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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
4章 成金猫はごろごろしたい
182/281

14.はしれ大根

 赤シスル作戦は始まり、そしてうまく行った。

 ノーカさんが育てた『赤シスル』目掛けて降下してくるモンシガを迎え撃つ大鎌と拳、荘厳に立ち上がる光の柱、そして燃え盛る火炎。

 ううん、なんていうか特撮映画っぽい。


 モンシガの残りHPを見つつ、ついでにメールを飛ばしておく。構わんよって言ってくれる気はするけど、やはり確認は取りたい。ちゃんと補償はしますんで。


「第三形態ッ!」

「うああああああ!!」


 タレイアさんの悲鳴が聞こえる。

 見てみるとモンシガから3対目の羽根が生えていた。ワーオ。新しい羽根には紋様が浮かび上がっている。

 目が赤くなり、モンシガは羽根をふるわせて舞い上がった。強風、そして襲いかかるデバフ。しかしすぐさま解除される安心感!


「鱗粉復活!」

「『アンチポイズン』いっくよー!」

「花まだ残ってるけどどうします!?」

「一応やっとく、『プランツ・サンクチュアリ』!」

「いい感じー!」

「うああああ、撃っていいタイミングで呼んでくださいいい!」

「水必要なら出しますけどどうします?」

「念のため羽の模様消えるまで待ってて~『アンチポイズン』!」


 魔法がビュンビュン飛び交う中、メールが返ってきた。さすが大商人の返信は秒。予想した通り『無問題、グッド・ラック!』とのことだったのでお言葉に甘えちゃう。


「やはり予想通り、第三形態になったら花には降りてきませんね」

「次の作戦に期待です」


 無事鱗粉は剥げたものの、完全に飛び立ったモンシガは、まったく降下して来なくなってしまった。しかも上空を飛んでいるときは少しずつHPが回復している。


「このまま飛んでっちゃうとかないよね?」

「制限時間があと5分あるので大丈夫とは思いますが、5分の間に降りてきてくれるかどうか」

「…!! きたぁ!」


 じりじりとみんなの目を逃れて移動していた白ラコラが『プランツ・サンクチュアリ』の光の柱を出た瞬間、モンシガが急降下してきた。


 そう、次の作戦とはこれである。

 モンシガは弱ってきたらタマゴを生もうとするのでは?と考えたのだ。モンシロチョウ系列、ということはアブラナ科にタマゴを生む。

 カンラ菜でもよかったのだが、『プランツ・サンクチュアリ』を嫌がって降りてこない可能性を考えると、勝手に外へ出ていく白ラコラがちょうどよかったのだ。ラコラ、大根だし。アブラナ科の性質をもつことは交雑からも明らかである。


「モンシガ…単性生殖になるほど歪んでしまっていたのですね…」


 突っ込むとこ、そこ!?

 猫としてはサイズ的に白ラコラにタマゴを産みつけるのは無理ではと思う。思うけど、降りてきたからこれが正解でいいのだ!


「キャー白ラコラサンカッコイー!」


 モンシガに追いかけられて逃げる白ラコラ。なるべく引き寄せて、モンシガに捕まったと同時に『プランツ・サンクチュアリ』をかける作戦だ。

 しかし、モンシガが白ラコラを捕えようとした瞬間、白ラコラが爆発する。


「にゃん!?」

「あー、その場合も自害しちゃうのね」


 あれが噂の白ラコラの自害…! 収穫しようとすると爆発するってやつか。ちょっと予想と違う方へいってしまった。植物がないと『プランツ・サンクチュアリ』の中心地に出来ないのだ。

 大根の爆発などモンシガには何のダメージにもならなかったようだが、攻撃された意志は感じ取ったようで羽ばたきを大きくする。強風! 飛び立ちそう。

 …と思ったらもう1匹の白ラコラが、モンシガへ向けて走っていく! 仇討ちか!?


「生きてたのか白ラコラ!?」

「別個体にゃん」


 念のため3体育てておきました。


「ちょっと離れてるけど、あまり近づくと爆ぜちゃうみたいだしサンクチュアリいっくよー!」

「おいっすー」


 カッと地面が切り取られるように光り、輝く柱が立ち上がった。モンシガがのたうち回る。タスクさんによるとたぶん聖属性の継続ダメージ、とのこと。


「こんがりお願いしまーす!」

「いきまーすー!!」


 呼ばれた火魔法師ふたりが大きな羽根を構える。

 ――そう、ロマン羽根である!

 執事セルバンテスさんからお預かりしてる商品なんだけど、ちょっと必要になったのでこちらで買取させてもらってもいーい?て聞いたらオッケーもらえました。


 渡したのは『大陸魔羽根』。これまでのロマン砲スレの研究で、魔羽根は範囲魔法の威力をすべて加算させた単体魔法として放てることが報告されている。ちなみに技羽根は対象接触の魔法に射程をもたらす効果があるらしい。

 ロマン砲はオーバーキルが基本。モンシガのHPを跡形もなく消し飛ばしてくれることを期待している。逆にこれで無理なら諦めもつこうというもの。

 更に2人へ光輝くほどのバフが降り注ぐ。


「『インフェルノ』!」

「『フレア』!」


 瞬間、目の前が真っ白に染まった。





『おめでとうございます。『自由都市の悪夢』を討伐しました。『食糧危機』は退けられました。SP10と『プレゼントボックス(SR)』を入手しました』


 やったぜ。

 しかしひどい目にもあった。


「いやあ、燃えた燃えた」

「私、『ファイアヒール』覚えるわ…」

「私も覚えることにします…」

「えげつない炎上ダメージだったね」

「最後燃やしすぎてすみませんんんー!」

「いやいや、あのくらい火力ないと討伐無理だったよ絶対! だってあいつあれでもしばらく生きてたもん!」

「ロマン砲の名に恥じぬ威力でした」


 ロマン羽根2枚はさすがに過剰戦力だったかもしれない。


 というかモンシガ(正式名称は『自由都市の悪夢』だったらしい)が最後の悪あがきで暴れて『ウィンドストーム』とかやるもんだから、炎上がこちらへの反射ダメージになってしまって、危うく燃え上がって全滅するところだった。『ウィンドストーム』の範囲、えげつない。

 ヒーラー4人での『サークルヒール』連打と、ノーカさんやタレイアさん、エンジェルさんの『ファイアヒール』で事なきを得たのだ。


 白ラコラを育てるときに、念のためルイたちを全員送還しておいてよかった…。猫でギリギリだったし、溶けるところだったわ。むしろ猫、よく耐えた。防御重視で装備変更しておいて正解だった。

 戦闘終了前に送還してしまったけど、レイドでは貢献度順で経験値がちゃんと入るから安心だ。といっても、終了までいた人が優先で、ラストに回されるけどね。


 リザルト、猫の貢献度は低め……と思いきやギミック貢献度を取ってて、なんと3位だった。1位はノーカさんで、2位は回復MVPだったユミーさん。猫ったら快挙。というかアタッカーより上取っていいものなの!?


「貢献度でいうとアタッカーってわりと低めになるのよ、ダメージ経験値取れるから」

「逆にギミックへのアイテム提供って、貢献度大きめなんよ」

「そうそう、用意してきてるのがすごい、てのと、ここで惜しみなく使うのがすごい、てのと2点で評価されるんだよ、アイテム使用貢献度」

「にゃあ、知らなかったにゃん!」


 そんなシステムになっていたとは。

 ちなみに猫が提供したものとして評価されてるのは『赤シスル』と『白ラコラ』だけ……かと思いきや、ロマン羽根もなぜか評価されている。


「おそらく何らかのアイテムによるブーストがないと倒せない仕様になってたんでしょう」

「ありそー」

「出し惜しみを許さないやつ、たまにあるのよねえ。絶対勝てるくらいしかHP残ってないのに、クエストアイテム使わないと倒せない…みたいなのと同系統なんじゃないかしら。今回だと『爆弾』とか、『特級バフポーション』とかも対象になったかもね」


 なるほど、そういう系統ならちょっと納得だ。オーバーキル狙いでいったのが功を奏したらしい。

 それにしても『爆弾』か。…なんかどこかで見たけど、後回しにしてたやつだな。なんだったっけ。調べておこうっと。


「想定としては孤児院の畑が収穫まだの状態で、花が咲いてるものがあればそれに向けて降りてくるけど、火魔法で畑が炎上するから刈り取りつつ、とかになったのかもにー」

「その場合、第三形態まで『カンラ菜』を残しておくのが攻略になったりしそうですね」

「ありそう。今回はノーカと猫さんの合わせ技でファインプレーだった」

「にゃふん、お役に立てて何よりですにゃん」

「ていうかロマン羽根めちゃくちゃ高いわよね!? 大赤字じゃない!?」

「にゃん~、たまたま持ってたやつだから全然問題ないにゃんよ~」


 大赤字だけど、しばらく『錬金術』でタダ働きすれば返せる借金なので問題ない。その方向でセルバンテスさんにも許可をもらっている。

 ついでに消費しちゃった『赤シスルの種』はアルミハクさんからまた分けてもらえることになった。これだけは惜しんでたのでありがたい。


 啓示によるレイドではなかったのでレイド戦後の宝箱はなかったけど、燃えかすになったモンシガからのドロップはあった。こんがりしていたせいか『炭』とかも出たんだけどね。あとは『悪夢蝶の触覚』とか『悪夢蝶の鱗粉』とか。

 レアっぽかったのは『モンシラのタマゴ』と『ダイアモンド』だ。


「まさかのモンシラが飼えるやつ?」

「いらんなあ…」


 モンシロじゃなくてモンシラなのが事件の予感。1mのチョウチョ…。

 なぜか1人1個もらえる計算で出た。確定ドロップってやつかな?

 今のところどう使えるのかわからないし、相場がわかる大商人もいないので、素材は各自持っておくことに。しかしタレイアさんが泣いていたので彼女の『モンシラのタマゴ』は猫が『炭』と交換した。


「うっうっ、ありがとう『炭』ピだいしゅき…」


 『炭』でいいのか不安になったが、ガラス工で燃料として使えるので全然問題ないとのことだった。なおその他の蛾素材はエンジェルさんに回収されていた。


 『ダイアモンド』はモンシガの固有素材ではなく、たぶん『炭』と同じく火魔法で倒されたことによる変化だろうとのこと。デバフドロップともいわれるやつで、特定の魔物をデバフ状態で倒すと入手できる。炎上では希にダイアが出るんだって。


「これは持ち出しの多かった猫さんが持っていって」

「いいにゃん? めぼしいものなくなっちゃうにゃんよ?」

「いいにゃんよ~」

「SP10とプレゼントボックス(SR)てずいぶんな報酬よ~」

「そうそう。滅多にないよこんなん」

「経験値とSPごちそうさんでした」

「イベントごちです~~!」

「私は薬も手に入りましたし、新しい情報も入りましたから、十分ですよ」

「俺もリベンジできて満足してるんで」


 お言葉に甘えて、『ダイアモンド』もらっちゃった。ダイアを手にするのは2度目だな。1度目はもっと大きくてひび割れてたし、消えてしまったけども。今回のこれは、消えない宝石のはずだ。

 にゃふふん、いくらになるかな?



 そんなわけで『食糧危機』は事前に防がれたので全体アナウンスはなく、ひそやかに幕を閉じた。


 孤児院からは「何も出せませんがこれはお礼です」と畑で取れたハーブとレシピをもらった。『料理』でも『調薬』でもいけるレシピだ。ここにも十八道遁術ジヤドウトンジュツが…というわけではなく生活の知恵みたいなやつなんだろね。この手のレシピは『薬膳』に近づくようで嬉しい。


 これからしばらく時間をかけて育てる予定だった野菜や粗麦を一息に収穫してしまったので、ノーカさんとアベルさんは畑を立て直すまで手伝っていくらしい。ふたりがやるなら、LVの低い猫はお邪魔になってしまうので退散。当初の予定どおり『咳止め飴』をお裾分けしてお暇することにした。


 孤児院の院長やシスターは出頭して、また代替わりだそうだ。ノーカさんのときも、神父さんのときも代わったらしい。防げても交代しちゃうなんて、呪われた孤児院になってしまう。孤児のためにも安定してくれるといいのだが。

 こうなるともしかしたら貴族が間に入るかもしれない、とその辺はアルミハクさんやタスクさんが対応するみたい。ルイネアは都市貴族との話し合いに強いんだって。へえー! いろいろあるんだなあ。


 そして危惧していた通り、錬金術師バルトロさんは衛兵に捕まってしまった……。違法な薬を蔓延させようとしたとして勾留されることとなった。本人が何者かに騙されていた可能性もあるので、その辺の調査がこれから始まるらしい。

 バルトロさん、騙されやすそうなタイプだったもんね…。唆されていただけで、変な組織にどっぷりとかじゃないといいんだが。うう、マルコくんに合わせる顔がないぜ。


 しかしこの先はアウトローとは限らないけど闇深やみふか案件な気配なので、猫には荷が重い。アベルさんは「やっと先へ進めます」と嬉しそうだった。おまかせしちゃう…!

これにて孤児院編は終了、次回は青月夜!


評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

次回更新は10/11(金)です。

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― 新着の感想 ―
読み返してたら表記揺れを発見しました。どちらに合わせるのかわからなかったので誤字フォームでなくて感想欄に書いときますね。 「ダイヤモンド」と「ダイアモンド」 「ダイア」、「ダイヤ」 混在してますのでご…
こんなところでも散財する猫ちゃんは 食糧危機を退けた英雄猫として語り継がれるにゃん
ロマン羽根、作るばかりか遂に目前で炸裂! 特撮は爆発炎上がお約束にゃ〜ん。 猫ちゃんの「にゃふん」「にゃふふん」頂きましたにゃん。 孤児院を舞台にした闇が根深そうで怖いにゃん。そしてうっかり、ぶれな…
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