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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
3章 金欠猫には旅をさせよ~誘惑の山旅編~
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64.ルイネアの使命

くびき――というと、月の軛かい?」

『是』


 羊が林檎へ向けていた頭を少しあげると、スプーキー・インプが2体、ふわりとやってきて林檎を両脇から支え、どこか恭しい仕草でポユズさんの手から持ち上げた。


『月の軛って、たしか精霊を神様にして幽世かくりよを安定させる……みたいなやつだったよね?』

『これ本当にやっちゃっていいやつ??』

『いやいや、ルイネア、精霊じゃないじゃん?』

『残念ながらルイネアには『長く生きたものは徐々に眠りに落ちて精霊になるのを待つ』という伝承があるのですわ…』


 そういえばシャイアネイラさんと会ったときにそんな話を聞いたっけ。不老のルイネアには不慮の事故以外での死はなく、それに近いものが眠りとされている。

 身体に危機が訪れると寝てしまうし、ちょっと飽きたなと思っても寝てしまう。NPCルイネアはわりと自由人が多い。

 マレビトプレイヤーのルイネアだって、だいぶ古い時代に退屈を持て余して眠りについたのが今になって目覚めてきた、という設定だしね。だから好奇心旺盛で里でじっとしてなくて冒険に出ちゃう、という設定がされてる。

 ルイネアは公式公認現世うつしよの妖精族だから、設定がかなり細かい種族なのだ。


『解き放っちゃっていいものなんだろうか……いや、今更なんだけども』

『大丈夫だろ、林檎が代わりになる的な話なんじゃないか?』

『だといいなあ!』


 なにしろもう林檎持ってかれちゃったから「やっぱキャンセル」は出来ない。なるようにしかならないのだ。猫も提供した側としてちょっとドキドキである。


 果たして林檎は、スプーキー・インプによってふわふわと瓦礫の上へ運ばれていった。


『あ。あれよ、噂の祠』

『思ったより損傷が激しいにゃん』


 噂の然るべき場所の祠らしい。てことはもしかして、祠はルイネアの墓で、眠ってるのがストルミ・レイニさん??

 名前呼んだら精霊として目覚めちゃうの!?

 猫のソワソワをよそにイベントは進行し、損傷した祠の上に林檎が置かれる。


 すると南中した赤月から月光が柱のように降り注ぎ、その光がまるであふれるように、祠からポコポコと光の玉が生まれ始めた。

 そしてその光の玉たちが、次々と林檎へ吸い込まれていく。林檎はどんどん光輝き、爆発するようにバリッと二つに割れた。


 芽が出たのだ。

 にょきにょきと生え始めた根と芽がぐんぐんと大きくなり、茎は赤く、葉は緑に伸びていく。あっという間に小さな木となった。

 その木の上には一際大きな光の玉が浮いている。


『月の軛よりルイネアの魂が解放されました。

 異界の扉に林檎が芽吹きました(修復率1/1000)』


 何もわからないけどなんか進んだ感。そして解放されたってことは、やはりいいことだった…?


『おお、おお…』


 羊はふるえて呻きながらも、光をピカピカ放ってるので喜んでいるっぽい。感激に咽び泣いていたのかもしれない。


『察するに、ルイネアが精霊として界の揺らぎを留めてたんかね?』

『そもそも揺らぎって林檎で塞げるんです??』

『でもダンジョン内に林檎生えてたりしますわね?』

『ルイネアって本当に精霊になるんだあ…』


 アライアンスチャットがヤイヤイしている。

 林檎の木の上にある光の玉がたぶん、解放されたルイネアであり、現精霊だと思うんだけど、予想に反して光の玉だ。シャイアネイラさんみたいに人型で出てくるもんだとばっかり。


『ココハ……ワタシ、ハ……?』


 そして記憶喪失!?

 ちなみに光の玉の声はオカリナ。


『おお、我が主。よくぞお戻りくださいました…』

『アルジ…、ワカラナイ……』


 羊が近寄って膝を折るも、光の玉はふるえるばかりだ。


『ワタシハ、コノチノ マモリ。オマエタチハ、コノチヲ オビヤカス モノカ…?』

『いいえ、いいえ!』


 むむ、雲行きが怪しい。なんだか戦闘になりそうな雰囲気か? 羊の説得が失敗している。

 聞いている分にはオカリナとチェロの二重奏で綺麗なんだけどね。

 さてどうしよう。


『あの妖精女王のような人形って、もしかしてこのルイネアの方に使っていただく品じゃありませんこと??』

『あー! それこそシャイアネイラみたいに?』

『でも精霊石?とかついてないよ? その辺はどうするんだろ』

『『宝硝子ビジュー』を使ったのはアイだけですが、眼は2つありますものね』

『そういや魔宝石の加工ってバンザイ先生じゃなかった?』

象嵌ぞうがんして焼いたやつあるけど、これか?』


 バンザイさんが出したアイテムは『祈陶玉きとうだま』の大きなものに剥き出しの魔宝石がついたアイテム『祈りの心』。

 おおお、それっぽい!


『いやいや待て、人形にそんなもん入れる機構ないぞ??』


 エドさんのストップ!

 人形本体を作成した彼によると、特に内部を彫るような指示はなかったので、嵌め込んだり出来るところはないらしい。

 うーん?


『そういや猫ちゃん、お名前どうする?』

『にゃあ、そっちもあったにゃん~』


 あの人の名前とは限らないが、然るべきとき然るべき場所で呼ぶお名前は判明している。

 となると、そっちを使うべきか。


『猫、特に祠にマークとかついてないけどフーテンさんもにゃ?』

『あれ?? 猫ちゃんついてないの?』

『あら、そうなの? みんなついてるとばかり。祠にマーク出てる人~??』


 確認してみると、ついている人はフーテンさんたちと、硝子連合、それからオードリーさんとショーユラさん。他は猫もペチカちゃんも、裁縫師互助会もついてない。

 先に祠を見てるかどうかか?と思ったが、ショーユラさんは祠を見てないらしい。


『ぼく、キノコから先には進めてませんからねえ』


 増えるキノコと死闘を繰り広げて負けたショーユラさんは、そこからはアイテムが集まってきたのでミニダンジョンからは離脱している。なるほど。

 てことは、種族LVかな?


『たぶんLVが足りてないにゃん。そういえば強い精霊は呼ぶものを選ぶとも書いてあったにゃん。属性の力が強いから、相性のいいものを選ぶって』

『あ~、赤月って火、土、雷、毒だっけ?』


 オードリーさん以外は15属性の魔法を習得済、そしてオードリーさんは『土属性魔法』持ちらしい。ちょっと意外。

 『土は攻守バランスよくて使いやすいんだよ』とのこと。猫ったら耕すのにばかり使ってるから知らんかった。

 となると今度は、誰が名前を呼ぶかだ。


『たぶんあの妖精人形を連れ歩くことになるんだよね? うーん…』

『あれは目立つなあ…』

『強さは気になるけどね~~』

『私もあんな繊細な人形とは相性が悪そうだ』


 フーテンさんたちとオードリーさんは消極的だ。


『わたくしたちは今回はお手伝いですから、過分な報酬をいただくわけにはいきませんわ!』

『えっ』

『ナマナマさん、いずれ自分の手で一から作ってみせる!て言ってましたもんね!』

『えっ』

『いやあ、さすが! それでこそ人形遣いですぞ!』

『あっはい』


 ナマナマさんはちょっと、いや結構欲しかったみたいなんだけど、ほとんどのところで関われてないから、と今回は辞退。というのもナマナマさん、今回影でひそかに行われていたドールアイコンペ(品質を競うものだったらしい)で負けたので、人形には使用されなかったという屈辱を抱えているらしい。

 『私のアイを使った人形じゃないですし!』と悔しそうに言っていた。い、いいのかな?


 そんなわけで消去法。


『え、ぼく? いいんです??』

『あの人形は、骨格こそ木だが、実質ほとんど革だ。革工持ちなら修繕も出来てちょうどいいだろう』

『それに姿隠すのも得意やんな?』

『そりゃありとあらゆる着ぐるみに精通した天才のぼく!ですけども! ほんとにいいんです??』


 ショーユラさんはかなり戸惑っていたが、裁縫師互助会から集中砲火を食らった。


『さっさと決めなさいよグズグズして!』

『ほんとは嬉しいくせに!』

『何のために魔法師してんだよ!』

『こっちは羨ましくて仕方ないんだからね!』

『くっ、兄さんの嫁が…!』

『嫁ではない』


 ヘレナさんの当たりがきつい! それだけ妬ましい!キィ!て話らしい。妖精女王の人形、裁縫師互助会ではモデルとして大人気だったらしいからね。


 そんなわけでショーユラさんに魔宝石の『祈りの心』を持たせ、人形を用意し、更に名を呼んでもらう作戦となった。月夜が終わる前に急げ急げ。


 ショーユラさんが進み出る。


「ルイネアの英雄よ!」


 羊と睨みあっていた風な光の玉が、ふわりと浮き上がる。


『るいねあ……ナニ? ワタシハるいねあ?』

「そうです。あなたはルイネア、レイニの御霊みたま。名前はストルミ・レイニ!」


 『祈りの心』を差し出しつつショーユラさんがそう言いきると、光の玉はぴたりと静止した。


『アア……アアア、ワタシ、ワタシハ……』


 そして赤い月光の中、赤の、ピンクの、紫の、茶色の光が洪水のように溢れ出す。目の前がどんどん赤くなり、最後には焼き切れるように白くなった。なにも見えない。


『ぐわああ~~! 目が、目があ!』

『すごく毒々しい!』

『これ大丈夫? 醤油しんだんじゃない?』

『次回、「ショーユラの仇」! 絶対見てくれよな!』

『しんでないしんでない!!』


 裁縫師互助会もアライアンスチャットでノリがよくなって微笑ましい。



 真っ白になっていたのは一瞬で、徐々に闇夜が戻ってくる……と思いきや、どこだここは。

 真っ暗な空間。ぽつん、といるのは猫とペチカちゃん。あ、なるほど。


幽世かくりよよどみにゃんね」


 三度目ともなれば慣れたもんですわ。


「なるほど、運送神のところみたいな感じですね」


 合流したペチカちゃんが小声で言う。

 それにしてもここはどういうところかな。なんだか地面がふわふわ柔らかくて、歩くのがとても難しい。思わず座り込んでしまう。

 ぽよんぽよん。足元を手で探ってみると…、これは、毛皮? ふわふわのもふもふ。

 じっとしていると、じんわりと暖かい。


「なんかまるで大きな獣の上、みたいな…」

是如何イカニモ


 ドオン……と和太鼓に似た音に乗る言葉。

 ぼんやり明るくなり、上に獣の目が見える。デッッカ!

 この位置からするとお腹の上、とかではなく腕の上、あるいは尻尾の上とか、ちょっと離れたところっぽい。


「にゃあ…獣の神さまにゃん?」

『是』


 ふわりとくすぐったいくらい柔らかな毛が触れる。


赤林檎芽生アカイリンゴ・メバエ精霊子解放セイレイノコ・トキハナタレタ


 獣の神さま、和太鼓なのも去ることながら、副音声もかなり独特な発音で聞き取りづらい。ついでにログの文字まで読みにくいぞ!? ユーザビリティ…!

 そんなことを思っていたからだろうか。


『レイニの御霊はまだ幼い。世界の供物になるにはまだ早い。林檎の木の実が成る頃には、あるいは世界が枯れる頃には…』


 カッカッ、と太鼓の縁を叩くような音と共に、また別の声。

 んん? これは他の神さまがいる?

 目の前、左手側に大きな白い手が浮かび上がる。そして右手側には毛むくじゃらで爪のある、獣の手が。


赤月花香繋アカツキハカオルハナニツナガル満毒幽世繋ドクノミツカクリヨニツナガル

『広がれば世は毒に満ちていく、あるいは毒に冒されていく……』


 ドンドンカッと息の合った声。


『……もしかして、二面性のある神さまなんですかね?』

『ああ! そういうことにゃんね! 双子なのかと思ったにゃ』


 なるほど、半人半獣は同時に実現しているんじゃなくて、獣の面と人の面がある神さまなのかも。だとしたら、お面や着ぐるみで加護がもらえるのもうなずける。


評価、ブクマ、イイネありがとうございます。

今週も月曜から金曜まで猫をお届け!

まったりいきましょう~

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