15.青月夜は鉄板焼から
孤児院でのイベントを終えて、翌日。
猫は船の上にいた。
揺れる波の音、かおる潮風、空にはカモメが飛んでいく。
「へい、クラ玉お待ちぃ!」
舞い踊るカッツォブシとアオノリ、ジュウジュウと音をたてて鉄板で焼けるカンラ菜と卵、粉モノのいい香り…! ソースの焦げもたまらない。
「美味しそうにゃん~!」
「デビ焼きももうすぐ出来るで」
「楽しみにゃん!」
んあ~~ふわふわでおいしー!
ヤマビコさん特製デビ焼きことタコ焼きは、今回デビが少ないので中身は闇鍋ならぬ闇タコ状態だそう。でも猫はチーズでもチョコでもイケる口だ。クラ玉だって中身はイカじゃなくてクラーケンだけど気にならない。おいしいは正義。
海風を進む船の上でのたこパ、最高にゃん~!
さて、なんで船に乗ってるのかといえば、フーテンさんたちからお誘いを受けたからだ。
『あれ、猫ちゃんや、今ポーツ?』
『さっき来たとこにゃん』
『もしやお船間に合わなかったのでは』
『くぅ、その通りにゃん…!』
青月夜の幽霊船に会えるという、小さな島へ移動する船。その出港に時間制限があるとは盲点だった。いつもみたいに24時間時刻表通りに運行してる船かと思ったにゃんよ~!
せっかくの青月夜イベントを逃してしまった。
『青月夜、お暇になっちゃうならうち来る?』
『にゃん??』
『うち5人PTだから、1枠空いてるにゃん~』
『でもお船出ちゃったにゃんよ~』
『今、その船に乗ってるんだけど、船にセーブポイントあるのよ。だから猫ちゃんお迎えにポーツ行っても帰ってこれる寸法』
『にゃ!? お邪魔しちゃっていいにゃん?』
船でセーブしたフーテンさんと、ポーツがセーブポイントのポユズさんで組んで、ポユズさんがまず『リターン』でポーツへ帰還、猫をPTに回収してフーテンさんが『リターン』で帰還、とすれば猫をお船に乗せることが可能らしい。なんと!
『猫ちゃんにはいつもイベント誘ってもらってるからね~、ちょっとした恩返しですにゃん』
『とってもうれしいにゃん~!』
そんなわけで、遅刻した船に回収してもらった猫なのである。持つべきものはフレですなあ!
猫はイベント途中参加なので、これまでのあらすじをダイジェストで拝聴。
「まず幽霊船は見えるだけで無害って話やで」
「乗り込めたものは誰もいない――とか伝えられているけど、その辺はダンジョン系イベントのお約束だね」
「幽霊船の由来については諸説あります、だな」
「幽霊船は精霊イベントが話題になる前から、月夜に起きるイベントとして知られていたわ。青月夜に船に乗ると、途中でクラーケンに絡まれて別の島へ漂着しちゃう、ていう」
「ちなみにクラーケンはもう倒した」
「にゃあ、それでクラーケンがお好み焼きに…!」
「美味いやろ。いっぱいあるで。ランも持ってくか?」
「猫には手が出ない素材にゃんよ~」
なにせクラーケンの切り身、とんでもなくでかい。刺身のように削ぎ切りにしてようやく串うち出来るかな、くらいの。たぶん猫では『料理』LVが足りないやつだ。
ちなみにイカ焼きももらいました。焦げたお醤油とバターのハーモニーをまとうジューシーなイカ、天才的な発想。うまい。
「…ハッ、つまり今猫たち漂流してるにゃん!?」
「大正解~~!」
こんな和やかにたこパしつつ実は漂流してたの!? NPCも普通にニコニコとデビ焼き食べてますけど!?
「船員には悲観してもしゃーないし、俺らマレビトやから食糧も水もぎょーさんあるし大丈夫や、て納得してもろてん」
「なるほど」
『食糧危機』の話聞いたときも思ったけど、こういうとき人間倉庫(マイルーム付き)のマレビトって強いカードなのかもしれない。
はふはふデビ焼きをいただきつつ、攻略サイトを確認、イベントの流れを履修しておこう。
青月夜の幽霊船は、まずポーツから群島への巡回船に乗るところから始まる。青月夜だけは運行本数が少ないので、月夜がわからなくても毎日時刻表をチェックしてればそこで判断がつくんだとか。なるほど賢い。
そして船に乗ると、中型のクラーケンに襲われる。推奨LV30~、ソロならLV45、とのことで猫はソロでは無理だったね。調べもの大事。
クラーケンを倒しても船は謎の海流に乗ってしまい、航行不能に陥ってしまう。そしてそのまま漂流。今ココ!
そしてこれからの予定。
船はそのまま『小さな島』へ漂着。不思議な力で船は固定され動かなくなってしまう。仕方なく島に上陸、日暮れまで過ごす。すると、幽霊船が近くを漂流していくのが見える。そして、プレイヤーたちが乗っていた船は幽霊船に引き寄せられるかのように勝手に動いていってしまう。
……船にセーブポイントがあるのって、島に置いてかれても『リターン』で戻れるように、なんだろうなあ…。親切設計。
幽霊船へ完全に引き寄せられると、幽霊船を操る『キャプテンデビー』というBOSS(LV40)と戦闘に。
これは倒せなくても規定時間耐えると終了ってやつらしい。手強い割に実入りは悪いのでやり過ごす方がいいと紹介されていた。なお時間内に倒せなかった場合、幽霊船はまた海の彼方へ消えていく。
戦闘が終了すると、島影が見えてくる。それが『隠れ島』と呼ばれる島で、このイベントからしか辿り着けない街。幽霊船イベントはこの隠れ島へ行くためのイベントとこれまで考えられていたんだって。
「……精霊スポットは幽霊船にゃん?」
「そうなる、のか?」
「日暮れには再び船に乗って移動してるはずだから、島にあるんじゃなくて、漂流中にどこかにあるってことだものね。いちばん怪しいのは幽霊船か」
「もし漂流してる海ん中やったら、近づけんこともあるしな」
「見えるだけでどうにもならない、なんて意地悪なことはないと思いたいわね」
はふはふ。てことは幽霊船だとしたら、戦闘後に逃げられちゃったら精霊イベントなしなのかも?
「あ~、それはありそう」
青月夜はアトノ島も幽世の澱みに行けたけど、こっちもそうなんかな? 高LV用な感じだろうか。まあ、やってみないとわからないことはたくさんある。
話しつつ食べて飲んでとまったりしていると、船員が声を上げた。
「島が見えてきましたよ!」
『小さな島』へ漂着だ。
「ほんまにちっさい島やなあ」
感嘆したようにヤマビコさんが言う通り、『小さな島』は周囲1kmないであろうちんまりした島だった。砂浜は狭く、中心部に小山と洞窟がある。
「あれが『採掘』出来るっていう洞窟か」
「『ムーンストーン』が採れるって書いてあったにゃんね」
「あと『岩石』な」
『岩石』は『石工』や『大工』が使える素材だ。家具や建築に使うらしいが、とにかく重いのでだいたいその場で捨てられてしまう悲しいアイテムだったりもする。ダンジョンだとマイルームへ戻って詰めてくるってことも出来ないしね。
ちなみにこの島はダンジョンではないらしい。
船の中ではマイルームへ返していたルイやみんなを呼び出し、早速『採掘』へ!
『採掘』持ちはエドさんとリーさん、他3人は持ってないそうなので別行動。周囲を廻ってみるそうだ。
洞窟は入り口が広く、奥行きは狭い。奥へ行くにつれて上り坂になっており、ごつごつした石に付着していた藻が減っていく。
「入り口くらいまでは満潮で沈みそうだな」
「大潮になりそうにゃんね~」
「…月が4つあると潮汐力ってどうなるのかしらね?」
「ややこしくなりそうにゃんね??」
謎だ。しかし攻略サイトによると『採掘』中に脱出不可能になった人などはいないので、気にしなくていいのだろう、たぶん。
エドさんが確認してくれたが、洞窟内はセーフエリアのようだ。ならばここで解散して、自由に掘ろうということになった。
猫は適当に入口付近の採掘ポイントから掘っていくことに。ジョブ『採掘師』を持ってないのが切ないところだが、ないものねだりしても仕方ない。いいもの見つけられるように『探索者』と『商人』にしておこ。
NPC船員が「船乗りには漂着した無人島で火を焚いてはいけないという言い伝えがある」と言っていたので、明かりは『灯』。
島で火を焚いちゃいけないっていうとシンドバッドの冒険みたいだね。クジラの島…。カンカンコンコン採掘しても何も起きないのでこの島ではないのだろう。この世界のどこかにはあるのかもしれない。
洞窟の中に採掘の音だけが響き渡る。
あ、採れた。まず最初は『岩石』だ。
……んん? これ、なんか隠されたものがあるな。『真贋』さんが反応している。持ち上げてみると重い。重くて、丸い……。
「もしかして、漬物石?」
『漬物石』といえば、きれいに洗った『清潔な石ころ』でも代替できるって串焼き屋のおじちゃんが言っていた。てことは、『漬物石』の方もきれいに洗って清潔にしておくのがいいんかな?
きれいに、ていうんだから『浄化』だろう。『ピュリファイ』の浄水で一度洗って、更に『クリーン』。
お、『岩石』が『漬物石』になった! これはヤマビコさんへのお土産にしよ。猫はここまででかい味噌醤油は持て余す気がします。
さて、気を取り直してもう一度『採掘』。
カンカンコンコンしていると、『石ころ』や『岩石』に『水晶石』、それから『ムーンストーン』とようやくお目当ての石が採れた。
しかし、小さい。低品質だと1cmもない小ささだ。通常品質が出るまでは、もうちょっと頑張ってみるか。
『マジックセンス』も使ってみる。お、やっぱり採掘スポットじゃないとこが光る。こっちは採取スポットだ。『光苔』を入手した。結構いろいろなところから採れるみたい?
改めて見てみるとほんわり光ってるところから採れるので、オブジェクト採取っぽくもある。オブジェクト採取のアイテムは『貝殻』然り、『錬金術』で使えそうなのでたくさん採っておこう。
あれこれ浮気しつつ掘った結果、10個の低品質『ムーンストーン』と、通常品質『ムーンストーン』1個、それから『漬物石』は3個、『岩石』は14個(途中で洗うのがめんどくさくなった)、『光苔』40個、『石ころ』や『水晶石』たくさんという結果になった。
低品質『ムーンストーン』が10個になるまで粘ったら、『岩石』で荷物がパンパンになってしまった。
……ん、んん?
なんか下の方がキラキラ光っている。『マジックセンス』は時間切れしてるので違うし、なんだろ。
近づいてみると、帽子を深く被った小さな妖精だ。なんと懐かしい、岩妖精ガナムだ。え、もしかして今日が青月夜だから契約に来てくれた!?
妖精はふてぶてしく腕を組むと、ふん、と顎をしゃくった。
なに? ついてこいってこと??
岩妖精ガナム→1章20話、21話
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次回更新は10/14(月)です。