58.数はパワー
『素材はマケボで仕入れればいいんですけど、やはり小人の行方は確認しておいた方がいいですよね?』
『にゃあ、それならついでに神殿へ行ってみてほしいにゃん~』
『神殿??』
ショーユラさんにこちらで起きていたことをにゃんにゃんと解説すると、ぬいぐるみ班もひとまずみんなで神殿へ来ることになった。
『特殊レシピに気づかせるための導線なのかもですしね! というかそうであってほしい!』
作ったぬいぐるみは全部で30体ほどいたそうで、探すクエストとかだったらみんな泣いちゃう、とショーユラさんはふるえ声だった。
ショーユラさんのところもアライアンスチャット、発言が彼だけなので、いかに引きこもりかわかろうというもの…。
まあぼちぼち慣れてくれるといいなあ。
ショーユラさんたちによる神殿参りの結果、『青い森の小人さん』のぬいぐるみレシピが手に入った。
『マイナー・バージョンアップ!というかクエスト限定レシピかな、ちょっと残念ですねえ』
『クエ限レシピも意外と馬鹿に出来ないものよ~。出来上がってみると別のレシピのヒントになってたりするもの』
『へええ、そういうのもあるもんなんですねえ!』
ショーユラさんとリーさんの会話に、ヘレナさんが「そんなことが…!?」とちょっとショックを受けてたりして微笑ましい。
クエストも楽しいよ。
『あ、こっちはなんていうか、顔がどうぶつシリーズですね』
『看板に描かれてた小人バージョンにゃんね』
『森の小人さん』は胴体と顔を同じ生成色の布で作る、いわば人間顔(?)の小人さんだったそうな。
『単純に凹凸のない丸形の頭でお手軽だったんでしょうね~』とのこと。頭だけは初心者向けの作りだったんだって。
『青い森の小人さん』は、顔は立体的で鼻が出っ張ってる型紙になってるそうだ。テディベアの顔みたいなやつね。
耳と尻尾オプションが充実してるらしい。
『いま連絡が入りまして、ププちゃんが里へ帰るためには、新しいお洋服?が必要って話になったみたいです』
ペチカちゃん経由で『布を探して』の続報もきた。当事者→互助会サブマス→ペチカちゃんルートで来ている伝達…!
これだけ経由してるとどういう流れでそうなったのか聞きづらいな!
『ププちゃんのサイズからすると、『小さなお洋服』でいいんですかね?』
ププちゃん――監禁されてたスプーキー・インプは、『愛のハンカチ』に包まれてるはずなので小さめだ。
ちなみに社殿で確認した『愛のハンカチ』はハンカチというか、バンダナサイズだった。名称からピンクっぽいのを想像してたけど、普通の白いハンカチだったよ。
『ハンカチお化けにお洋服がいるのも変な話ですし、ボディそのものを取り替えるのかもしれませんわね』
『ハンカチから小人のぬいぐるみへ? でも里へ行かないと脱げないんじゃないっけ?』
ティアラさんとサッサさんが聞くと、ちょっとしてからペチカちゃんから返ってくる。
『送る、受けとる、みたいなジェスチャーを繰り返ししているそうなので、贈られたアイテムなら着替えることが出来るんじゃないでしょうか? 童話の『小人の靴屋』もそんな感じでしたし』
なるほど?
そういえば『小人の靴屋』って、半裸の小人が夜中にお仕事してるのを目撃する話だったっけ。そしてお礼に洋服をあげると、現れなくなる。
『じゃあまずはぬいぐるみが最優先、それからお洋服、人形とドレス、でいいにゃん?』
『まずは素材にゃん?』
『せやな、見たとこどのレシピも必要素材に特殊素材が入っとるから、どこかに専用ミニダンジョンでもあるんとちゃう?』
『僕もそう思う。裁縫師さんの中に、マップにマークがついたりしてる人はいないかい? もしかしたら神託扱いになっていて、場所が託宣されている可能性がある』
素材がとれるダンジョンが先か。たしかにそうね。
『そういえば、山奥にメエメエ様が現れて素材が大量に取れることがあるって聞いたことあるにゃん。メエメエ様は巨大な羊らしいにゃ』
『とすると東の山側かしら? たしか羊の徘徊BOSSがいたはず』
『ああ~なんかいた気がする!』
『メガトンメェですね。あれ相当堅いですけどいけます?』
『水属性が弱点で濡らしたら弱くなるタイプだった記憶』
『あったあった。たしか素材が報告クエで巻き上げられて実入りがなかったやつ』
なるほど、なんかすごくメエメエ様っぽい?
徘徊BOSSなのですぐ会えるとは限らないが、イベント踏んでる状態ならすぐ会えるのでは?ということでまずはメガトンメェ狩りからになりそうだ。
やることリスト更新ふたたび。
まずはメガトンメェ狩り。そこから入れるミニダンジョンなどないか探す。
『スプーキー・インプの里で素材入手できたりするのでは?』という意見もあったので、ミニダンジョンとは別にスプーキー・インプの里を探す班も作った。こちらはハイキングコース1周だ。戦闘を避けるルートもあるので、純生産な人々も安心。
出発前にお暇だった硝子連合の鍛冶師たちも合流。
来てくれたのはバンザイさん、ナマナマさん、ココロさん。
「私はティアラ王国の下僕……」
「人形レシピがあると聞いて!」
「ソフトなお化けが出ると聞きました!」
人形製作に興味があるナマナマさん、それから怖い話好きの怖がりであるらしいココロさん。
ティアラさんの誘い方が的確だ(バンザイさん除く)。
彼ら3人を加えて、硝子連合は5人。裁縫師互助会15人、フーテンさんたち5人、オードリーさん、ショーユラさん、ペチカちゃん、猫。総勢29人、人海戦術での山狩りだ!
赤月夜まで日がないし、発見で終わりではなく素材回収もしなければならない。急がねば!
………はい。
30人弱もいれば、メガトンメェ討伐からのミニダンジョン発見まであっという間でしたね。
いやあ、数は力だよ。猫ったら何もする暇がなかった。
そんなわけで発見されたミニダンジョンはアライアンスでの侵入不可、1回30分の時間制限付きインスタンス。
先に確認のために入ったフーテンさんたちによると、どちらかというとギミック系、最初に進める道は数あれど、mobを全滅させたり、ギミックをクリアしないと次の道へはいけないタイプ。
LV調整は行われないようで、ほとんどの敵mobのLVが猫たちよりも強めだ。
しかし幸いにしてアクティブモンスターはおらず、採取や伐採などで動くギミックもあるとのことなので、猫も戦力外にはならずに済む。
アライアンス不可なのでPTを戦闘用に組み直し。なるべくLVの近い人で組んだ方がよさそう、となった結果、猫はペチカちゃんとの2人PTで参戦となった。
LVの近い人が他にいなかったのと、2人ともテイマーなのでフルPTに出来ることなどが理由。
タンクのピピちゃんと魔法アタッカーのペペちゃんにサポーターの使役主というバランスの取れたペチカちゃんPTに比べると、騎獣のルイと運ばれるルビーと猫のPTはかなり微妙だ。
なお空飛ぶ絨毯は、まだ軌道とルビーの性格が掴みきれてないので、事故防止のためミニダンジョンでは封印中。
猫PTは微妙だが、そもそも戦闘は避けねばならない。mobには触らず安全第一、採取のみで済ませる予定だ。
「にゃあ~……なんだか村みたいな場所にゃんね」
「打ち捨てられた廃村って感じですねえ。荒れ放題だけど、人工物もある、みたいな…」
元は綺麗に整えられていたのだろう畑は雑草でボーボー、家々はボロボロ。枯れ果てた泉とおぼしき大きな穴。
大通りと脇道があって、なんていうかほんと、元々はここに村があったように見える。
ところどころ明滅してる光はなんだろ、精霊?
おそらく管理されていただろう茂みも木々にかなり侵食され、切り株には山盛り赤いキノコが群生、木立には寄生植物のツタがぐるぐるに絡み合って、青い花を咲かせている。たぶんこれ、ヴィオスタリアかな?
整えられていればきれいな光景なんだろうけど、めちゃくちゃに繁茂して侵食し合う光景は、子どもの落書きのような原色で目にやさしくない。
足元では小人のぬいぐるみがパンツ一丁で雑草相手に格闘している。やはり服がないからなのか、途中で綿が出てきてしまい、倒れてしまうぬいぐるみもいる。あわ……、これさすがに放置していくわけにはいかないよな。
「ぬいぐるみを直しつつ進むにゃ?」
「ですね~、私は直したいです」
「じゃあペチカにゃんが直してるあいだ、猫はこの小人たちも抜いてる雑草?みたいな草を刈るにゃん~」
「はい! お願いします」
ペチカちゃんも『採取』持ちではあるが、小人のぬいぐるみを『裁縫』で修繕してもらう方がなんかよさそう、と意見が一致したのでそちらをお任せ。
草刈り鎌、ちゃんとしたの買っておいてよかったな~と思いつつざくざくと謎の草を採取していく。
雑草かと思いきや『ラミラミ草』というラミ草の亜種みたいな草だった。糸にして布にしろといわんばかりのお名前。これはたくさんいるやつ。
そういえば『採取』持ちのルビーはどうやって採取するんだろう、と振り返ったら砂浴びをしていた。自由だな…。まあいいか。
レトは『採取』こそないが、猫が採取してると真似るのか、なにやら拾っている。たぶん石ころ。そしてレトは鞄がない。
鞄がないと召喚獣はアイテムを扱えないので、拾った石をポイと捨てて、ちょっとふてくされ気味だ。うーん、がま口のフキダシ出てる。
戦闘ないなら、『魔法のタッセル』やめて『がま口ポシェット』装備にしておくか。
装備変更すると喜んで何かを拾いにいっていた。…何かっていうか、『石ころ』なんだけどね。スキル持ちじゃない召喚獣の拾えるものなんてそんなもんである。いいよ、投石玉にするから!
そんなわけでひたすら『ラミラミ草』を刈り続ける。
『ラミラミ草』が尽きると、ぬいぐるみたちの動きが変わった。てってけと走っていく。おお、次の道へ案内してくれるっぽい?
「やっぱり修繕で正解みたいですね!」
「村?を整えつつ素材を採っていけばよさそうにゃんね~」
次はもさもさに生い茂った蔦?木?の伐採だ。
この木は『ドーリンデンの木』らしい。リンデン…菩提樹かな?
硬い木ではないようで、非力の猫でもコンコンと斬っていける。まあ時間は採取よりかかる気もするけど。ちょうどいいLV上げですな。
ぬいぐるみの小人たちは魔法?のようなものが使えるようで、5匹くらいずつ固まってコンコンコンコンと斬っていく。速度としては猫よりかなり遅いが数が多いので、猫が3本伐る間に1本×3組伐り終わるかたちで、だいたい同じ本数が伐れている。
「これは裁縫師だけで挑むとジリジリしそうですねえ。斧とかあげるといいんでしょうか? それともやはり服でパワーアップ?」
「うーん、素手で斬ってるし魔法?ぽいにゃんね。やっぱり服?だと思うにゃん 」
「ですかぁ。これ見てると、道具もあった方がいいのかなあ、て思っちゃいますけど」
ペチカちゃんがチクチクお直ししつつ呟くと、ポコンとぬいぐるみの上にフキダシが出る。
「「あ」」
石斧?のような原始的な武器のマークだ。
「……作れって言われてるにゃ?」
「ぽいですねえ。絵で見る限りでは『石ころ』と木と紐?で出来てそうですし。紐は『ラミラミ草』でなんとかなりそう?」
『ラミラミ草』は草丈1mはある長い茎があり、繊維が取れるだけあってかなり丈夫だ。
『石ころ』は割と尖ってるもんだし、意外と作れそうかも?
「試してみるにゃん!」
「わあい、お願いします!」
ペチカちゃんは修繕で手を離せないので、猫がお試しだ。
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次回の更新は7/29(月)です。