31.ショートトリップ
旅に出ています。
行き先は魔道具マーケット、目的は属性銃。もう少し先でもいいかと思っていたけど、思い立ったが吉日、ロマン代も入って懐がホッカホカの今のうちに買うのも手だろう。
のんびりルイに乗って、荷車を引きつつまったりの旅路。久々の荷車には、魔道具マーケットへの荷物がぎっしり積んである。運搬クエストだ。
ついでに自由都市の特産品も少し、買ってきて積んでいる。
自由都市の特産品といえば魔道具!なわけだが、もちろんそれじゃない。さすがに高くて無理だったし、持っていく場所が魔道具マーケットでは余計なトラブルの元になるって話だった。クエストの香り、猫はスルーした。
ちなみに魔道具マーケット、「魔道具」と名がついているが、別に扱う主なアイテムが魔道具ってわけではないらしい。
そもそもこれは錬金術師が隆盛する以前、不思議な効果のあるアイテムをすべて「魔道具」と称していた頃の名残なんだそう。つまり「魔法の道具」の略。
昔から魔法にまつわる道具を扱う市場なのだとか。
そんなわけで荷は木材である。異界の影響を受けずにすくすくと育った木は魔道具マーケットでも高く売れるらしい。
雑貨店のおばあちゃんにアドバイスをもらいつつ、ちょっとお高めの木材を選んできた。
丸太1本とかはさすが高級木材だけあって予算では手が出なかったのだが、『リルバラン』『ミラキンス』などの端材でも高く売れる品を紹介してもらい、それをちょいちょいと買ってみた。
交易アイテムは当たれば大きいけど、外れると痛いものである。特に大都市から小都市へのアイテムは行き来が多いこともあってそこまで高額ではないというのが通説だ。
『リルバラン』『ミラキンス』はその点、木材ではなく香料として人気のあるアイテムらしく、『灰色琥珀』と合わせてオススメ、とのことだった。
香水がアクセサリー装備になるっていうんだから、香料だって価値の高いアイテムなんだろうね。なお猫にはなんかいい匂いということしかわからなかった。ほんわ~~。こういう匂い結構好きかも。
さて。
自由都市から魔道具マーケットは、同エリア内だけあって思ったほど遠くない。すごく近いわけでもないけども。
魔道具マーケットは推奨LV30、ソロなら33以上といったところだが、道を選べば安全にたどり着ける。ただしわりと細かい『測量』が必須。持っててよかった『地図作成』。
最近は無料キャンペーンの影響もあって、いかにLV25以下で遠くの街へ行けるか…という遊びが流行っているらしい。
転移施設を使えばいい話だが、それでは金がいくらあっても足りない。転移ポーションは便利だけど、主要3都市しか行けないしね。猛者はかなり頑張っているようだ。
この魔道具マーケットへの道も、そうした貧乏旅によって開拓された安全ルートだったりする。ありがたや~。
ラージやロニ、ルビーは荷車の中。レキはお出かけにいっている。
レトは猫の肩の上、ルイの上で読んでる猫の教本を覗き込んでいる。このスタイルも久しぶりだなあ。本、また買いにいきたい。くっ…。
買ってきた教本2冊、『スローワルツ』と『ファイアーヒール』を読み終わる頃には無事、予定地に到着した。『ウィンドスロー』はまた今度。
『スローワルツ』は時魔法、『カウント』で全体魔法を使うとき、その発動タイミングを操作する魔法だった。使わないよりも発動タイミングが緩慢に、つまり回数が少なくなる。これは回復魔法を使った場合、回復が減るというデメリットはもちろんあるけど、MP切れしにくくなりMP回復薬なしで長く続けられるというメリットもある。
ついでにワルツ音楽がかかってる場合、それに合わせることが可能になるそう。つまり曲調とリズムがある程度コントロールできる。楽士のスキルと相性がよさそう。
こういうタイミングをずらす魔法は他にもありそうだな。
『ファイアーヒール』は、以前見たままの魔法だった。炎を回復の力に変え、燃えている間回復するようにするヒール。『属性変更』という術式が入っていて面白かった。これは『生活魔法』にはよく組み込まれている式なんだよね。
燃えてる火を回復に変えるってとんでもないことだけど、「魔法とは魔力の属性を変え現象を起こすことである」とか説明されちゃうと、たしかにそれはそうかも?とか思ってしまう。そういうのも教本の面白いところだ。
マイナーなヒールだが、火の気のあるところ、特に火山帯などでは重宝する魔法。
ドゥーアは火山じゃないから、廃都エリア東の『石壁の街ボウフォル』を越えた先にあるという新しい辺境伯領の街とかだと便利なのかも??
その辺全然詳しくないけど、派手に渦巻いてるマグマ映像とか最近プロモーションで見たし、どこかにはあるのだろう。
道中何度か戦闘はあったけど、ラージでも問題なく受け止められる敵だったし、猫の攻撃力で対処出来たのでよかった。ラージのLVが上がったのもあるだろう。途中退場があったとはいえレイドBOSSと、BOSS戦闘(キャプテン・デビー)を経てきただけある。
なんと進化可能になってしまったので、2匹目って早いなあ! と驚いてしまった。猫のLVがルイの頃より上がってるってことだな。それに加えて種族的にジェリはLVがあがりやすく、最初の進化も早いって特徴があるせい。
さて、野営である。
魔道具マーケット前のGPS地点、『別れの川』前に到着したからだ。周囲には多くのプレイヤーがキャンプを作っている。
皆、ここで夜を待つのだ。
魔道具マーケットは元々、夜にしか開かない秘密の市場だった。それがだんだん規模が拡大してきて、昼夜を問わず開かれている市場の街へと成長した。
むかしむかし、はるかむかし、くらいに遡ると、妖精が開く市場だったんだとか、そういうやつ。今は人間の市場なんだけど、大昔の約束があって夜にしか行き来が出来ないのだそうだ。
なんでそんなことになってるのかというと、魔道具マーケット、異界にあるんだよね。つまりダンジョン。
一応安定した異界、ということになってるらしい。
最近の考察だと、マレビトダンジョンみたいなもんなんじゃないかと言われている。安全なダンジョンって、要は人間か妖精かは謎だけど管理者がいるんじゃないの?て話。
隠れ島もそうなんじゃないかって話が出てたっけな。あそこが治安の悪い島なのは、ダンジョンの利権を巡ってドンパチやってるからだとか、そもそもポーツからして闇の組織があるとか、なんとか。その辺のアウトローなバックストーリーとは猫は無関係でいたい。好きな人はそういうのたまらないんだろうけどさ。
閑話休題。
魔道具マーケットは異界にあり、昼間はなにもない場所に夜になると忽然と現れる。
このとき野営する場所は『別れの川』を渡ってはいけないので、東側で待つ必要がある。逆に川向こうへ進みたいなら、夜になる前に川を渡らないといけないそうな。
川向こうには別のダンジョンがあるんだって。
ちなみに転移施設で飛んだ場合に限り、街中へ直接転移する。しかし出入りは夜じゃないと出来ないので、転移施設を利用する以外では街から出られないんだそうだ。ややこしい街だね。
そんなわけで休憩だ。
野営といっても夜を越すわけではないので、猫には荷車があれば十分。そのまま止まった場所が休憩地点よ。
とはいえ、やはり進化は落ち着いた場所でしてあげたい。いったんマイルームへ戻ることに。
庭でラージと見つめ合う。ポンと音符が出るので好かれているようで嬉しい。
進化先チェック!
『アースジェリ』
『ミドルジェリ』
ふむ。
アースジェリは属性ジェリかな? たぶんロミコ入りの『転変の面』を装備しているから影響を受けている、ということだと思う。ロミコ、地属性っぽいし。
ミドルジェリは想定進化先だ。防御力が増す。タンクになるジェリの正統進化である。猫たちPTの場合、ルイに着いてこれる足の早さもラージには必要になるが、それもちゃんとクリアしている。よし!
一応調べてみたけど、アースジェリはやはり魔法系進化で、魔法を覚える代わりに柔くなっちゃうみたいだ。
ラージにはこれからもタンクをお願いしたい。ミドルジェリでお願いします!
装備をすべて外して、おやつに『串焼き』をあげ(ラージの好物である)、もにもにしてから、進化先にミドルジェリを選択。
虹色の光がラージの足元から沸き上がり、白く明滅したかと思うとキラキラとたくさんの星が降ってくる。そしてそれが積もっていき、新しいラージを作り上げていく。
最後にピカッと光ったら新生ラージの誕生だ。
ぷるんとしたツヤツヤの紫ボディがちょっとボリューミーになった。つまり大きくなった。
それ以外には特に変化無しかな?
これまで直径30cmほどの球体だったのが、直径50cmくらいになってしまったので、抱えるのは猫にはきつそうだ。しかし頼もしいぞ!
これからもよろしく、ラージ。
……『転変の面』をつけて猫耳尻尾バージョンにしたら、サイズの問題でかなり化け猫感が出るな。これもまたよし!
大きくなっても仲間たちは特に気にならないよう……と思ったらルビーは結構嫉妬してるようで、地団駄を踏んでいた。ルビーももうすぐ進化だよ~。早いよね、ほんと。
ラージはおやつで好物を見つけるのに時間がかかったけど、ルビーは最初から『ハッピー豆』一筋だったのでわかりやすかった。特に畑で取れる『ハッピー豆(生)』がお気に入りらしい。なので好感度は最大で進化準備は万端だ。
実はルイも2段階目の進化が見えてきているんだよね。ルイは魔物になってからはじめての進化なので、結構大きな変化がありそうでドキドキだ。小型の騎乗種でいてほしいが、あまりロバからかけはなれた生き物になるのも可哀想なので、進化先に恵まれることを祈っている。
新生ラージを連れてマイルームを出る。しばらく自由にどうぞ~と皆を放し飼い。
ルイは牧草を庭で食べてたはずだけど、まだ食べるようでモグモグしている。いっぱいお食べ。
ルビーとラージは寝る体勢。レトは広げておいた教本を眺めている。
目の前は川。
猫は釣りしちゃお。
久しぶりに『リバーフィッシュ』を釣った。川魚すごい久しぶりだ。(小)じゃないのが猫も釣れるようになった。成長を感じる。
ちょうどいい時間だったのか、ちょっと釣りを楽しんだ辺りで日が傾いてきた。その辺で集めてきた薪を組んで、焚き火を作る。
フィールドの夜にひとりなのは、例のメインストーリーの幽霊以来だな。あのときは偶然バグに当たっちゃったけど、今回は変なのはないよね?? 他にもプレイヤーたくさんいるもんね!
焚き火に当たって魚を焼きつつ夜が更けるのを待っていると、ポワン、ポワンと川に光が現れはじめた。
川の中心から同心円状に光の輪がポワン、と広がる。それが何度も繰り返されるにつれて、うっすらと橋の形が現れ始める。
夜闇に透ける霧の橋、とか呼ばれているらしいが、たしかにそんな感じの白く半透明な、なんだか頼りない橋だ。
橋の登場を待っていたプレイヤーたちがワイワイ話しながら霧の橋を渡っていく。橋を向こう側から渡ってくる人たちもいる。プレイヤーもいればNPCもいて、ときどき霧で出来たような不定形の人影もいる。
異界の扉ではないまでも、似たようなものってことで、ちょっと混ざりあったりする交差点のような場所らしい。
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次回更新は11/22(金)です