29.新しい鞄と失敗露店
待ってる間に露店に並べられている商品を見る。
手袋やブーツ、小袋に、小さな水晶石を嵌め込んだ腕輪、革紐などが並べられている。鎧とかはないから、LVがそこまで高くないか、あるいは装飾工とかの方へ進んでるんかな?
しかし自由都市でこの手の生産露店を見るのは珍しいような。
「アルテザから出張してるにゃん?」
「ん? いや、僕は最近『交易』取った。イレギュラーが貯まってきちゃって、知り合いの商人に頼むのも申し訳なくなったから」
「生産商人さんは自由都市では珍しいにゃんね~」
「アルテザ以外だと勧誘すごいって聞くね。僕は革装飾工だから、そこまででもない」
やはり革の装飾工さんか。
革工は、革鎧など防具類がいちばん需要が高く、次が弓や投擲系の武器と聞く。なのでそれ以外を専門に作る人というのは、なかなか珍しい。
「鞄とかも作れるにゃ?」
「作れるよ。いるの?」
「妖精用の鞄を探してるにゃん~」
「サイズは?」
「小型にゃ」
「採集型?」
「そうにゃん!」
ポンポンと小気味よく返事があって、すぐに台の上の商品が入れ替わる。おお!
「とりあえず3つね。リュックは『探索者のリュック』を小型妖精用に型紙修正したやつ。イレギュラーだから名称は『小さな探索者の丈夫なリュック』になってるけど、耐久値がちょっと増えてるだけ。正規品じゃないから少し安い」
人間用の『探索者のリュック』を小型種族に装備させると縮小率に応じて修正が入るため、積載量は1/6ほどになってしまう。しかし元からサイズを合わせて製作されたアイテムは縮小率がかからない。
もちろん小さく作られている分、積載量は目減りする。しかし『小さな探索者の丈夫なリュック』は、『探索者のリュック』の半分ほどの積載量だという。つまり妖精に装備させると積載量が通常の3倍!
他の2つは『みちみち郵便鞄』と『ぎっしりコレクターズバッグ』だ。
『コレクターズバッグ』はアイテムの重量ではなく種類で入る特殊なバッグで、どんなに重いものでも気にせず入れられるという特徴がある。その代わり品目数は5と少ない。
しかし品目を選びさえすれば強力なアイテムとなる。たとえば『ルイネの林檎』(重い)と『テント』(ダンジョン内セーフティーエリアでも『ぐっすりバフ』が入るアイテム/重い)と『巨岩』(読んで字のごとく/とても重い)とかね。
んあ~~、全部欲しい!
「採集型なら小型から成長することはないから、ちょっと奮発していい鞄を買っておいた方がいい」
「にゃあ~、『小さな探索者の丈夫なリュック』買うにゃん」
「まいど」
あと悩むのは『みちみち郵便鞄』だ。ルビーの鞄も新調してあげたい。んむむ……いや、よく考えたら『漬物石』1個でお釣がくる価格だな。買っちゃえ。
「こっちの『みちみち郵便鞄』も買うにゃん」
「これは積載量を限界まで大きくしようと思ったらイレギュラーアイテムで、中身が空でも見た目がミチミチになっちゃうけど大丈夫?」
「いつでも限界まで詰め込んでるからミチミチで問題ないにゃん」
ルビーは『採取』持ちだからか、隙あらばなにかしら拾ってるからな。
早速飛んでるルビーを呼び寄せて装着。鞄装備を鞄装備に取り替えるときは中身が自動で移動してくれる、なかなかありがたい機能。
「空飛ぶ絨毯か! 従魔に使わせるとは贅沢だな」
「試作品でお安かったにゃんよ~。人間用より一回り小さいにゃん」
「絨毯にもイレギュラー品があるんだな」
趣味の絨毯職人だったショーユラさんは、絨毯人気が出てくる前にレシピ登録して売り抜けたらしいから、絨毯のイレギュラーってたしかに少ないのかも。
本人は「無駄に消費される素材がもったいなくて許せなかったんですぅー!」とか言ってたけど大商人は「うまく逃げたよね~」と笑ってた。ショーユラさん、売れるアイテムを作るのが嫌いらしいからな…。そのわりに売れるアイテムばかり作れるという矛盾があるんだが。
あの人、元々は防具系裁縫師だからね。
「はい、出来た。ちゃんと『妖精ブーツ』で仕上がったよ」
「ありがとうにゃん~!」
ブーツの修理も完了。店主はほっとした顔をしていた。変なもの頼んでごめんよ。
「ほんとに3000zでいいにゃん?」
「くどい」
「にゃん~~」
支払い絶対足りてない気がしてむずがゆい。
「買取はしてないにゃ?」
「んん? 何か売りたい革でもある?」
「革はないにゃん。必要なものがあるなら売ろうと思ったけどないならいいにゃん~」
「必要なものねぇ」
小人族の店主はちょっと首をかしげて、うん、とうなずいた。
「強いていえば『水晶石』かな。妖精も食べるし生産にも使うし、そのわりにあんまりマケボに売ってないし」
「普通の『水晶石』でいいにゃ?」
「うん。でもそっちも妖精持ちなら余らないんじゃない?」
『水晶石』はどこにでも落ちていて採取の容易なアイテムだが、さまざまな需要があるため、実はマケボで売ると結構高く売れる。
その利用方法のひとつが、召喚獣や妖精だ。『水晶石』好きなんだよね。うちはレトもレキも『ビー玉』の方が好きだけど、『水晶石』を要求されることが多いんだって。
レトはたまに水場の『水晶石』を眺めてうっとりしてるから、ああいう透明なものがキラキラしてるのが好きなんだろう。『ジュエル』も好きだしね。
「うちは『水晶石』はあまり欲しがらないにゃんよ~」
「ふうん? 妖精にも個性があるんだね」
10個でいい、というので10個をNPC売却額に色をつけて売る。マケボ価格で構わんて言われたけど、修繕費分の補填なんだからそういうわけにはいかない。押し売りになってしまう。
猫は『採取』好きなので採取スポットは必ず採取してるし、猫以外にレトやルビーも拾っている。供給の割に水場へ敷き詰めているだけだから、全然減らないんだよね。いや、『属性水晶』になってるから『水晶石』は減ってるか。
「まいど」
「いい取引をありがとうにゃん~!」
革職人さんと別れてどんぶらこ。ちょうどよく空いた場所があったので露店を立てる。
にゃん!
本日2回目の猫の店、開店にゃん!
しかも2回とも石の店という。今回はGPS送信は無し。さっきしたから、あんまりするのもね。
しかし中身入りの岩っておいくらで売ればいいかわからない…。マケボでは売ってないからな。まあ5000zでいいか。なにせ猫には無用の長物。
しかし失敗した。
さっき『漬物石』売ってたからか、「これは漬物石か?」と何度も聞かれることになり参ってしまった。
黒板に「漬物石は売り切れです」て書いたけど聞かれる! もー!
どこで入手したかについてはちゃんとポーツの小さな島と教えてあげる猫ったらえらい。
「んぉ、誰かと思ったら猫か」
「にゃ、ボンさんいらっしゃいにゃん~」
ボンさんは黒髪壮年の冒険者風男性アバター、ワイバーンの巣で托卵について教えてくれたプレイヤーだ。メールはしたけど会うのは2度目。
マップで誰かフレが露店出してると気づいてやってきたらしい。
「漬物石なんて売ってたんか。ちょっと来るのが遅かったな」
「ボンさんも料理人にゃ?」
「趣味でな。んでこの石はなんなん?」
「中身入りにゃん。こっちが宝石で、こっちは金属」
「岩石ガチャ……にしてはえらい安いな?」
「にゃん?」
「俺は猫が『真贋』持ちなの知ってるからわかるけど、この売り方だと詐偽だと思われて売れんよ」
「にゃん!!?」
詐偽じゃないですけど!?
詳しく聞いてみると、『岩石』はスキルがなくても、というか普通に『採掘』で砕けるのだという。
………盲点!!
そして中身入りなことはわかってるけど割ってない『岩石』を売るのは岩石ガチャと呼ばれるんだけど、宝石入りなら宝石の最低価格である3万を基準に、金属でも5万程度で売るのが普通なようだ。
猫のように5000zで売ってると怪しすぎて売れないというわけだ。
なるほど理解!
「反省にゃん~~」
「まあ自分で割るにも『採掘』LVによっては失敗するから、露店で売るのは間違いじゃないけどな。宝石の1個買うわ」
「まいどありにゃん!」
「値上げしないんか?」
「教えてもらったお礼に1個はこの値段で構わないにゃんよ~」
「儲けたわ」
「ありがとうにゃん~」
ついでに自信がないときは手数料はかかるけど冒険者ギルドで砕いてもらうことも出来るんだって。お金がかかるけどね。
ボンさんが去ってからちょっと悩んで、露店を閉店。
この『岩石』は自分で割ってみることにします。くぅ!
露店通りをどんぶらこっこと出たら端へ寄ってマイルームへ帰還。
早速庭で『岩石』にツルハシを振ってみる。あっ、なかなか当たらない! これ1個失敗したら次はギルド行かねば。
と思ったらちゃんと割れた。パカッと割れた岩石の中から出てきたのは『クリソベリル』、続けて割ってみた『岩石』からは『アイオライト』が出てきた。
うわー、本当にちゃんとした宝石っぽいのが出る! しかも結構大粒。
なるほど、たしかにこれは5000zで売ったらダメなやつだ。猫の値付けがへたくそ問題。
もうひとつ、金属が出るという『岩石』はなかなか割れなくて、何度もツルハシを当てているうちに、ぺろりとまるで皮が向けるようにして『岩石』より一回り小さい金属が出てきた。そ、そういう仕様!?
出てきたのは『鉄鉱石』だったのでまあ普通。ドゥーアでよく出る。普通に考えて鉄鉱石が出てくるのはおかしいけど、そこはゲームだ。
それにしてもこれも結構、しっかりした大きさのが出てくるもんだな。ちょっと楽しい。
『鉄鉱石』になってしまえば売るのはマケボで十分なので、早速値段を調べて出品。
宝石の方は、召喚獣のごほうびやら進化やら、精霊用やらいろいろ必要になったりするから、今は売らずに取っておく。今のところまだ使う宛はないんだけども。
前のように鞄に放り込みっぱなしにするとイベントで取られたりしそうだが、前回も一応「『ダイアモンド』持ち歩いてるとイベントがありますよ」ていう警告はあったんだよね。猫が調べず突っ込んだのがダメだっただけで。
だから今後は気を付けるとして、やはり鞄のなかに入れっぱなしということに…。だって『運搬』のLV上げしたいにゃん。
ボン→3章44話、68話
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次回更新は11/18(月)です。