24.猫の店~石ころ屋さん~
「そういえば猫ちゃん、前回の青月夜が金月夜だったのって気づいてた?」
「にゃん!?」
そうだったの!?
え、じゃあ幽霊船は?
「なら偶然か~~。掲示板によるとキャプテンデビーを倒した後に、本物の幽霊船が来るルートへ入ってるみたいでね、俺らはたぶん猫ちゃんが運送神呼んだからその辺ショートカットしたんだと思うわ~」
「にゃ、にゃあ…! 全然気づいてなかったにゃん、イベントスキップごめんにゃん~!」
「いやいや、なんか金月夜の幽霊船、難易度鬼畜だったみたいよ。『異界の扉が開き始めました』て表記でDPもらえなかった怨嗟がスレで渦巻いてた。たぶん運送神の台詞からして、深海行かないといけなかったんじゃないかね~」
「深海はいろいろ準備なしには無理そうにゃんね…」
「そそ、だからスキップで普通にDP入ったし、むしろ助かったくらいよ。強いていえば『金月影』取り損ねて残念だったくらいかね~」
あー。
もしかして運送神が来たタイミングで金月だったのか。それはちょっと残念だが仕方ない。運送神、どう考えても青月夜の神だもんね。
というか運送神さま呼ぶのが正規ルートなわけじゃないから金月見えなかったんだろう。そういう裏技スルー方法みたいなのもあるんだなあ…。
青月夜スレは見たはずなんだけど、流し見してたから気づかなかったぜ。すごい勢いでスレが流れてたのって金月夜だったからか~。精霊解禁後はじめての青月夜だからそんなもんだと思ってた。
いやはや、猫ったら節穴。
その後フーテンさんは愉快な仲間たちと白月夜関連を探しにうろうろしにいくそうなので、お見送り。
猫? 猫は大冒険(未満)で疲れたので白月夜のイベントはあきらめます。当日になったらポーツの砂浜へ行って、月だけ見てくるつもり。ロニの最後のパワーアップがあるかもしれないし、『精霊砂』も拾いたい。
そんなわけでしばらくはお暇なので、まったり露店しちゃう。街にはいたけどお使いクエスト消化したりしてたから久しぶりな気がするぜ。
『猫の店、開店にゃん!』
開店お知らせGPS付メールを希望者各位に送って、開店!
今日の販売アイテムはいつも通りの魔法玉、あとは釣りをしてたらやたらと増えてしまった『チッギョ』。あとは…、そうだな、『漬物石』も置いておくか。青月夜にアトノ島で運送神の加護をもらった人もいるかもだしね。
ちなみにリューシーは『漬物石』には全然興味を持たなかった。別の石に入って時間が立ちすぎちゃうとダメなのかもしれない。
あ、『清潔な石ころ』も置いとこ。これはその辺の『石ころ』ではダメだったのだが、小さな島で拾った『石ころ』では作れた。産地が大事なのかもしれない。
それから『白月明』のアクセサリーも。
猫は知らなかったんだけど、『ムーンキャッチ』じゃなくて月に該当する色月明でも精霊は捕まえることが出来たらしい。青月明は妖精契約用アイテムとして持ってる人が多かったので、今回の月夜で判明した。
なので次の白月用として、これは需要のあるアイテムのはずだ。えーと、結構作ってたな。3つある。
買取資金が心許ないので、今回の買取は『貝殻』のみとした。これはポーツで買い取る方が集まるに決まってるのだが、実は自由都市の冒険者ギルドでは買取をしていない。以前、買いにいったら「ない」て言われてびっくりしたんだよね。そんなわけでうっかりポーツで売り損ねた人がちょっと売ってくれるのではないかという算段。
何しろ『歪真珠』にするには100個単位で必要なので『貝殻』はいくつあっても困らない。ちなみに買取価格はポーツの冒険者ギルドに合わせて10z。つまり『歪真珠』はうまくいけば元手1000zで作成出来ることになる。にゃふふん。
とはいえポーツの素材買取所でもほとんど集まらなかったので、あまり期待していない。とらたぬ、とらたぬ。
いざ並べ終えてみると、なんともいえないラインナップ。まあいつものことか!
『魔法玉』以外の売り物も作ってみたいところだが、食べ物は露店向きじゃないし、ポーションはあまり心ひかれないし、悩ましいところだ。
例によって例のごとくどんぶらこっこと川のように流れていく客の波を横目に、今日も本を……と思ったけどそろそろ本も仕入れて来ないと読み物がなくなっちゃう。本屋さん……う、うう、そろそろ行っても大丈夫だろうか? まだまだ不安だ。
うううん、久しぶりに魔法師ギルドで教本買おうかな。レトが新しく覚えた『スローワルツ』の教本が置いてあるといいんだが。
と考えていたらマップにフレンドの反応が。お。
「ランさん、こんにちはー!」
「サッサさんいらっしゃいにゃん~!」
ガラス工で楽士のサッサさんだ。開店お知らせメールに『美声のど飴』を購入したいと返信が来ていた。
「小人族の種族クエストは終わったにゃん?」
「第一段階は終わりました! ほらほら、おでこに出てるでしょう?」
サッサさんが栗色の前髪をあげると、額に花蕾のような小さな紋様が描かれている。淡いグリーン。
「これが第三の目らしくて。この花が咲いたら目が開くみたいなんですよ」
「あるあるにゃん~」
「ですよね! ちょっと笑っちゃった」
ついでに手の甲にもあります、と見せてもらった。こっちはアレンジ可能で、サッサさんは目ではなく口を目指しているらしい。どういう種族なんだ小人族…。
『美声のど飴』は猫には使う宛がないのですべて販売。サッサさんはラララ・アクションで喜んでくれた。
「ありがとうございます! 楽士系バフアイテムはあまり市場に出てこないので助かります!」
「作ってよかったにゃん~! 材料はあるからまた必要だったら承るにゃんよ」
「やったーー! アッ、そうでした」
いけない忘れるところだった、とサッサさんが懐(インベントリ)から拳大の石を取り出した。
「これ、ランさんに人形連合からです!」
「にゃん??」
人形連合??
「硝子連合からちょっと横道それて人形に現を抜かしてる連中――つまり我々のことです」
なるほど。アルテザに参加してくれた硝子連合の人々で新しくグループになっているらしい。……だいたい猫のせい!
サッサさんがくれた石は、『思いの心』というアイテムだった。蔦のように絡まる陶器の土台にキラキラとした透明な石?硝子?が嵌め込まれている。片手に包めるくらいの大きさ。
『陶芸』のバンザイさん製作のアイテムで、いつも使っている『粘土』を『泥玉』へ圧縮変成したもので作ったらしい。
変成した『泥玉』に魔石を練り込んで丸めて焼いたものが『祈陶玉』。ここで魔宝石を包んで焼くと、アルテザでも使った『祈りの心』が出来上がるそう。
しかし魔宝石を足すのは試作品では高すぎるので、お試しに硝子を嵌め込み、その後ナマナマさんが『ファセットカット』を加えて出来上がったのが、この『思いの心』だそうだ。いろいろ試してみたが、アイテム名が出たのはオーバル(楕円)のみだったらしい。
とりあえずの試作品ではあるが、こんなん出来たよ~ということでアルテザで関わった面子には配っているんだって。
「にゃあ、買い取るにゃんよ~」
「いえいえ! バンザイ先生も『このような未熟なアイテムで金銭をいただくわけにはまいりませんなあ!』て言ってたし」
「そっくりにゃん!?」
「フハハ、楽士のスキルですぞ。ついでに先生もですが、今のところ受け取った誰の精霊も入ってくれてなくてですね、全然失敗かもしれないアイテムなんですよ。でもこういうの出来たよーていう、まあ経過報告みたいなもんです!」
「にゃあ~、綺麗なのに残念にゃんね」
「ねー。そのうち暇になったらティアラんがアクセサリーに仕立てたいって言ってましたよ」
「楽しみにゃん!」
そんなわけでいただいた『思いの心』、猫の精霊たちにも試してみたが、やはり入ってくれる子はいなかった。しかしロニがちょっと心ひかれてる気配があり、ブローチから出てきてまごまごはした。
「うーん、入りたいけど入れないみたいにゃん」
「にゃん、ちょっと惜しい感じですかね? 色硝子だったらよかったのかなあ」
「にゃん~、ロニは白月夜の精霊だから、色じゃないと思うにゃ」
「なるほど、ならカットかなあ……形……いや、でもなあ、うーん…。……謎ですね! とりあえず先生とナマナマにまた報告しておきます」
「よろしくにゃん~、猫も『粘土』買って『泥玉』たくさん流すにゃん」
「『よろしくお願いしますぞ!』」
バンザイさんの声真似でそう言って、ニャハ、と笑うとサッサさんは帰っていった。い、今の猫の声真似だった!? 猫あんな感じ!? あんなかわいこぶってる感じ!?
ちょっとドキドキしたけど平常心、平常心よ。
それにしても『思いの心』か。下位互換っぽいとはいえ、ちゃんと名のつく試作品を作っているとはさすがである。また『泥玉』作っておかねば。やはり変成釜が欲しい気がしてきたぞ。気のせい!
メモ帳に「泥玉作る」とメモ。ついでに売り物枠が余ってたので『粘土』の買取を足していると、新しいお客さんが来た。
「やあこんにちは」
「センジさん、いらっしゃいにゃん~」
今日もフルクとミモモとお散歩スタイル、ついでにちょっと大きくなった毛玉ミモモの上にアゲハチョウが止まっている。
「無事羽化したにゃんね~!」
「ああ、おかげさまで」
前回会ったときには幼虫のおやつでお悩みだったはずだが、チョウチョに進化しているということは無事おやつが判明したのだろう、たぶん。
それにしても幼虫のサイズから30cm以上の蝶になると思ってたのに、蝶になっても15cmくらいなんだな。
「思ったより全然小さいにゃん?」
「おやつに花の蜜をあげ始めたら逆に小さくなっていってね、ちょっと驚いてしまった」
「そんなこともあるにゃんね~」
話しながらもセンジさんは『粘土』を売り、『魔法玉』と『白月明』のアクセサリーを買ってくれる。まいどあり~。他の商品には少し首をかしげていた。個性的なラインナップですまんな。
おやつ用の野菜はラージにあげてしまってるので売るほどはなく、なんだかちょっと申し訳ない。うーん、『赤シスル』を育てておけばよかったかもしれない。
「チョウチョはアタッカーにゃん?」
「魔法系万能型かな? バフ、デバフ、回復、攻撃と一通りまんべんなく出来るから、進化したい方向に合わせて育てるタイプだと思う」
なるほど万能型。
考えてみるとモンシラも毒属性のデバフと風属性の防御・攻撃となかなか多才なBOSSだった。回復はさすがにしてなかったけど、わりと万能型だったのかもしれない。
……あれ、もしかしてチョウチョは魔法アタッカーになる…? モンシラのタマゴ、小さく育てられるなら、孵化させるのもありなのでは?
うむむ、でも万能ってことは器用貧乏になる側面もある。
「あっ、そうだ。おやつのこともだけど、この前は『ムーンキャッチ』をありがとう! 助かったよ」
金色のフルクの首を掻いてやりつつセンジさんが言う。お、フルクの首輪にしてるのか。
フルクは前衛系、MP少なめなので月明精霊のMP増強装身具は相性がよさそうだ。
「どういたしましてにゃん~! もし『ムーンキャッチ』に居づらい子がいたら住処の相談にものってるにゃんよ~」
「居づらい子?」
「フラフラ出てきちゃう精霊は住処が合ってないにゃん。センジさんのはぴったり合ってるみたいにゃんね」
「精霊もいろいろあるんだな。これはお礼に取っておいて」
台の上に通常品質の『ムーンストーン』が置かれる。
「にゃあ、いいにゃん? 今ならお高く売れるにゃんよ?」
「これでも『採掘』LVは高い方なんだ。ゴーレム通ってたからね」
ドゥーアにあるダンジョンのゴーレム部屋か。普通に戦っても『採掘』LVがぐんぐん上がるんで、鍛冶師御用達と聞いたことがある。センジさんは鍛冶持ちなんかな?
「それじゃあありがたくいただいちゃうにゃん~!」
「どうぞどうぞ、また面白い話があったら教えてね」
それじゃあ、と去ってどんぶら流れていく姿を見送る。アゲハチョウ、キラキラしてて可愛かった。モンシラもあのくらいだといいなあ。
孵化させるなら羽化までに進化させる必要がありそうだし、食事やらおやつやらの事前準備は必須だろう。ちょっとちゃんと調べてみようっと。テイマーギルドかな? それとも害虫扱いで農業ギルドだろうか?
うんうん考えていると、ぴょんと猫の店に飛び込んできたお客がいた。知らない顔だ。
すごくびっくりした顔をして猫と商品を見比べている。なに??
「こ、これ、これもしかしてこの『漬物石』というのは、ポーツのクエストアイテム!?」
前回末尾に入るべきところが入ってなかったので、今回ちょっと多めです。青月夜のネタばらし。
そして次も続く露店回。
今週も月水金に猫をお届けです。
次回更新は11/6(水)
まったりいきましょう~
追記:
6日にプロローグを追加し、3話までを改稿しました(プロローグに合わせて修正しただけで、特に変化していません)
1話ズレややこしくてすみません。