7.新しい金策
杖の形はオーソドックスなスタッフだが、わずかに歪曲した流線型の形がレトの短い手でも杖が持ちやすく工夫されている。
そして嵌め込まれた魔宝石部分も、形こそそのままだが、かなり雰囲気が変わっている。元々『カーバンクルの魔宝石』は、深い青色の石に鮮やかな金色が混ざりあい、傾けるとキラキラする石だった。それが今は石の周りに金の光がチカチカ瞬くような、星空のような風合いに仕上がっている。
「とってもいい杖をありがとうにゃん~!」
「どういたしまして。こっちも久々にいい仕事ができたよ」
お、「いい仕事が出来た」いただきました。
NPC生産を頼んでこれに準じる台詞がでた場合は、生産クリティカルでプラス効果のイレギュラー品になるそうな。
……あ、これかな? 『カウント+1』というアビリティが出ている。「『カウント』使用時カウント数を+1」だって。リカレント回数が増える…じゃないか、カウントっていってるもんね。本来、時魔法は術者の『属性魔法』スキルの数を参照するはずだから、そこをプラスするんかな? だとしたら、なかなか破格の効果だ。ロアンが魔宝石を抜けて減っていた分が補えることになる。
いい仕事のお礼にロメオさんには『猫まっしぐら』をプレゼントした。ちなみにこれは迷い猫クエストで迷子の猫ちゃんを誘い出すために作った、猫特製「『イワッシー』を柔らかくなるまで煮込んでほぐしたやつ」だ。『イワッシー』以外は浄水(ピュリファイ産)しか使っていない、猫ちゃんにも安心無添加、これのせいで野良猫にも襲われたくらいの逸品である。ちなみに料理名は自動でつきました。
これさえあれば強面でも野良猫ちゃんにモテモテ間違いなしにゃん!
はい。
実は大の猫好きであるロメオさんには大変好評だった。『イワッシー』ならまだまだあるので、また作っておこうかな!
『魔宝石の石包みペンダント』が『カーバンクルの魔道杖』になったことによって、レトのアクセサリー枠が空いた。とりあえず『がま口ポシェット』が復帰。レトも喜んでいる。
しかしレトは『採取』持ちではないし、『カウント』でヒーラーするとアイテム使用をしなくなるので、がま口はいい装備とは言いがたい。ちょっとまた何か考えないとね。でも今はお金がないからまた今度。装備は次から次へと必要になるなあ!
猫のメイン戦力とはいえ、レトにお金をかけすぎの自覚はある。タンクのラージに盾を買ってあげたいし、ルイの蹄鉄を新しいのにしたいし、ルビーの武器も買ってあげたい。といっても、ルビーにどの武器が合うかは未知数なんだけども…。
魔法スキル持ちといってもルビーは魔力もMPも魔法アタッカーとは言いがたく、性能的には素早さを生かしたバフ・デバッファータイプと思われる。元々『狙う』持ちなのでLVが上がれば『投擲』が生えそうな気配も感じるし、スリングショットなのかな? 鳥型もスリングショット装備出来るんだろうか?
……調べたら、鳥用の投擲装備は別途あって、『ハミングショット』というくちばしにつけるタイプの魔道具らしい。うーーん、これまたお高い! まあ従魔や召喚獣の装備は全般高いのだ、仕方なし!
ルビーの本格運用は『投擲』が生えてからになるだろうから、それまでに準備しておかないとなあ。
買いたいものがたくさんあるぅ! また釜チンして資金を手に入れねば…!
そうそう、鳥追い人たちの倉庫からロックランドバルバトロスの羽根が尽きたことによって一時爆発的に値上がりしていたロマン羽根なんだけど、執事セルバンテスさんによると最近はその値上がりは落ち着いて、売れ行きもゆるやかになってきているらしい。
おそらくロマン羽根を作るものが他にも出てきたのだろう、てことで、依頼は『技羽根』『魔羽根』に絞られるようになっている。
セルバンテスさん自身もとっくにロックランドバルバトロスの羽根在庫は尽きており、今は本人が狩ってきた羽根が産地直送されてきている。それにしても3日に1度は100枚送られてくるのだからすごい。羽根ドロップ多いらしいけどさ。
そろそろロマン羽根バブルの終わりが見えてきているので、別のちょうどいい戦力の羽根を探し当てるときが来ているのかもね、てことで、セルバンテスさんの羽根箪笥から日々いろいろ送られてきてもいる。
そっちはロマン羽根のオマケで圧縮しているんだけど(ロマン羽根の報酬が破格だからね)、24時間圧縮になるものについてだけは別途報酬をもらっている。というかこれは圧縮時間長いし強そう、みたいに書いて送ったら報酬が来ちゃったのだ。律儀。
そんなわけで猫は今現在も、3日に1度おこづかいが与えられる成金猫なわけだ。この小遣い制に慣れてはダメだぞ、猫…!
自分に言い聞かせているけど常に欲望に負けている。猫は貯金が出来ない。富の一点集中ではなく円滑な経済活動こそが世界を救う……とかにゃんとかにゃんにゃーん。
そんなわけで昨日お小遣いもらったところだったが、今日から2日間ほどは節制だ。
マケボに何か売れそうなものを並べたり、露店したりするかな。あっ、でも買い取り出来るほど資金がないんだよなあ。何か売るものを作らないと。
うーん、資金繰りならクエストを進めるのもいいか。
たしか探索者ギルドに猫探しクエスト2があったし、『イワッシー』も『チッギョ』も在庫がまだまだあるので『猫まっしぐら』をまた作っておこうかな。ちなみに『チッギョ』の方がレア度は低いのだが、野良猫の食いつきはよい。家猫とか飼われたことのある猫は『イワッシー』の方が好き。舌が肥えておる。猫探しをし過ぎてそんな考察まで捗ってしまった。
ちなみに猫はどちらも特に美味しいとは感じなかったので(味付けないからね)、風猫族はやっぱりガワだけ猫ちゃん。
そうと決まれば久々にレンタル生産施設でもいこう。『料理』の素材はそんなにないけど、野菜はちょいちょいたまっています。何作ろう。目的がないと料理は案外、難しい。
うむむ、野菜のレシピか~。
掲示板……ラコラ……あ、あった。
ラコラって『咳止め湯』作れるのか。なんだろ、『風邪薬』の亜種? クエストででも使うんかな? というかこれは『調薬』、じゃないのか。なんでも『毒止み茶』と同じく、『料理』でも『調薬』でも作れるアイテムらしい。
へええ、黒月夜に隠者の村で出てきたレシピだって。ということは十八道遁術に含まれてそうだ。治癒の歩かな。これ、作ってみよう。ラコラならいろいろなのがたくさんあります!
必要な素材は『ネロアの花蜜』か『粗麦飴水』など液状甘味料と、ラコラ類とな。
液状甘味料だけ買えば問題なさそうだ。素材は施設で買うと割増になるから、先に買っておいた方がよい。
でも『粗麦飴水』なんてあったっけ?と思ったら、『料理』ランク3で買えるようになるアイテムらしい。くっ、足りない…!
いや、でも『猫まっしぐら』とか大量に作ったし、ランク3になれてる可能性もある。念のため料理ギルドへ寄ってみよう。
ランクアップ出来ました。やったぜ。
『駆け出し料理人』になった。どうやら料理人は作った数や種類もだけど、振る舞った数というのもカウントされるらしく、今回はそれが多めだったので依頼クリア出来た。ありがとう野良猫ちゃんたち…。
そんなわけで、無事『粗麦飴水』を入手。これは『粗麦』と違ってインベントリにも入るアイテムだ。粗麦を長期保存させるための神秘がここにあるとかないとか。
さておき、『粗麦飴水』を多めに購入して、準備は万端!
ちなみに『咳止め湯』のレシピはとても簡単。賽の目切りにしたラコラを瓶にいれ、液状甘味料を被る程度に入れてかき混ぜる。するとなぜか入れたラコラが溶けるので、溶けきったら完成だ。
リアルにもある蜂蜜大根と同じようなレシピかと思ったらちょっと違った。ラコラがどうなってるのか謎だが、そこはゲームのご都合である。
レシピの分量で出来上がるのは原液で、『咳止め湯』3回分になるそう。この世界のお湯で飲むものはだいたい3個ワンセット。なお、湯に溶かさない状態では保管出来ない謎仕様となっている。
『毒止み茶』のように『料理』で作れば美味しく、『調薬』で作れば効能高めに作ることが出来る。『料理』『調薬』が揃っていれば治癒の歩は新たな領域へ辿り着くそうで――。
……『調薬』気になっちゃうよね。
猫、実は最近すごく『薬膳』が盛り上がってきている。
というのも風猫族のケータくんがくれた『紅茶(ラヴツレ)』がすごくすごく美味しかったんだよねー! 聞いてみたらケータくんは『調薬』『料理』も持ってるハイブリッドだそうで。
『『薬膳』はまだ出てないニャン』とのことだったけど、出なくてもあのお味が出せるなら…!て思ってしまうのよ。茶葉のブレンドというか、飲み物のアレコレって『薬膳』担当みたいだから。
ポーツで飲んだクラフトコーラも美味しかったしなあ…!
現在の猫のSPは、130SP。ジョブランク5に上がったお祝いSPで一気に潤っただけで、これは大切にしないといけないSPではあるのだが……、SPは使うためにあるとも言うッ!
ケータくんは『調薬』と『料理』は素材と道具が違うだけで過程はほぼ一緒といってたし…信じるぞ。取っちゃうぜ『調薬』! チャリーン!
そして早速調薬ギルドへ。まずはジョブをもらって『見習い調薬師』になった。
依頼は、薬草(若葉)を納品したり、薬草葉を納品したり、下級ポーションを作ったり…と予想通り。噂の『風邪薬』納品もあった。
『下剤』とか『整腸剤』、『解熱剤』などいろいろ納品専用アイテムがあって、面白い。そりゃ『料理』だっていろいろあるんだから、薬もいろいろあるか。
あ、『咳止め薬』の納品もある。『咳止め湯』ではないからレシピが違うのかな?
レシピを、と聞いてみたら、なんと『調薬』のレシピは購入らしい。ジョブによっていろいろ違うんだなあ!
「購入したレシピで作ったアイテム以外は、買取してくれないにゃん?」
「いいえ、こちらの買取品目にあるアイテムで、品質が水準に達していれば買取致しますよ」
ギルド内には鑑定士がいて、その鑑定に合格してればギルド発行のレシピじゃなくてもOKと。つまりジェネリック医薬品? いや、何か違うな??
ギルドで販売されているレシピは手順や素材がきっちり精査されたレシピなので、野良レシピより効率のいいものが揃っているから買うことをオススメする、とのことだった。
なおゲーム的にはレシピを購入するとそのレシピの成功率が上がるように出来ているので、成功率の低いレシピは既知でも買った方がいいそうだ。逆に下級ポーションのようなほぼ失敗しないレシピは、買わなくてもいいそう。
書庫もあり、レシピも探せば書庫にあるそうだが、とりあえずはいいかな?
『調薬』は『錬金術』と違ってスレが複数あるくらいに賑わっている。検索すればレシピのひとつやふたつ、すぐに見つかるのだ。
猫はpot作りたいわけじゃないしね! 目指すは美味しい紅茶と『薬膳』だ。
猫はついに『調薬』を取得した!
『毒止み茶』→3章25話
今週も月水金に猫をお届け。まったりのんびりいきましょう~
次回更新は9/25(水)です。