30.精霊使いの近況
白月夜はポーツの浜辺で、以前のように月を見た。
今回は一人じゃなくてまるで花火大会みたいな人出の中での精霊鑑賞だったんだけど、それはそれで趣のあるものだった。精霊が現れ始めたときとかどよめきがすごくて面白かった。
ロニは月光を浴びてキラキラした後、パーッと光りだした。ロニが膨れてきて住処が破裂しそう、と見えたのであわてて『固定』『昇華』を選択。どうやら合っていたらしく、ロニは一回り大きな玉になり、心なしか手足?のようなもののある精霊になった。よくある、顔に手足がついてるあの感じ。
そんなロニの新しい住処。
雑貨屋のおばあさんのアドバイス通りラウンド(丸)は避けることにして、オーバル(楕円)の『宝硝子』を用意してみた。
もちろんこれにも入ってくれたんだけど、オーバルといえばもうひとつあったな、とサッサさんから預かった『思いの心』を見せてみると、これをロニがばっちり気に入ってくれた。入ったらほとんど出てこなくなっちゃったのだ。
まだ装備品に出来ていないので効果不明だが、ロニから音符マークが出たので、いい住み処のようで嬉しい。
早速、人形連合にそのことを伝えると、後日、運送ギルド便で真っ白な毛玉のぬいぐるみが送られてきた。これも試作品だという。
にゃん?
『パンパカパーーン! 精霊が人形に入る準備が出来た1号おめでとうございます! 賞品として『モフモフポメラニアンのぬいぐるみ』をお送りします! これであなたもブレーメン! ハッピー!』
ショーユラさんだった。
なるほど、この毛玉はポメラニアンだったのか。よく見……ても毛玉だけど触ってみると耳とかある。な、なるほど??
ぬいぐるみの方は木製人形と違い、背中から石を入れて、リボンをちょうちょ結びして閉じるだけでいいみたい。
早速試してみると、猫がちょうちょ結びをしたあとにキラキラと光のリボンがぬいぐるみの背中から生えて、ひとえつぎ結びをして、鎖結びをした。更にもう一度光のリボンがちょうちょ結びされて、ふわりとかき消える。
どきどきしつつ見守っていると、プルプルとポメラニアンぬいぐるみがふるえはじめる。
ふるえて……ふるえ……めっちゃふるえてるな!?
だ、大丈夫かな???
しばらく見守っていると、ポコンとハートマークが出たので気に入ったらしい。ふるえてるけど…。
『契約した精霊が人形の体へ入りました。スキル『人形使役』が必要です。SP10を使用してスキルを取得しますか?』
来たな、SP追い剥ぎ! お久しぶりです!
ショーユラさんが何も言ってなかったところをみるとたぶん『精霊使役』と同じく返ってくる……と猫は信じるぞ。
「はい」
『おめでとうございます。初めて『精霊傀儡』を入手しました。SP10とプレゼントボックスを入手しました』
イエス!!
しかし『精霊傀儡』って響きがなんだか物騒。呪術的というか。
『精霊傀儡』はどちらかというと『使役』の従魔より『召喚』の召喚獣に近い存在らしく、PT枠は消費しなかった。装備品はアクセサリー3枠に、武器1枠、そこはみんなといっしょ。
召喚コストのMPも不要だが、精霊の同化率が低いとそもそも活動できないらしい。ロニがふるえるだけなのも同化率が低いからだね。なんと5%。気長に行くしかないみたいよ。
ロニは、ステータス上でも『精霊傀儡』と表示されるようになり、HPも存在するようになった。人形の耐久に影響されるみたい。
人形のためポーションでは回復できないが回復魔法では回復できる。『従魔法』の範囲内。よかった。まあこんなふるえる毛玉を戦わせるつもりはまったくないが。
精霊だけあってMPは高く、そしてなぜか『トランスファー』だけ使える。まさかの外付け魔力装置…!
たしかにロニの『五光のブローチ』のMP増強分消えちゃったからありがたいけど!
そんなわけで猫の仲間にふるえる毛玉が加入した。ブルブルブル。そのうち慣れたら自力でもっと動けるようになるのかもしれない。
やっぱりいきなり体が与えられても、そうそう動けるもんじゃないだろうし。ロニはまだ手足?も小さかったしね。
ちなみにショーユラさんちの精霊傀儡ストルミさんは、元はルイネアで人だったからか、特に身動きに不自由することはなかったらしい。同化率も最初から50%と高かったんだって。
『まあアレはイベントでしたしね、例外と思っていいと思います。最初はふるえるだけしか出来ないというのは意外なデータでしたね!』
『ロニは光の玉にちっちゃい手足が生えるくらいの精霊だったからかもしれないにゃん~。たとえば猫には他に海蛇型と、オオサンショウウオ型の精霊がいるんだけど、かれらなら同型のぬいぐるみですぐ動けたかもしれないにゃん?』
『海蛇とオオサンショウウオのぬいぐるみはさすがに作ったことないですね!? でもたしかに、元の精霊の形と合致してるかどうかっていうのも同化率に影響しそうですねえ。……てことはロニさんは今後、犬型精霊に成長してしまう可能性も?』
『あると思うにゃん~、でもそれで問題ないにゃ。ぬいぐるみありがとうにゃん~!』
『どういたしましてにゃん~! また何か変わったことがあったら教えてくださいねえ!』
ロニに関してはそんな感じだ。
一応、「月明精霊は月夜を一周して最初の月夜の月光を浴びると同化率100%になり、昇華が必要になる」という話は知り合いの精霊使いには伝達しておいた。つまりペチカちゃんと、フーテンさん一行。硝子連合、裁縫師互助会にはショーユラさんから人形連合へ伝わるし、そこから伝達されるはず。誰かがそのうちいい時期に掲示板にも流してくれるだろう。
猫もそろそろ読み専じゃなくならなければと思いつつ。錬金術師の制限スレ待ちかな~。
マイルームの庭にロニを放つと、毛玉のお座りのままぷるぷるとふるえている。ちょっと心配になるところだが、ハートマークや音符がポコ、ポコと控えめに出るので、ロニなりにそれで嬉しいようだ。好感度も前のように薄くなくて、ちゃんとしっかり青くなっている。
個性というか、自我が生まれてきてるということかもしれない。今後が楽しみだ。
そのうち庭を駆け回るようになるといい。
庭といえば大根――もとい、白ラコラたちがロニを心配して?なのか、やたらと群がるのが気になっている。ロニも嫌がってなさそうだし、食べようとか養分にしようとかいう話ではなさそうなので放っておいてるけど。
白ラコラたちが近寄らないのはラージだ。ラージはたまに白ラコラ食べてる疑惑がある。嫌われ方が異常だもの。
…まあ、猫が食べてもいいよって言ったからなのでちょっと罪悪感があります。でも食べていいよって言ったのは「庭にあるものはなんでも食べていいよ」であり、ラコラを狙ったわけじゃないんだよ……。いやたぶん猫のせい。ごめん。
ルビーも白ラコラとはたまにバトルしている。何も言ってないけど菜っ葉かじってるから仕方ない。白ラコラよりルビーのが早いので、からかってる?ような雰囲気だ。控えめにね。
その点レトは白ラコラたちとも仲がいい。やはり食べないからだろうか…。レトは赤ラコラからしてそんなに好きじゃないみたいなので、野菜の趣味の問題な気もしないでもない。
ルイ? ルイはおおらかで優しいから、白ラコラを尊重してあげるいい子だよ。牧草と自分用のキャロしか食べないし。……無関心なだけな気もたまにするけど、まあおっとりしてることは間違いない。
でも一度畑のキャロを白ラコラが連れ去ろうとしたらしくて、そのときはめちゃくちゃ怒ってた。野菜泥棒(誘拐?)には容赦しないところ推せる。
そういえば緑ラコラがついに歌ってしまった。
なかなか美声だし気がつくとコーラスしてるので困惑する。しかしちゃんと土に植わってるので、白ラコラよりはマシだ。
問題はお約束のように引き抜くと悲鳴を上げるので、花咲かせてからじゃないと収穫出来なくなったこと。
一応、ダンジョン産の緑ラコラの刈り方はある。最初に土の上に出てる葉っぱをむんずと掴んで刈り取り、あとから土の中のを掘るのだ。
でも葉を掴んだ段階ですごい呻き声上げるので大変気持ち悪い。『美声のど飴』の材料だから刈るけど、NPC農家さんが育てない理由がよくわかった。
畑に植えずプランター菜園だからまだなんとかなってるけど、畑に植えたらすごい邪魔になりそう。絶対に白ラコラと組み合わせちゃいけないやつだ。気をつけねば。
『種用ポット』にいれたサボテンこと『竜果の種』はあれからまったく動きがない。枯れてないし、腐ってるわけでもないからいいけど。根気がいるやつかもしれない。『タイムパス』したくてウズウズするけど、種が3つ出来るまでは我慢。
羽根の発注と泥玉の『変成』もしてるので今、釜に空きがないのである。新しい釜……いや、気の迷いよ。置場所なくなるし!
種といえばもうひとつあった。
覚えてるだろうか、『魔力の木の実』。そう、ちょっと前にセンジさんからもらったやつ。
通常品質をひとつと、最低品質をふたつもらってた。通常品質は普通にレトにあげて魔力があがったんだけど、最低品質については好感度が下がるらしいから迷っていた。
不味いらしいと話して食べるか聞いたら、レトは食べたいと言うので食べさせた。
昏倒しましたね!
びっくりした。まさかそこまで不味いとは…! これは本人が望んでも好感度下がるのわかる。
しかもその後、数日に渡ってたまにオエッてなってたので気の毒なことをしてしまった。
そんなの見ちゃうとさすがに食べさせるわけにはいかなくなってしまってな……。
このまま不良在庫として持っておくか、いっそ種として扱うか。
『錬金術』で『変成』の素材にすれば、ワンチャン効果が別のものに移るのでは?とも考えた。
しかし「好感度は下がるけど魔力は上がる」のは、不要アイテムかっていうとかなり微妙なところだ。なぜなら好感度減少は永続ではなく、取り戻せる。
なら『錬金術』に適した素材とはいえないんじゃないかなあ。
悩んで結局、植えてみることにした。猫は農家でもあるもんで。
事前に調べたところによると、やはり『魔力の木の実』などステータスアップ系木の実を育てようとした人は既にいる。
そして実はならないけど苗木にはなるらしい。『園芸』『育樹』持ちで苗木止まりだって。まあそううまい話はないね。
猫はまだ『育樹』は持ってないので苗木になるかもあやしいが、試すだけは試してみようかと。
『グロウシード』をかけたらそうかからず芽も出たので、しばらく竜果と一緒に見守るつもりだ。
竜果も、果物がなるなら「木」扱いの可能性が高く、そのうち『育樹』も取ってしまう気がする。猫ったらとっても農家。
え? 『金炎の種』?
ずっと光ってるし下手に植えるのもな、と思ってインベントリに眠らせている。手を出すのは『竜果』が片づいてからかな。釜も埋まってるしね。
『錬金釜』といえば『海大鳥の糞』の圧縮結果は『花の咲く肥料』だった。
…こういうのでいいんだよ! 大歓迎。
次に『ヒールミニトマト』を植えるときにでもいれよう。『竜果』が育ってきたらそっちへいれてもいいかもしれない。
ううん、もっと取ってくればよかったなあ!
そんな感じで、しばらくはまったり過ごしている。でもそろそろ、また旅もしたくなってきた。
魔道具マーケットへ行きたいのだ。
次回より魔道具マーケット編が始まります。
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今週も月水金に猫をお届け!
次回更新日は11/20(水)です