないかって聞いたら即答だったよ。フリーのアライアンスってわりと需要あるからねえ」
そうだったのか。猫、全然知らずに人を誘ってたな。道理でたくさん来てくれるわけだ。
「こんにちは、初めまして」
「初めましてにゃん~!」
早速挨拶したPTリーダーの運送神官さんは、人族男性。神官っていうと人族が多いのはなんでだろうね? 別にゲームの設定上、特に制限はないけど人族が多数派。
青髪のおかっぱで糸目、細身なのでちょっと狐っぽい印象。服はカソックだった。首からかけているネックレスが運送神の聖印らしい。船のかたちをしている。
「この姿だと運送神官だとわかってもらいやすいんやで!」
見た目通り(?)の胡散臭いエセ関西弁である。たぶんそういうタイプのロールプレイ。
お名前はジェノンさん。猫が荷車屋台を持っていることを知ると「頼もしなぁ!」と喜んでくれた。
特急便とはいえそこそこ時間はかかるので、暗黒夜のレイドが先に始まってしまう可能性も高い。そのためフーテンさんとはここでお別れとなった。
「お付き合いありがとにゃん~!」
「こちらこそにゃん~! 気をつけてねえ」
「そっちもうっかり消えないように気をつけるにゃんよ~」
「猫ちゃんの俺に対する信頼無さすぎじゃない?」
「にゃふん」
だってフーテンさん、噂によると猫と同じくらい柔らかいみたいだから…。スキル構成って怖いね。
そんなわけで、猫は従魔をルイだけに減らし、ジェノンさんのPTに加入だ。猫を除くPTは3人で、それぞれ従魔を1体持ってるので2PTになる。
「PTはみ出ちゃうけど大丈夫にゃん?」
「人が6人以内であれば大丈夫やで」
運送神の神聖魔法はPT単位ではなくプレイヤー単位でかけるものらしい。なので人数で制限が決まっているようだ。多くの人数にかければかけるほど効果が加算されるが、LVがそこまで高くないので6人なんだそう。
従魔は対象に指定できず、プレイヤーに限られる。そしてプレイヤー1人につき従魔1体を含めるらしい。
現在PTは元々ジェノンさんのフレであるシメジさん(白馬連れ人族男性)、ヤマダーさん(葦毛の馬連れ獣人族女性、なお猫の獣人)。
シメジさんはタンク、ヤマダーさんは近接アタッカーかな? 移動メインなので完全なガチ戦闘装備じゃないけど戦闘も予想されるので街着ではない、邪魔にならない戦闘装備をしている。
…戦闘装備にもいろいろ段階があるんだな。
もうひとりはPT募集で入ってきた巨人族男性のモモチさん。従魔はドでかい雄牛。巨人族とPT組むのは初めてだなあ。ルイに乗っても見上げるほど大きい。
シメジさんも人族にしてはかなり大柄な方なんだけど(たぶんスキルかなにかで種族限界を越えてる身長だと思う)、それよりはるかに背が高い。
「モモチ、こわくない」
「にゃあ」
「モモチ、ねこ、食べない」
「ありがたいにゃんね~」
なるほどこちらもロールプレイヤー、理解。巨人族らしいいかつい体と顔で設定しているのもそういうプレイなのだろう。普段は優しくおっとり、戦闘になったらバーサーカーになるロールだろうか。そういうギャップのあるやつが猫は好き。しかしここであえてのヒーラーだとしてもそれはそれで推せる。
「輸送依頼は個別に受ければいいにゃん?」
「今回は空荷で向かって、大量の荷物をマーケットへ持ち込むクエストを受けてまんねん。もし自由都市への輸送依頼があるようやったら、自由に受けてもろてかまへんよ」
「猫は特に宛はないにゃん」
「モモチ、ない」
これだけ暗黒夜に向けて準備している街で、自由都市宛の輸送依頼を探すのはなかなか骨が折れると思う。時間も有限だしね。
「ほな出発しちゃいまひょか。確認してみたら、行きは空荷のせいか転移施設が使えるらしい。自由都市が拠点やったら、『リターン』で戻ってもろてもオッケーやで」
「了解にゃん~!」
みんな自由都市でセーブしてあるそうで、その場で『リターン』することに決まった。
普段なら珍しいなと思うところだが、魔道具マーケットの最寄り街は自由都市だ。暗黒夜になってからこっちへ来たなら、ホームは自由都市なのも納得である。
では、『リターン』!!
あれ?
「にゃん?」
「あー、はいはい、このパターンね」
「知ってた!」
「空荷なので転移出来ますの罠よ…」
「にゃあ」
「お、猫ちゃんは初めてなん? これ、輸送依頼ではあるあるなやつやで」
猫が来ているのは極彩色に七色がゆらめく変な空間。あれだ、マイルームの窓の外観を『何処でもない場所』に設定すると出てくるやべえ虹色空間。
まさかあれが次元の狭間とか、そういう感じの場所だったとは…。
なんだかそのままいると気持ち悪くなりそうな空間なんだが、どうしたら。
「落ち着いて動かずその場で30秒待つと転移するから、目ぇ閉じとったらええやで」
「にゃん!」
なるほど!
猫ひとりで来てたらウロウロ動き回っちゃっただろう。先人がいるのはありがたい。
そのまま言われたとおりに目を閉じて待っていると、フッと軽くなるような心地の後、風を感じる。
お?
薄目を開けて確認すると目の前にはガーゴイル。
……ガーゴイル!?
「うへえ、猛毒の森か?」
「っぽいなあ。ややこしいとこにきてもーた」
猛毒の森といえば、自由都市の北の方にある森だったっけ。魔道具マーケットに来るときは通らなきゃいけないのだが、猫は『地図作成』使って避けてきたやつ。
「転移失敗したにゃん??」
「座標がズレる事故って話らしいで。運搬依頼中に転移出来るっちゅーと、体感8割くらいの確率で事故んねん。まだ逆方向飛んだとかじゃないだけ優しい方やな」
逆方向に飛ぶこともあるとはなかなか厳しい仕様だな。そういえば運搬クエスト中の転移は罠って前に見たような。
それなら転移しなければいいとこだが、体感8割ってことは2割は成功する。微妙なところだ。でも猫も知ってても転移しちゃう派だな。なにせ『リターン』なら無料。そういうギャンブルはしがち。
評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。
今週もお疲れさまでした。
次回更新は12/30(月)です。
(私事はまだ片付いてないのですが、年内100万字達成のために駆け込みで更新しております)