幕間:錬金術講座
お休みの隙間にそっと猫をお届けです。
リーさんとレンタル生産施設へやってきた。
「ようやく私もランちゃんに教えられることができたわね!」
「よろしくおねがいしますにゃん~!」
今日はリーさんから『錬金術』の『変成』について教わる。というのも『変成』、ギルドの書庫に詳細が書かれた本がなかったんだよね。一応、秘密の書庫にはあったんだけど、全然何が書いてあるのかわからん本だったのだ。
なのでお手上げ~とリーさんに相談に乗ってもらった次第。快諾してもらえてよかった。掲示板はあいかわらず閑古鳥だし、錬金術師の知り合いがいる猫は恵まれている。
「自由都市の書庫は、たぶん初心者用のチュートリアルなのよね」
「にゃん?」
「廃都の方だと、あれこれ教えてくれるチュートリアルNPCがいるみたいに、自由都市は本なんじゃないかって話。第三エディションが出るまで、自由都市って初期スタート地点には向かないって言われてたのよ、不親切だって」
第二エディションまでは、あくまでまず廃都があってそれから自由都市がある、というスタイルでチュートリアルがほとんどなかったらしい。
一応それについては公式から見解が出ていて、「自由都市スタートがあるのはそれ以前から遊んでる人と合流しやすくするため」と説明されてたんだって。第二エディションが出たばかりの頃は転移施設もまだなくて、歩いて移動が当たり前だったそうで、廃都まで迎えに行くのが大変だろうという配慮だったそうな。
ところが長らく第二エディションが最新の状態が続いてしまった。その間に転移施設ができ、自由都市スタートの理由は意味を失い、不親切な状態で残っちゃったんだって。
NPCが追加されたりと何度かテコ入れはあったけど、既に攻略サイトにも「自由都市にチュートリアルはない」とか書かれたあとだったりして、あまり発見されなかったそうな。
言われてみればたしかに、自由都市のギルドって、他より受付さん多いんだよね。それぞれが何らかのクエストを持ってるのかもしれないが、特にヒントもないし、わかりづらくはある。
……いや、魔法師ギルドの教本に詳しい受付お姉さん、銀髪のあの人にはアレコレ教わってるし、猫はなんらかのフラグを踏んでたのかもしれない。そう考えると、チュートリアル感なくて広まりにくいのも仕方ない気がする。はいこれクエストです!て感じじゃないもんね。
閑話休題、『錬金術』である。
「第三で学園都市実装のついでに、各ギルドにわかりやすく……といっても全然気がつかなかったりもしたんだけど、書庫が出来たじゃない? そう考えるとチュートリアルの追加だったのかもね~、て」
「にゃあ、なるほどにゃん~」
『変成』は錬金術LV30で覚えるアーツ、となれば、初心者用チュートリアルの書庫にないのも致し方ない、というわけだ。
「さて、変成で使用するのは『中級錬金釜』か、『変成の釜』よ」
「専用の釜があるにゃん?」
「ええ、『変成』の成功率と精度をあげるならこちらの釜を使うほうがいい……んだと思うわ、たぶん。ちなみに私はあまり『変成』はしないから持ってないわね」
「安いものじゃないし、不足を感じたら買う、くらいで考えておけばいいにゃんね~」
「そうね~」
『変成』は『圧縮』の上位スキル。10個集めての『圧縮』じゃなくて、1個から出来る。
アーツの説明によると「アイテムを変成させて新しいアイテムに変える」アーツということで、微妙に何の説明にもなってない。『圧縮』は「同一アイテムを10個圧縮し新しいアイテムに変える」とわかりやすかったというのに。
アイテムをどのように変成させるのか? 『変成』ってなに?ていうところからして謎なのである。
謎すぎて、もらったレシピ以外では今のところ『雑草』しか試していない。失敗をするにしても、せめて何が起きてるのかは知りたいよね!
「これはメインストーリーの派生で出てくる、錬金術師のサブクエストで出てくるヒントなんだけど、ネタバレは大丈夫かしら?」
「問題ないにゃん~!」
錬金術師が出るサブクエがあるとは知らなかったけど、自由都市から出てきたジョブなんだから、そりゃ多少は擦ってるクエストもあるか。
錬金術師ってどんな傾向なんだろね? ギルドの受付さんや司書さん以外では見たことがないから、キャラクターの想像がつかない。ROM金術師のせいで引きこもりイメージだけが先行している。
「『変成』とはアイテムの本質を変えることではなく、形状を変えることだ……というのがその錬金術師の話にあるのよ」
「本質ではなく形状」
「ひとつとか、同一アイテムでも『変成』出来ちゃうから罠なんだけど、実はふたつの異なるアイテムでやるのが本式らしいの」
「そうだったにゃん!?」
もらったレシピが同一アイテムで作るレシピだったし、『圧縮』の上位アーツっていうからすっかり同一アイテムでのみやるもんだと思ってた!
これは早めに泣きついておいてよかったかもしれない。猫ったらファインプレー。
「最初に釜に入れたアイテムの形状に、後から入れたアイテムを変成させるのが基本だそうよ」
いわく、最初に石を入れて、あとから草を入れたとすると、草の効果を受け継いだ石が出来る……というのが、『変成』であるらしい。
「もちろん、うまく効果が移るとは限らないんだけどね」
たとえば投擲すると毒になる石を作ろうとして、石に毒草の効果を移してみたとする。移らないこともあるし、『食べると毒になる石』という微妙にそうじゃない石になったりするらしい。うーん、たしかに「性質が移る」ってそういうこともあるのか。
リーさんの所感によると、最初に入れる方の品質は悪い方がよく、後に入れるものは品質がいい方がよいそうだ。
や、ややこしいぞ。
「錬成陣と考え方は同じなんだと思うわ。傷がついていないと、入っていかない、みたいな」
「そう考えるとちょっとわかりやすいにゃん!」
ふむふむ。
「同一アイテムを『変成』させる場合は、凝縮させたようなアイテムが出来るわね。『圧縮』はこう、ぎゅっと固めたような塊で、『変成』は濃縮したエキス、て感じかしらね」
もらったレシピの『泥玉』を『泥塊』にするレシピも、『泥玉』から不純物を取ったようなものが『泥塊』だ。納得感がある。
「調薬と相性よさそうにゃんね?」
「シナジーはたしかにあるわね!」
『変成』の問題は、形状を指定する最低~低品質アイテムの入手が困難という点に尽きるらしい。
レア度は形状に準じるそうなので、レア度は高く、品質は低い素材が肝になってくるそうだ。どこまでも錬金術師は品質の低い素材に縁があるんだなあ。
「それからこれは大変なお知らせなんだけど、ランちゃん」
「にゃん?」
「『変成』は釜の魔石属性で結果が変化しちゃいます」
「にゃん!? つまり結果は18種類!?」
「もちろん変化しない属性もあるからなんともいえないけど、クリティカル変化と通常変化と失敗はあるみたいよ」
「にゃあ~…! 大変にゃん…」
自分でレシピを探してみようという気力がゼロを振り切ってマイナスになりましたな…!
いや~、単品アイテムだけを使ってというのであればまだ出来るけど、組み合わせを探すなんて猫には絶対無理な世界。人のレシピを頼りに他力本願錬金術師として生きよう、そうしよう。
ときどき日曜大工ならぬ日曜錬金して遊ぶくらいでちょうどいいんじゃなかろうか。
「ちなみに形状についても、何が残るのかいまいち謎な部分が多いわ。いちばんわかりやすいのは状態…液体か固体かだけが受け継がれるパターン」
水を最初に入れると、大抵のアイテムの性質が水に移るそうなので面白い。とはいえ、低品質の水って代表例が「まずい水」で、すべての性質が消えるわけではないため「まずい○○の水」みたいになって絶妙に使いにくいアイテムになってしまうらしい。残念仕様…!
「次に多いのが固体の、更に形だけが受け継がれるパターン。たとえば花に石の性質を移そうとして、花型の石になっちゃう、とかね」
まさに形だけ継承するパターンもあるのか。
うまく使えばアクセサリーとかに出来そうな効果。
「それから、ちゃんと元のアイテムのまま、効果だけが乗るパターン。これがたぶん成功ね」
リーさんがいちばん成功した!と思う例だと、『治癒草』に『魔力回復ポーション』を『変成』した『魔力治癒草』があるそうだ。これでポーションを作ると、HPMP回復ポーションになるんだって。おお!
でも治癒草の最低品質を入手するのはなかなか難しくて、確立したレシピには出来ていないらしい。ちなみにそのとき使った素材は、農家レイドのときにもらったんだって。
ううーん、必要材料が少ない分試せる回数は多そうだけど、これはこれで考えることがたくさんあって大変そうだぞ…。
「私の方で『変成』についてわかってることはこんな感じね! 参考になったかしら?」
「とってもなったにゃん! 猫ひとりだったら全然何もわからずぶん投げてたにゃんよ~!」
「それならよかったわ。あんまり多くないけど、私が作った中で、投擲に使えそうなアイテムのレシピをまとめておいたわ。よかったら使ってね」
「いいにゃん!? 助かるにゃ、ありがとうにゃん~!」
早速レシピを受け取ると、『痺れ弾』『小火弾』『音響弾』など面白そうなアイテムが並んでいる。おお、全部『石弾』を形状に指定しているのか。これなら『石工』の失敗作を買い取ればいいので、発見さえ出来ればまとめて大量に手に入るんだって。
なるほど、生産の失敗作狙いっていうのはよいのかもしれない。あれこれ聞いてみたいところ。
「それならポーションの失敗作を使うと簡単に液体に出来たりするにゃん?」
「……ポーションの失敗作!?」
猫が聞いてみると、リーさんはカッと目を見開いた。
「……、そうね? たしかに使えるかもしれないわ…、もう安定して作れるようになってたから失敗作なんて滅多に出てなくてすっっかり忘れてたわでもたしかにそうよね!? ありがとうランちゃん! ちょっと箪笥を漁ってくるから待っててくれる!?」
「にゃ、にゃん!」
めっちゃ早口!
軽い気持ちで口に出してみたが、案外よい案だったのかもしれない。
マイルームへ消えてそれほどかからずに戻ってきたリーさんは「意外と残ってたわ!」と大量のポーションを持ってきた。
そして試しに『変成』してみたところ、無事に成功! ポーションや移したいアイテムのレア度にもよりけりだけど、ポーションの性質を消して『○○の水』というプレーンなアイテムを作れることがわかり、二人で万歳した。やったぜ。
「他の生産とももっとシナジーがあるかもしれないわね! ランちゃんのおかげよ、ありがとう!」
「どういたしましてにゃん~?」
お礼にと大量の低品質ポーションも分けてもらってしまった。いやいやいや、これは素材になるやつじゃん!?て思ったんだけど、リーさんはまだまだ箪笥にあるし、フーテンさんに初心者調薬師とかから買い取ってもらうことも出来るから構わないんだって。初心者支援と実益を兼ねてる…!
そういうことなら~とありがたくもらってしまった。図らずも実験が出来てしまう! や、やるぞ!
それからリーさんとあれこれ話しつつ、いろいろ作ってみたりした。
『変成』ってチンするのに地味に時間がかかるから、ひとりでやってたらすごく時間を持て余しそう。話しながらとか、作業しながらじゃないとやりづらい生産だ。変成専用釜はこの辺が早くなってたりするんかな?
この日出来たものには『濃厚雑草汁』など問題作もあったものの、ポーションが出来たり、『調薬』や『料理』に使えそうな素材や、『燃える水』のようなガソリンか?というようなアイテムも出来た。なかなか面白い結果だったのでは。
それにしてもひとりであーだこーだ考えつつ作るのもまた楽しいけど、人と話し合いつつワチャワチャと作るのもとっても楽しかった。ときどきノリと勢いで突っ走るのもご愛敬だ。
また集まってこうして変成会するのもいいね、ということで次回の開催も約束して、第一回錬金術講座は幕を下ろしたのだった。
錬金術師たちの幕間、『変成』の詳細説明でした。
お休み中も評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。
Xでイラストを描いてもらった嬉しさにお休み中ですが出てきてしまいました。Xでは鍵垢ゆえ不審なブクマで失礼しております(いつも感想などありがとうございます)
4章の更新は予定通り9/9(月)になります。
台風も猛暑もありますが、健康第一、いのちだいじにまったりお過ごしください~