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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
3章 金欠猫には旅をさせよ~誘惑の山旅編~
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62.破れたハンカチ

 考察………猫、考察とか苦手にゃんね。

 誰かやってくれないかな~と思ったところで、猫とペチカちゃん以外は今お忙しい。

 適宜アライアンスチャットで情報共有はしているけど、お返事が「にゃーん!」「にゃん!?」しかないのもそれはそれで寂しいもの。まあ今は時間がもうなくて切羽詰まってるだろうしね、仕方なし! それにときどき裁縫互助会からも「にゃん」があがるのもよいこと。


「ハンカチ奉納が裁縫の神への祈りの儀式だとすると、ここで刺繍した布を使って、精霊?を、まずスプちゃんにするじゃないですか」

「にゃん」

「で、消える前にぬいぐるみを差し出したら、私は小人さんを仲間に出来たんじゃないかと思います。それで『ぬいぐるみがオススメ』…てのはどうでしょう!?」

「にゃん…!」


 ここに考察得意な子がいた…!


「それか、裁縫神の加護をもらってぬいぐるみを用意してスプちゃんとの再会を願うコースでしょうか。そっちの方が自然なような」

「元々はここで小人と契約して二人三脚になるはずが、何らかの理由で小人は避けられるようになった…て説はありかもしれないにゃん?」

「それこそ、小人がいると怠け者になる…とかでしょうね。そうなるとスプちゃんは作られるけど体はなくなって……、ううん、なかなかいい線いってる気がします!」


 むふん、とペチカちゃんが満足げに息を吐く。しかしすぐにそれはため息に変わった。


「でも、スプちゃんのこと忘れちゃうのがよくわからないですよね」

「それは猫、1個気になったことがあるにゃん」

「なんでしょう?」

「ちょうちょ結びにゃん。なんでわざわざ、ほどけやすい結び方が指定されてるのか気になったにゃん。ほら、アトノ島にいた神さまはひとえつぎの神さまだったにゃん? 猫が知るもう1柱の縁結びの神さまは鎖繋ぎにゃん、どっちも頑丈に縁を結んでるにゃん?」

「精霊を繋ぐ神さまが、アルテザではちょうちょ結びかも…、てことですか。だからほどけちゃう?」

「ほどけるのは、たぶんよくないことなんだと思うにゃんね?」


 なんでほどけちゃうのかも謎だし、ほどけたからといって記憶がなくなるのも謎だが、なにしろ縁結びの神さまだ、縁の切れ目で何か起きてもおかしくはない……気がする!


「神社でも縁切りの神さまっていらっしゃるし、そういう神さまがいてもおかしくないかもですね!」

「きっとそうにゃん!」


 どうせ考えても材料が足りなくてわからないので、そういうことにしておこう!

 はい。


「あと気になるのはメエメエ様にゃんね……」

「メエメエ様増えすぎ問題ですよね……」


 うん、これも完全にわけがわからない。ちょうちょ結びの神(仮称)が働くと、その隙間にメエメエ様が入っちゃうのかなあ??

 そうなると、メエメエ様はスプーキー・インプの守護者のように思える。つまり、インプの神さま、てことは、精霊の神さま。

 精霊は神から生まれてるっぽいから、たしかにあり得る、か?


「にゃん~、メエメエ様は通り雨のことだったりするから、たぶん水属性にゃん。次の赤月夜は、水属性関係ないにゃんよ」

「あ~、つまり、メエメエ様は別イベントの神さま、てことですか?」

「たぶん、関係あるとしたら青月夜だと思うにゃん。赤月は火、土、雷、毒属性を司る月にゃんよ~」

「そう言われるとたしかに変な気がしますね」


 元々アルテザは雨が多くてメエメエ様がいる、という前提に過ぎないんじゃないかと思えてきた。例えば「この街は裁縫が有名で、裁縫の神がいます」ていうのとあんまり変わらないのかなって。名前が名前だからちょっと特別感あるだけで。

 そういう話をすると、ペチカちゃんはうんうんとうなずき、それから、首をかしげた。


「にゃん?」

「メエメエ様って、もしかして『森林の神』のことなんでしょうか?」


 あー、アルテザにしかない神さまだもんね。ポーツでいう釣り神さまみたいな。

 そう考えると、たしかにしっくりくるような。

 でもなあ。


「メエメエ様の話に現れた獣面の半裸の男、ていうのは、『森林の神』というより『獣の神』っぽいにゃんね?」

「そこなんですよ! やっぱり、なんかいろいろ混ざっちゃってる気がしますぅ!」


 そもそもメエメエ様が『獣の神』や『森林の神』なら、なんでNPCはそう言わないんだろう、という疑問もある。直接「メエメエ様は獣の神ですか?」と聞いたら答えてくれたんだろうか?


「それに、獣の神ってそもそも、なんでアルテザなんでしょう?」

「にゃあ……」


 そういえばそれも聞いてなかったな。

 『森林の神』はまあ、わかる。森に囲まれてるし、樵の加護っぽいしね。そして『狩猟の神』もわかる。森の恵みってことだろう。

 『裁縫の神』も森の蜘蛛や繭から糸を得たのが始まり…みたいな話がある。

 『獣の神』は謎だ。ここで獣人が種族クエストを受けられるかというと、そんなこともないらしいし。


「そう言われると、たしかになんでかわからないにゃんね?」

「獣の顔を持つものに加護を与えたり、獣のお面を好んでいたり、微妙に獣人の加護ってわけじゃないみたいですし」


 たしかにそうだ。仮面で加護をくれちゃったりと判定はガバだし、どちらかというとお面を褒めてた風なのもちょっと気になっている。


「なーんにもわからんにゃん!」

「ミステリーとホラーは苦手なんですよう!」


 冒険者ギルドでの待ち合わせ時間まで、まだちょっとある。

 神さまのことは、神殿で聞いてみるのが確実だろう。てことで、神官さんを捕まえて聞いてみることにした。


「アルテザに獣の神がおわすのは、かの神像を神が愛したからだと伝え聞いております」

「愛…!」


 全然予想外のところにきた。ペチカちゃんの目が輝いている。


「神像を気に入っちゃったにゃ?」

「はい。元々アルテザのメエメエ様には古くからメエメエ様が暮らしていたと言われておりまして、メエメエ様はメエメエ様を作り出すメエメエ様を使ってメエメエ様を彫り上げたと伝えられています」


 うわあ……。

 メエメエ様大増殖。これはダメなやつ。

 輝いていたペチカちゃんの目も一瞬で死んでしまった。今のはホラーだったね…。


「にゃあ……。全部メエメエ様にゃ?」

「おや? メエメエ様のメエメエ様でも受けてしまいましたか?」

「メ、メエ…」

「破れたハンカチやリボンをお持ちではないですか? メエメエ様は、長く持っていてはいけません。メエメエ様しますので、神殿でメエメエ様していかれるとよいですよ。それからメエメエ様を受けないためには、メエメエ様も有効です」


 何もわからん。

 でも破れたハンカチ、まさしく持ってますな。


「ごめんなさい、私リボン持ってます……」

「にゃあ、猫もハンカチ持ってるにゃん……」


 まさかの。


 ペチカちゃんはアルテザに来たての頃に、NPCからリボンをもらったらしい。リボンとNPCフレンドについて教えてくれた子だったそう。

 もらった刺繍のリボンが嬉しくて身に付けていたが、すぐ壊れてしまった。刺繍がうまくなったら直そうと思って、大事にしまっておいたのだとか。


 猫もトミちゃんからもらった経緯を話すと、ふたりで脱力してしまった。

 神殿でメエメエ様するの意味は謎だったが、神官さんに破れたハンカチとリボンを見せてよしなにお願いします、と渡すといいようにしてくれた。

 つまり、お焚き上げして奉納。煙を眺めていると、ピコ、と音がする。


『『いたずら結び(呪)』から逃れました』


 どうやら、猫たちが受けていたメエメエ様の呪いは『いたずら結び』というらしい。

 特定単語がメエメエ様に入れ替わることから始まり、その後順々に入れ替わる単語が増えていってしまう症状。

 心当たりがありすぎる。


 まさか情報収集してるふたりがふたりともかかってるんじゃ、道理で捗らないはずだよ…!


 『いたずら結び』は『ハサミのお守り』で防げるそうだ。対策アイテムもあったとは知らんかった。 念のため買ってしまった。これはインベントリにいれておくだけでいいらしい。変な縁がつくのを防いでくれるのだとか。


 そして残念ながら『いたずら結び』が解けたからといって、ログがメエメエ様から変化するということはない。正しい情報が知りたいなら聞き直す必要があるみたい。


 早速神官さんに聞き直してみた結果がこちら。


「元々アルテザの近郊には古くから人形遣いが暮らしていたと言われておりまして、かれらは精霊人形を作り出す技術を使ってこの神像を彫り上げたと伝えられています」


 だいぶ違う単語が当てはまってる!

 これにはペチカちゃんと顔を見合わせて驚いてしまった。

 の、呪いって本当にあるんだなあ。


「あの、特定の人やもののことを忘れてしまうのももしかして、呪いなんでしょうか?」

「それは『いたずら結び』ではなく、『縁切り』でしょうね」


 『いたずら結び』は人と人との縁を繋ぐ代わりに、いろいろな障害を引き起こす呪い。

 そして結んだ縁を放ったらかしにしたり、無理強いをしたりすると切れてしまうのが『縁切り』だそうな。

 ちなみに後者は悪縁を断ち切るという意味で『ハサミのお守り』によって起きることもあるそう。


 …改めて『ハサミのお守り』を見てみたら『※奉納すると特定クエストのやり直しが可能』て書いてあった。なるほど、にっちもさっちもいかなくなっちゃったらこういう救済策もあるのか。


「縁切りの神さまとかいるにゃん?」

「いえ、縁切りを司るのは『裁縫の神』です。糸紡ぎもなさいますから、縁を繋ぐ神でもあります」

「ちょうちょ結びの神とかはいらっしゃらないんですねえ」

「アルテザでは、結びの神も『裁縫の神』ですね。もしかしたらいらっしゃるかもしれませんが、こちらで伺ったことはありませんね」


 にゃあん、猫の予測は大ハズレ。

 しかし結びの神さまが裁縫の神なのは、納得だけど予想外だ。縁結びも縁切りも、めっちゃ強力そう。


 それからメエメエ様の呪いの件で吹き飛んでしまったが、人形遣いの話も初耳。

 察するにナザール工房のザリさんが言ってた、「廃村ダンジョンはメエメエ様の村」は、「人形遣いの村」だったんじゃないかと思われる。

 そのあとの祠は、何ていおうとしてたんだろう? 祠が村にあるんだったら、森林の神でもなさそうな??


 話が噛み合わないなあとは思ってたけど、相手からしたら猫は話の途中でいきなりメエメエ様とか言い出した変な猫だったんだな……。なるほど。のろいこわい。


 ちなみに本来の『メエメエ様』は、やはり通り雨のことであり、その時に通る大きな雲のことを指す単語で、それにまつわる昔話はあるけど、それ以上の意味はないそうだ。

 最初にペンギンなショーユラさんから聞いたのが正解でそれ以外の意味はなかったってことか。

 くう!

評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。


アルテザ編終了までのあいだ、感想欄を閉じることにしました。これまでたくさんの感想をありがとうございました。アルテザ編は67話で終わります。

終了後にまた声を聞かせてもらえれば幸いです

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ラリルレロだ!?MGS2だっけ?自分が聞いたことが別の言葉になるって怖いなー
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