12.火属性アタッカー
いやはや、ロールプレイ上級者の対話術ってすごいね?
無事にお薬は回収出来て、神父さんはホクホクだ。
『でもカウントダウンは止まらなかったわね』
『子どもたちも隠し持ってない、逃げてもいないらしい、ていうならこれ、強制戦闘だから戦闘準備しとけって話なんちゃう?』
かくかくしかじかにゃんにゃんにゃん~と共有したところで、タスクさんがそう言った。
なるほど、戦闘準備用カウントダウン。
『……一理あります』
長い沈黙のあと、ノーカさんがうなずく。ちょっと悔しそう。
でもたしかにもう探すところがないんだよね。子どもたちの部屋も見せてもらったし、食堂とか台所とか書庫とか、礼拝堂とかもだけど、隠さず全部みせてもらったので。
ここは戦闘があると切り替えて準備しよう、となったのがカウントダウン15分前のことだった。
『火属性アタッカーの召喚獣ある人~?』
『召喚獣はだいたい盾で埋めてるのがヒーラーというもの』
『デスヨネー。ノーカと神父はワンチャンあるんちゃう?』
『火系は自前で持ってるので』
『ほらあ! このドマイナーマジツリ神官ぶりよぉ!』
『そういやノーカは炎上ヒールだっけ』
炎上ヒールは燃えている間は継続回復するという『ファイアヒール』のことだ。燃えている限り効果時間が続くため、いかに炎上を維持するかが鍵となる。つまりかけられてる側に技術力が問われるので、効果は高いけど人気のないヒールなんだって。
炎系の神聖魔法がある正義神や鍛冶神の神官ではまあまあいると聞いたことがあるけど、回復量の多さや範囲ヒールを得意とする豊穣神官がメインで使うには、かなり珍しいヒールと言える。
ノーカさん牛獣人だし、タンク兼ヒーラーだからセルフヒールなんだろう、たぶん。なおタンク出来るのも豊穣神官ではレア。
そしてノーカさんの召喚獣は農業用で埋まってるので、戦闘用の子はいないそうな。さすが名前からしてノーカなだけあってガチな農家である。
ちなみにマジツリとはマジックツリーの略である。スキルツリーならぬマジックツリー。
『属性魔法』はスキルLV5毎に新しい魔法を5つ覚える仕様なのだが、それ以外にも派生魔法が存在する。これまで使用していた魔法の習熟度がたまると魔法そのもののLVが上がり、その魔法LVによって派生魔法を覚えることがあるのだ。また複数の魔法のLVが高いと合わさって複合魔法が出たりもするそうな。この派生のことをマジックツリーという。
中LV帯まではこの魔法の習熟度がいくつあると次のスキルLVアップでこの魔法を覚える、派生はこれ、などの情報が集まっているため、攻略サイトには結構詳細なマジックツリーが紹介されている。……まだ基本7属性くらいで、18属性全部とはいかないんだけどね。
『神父は?』
『私の召喚獣はバフ型ですね』
『こっちはこっちでスイッチだもんねー』
神父さんの暗黒面は物理アタッカーだそうだ。召喚獣でバフを積み、プレイヤースキルでそこそこのアタッカーと強力なヒーラーを両立させるスタイル。ロールプレイ勢って大変だな~。SPいつもカツカツなんだろうな。
『てことは火魔法師の暇人を探すわけか。猫さんは当てある?』
『一応知り合いに聞いてみてるところにゃん~、半生産の人だから、みんなほどのLVではないけども』
『火ならあるだけで全然違うから、LVはあまり関係ないよ! 出来ればウォール以外に単体も使えると嬉しい』
火魔法師といえば『ファイアウォール』が定番。防御によし攻撃によし、範囲も結構自由自在とあって、便利に使える魔法なんだって。
ただあまりにも便利なので、これ以外使ってない火魔法師も多いのが難点なのだとか。属性魔法スキルを取っていればもちろん『ファイアウォール』以外も覚えるけど、使わないことには習熟度が上がらないからね。
硝子連合と一緒に戦った隠者の村はある意味、大々的な火禁止ステージだったし、実は猫、ウォール系は全然見たことない。火炎放射機みたいな魔法はよく見たような?
その硝子連合に一通りメールを飛ばしているところだが、反応は芳しくない。
ティアラさんとサッサさんは小人族の種族クエストが進行中で無理とすぐ返信があった。『必要なときに助太刀できないとは無念ですわ!』『ごめんねえ!』とのこと。いいのよ!
バンザイさんとナマナマさんは研究資材を集めに鉱山ダンジョンで山籠りしてるそうで、こちらも無理。ダンジョンは奥地までいっちゃうと戻るの大変だもんね。
ココロさんは猫が幽霊船について伝えたので、そちらへ行ってしまっている。そういえば青月夜はポーツで何かあるんだっけ。味噌と醤油石も気になるし、明日はポーツ行こうっと。
他にもやはり精霊関連で月夜クエスト進行中だったり、生産オーダーメイドで手が回らなかったりと、お断りの返事が続く。にゃん~、残念。
そんな中、ちょっとお暇してたのがタレイアさん。だ、大丈夫かな?
『虫退治なんだけど、お願いしてもいいにゃん?』
『えっっ!? ……足が多いやつ? ないやつ?』
足がないやつ?? ナメクジとかカタツムリのことだろうか。
『足は6本にゃん~』
『こ、昆虫ならまだ……、ちょ、ちょっと考えさせて』
うむ、生理的嫌悪だけはどうしようもない。
後の面子は誰か捕まるかな~。
「ん~、やっぱり報酬確定してないってのと、革命イベントなのが致命的ねえ」
「そっちも? うちも革命阻止ならヤダって言われちゃった」
あ、そうか、革命イベントなのも伝えないといけないのか。
『自由都市の『食糧危機』イベントを阻止する挑戦になるにゃん~、報酬もないかもしれないにゃ』
『ああああなんか気になるやつ拾ってるぅ…! イベントか、虫か…!』
『無理はしちゃだめにゃんよ~』
『いや、…イケル! これで行かなかったら絶対後悔するもん! 行きます!!』
『GPS投げますにゃん!』
『いくにゃんよ~!』
ちょっと心配もあるけど火魔法師を捕まえることが出来たぞ!
「ひとり来るにゃん~」
「お、やった! ウォール系?」
「にゃあ、どうだろ?」
聞いてみたところ、得意な魔法はウォールもだが『フレイムタン』だそうだ。炎の舌?
「『フレイムタン』が得意ってことはランスもストライクもそこそこ習熟度があるね」
アルミハクさんによると、『フレイムタン』の前提魔法が『ファイアランス』と、『ファイアボール』の派生で出る『ファイアストライク』なので、複合派生が出る程度には使い込んでるだろうって。
なるほど、得意魔法からそういうのもわかるんだね。
ちなみに『フレイムタン』は曲がる『ファイアランス』らしい。『理力』でなんとかする猛者もいるらしいが、曲がる別の魔法がある。ふむふむ。
お誘いかけた他の人にも無事に援助が見つかりましたの連絡をして、猫は孤児院を出てお迎えへ。
すぐにタレイアさんと、ついでに連れてこられたらしいエンジェルさんが来てくれた。
「どうも消火器と虫の盾です……」
「よろしくね!」
「ふたりともよろしくお願いしますにゃん~!」
エンジェルさんを前面に押し出し、へっぴり腰のタレイアさんを回収。
孤児院に入ってからもタレイアさんはびくびくしていた。
「芋虫の駆除は終わってるにゃん。出るのはでっかい蝶にゃんね」
「でっかいの!?」
「猫もまだ見たことないからわからないけど、すごくでかいらしいにゃん」
「すごくでかい…!?」
白目!
「だ、大丈夫にゃん?」
「……でかすぎたら逆に大丈夫かもしれないし…!」
「希望的観測すぎる」
ふたりを農家神官たちに紹介して、8人になったのでPTを分割する。……アライアンスになってしまったな。ソロのBOSSがPTで巨大化する可能性があるなら、アライアンスだとどうなるんだろ…というのは気にしないでおこう。
そんなわけで、戦闘準備。猫以外のみんなは戦闘装備にお着替えだ。以前のカソック祭と違って、今回はみんな本気装備である。
ノーカさんは角の生えたフルフェイス、でも鎧はハーフアーマー。ユミーさんに「炎上し続けるにはハミ肉がいるのよ」と解説されて猫は白目になった。ハミ肉…!
全体的に黒と銀の装備で、ちょっとカソック感がある。第一印象がそうだから見えるだけかもしれんけど。
ユミーさんとアルミハクさん、タスクさんはお揃いか?と思うほど似てる装備で、これが量産型メインヒーラーってやつらしい。なるほどオーソドックスなやつ。
いかにも神官服といった様相の白ローブに、金の縁取りでやはり白のチュニック、ブーツも白。杖はワンドではなくロッドの長いやつ。
頭装備とアクセサリーにはちょっと個性があって、ユミーさんはティアラと白い翼、アルミハクさんはボンネットと後光、タスクさんは僧帽と後光だ。これだけでもかなり印象が変わって見える。
彼らは召喚獣も出していて、ユミーさんはむくむくの大きなウサギとなんだかファンシーなゾウさん。タスクさんはぬりかべのようなゴーレムを2体。アルミハクさんはタスクさんと同じゴーレム1体と、もう1体は小回りのききそうな細身のウッドゴーレム1体。
神父さんは逆に黒一色の装備で、カソック感が強い。ちなみにローブとチュニックは量産型の色違いだそう。黒に銀の縁取り。
しかし武器は大鎌で、ブーツはハイヒールのごついやつ。頭装備は羊の角となかなか個性を出している。
神父さんの召喚獣は小さな妖精が2体だ。
魔法師の2人は隠者の村でもフル装備だったので見たことがある。
いかにも魔法使い!といった服なのはタレイアさん。全体的にカラーは紫と黒。まず目を引くのは猫の持ってたものより一回りつばが大きく、中心には目玉がついている魔女帽子。つばから装飾が垂れ下がっているのはアクセサリーなんかな?
服はウィザードドレスにも似たドレススタイルで、裾はマーメイドライン。体を中心にホログラムのように魔法陣浮かびあがっていて、ちょっとキーボードっぽい。
エンジェルさんは魔法使いというより学者スタイル? 学士帽にメガネでそう見えるのかもしれない。ローブに合わせたチュニックは深緑に金の縁取り。上着装備で魔力をあげようとするとチュニックになるんだろね。
2人とも召喚獣はゴーレム1体に妖精3体という組み合わせ。やはり魔法師だと召喚獣を多めに出せるのだろう。
こうしてみんなゴーレム系を持ってるのをみると、猫もゴーレムを探さなきゃという気持ちになるな。やはりドゥーアだろうか。
猫はあまり詳しくないのだが、合計人数が18人(フルPT3組)以上になるレイド戦では召喚獣は1体まで、大型の召喚獣は出さないっていうマイナールールがあるらしい。処理落ちの可能性が高まるとかなんとか。
なのでこんなに召喚獣が出てるのを見るのは初めてだ。みんなの召喚獣も含めて、絵面が大変わちゃわちゃしている。
「勝利条件はおそらく時間内決着、制限時間を越えたら相手は飛び立って逃げるはずです」
「つまり制限時間生きのびればデスペナなし!」
「負けても革命イベントで美味しい!」
「これ無理だあ~てなったら逃げて生きのびよう」
「生きのびさせるのはそこそこ得意です」
「私もです」
実に頼もしい!
次回ついにBOSS戦!
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今週もお疲れさまでした。
次回更新は10/7(月)です。