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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
3章 金欠猫には旅をさせよ~誘惑の山旅編~
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65.神さま巡り

月光姿変ツキノヒカリハ・スガタヲカエル身裡引力ミノウチノチカラヲ・ヒキズリダス

『生まれ、巡れ、世を育むものよ、世を作り直すものよ。共にあり、共に暮らせ。かたちとなれ』


 息の合った音と共に、ふわりと光の玉が頭上からあふれ、こちらへ降ってくる。スーッと寄ってきた精霊がまずロニのブローチへ吸い込まれた。

 そしてもう1匹、ふわふわと近づいてくる光はちいさなちいさなウサギだ。

 それは猫の前で止まって、戸惑うようにふるえている。


「にゃあ、友だちになってくれるにゃん?」


 手を差し出すと、ウサギはちんまりと猫の手に乗った。おお、温かい。これは精霊関連では初めての感覚だ。

 ちょっと感動していたら、ウサギはまごまごしている。あ、石を用意しないといけないのか。『ムーンキャッチ』にも『カーバンクルの魔宝石』でもロニのブローチにも入らない新パターン。

 とりあえず購入してあった魔宝石、宝硝子ビジュー各種、魔石、と出していったが反応がない。なかなかこだわり派でらっしゃる!

 あ、そういえば宝石も持ってた。『スフェン』と『トパーズ』。これは畑レイドの巨大ノシシから入手したやつ。

 ウサギはようやく納得いったようで、『トパーズ』に入ってくれた。やったぜ。

 宝石も持ち歩いておくもんだなあ。


面嵌命オモテニハメヨ月光授ツキノヒカリヲサズケル

『光を集めよ、魔のうつわを助く』


 後者は、ムーンキャッチに月光を集めると成長する、て話を言ってるのかな?

 でも前者はなんだろ? 使い方? お面に嵌めると月光を授ける、てなんだろうか。

 運送神の精霊が醤油や味噌の漬物石だったみたいに、この獣の神から授かる精霊にも独自の利用方法があったりする?


何狭間崩去イズレハザマハ・クズレサル心留ココロニトドメヨ

はぐくめ、むしばめ、燃えて貫け、離れはせぬ』


 足元のふわふわした毛がさざ波のように動いて消えていく。うわ、うわうわ、こけるこける! 座ってるのに転ける!

 そのままポーイと放り投げられるような感覚のあと、落ちる! …と思ったら、なにかに跳ね返って止まった。

 ヒェ…。


「びっ……くりしましたね!?」

「ドキドキにゃん~」


 ぼよん、ぼよんと上下に揺れる、なんだかセーフティネットみたいなものが足元にあるらしい。しばらくすると揺れもおさまった。リアルだったら酔ってたな、これ。


 落ち着いてから周囲を見回すと、やはり暗いんだけどぼんやりと上の方が光っている。光は8つ。


「……蜘蛛?」

「ヒィ!?」

『あらあら、あらあら、正体を見破られてしまったわね』


 コロコロコロ、と木琴のような音色の笑い声。


「裁縫の神さま……ですか?」

『ええ。そして私は縁を結びに来たの。縁を結びに』


 ペチカちゃんは加護を持っているから、声に聞き覚えがあったのかもしれない。そして猫よりきっとはっきり見えるのだろう、上を向いてから、そっと目をそらしていた。虫苦手なタイプなのね。


『ここは何者の手も及ばぬ場所。世を越えて絆を繋いだのでしょう、さあ、はぐれないよう、結びなさい、繋ぎなさい』


 アトノ島と同じく、ここで名前をつけていきなさい、てやつだな。


 まずロニはいつもとおなじくロニのままだ。ただいつもより輝いているし、ブローチも『五光のブローチ』と名前が変わっている。 5つの月を経たからだろう。

 おそらくこれ以上の月光パワーアップはないから、固定して昇華も検討したい。まずは新しい住み処を探してあげねば!

 ロニは生まれたばかりの精霊らしく主張が少ないので、ちゃんと意を汲んであげられるかちょっと心配だ。頼むぞ、『魔物の心』。


 お次は『トパーズ』に入った方。ウサギの形で、色は茶色。『トパーズ』が土属性だし、この子も土属性かな?


『精霊に名前をつけてください』

「ロミコ」


 いわんやおトミちゃんから取った。そのままトミコにしようかとも思ったけど、本当のおトミちゃんにもしかしたらまた会えるかもしれないし、精霊はロ縛りでいきたいので、この名前だ。


 ペチカちゃんもうんうん悩んでいたが、ちゃんと名付けることが出来たらしい。ぱ、パパちゃんになってしまったのか…!?

 ドキドキしていたが、ポピーちゃんだそうだ。なるほど、パパちゃんは先送り。


『善き縁を約束しましょう。約束を。仲良くなさい。途切れぬ絆を。……さあ、お帰り、世を越えて。越えた世界の向こう側、繋がりは綻びを結び直す。さあ、繋がる』


 コロコロコロ、と笑うように木琴の音色が降り注ぎ、足元が消えて、またふわりと浮遊感に襲われる。でもさっきと違って勢いはない。浮きながら、ゆっくり落ちていく。

 ザワザワと木擦れが聞こえて、目を開けると見上げるほどの林檎の木と、光る羊が佇んでいた。



『おめでとうございます。異界の扉の防衛に成功しました。DP20を入手しました』

『おめでとうございます。月の軛より囚われ人を解放しました。SP10とDP20を入手しました』

『月の軛より、古き隣人を救いだしました。『ルイネアの使命』についての情報が新たに解禁されます』

『おめでとうございます。狭間に林檎が根付きました。界の揺らぎの安定まで 0/1000』


 お祝いアナウンスがいっぱいだ。

 アライアンスのみんなもほぼ同時に戻ってきていたみたいで、アライアンスチャットも賑わっている。


『SPキター!?』

『マレビトダンジョンくるー!?』


 ちなみに裁縫師互助会は事前にムーンキャッチを買うだけは買っていたそうで(なにしろお金持ちなので)、精霊を捉える準備は万端だ。

 SP10については、互助会では常にSPは20余らせるようにしてるそうだ。苦手なスキルが出てきたときに、そのくらい残しているとあきらめの判断がつくから、とのこと。

 ショーユラさんもそのタイプ。

 逆に戦闘職のオードリーさんはSPがなかったので、赤月夜に向けてLV上げに励み、LVUPお祝いSPで確保してきたらしい。というか学園都市方面での用事ってそのLV上げだったんだそうな。なるほど。


『思い出した。私はストルミ・レイニ。アルテザの人形遣い』


 『祈りの心』から再び出てきた精霊は光の玉ではなく、1人の女性の姿になっていた。


『ルイネアの精霊は女性しかおらんのか?』

『精霊化すると女性になる説』

『男は勇敢に戦って死んだとかそういうやつでしょうか?』

『戦乱の時代ならそういうの、たしかにありそうね』

『いや待って半裸の獣面の男はどうなったの!?』

『それな!』


 そこは猫も気になる。


『ルイネアは人形遣い多かったんかね?』

『精霊使いが多かったのだと思いますわ』


 うん。やっぱりまず精霊使いになって、その後に人形遣いになるっていう分岐なんだろうねえ。


 精霊のストルミさんがさっと手を上げるとスプーキー・インプと小人たちが彼女の元へ集う。そしてストルミさんがかれらに手をかざすと、小人たちは身振り手振りでこちらへなにかを訴えてくる。

 特に互助会のヘレナさんにたかっていて、彼女は右往左往している。


『たぶん妖精女王の人形を出してほしいんだと思うにゃん』

『ああ! そういうことですね!』


 ヘレナさんは目を輝かせてうなずき、インベントリから人形を取り出した。

 すると小人たちは人形を抱えて、ストルミさんの方へ一直線。


 精霊のストルミさんが1体の小人の背中に触れると、その小人はてきぱきと人形の背中を開けて作業し始めた。小人の動きに合わせてストルミさんの手が動くので、まるでマリオネットを操っているみたいだ。

 そして今度は別の小人たちがショーユラさんへ集る。

 ここはショーユラさんもわかったらしく、『祈りの心』をかれらへ手渡した。


 人形製作がしたいナマナマさんや、裁縫師互助会、それにショーユラさんがガン見する中、作業は進み、しばらくすると背中は閉じられた。


『やはり『真鍮線』を『祈りの心』に絡めていくのが正解でしたね。それにしてもあの模様はすばらしいです!』

『あんなレース編み、編みたーい!』

『繊細かつ優美! なんにでも応用がききそう! 編みたい…!』


 互助会には大人気の作業だったが、ナマナマさんとショーユラさんは苦い顔だ。


『糸かけの順番教えてくれたらかろうじていける…か?』

『いや~~ぼくの苦手分野でしたね! 編み物は無理なんですよね! スキルも捨ててるしなー!』

『そこは分業ですわよ! 運営も推奨していることですし』

『はっ、そうですね!』


 アライアンスチャットで話し合われる中、無事出来上がったらしい人形の中へストルミさんが吸い込まれる。


 すると妖精女王の人形はゆっくりと目を開き、くるりとその場でターン。そして優雅にショーユラさんへお辞儀した。


「ありがとう。あなたが私の主になるのね」


 見た目に似合わず子どものような声で人形が告げる。

 妖精女王はいわゆる1/3ドールと同じようなサイズ感で、身長は60cmほど。


「よろしくお願いします!」


 ショーユラさんがそういって手を差し出すと、ふわりと飛んで、その腕にちょこんと乗る。テディベアの腕に乗るお人形さん、どっちが本体かちょっと迷う絵だな。



 羊は感涙にむせび泣いていたが、これまでの経緯については語ってくれた。


 まずここには人形遣いの村があったが、そこに異界の扉が繋がってしまい、村は飲み込まれてしまったこと。

 そしてこれ以上異界が広がるのを防ぐために、ストルミさんが生け贄となったこと。


「寡聞にして知らないのだが、ルイネアには異界の扉に生け贄を捧げる文化があったのかい?」

『ルイネアはこの現世うつしよを守るために生まれた原初の精霊の子……と言い伝えられているわ。私たちに他の生き物のように死が存在しないのは、異界が広がるときその身を捧げるため。私たちはそのとき、異界を塞き止める壁になる』


 なかなか重たい話が出てきたな。

 プレイヤーのルイネアがそれを迫られるシーンはさすがに出ないだろうけど、逆にNPCルイネアはそれによって死を迎えることがあるわけか。


「はい! 林檎があるとなんで大丈夫なんですか?」


 オスシさんが手を上げて聞く。


「林檎は原初の木。世界を繋ぎ、現世を守る。そして異界をも繋ぎ止めてきた。現世を守るのに、これほど適したものは他にない。……けれどこの木は、人の争いによって失われつつあった。まだ、滅びてはいないようだけれど」


 権力者が林檎を狙って戦争云々っていうのも、不老不死の実だからじゃなくて、こういう実利ある効果の方を求めているのかもしれない。

 …まあ戦争フェイズには入りたくないので、猫はその辺ノータッチなんだけどね!



評価、ブクマ、イイネありがとうございます。

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