17.鳩ポッポ商店街
区切りの関係で短めです
いつものギルド通りから、露店通りじゃない道を通って東側へ。たしかこっちにあるって門番さんに聞いた。最初に来たときに。
お、あった。鳩ポッポ商店街。
自由を象徴する鳩ポッポが目印。NPC商店以外に、プレイヤーが店を持ってたりもするようだけどどれがどれかはわからない。少し通りを外れると、NPCの露店通りになる。ちょっとお高いけどすぐ食べられる屋台飯とかがたくさんあるらしい。
というか、ここは猫が交易チュートリアルでアルバイトした通りだにゃん!?
串焼きのおじちゃんはいるのだろうか!? パラレルだったらちょっと寂しい気がしなくもない。
はたしておじちゃんはいて、猫のことも覚えていて、手を振ってくれたのだった。
「おじちゃんにゃーん!」
「おっ、がめつい猫よ、元気だったか!」
「ひどくない?」
「500zのバイト代は高かったが、看板猫だったからな」
ガハハ、と笑いながら串焼きを1本無料でくれた。
「おじちゃんのおかげで商売も軌道に乗ったにゃん。10本買うにゃん」
「おっ、金持ちになったなあー! まいどあり!」
1本50zの串焼きを10本。まだまだ残っているが、こういうのは縁である。
「もし『ミミットの腿肉』があるなら買い取るぞ」
「おじちゃんまた仕入れが甘かったにゃん? 仕方ないにゃあ」
『ミミットの腿肉』は料理に使う予定だったが、こういうのは(略)。
「おお、ありがとうよ。猫は『行商』を目指してるのか?」
「うーん? …うん、決まった場所で店を開くよりは、あっちこっち行って商売する方が楽しそうにゃんね」
「そうか、そんならこの店に行ってみるといい」
おじちゃんにメモを手渡されると、ぽわんと地図にマークがされた。おお?
「ありがとう、気が向いたらいってみるにゃーん!」
「おお、またおいで」
ううむ、本当に縁がバカに出来ない。
さすが商人チュートリアルの縁…。
メモを開くと、簡単な地図と、箱に棒がついた下手くそな絵が書いてある。
これは……、岡持ち!
出前するの?
行商…というか、商人用のアイテムなんだろうか?
しかし昨日は中級錬金釜にすべてをつぎこんだので、現金収入がなく、猫の全財産は今4万……いや、見栄をはりました、3万ちょいです。
ジョブ専用アイテムはいいお値段するのだよね。とてもじゃないけど岡持ち?は買えないだろう。でもせっかく紹介されたし、買い物終わったら見にいこっと。
買い物リストによると『ティーポット』『茶漉し』『お湯用ポット』『小麦粉』『調味料』『大根の種』『皿』、あと『麦わら帽子』『ガーデニングエプロン』が欲しいです。
そろそろ初心者装備も完全に着替えた方がいいのかな、と思わなくもない。
でも初心者アピールをしておいた方が対外的にいい場合もある。露店で話しかけたりしてもらえるしね。
露店で話すといえば、執事さんに『羽根出来たよメール』は送っておいた。
執事さんも初心者釜の罠について掲示板で知ったらしく『こういう現象が起きるらしいので無理はしなくていいし全然急がないので気にしないでね(意訳)』のメールを昨夜くれていたのだ。
なので『既に入れてしまい、昨日はフレとダンジョンで楽しく遊んだので気にしないでね、そして出来てたよ(意訳)』のメールを送っておいた。
出来たアイテムの説明は添付できるので、貼り付けてある。しかしこの方法だと猫の知識による情報しか開示されないのが難点。まあ雰囲気は伝わるだろう。元の羽根とのサイズ比較に写真も添付しておいた。元の羽根は写真に収まりきらなかったが、小さくなったことは伝わるだろう。猫は写真が下手。だって猫だにゃん。
閑話休題、そんなわけで装備変更は悩ましいところ。
装備関係は純生産じゃないと難しいとはいえ、初級品なら結構、半生産くらいの人々が作っていたりもする。なのでマケボには色々あふれてる。
性能いろいろ、見た目いろいろ、悩むね、猫は何着ても似合っちゃうから…。
というか性能については何を重視して装備したらいいかわからん。育成の方向性がまだ定まってないってやつです。
たしかに初心者装備はパジャマ、ローブだからネグリジェな感じなんだけど、これはこれでもう愛着もわいてきた気もするし、急いで着替えることもないかな~。そして先送りへ…。
道具屋の並びを覗いて、大きめのお湯用ポット、というか『ヤカン』を買ったり、『ティーポット(茶漉し付)』などを買った。
これらは料理道具に分類されるようでそこそこ高い。でもお茶は入れたいので買ってしまった。やはり3杯用らしいので、この世界のお茶は3杯1セットが標準らしい。
ティーコゼーやマットのような趣味の品もある茶道具専門店だったが、誘惑を振りきってポットだけ買った。くう! いつか買う!
次は食材店で『小麦粉』と『ふくらし粉』を買い、調味料…と思ったが香辛料は思ったよりずっと高い。でもよく見たらこれは『冒険者の知恵~採取すべき植物について~』という本に書いてあった実や種や葉である。
お前が採取してくるんだよォ! ということで今度外出るときにはちょっと森の方まで入ってみよう。今日のところは、調味料は塩だけ。あとは買わない。お金ないし!
食材店に野菜がなかったので聞いてみると、野菜は露店で出ているらしい。なのでそちらへ行くとちらほら野菜売りの姿があった。
見て回っていると、花が咲いてしまっている大根が売っている。大根というか、ラディッシュ? 二十日大根よりかは大きい、猫の拳大。ちょっと丸っこくて赤い。しかし格安だ。
「これは取れたて?」
「もちろん取れたてだよ! 豊作で収穫が間に合わなくてこの様よ。でも食えなくはないし、ロバにあげるのもオススメだよ!」
ハッ。ルイは食べれるのか?
お試しに1本あげる、とおばちゃんがくれる。食用可能の野菜であり、品質は最低、廃棄になる一歩手前だ。こういう食材アイテムはテイマーギルドでも見た。ルイに差し出すと、花から根まですべて美味しそうに食べた。
「全部買うにゃん!」
「おっ、太っ腹! ありがとうよ!」
篭いっぱいの――アイテム名は『赤ラコラ』は最低品質だけあって破格の100zだった。収納すると100個あったから1本1z。こんなん収穫して運んでくるだけで赤字では?
「安すぎにゃん?」
「せっかく畑になったものを溶かすよりは、犬でもロバでも食べてもらった方がマシよ!」
がははとNPC野菜売りのおばちゃんは笑う。
「それに赤ラコラは豊作だったしね、畑の妖精に嫌われたくないもの」
「畑の妖精?」
「いい畑には妖精がいるっていう、迷信みたいなものさ。豊作になったからといって廃棄しちまうと、妖精に嫌われて収穫量が落ちるのさ」
ほほう。採る以上のものをLV上げのために作って捨てると収穫量が下がる、みたいな話だろうか?
それとも採れたものは売る方が収穫量が上がる?
まあ、ただの雑談かもしれないけど。
『赤ラコラ』のお礼代わりにおばちゃんの露店から野菜をいくつか買った。
南瓜のような『橙プキン』、なにかわからんけど豆類の『ペ豆』など。やはり生産施設で買うよりも安い。
しかし野菜売りのタイミングもあるのか、売ってないものもあるし、売っていても品質がよくないものもある。逆に品質がよくて安いものもあるようだ。
結局食品や料理関連の店だけ回って疲れてきたので、今日の買い物は終了。お金も1万を切ってしまった。茶道具専門店がすべて悪い。
あ、そうだ、おじちゃんに教えてもらったお店も行かねば。
……いや、店構えで察した。
荷車と屋台の店だこれ。岡持ちと思った絵は、ルイに引かせる荷車の絵だったんだよ! なんと。
荷車についてはいずれ欲しいと思っていたので調べたことがある。荷車というか押し車?人力でもいいのだが、あれは簡易屋台になるのだ。チュートリアルでレンタルできるといってたアレである。
屋台があれば、露店通りじゃなくても、セーフティエリアならどこでも出店可能になるらしい。都市外での開店は露店にならう。
屋台は商業ギルドでレンタル可能だが、かなり高いので、日常的に使用してる人は少ない。
しかし木工で荷車自体は製作可能なので、都市外のセーフティエリアで屋台店を出す人はぼちぼち増えている。ダンジョン前店とかあるんだって。
しかし都市内だと、木工荷車の屋台は無登録出店だと衛兵に怒られる。登録申請は各都市それぞれで必要で、お使いクエストのような長いチェーンクエストと膨大なアイテム、金が必要になるそうな。さすが商人のジョブクエストと恐れられるやつらしい。
ううん、これは絶対高いやつ。でもちょっと見ていこう。
ひょこんと覗くと、木のいい匂いがする店だ。
受付にお姉さんがいて説明してくれたことには、やはり屋台を出すために使う荷車の店らしい。完全紹介制らしく、「紹介状のない方にはお作り出来ません」と言われてしまった。
屋台のおじちゃんにここに行ってみるよう言われたことを話すと、何かメモをもらったかと聞かれたのでもらったメモを渡す。
「たしかにご紹介いただきました」
お姉さんは微笑んだ。
なんでも人の縁を大切にする店なので仰々しい紹介状などはないらしい。こうした殴り書きのメモと紹介主の名前とマークが書かれているものが紹介状なのだとか。
マークって岡持ち!? あ、岡持ちは違う? はい。
この名前の末尾にあるおでんみたいな絵がおじさんの店のマークらしい。たぶん串焼き。
「そういったメモを捨ててしまう人や、彼らがメモを渡そうと思わない人とはお取り引き出来ませんから」
上品そうに笑うお顔がちょっと怖い。高級そうな店構えだけど、実は地元密着型みたいなやつなんだろうか?
猫、荷車は欲しいけど店を出す機能はあまり使わないかもしれない。
受付のお姉さんに今後ロバから馬へ変える予定はあるかと聞かれたけど、ないです。ただまだ成長途中の従魔なので進化してサイズが変わる可能性はあるかも、と伝えると「そのときはまたご相談させてくださいね」と微笑まれた。
ロバ用の荷車をあれこれ見せてもらい、これ、と選んだいちばん小さくて白い幌付き荷車は、驚きの500万z。いや店を買うと思えば全然安いくらいだろう。
テントになる機能もついていて、中で眠れば『ぐっすりバフ』も得られるようだ。旅をするようになったらこれがあったらいいのかも~て思ったけどセーフティエリアであればマイルームに戻れるじゃん?
危うくだまされるところだった!?
「今は新しい設備投資をしたばかりで、手許不如意にゃん。お金を貯めて出直すにゃん~」
「いつでもお待ちしておりますわ」
受付さんの微笑みを背に店を出た。
500万かぁ…。
ルイとの荷馬車旅への道は遠いにゃ~ん。
猫は新しい散財目標を得た…かもしれない?
鳩ポッポ商店街はプレイヤーにも人気の場所。
特に料理人や、美味しいご飯を求める腹ペコさんはみな通っている。街の門からは遠い場所にあるため、ドドンとまとめ買いする人が多い。よって肉が足りなくなるのはあるある。常連は材料持ち込みで調理してもらうことも。
評価、ブクマ、イイネありがとうございます。
星を見上げて続きを書いています。
岡持ち→蕎麦屋や中華屋が出前するときに使う銀色の持ち手つき箱。蕎麦屋では現役。