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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
4章 成金猫はごろごろしたい
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25.錬金術師の後輩ちゃん

 魔女帽子に黒髪の魔子族ちゃんは『漬物石』に気づいて飛び込んできたらしい。


「そうにゃんよ~、アトノ島へ行ったにゃん?」

「青月夜はそっちで過ごしたの。これって…、その、精霊の住処に、なる?」


 こそこそと潜めた声で聞いてくるのは、ネタバレに配慮ってやつだろうか。たぶん、この子は『漬物石』と樽があれば精霊で味噌醤油が作れるって話までは辿り着いているんだろう。

 そういえば料理人スレはまだ見てなかったな。そっちではもう出てる話だろうか?


「たぶんなるにゃんよ~、でも大きい『漬物石』はちょっと大きい子じゃないと合わないみたいにゃん」

「そうなの!?」

「料理人さんにゃん?」

「うん。よくポーツに通ってるの。和食が好きで…、だから『漬物石』欲しかったんだけど、どこにも見当たらなくて。ポーツで聞いても自分で取ってくるもんだ、としか教えてくれないし、ドゥーアで『岩石』掘ってきても精霊は入ってくれないし…!」


 ポーツ産の『岩石』じゃないと『漬物石』にはならないとかかな?


「これは幽霊船クエストで漂流した先の小さな島で手に入れたにゃん~」

「そっ、…そんなこと聞いちゃっていいの!?」


 キョロキョロしてるのがちょっと面白い。この感じだとやはり料理人スレで祭になってそう。読んでおけばよかったな。


「にゃん~、販売はしない自分用だけでいいなら、こっちの『清潔な石ころ』がオススメにゃん。試してみるにゃん?」

「是非! ……てなにこの価格!? 安すぎじゃない!?」


 え? 5000zだよ?

 『クリーン』かけて洗っただけの『石ころ』にこんな値段つけてええんやろかと思いつつ値付けしたんだけども。

 大商人には「相場はほどほどに落ち着くだろうけど、今はまだ全然強気価格でいいと思うよ~」て言われたので結構強気に設定したつもり。なにせ元は1z、5000倍よ。


「にゃん~、猫の精霊は違う石に入っちゃったから、本当に作れるかはわからないにゃんよ。あ、でも『清潔な石ころ』がオススメなのは知り合いのNPC料理人に聞いたから間違いないはずにゃん~」

「話を信用してないわけじゃないわ! ただ、こんな価格じゃ買い占められちゃうんじゃないかって思って…」


 言いつつまたキョロキョロするので、ちょっとリスみたいで面白い。


「にゃふん、ただの『石ころ』に大袈裟にゃん~」


 実際遠目には岩と石が並んでるだけなのに、よくこの子は飛び込んできたなと感心する。それだけ『漬物石』を求めていたんだろうな。

 ピロンと電子音が鳴る。おっと、メールだ。ヤマビコさんから?


『『漬物石』アホみたいに値上がってんねんで。今ならなんと30万!(俺は売らんけど)』


 なんですと!?

 ヤマビコさんには隠れ島まで連れていってくれたお礼にと、『漬物石』と『清潔な石ころ』を渡している。

 猫は8000zで出してた『漬物石』をそっと下げた。


『あ、今すぐ使えるって意味では『清潔な石ころ』のがたこなるかもしれん』


 ……。

 猫は目の前の魔子族の少女と見つめあった。

 はい、ドン!


「値上がりした!?」

「今だけのご奉仕価格にゃん~!」


 『清潔な石ころ』は15万z、『漬物石』は25万z(露店価格)に価格改訂!

 売れ残ってもそれはそれで困るのでだいぶ日和っているが、高値で売れるとわかりきっているものを安値で売るのも商人の名が廃る。


「お姉さんの進言で猫は目が覚めたにゃん…」

「くっ、余計なことを言ってしまった…!? で、でもこのくらいが適正価格だと思うわ…!」


 悔しそうにしつつもうなずいてくれる魔子族ちゃん、実はすごくいい人なのでは。


「冗談にゃん~、お姉さんには1個5000zで売るにゃん」

「駄目よ!つけた価格に自信を持たなきゃ!」

「でもお姉さん、初心者さんにゃん?」

「うっ」


 そう、魔子族ということは第三エディション発売後の新規キャラ。第三出身者が全員初心者なわけではもちろんないけど、装備からしてこの子、猫よりLVが低そうなのだ。その辺は装備の雰囲気でなんとなくわかる。

 魔女帽子は中級までお世話になる装備なのでこれだけで判断はつかないが、足元が『影走りの長靴』なんだもん。魔法師であろう魔子族が影走り装備ってことは、『亜妖精ブーツ』がまだ履けないLVなんだろう、と憶測できるわけだ。ちなみに『亜妖精ブーツ』は魔力上昇値が破格の、中級魔法師の必須装備というやつである。なお装備可能LVは27とか、そんな感じだったはず。


 たぶんアニバーサリー無料キャンペーンから来ていて、『学園都市装備セット』などの特典なしプレイ中なんじゃなかろうか。

 無料キャンペーンでプレイする人が市場マケボから装備を選ぼうとすると、ちょっと前にどわっと流行って市場を賑わせた初心者装備変換シリーズの、お古で売られることの多い卒業アイテムが主体になるんだとか。

 『錬金術』取って初心者装備買い占めて自作する人もチラホラいたみたいだけど、スレはまた閑古鳥になったのでその後はわからない。


 閑話休題、猫だって後輩初心者ちゃんからむしりとるほどお金に困っているわけではないのだ。

 魔子族ちゃんは『清潔な石ころ』を1つお買い上げ。もちろん5000zで売りました。

 早速彼女の首元からぽわんと光の玉が現れて、『清潔な石ころ』へ吸い込まれていく。


「気に入ったみたいにゃんね~」

「……これってやっぱり、1体の精霊につき味噌か醤油のどちらかなのかしら…」

「その辺は猫も詳しく知らないにゃん」


 言われてみればたしかに?? どちらかなのかなあ。その場合、アトノ島の運送神経由だったら月明精霊のお代わりが可能なんだろうか?

 この利用法に限り~みたいな特例的に??

 いや、あのときあったNPC料理人さんはでっかい『漬物石』2個持ってたから、たぶん事前クエストをアレコレこなしておいて、最初から『漬物石』サイズの精霊を2匹同時にもらう、というのがベストルートなんじゃなかろうか。

 そもそもアトノ島でも金月夜だったわけで、もしかしたら別の調味料なんて可能性もある……? いやそんなばかな。


「ううっ、再挑戦するとなると次の青月夜に幽霊船に行って、次でアトノ島…!」

「幽霊船の適正LVは40にゃん」

「ウワーッ」


 クラーケンとキャプテンデビーがそのくらいだからね。猫も足りてませんでした。


「ううう、どっちかならやっぱり醤油かな…またポーツで聞いてこなくちゃ」

転移施設ポータルポートにゃん? お金がいくらあっても足りないにゃん~」

「大丈夫、転移ポーションよ!」

「にゃあ、本当の初心者ちゃんにゃん!」


 懐かしの初心者転移ポーション!

 猫が驚くと、魔子族ちゃんはフフン、といいたげに胸を張った。いわく、お使いクエストを一切せずにウロウロしてるそうだ。

 なるほど、無料キャンペーンはたしかLV25になると課金だからな…。いやいや、じっくり楽しみたいタイプなのかもしれない。


「あたし、錬金術師でもあるのよ。だから今のうちに元を取っておかないと」

「元??」

「『錬金術』って、今のところ初心者シリーズを『圧縮』するくらいしかいいとこないじゃない? わざわざスキル取った分、初心者のうちに還元しておかないともったいないもの」

「にゃん…!」


 『錬金術』って今そんなふうに言われてるの!? 初心者スレとかの情報だろうか。それはちょっと衝撃的かもしれない。

 いやいや、そんなのあまりにも先のないスキルじゃん。これもすべてROM金術師たちのせい!


「『錬金術』は、精霊使いとシナジーのあるスキルにゃんよ~」

「えっ!?」


 猫がバルトロさんから聞いた、錬金術の目指すところは精霊石を人工的に作ることだ、という一説の話と、あと『人形遣い』という遺失ジョブ(スキル?)にまつわる前段階には『錬金術』が関わる部分がある話などをすると魔子族ちゃんは目を輝かせた。


「えー!すごい、『錬金術』って不要品ゴミを変換するだけのスキルじゃないのね!」

「いや、不要品ゴミを変換するだけのスキルにゃん」


 徹頭徹尾そこはそう。

 不要じゃない品を使うとすぐひねくれるやつだよ。猫もそれなりに失敗しているのだ。


「初心者シリーズもオススメだけど、飽きたら生産失敗品なんかを狙ってみるといいにゃんよ~」

「生産失敗品……、『黒コゲ』とか?」


 『黒コゲ』は料理の失敗品、いわゆるダークマターである。猫は幸いにして作ったことがない。たぶんラーニング手袋を使って『料理』を覚えたせいだろう。本来ならラーニング中に量産されてたんじゃないかな。


「そういうやつにゃん。わりと持て余してたりするから、買い取ると喜ばれたりもするにゃ」

「猫さん詳しいわね。もしかして…?」

「猫も錬金術師にゃん~!」

「ほんと!? 初心者じゃない錬金術師って初めて会ったわ!」


 猫は逆に初心者の錬金術師に初めて会った。もしかして初心者シリーズ変換のおかげで増えているのかな? 猫の露店って売り物のせいか初心者ちゃんとはあまり縁がないのである。商人として初心者支援をするにはまだまだ早いしね。

 いろいろアドバイスしたいところだけど、猫も錬金術師の正道を歩いているとは言いがたい。変な助言をして余計な回り道をさせるのも気が引ける。

 それにこの魔子族ちゃんは初心者potから転移potを作れている、つまり生活魔法は覚えてるってことで、特に助言することもないような?

 あ、そうだ。


「錬成陣はもう買ったにゃん?」

「まだよ。だって錬成陣、すごく高いんだもの!」

「まずは『真円錬成陣』を買うのがオススメにゃん~」

「ええ? でもアレ、大したものが作れないって見たわよ?」

「『真円錬成陣』でも魔法玉は作れるにゃんよ~、猫は真円しかまだ持ってないにゃん」

「そうなの!?」


 そうなんです。

 菱形と星型も買わねばと思いつつ、買えてない。あれ、やたらと大きいから工房部屋を用意するまで下手に手を出せない領域でな…。


「『真円錬成陣』の真価はギルドの書庫にあるにゃん。買ったら調べてみるといいにゃん~」

「ギルドの書庫ね…、わかったわ!」


 秘密の書庫は見つけるだけでSPが手に入るし、不思議なイベントもあるし、もちろん本も読める。『魔道工』の前提行動でもあるし、『真円錬成陣』が無駄になったとしても元は取れるだろう。

 にゃふん、これはいいアドバイスなんじゃない?


「ありがとう! 『貝殻』、今はそんなに持ってないけどまたポーツでたくさん取ってくるわね」

「にゃあ、圧縮用アイテムだから売らずにLV上げに使うといいにゃんよ~」

「あたしの釜は初心者圧縮で忙しいからいいのよ!」


 景気よく30個ほどの『貝殻』を売ってくれた。30個拾うの結構大変だったんじゃないかな!?

 猫は暇なときに自由都市で露店をしており、希望者には開店お知らせメールをしてることを伝えると「あたしも欲しい!」とのことだったのでフレ登録。そしてこの後はポーツへ行って、醤油の作り方を聞いてくるそうで、スキップで去っていった。魔子族のスキップ、めちゃくちゃ独特…!


 その後は『漬物石』が25万で無言即売して真顔になったり、売れ残ったら魔子族ちゃんに押し付ければいいか~とそっと30万に値上げした『清潔な石ころ』も無言で売れて更に真顔になったりしつつ露店を終えた。

 料理人の本気こわ……。

 しかしおかげで猫の懐はホカホカになった。やったぜ。臨時収入はよいもの。


 セルバンテスさんはまだ戻ってきてないようで受け渡しは出来なかったので、ポーツ宛にまた羽根を送っておかないとな。次の便を無料で送れば借金は返済できる。でもロマン羽根は秘密兵器として数枚ポッケに入れておきたい気もするし、また買取について相談させてもらおうっと。

 猫が棚ぼたで入手できた『秘島鳥の羽根』も8時間圧縮とはいえロマン羽根に出来るだろうから、ちょっと楽しみだ。


 『漬物石』が即売して時間が余ったことだし、運送ギルドにでも行ってくるかな!

『初心者用転移ポーション』→1章8話

『影走りの長靴』→1章6話

魔女帽子→正式名『ウィザード・ハット』。1章27話


評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

次回更新は11/8です。

(昨日はプロローグの更新で混乱させて失礼しました)


241116 第三エディション無料キャンペーン→アニバーサリー無料キャンペーンに変更

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― 新着の感想 ―
醤油と味噌自作したい難民料理人の本気を見ましたね(笑) 薄口醤油に濃口醤油に赤味噌に白味噌に他にもバリエはありますから……アレ?これ漬物石を複数用意しないといけないやつ??本気の味噌職人/商人/料理人…
更新ありがとうございます。 ネコさんの真顔見てみたいです。(笑)
殆ど捨てられてる岩にちょっと手間を加えただけでアレが売り切れるのか 作り方知ってたとしても売るほど持って帰ったの猫くらいじゃないんだろうか 重たいよね、持ち帰るの 上級者なら30万なんてポンと出せる…
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