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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
3章 金欠猫には旅をさせよ~誘惑の山旅編~
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55.裁縫師互助会

 やることリスト更新~。

 まずショーユラ(クマ)さんには裁縫の神おすすめの『森の小人さん』のぬいぐるみを作ってもらう。

 ペチカちゃんは可能なら猫に合流。でももしクエストに続きがあるようならそちらを進めてもらうことになっている。


 猫は反物探しだ。

 実はショーユラさんが「反物必要ならぼくが仕入れられますよ!」と言ってくれたのだが、これがクエストの流れなら救済としてなにかしらイベントがあるのでは、ということでちょっと待ってもらうことにした。


 イベント探しにはやはり人海戦術! てことで、予定どおり『裁縫師互助会』を訪れることにする。

 正直ショーユラさんにPT入ってもらった今の状態なら3人でクリアできる気もしないでもない。でも万全を期す方がいいし、ペチカちゃんも「巻き込みましょう!」と言ってくれた。


『私だったら同じ土地にいて声かけてもらって、ソワソワ待ってたらもう終わってたとか密かにショックです…』


 それはそう。

 気にしてないよ!ていうけど絶対気になるやつだ。

 幸いショーユラさんも追加歓迎派。


「赤月夜ですからなんらかの精霊イベントが期待出来るでしょうし、誘われて困ることはないと思いますよ。まして『裁縫師互助会』でしょ? あそこ、ぼくがいうのもなんですけど、絶望的に冒険下手なのが集まってますからね!」

「絶望的に冒険が下手」

「もれなく全員ハリボテだと思いますよぉ。純生産以外をクランに入れると揉めるってんで護衛は全部外部に頼ってるから、この手のクエストでは出遅れも出遅れ、『私たちは冒険に興味がないから』とか酸っぱい葡萄みたいなこと言ってますけど、本心では『アプデ追いつきてえ~~』て思ってるはずです」


 どうやらクランマスターと知り合いらしい。誘われたけど、純生産ではないから入らなかったんだって。


「純生産じゃないにゃん?」

「ないにゃんですよ。ぼく、魔法好きなので魔法師なんですよね、一応」


 硝子連合のような8割生産の魔法師らしい。裁縫で純生産じゃない人は珍しいんじゃなかったっけ?

 ちなみに裁縫は魔法が使えなくても出来るので、SP20もかかる属性魔法スキルなんて、純生産は取らないんだそうだ。そのせいで魔法師も出来なくなるので、強制的に純生産になるともいう。


「まあSP20もったいない!て気持ちはすごくわかるので、責めてるわけじゃなくてね、何がやりたいかによりけりですよ。ぼくは魔法やりたかったんで」


 それはそう。

 SPをどう使うかなんて、個人の自由だもんね。

 その辺の使用法で初期の初期に揉めてクランには入らなかったが、今は普通に交流があるんだって。

 「あいつらの装備品に付与つけたりもするし、代理販売とかもしてる仲ですよ」とのこと。

 『交易』も純生産は持たないスキルっていうもんね。


 純生産てわりと交流なし引きこもりでコツコツと生産してるイメージがあるけど、実はめちゃくちゃ交流頑張らないと何も出来ないんじゃない…? ……て、だからこそ互助会があるのか。なるほど。


 なんでも『裁縫』、素材を作る『紡績』『織布』『染色』、オリジナル服を作りたいなら『型紙製作』『立体裁断』、それから『刺繍』『鉤針編』『棒針編』『紐製作』『結び』……とやたらとスキルが大量にある。

 布や糸以外の、ビーズなどを扱う作業を多めにしていると『装飾工』に分岐してきたりと、道もさまざまだ。ちなみにこの分岐は服を作りたい人には不評なんだとか。


『個人製作するなら純生産じゃないと無理と言われるだけある圧倒的なスキル量。……個人ですべてやることを想定してないのである…! て感じだったんですけどね』

『あ、やっぱりそうなんですね。というかそりゃそうですよね!? 何かおかしいと思ってたんですよ!!』

『いいですね~正常な反応ですよ!』


 まあ一般人ならそう思うよね、という話なのだが、裁縫ガチ勢は違ったらしい。

 コツコツ淡々と積み上げてはスキルをラーニング出来てしまうものだから、結果的におそらく運営が想定していた方向とは違う解釈をされてしまったのだ。

 つまり、戦闘スキルを捨てて純生産となり、さらにスキルラーニングしていくことこそが『裁縫』のいく道なんだ!と。


『運営もね、戦闘で得た金で生産のSPを買うのは想定内というか推奨してましたけど、LV0平原で採取してきた素材を糸にして染色して織って布にして刺繍して1から型紙つくって洋服にしてという作業だけをして淡々と楽しく暮らせるモンスターがわりとたくさんいることは想定していなかったんだと思いますよ…』

『それは想定外なのも納得にゃん…』

『私には無理なストイックさですね…』


 ひとりふたりの突出した人材ならともかく、それを楽しめる人が多かったのは完全に想定外だろう。

 猫は元々なんでもかんでもやりたくなっちゃう方だけど、プラス飽き性でもあるから、そういう人はすごいと思うもの。ペチカちゃんもエンジョイ勢だからそのタイプだ。

 ……うむ、我々には縁遠い世界。


「そんな感じでガチ勢が存在しないルート開拓してそれを正規ルートだと思い込ませちゃったもんだから、スキル迷子で途中で詰まっちゃう人が続出しちゃってねえ。一時はかなり荒れてたんですよ、裁縫界隈」


 本来あるはずの糸から布、布から服へと繋ぐ職人の絆が皆無になり、かろうじて機能してるのは戦闘クランに所属する生産職のみ、しかし肝心のうまく行ってるはずの生産職からは「自分たちはひとつのスキルばかりで他のことをやらせてもらえない」と不満が上がってくる始末。

 なるほどねえ。


『第三エディションでちょっとテコ入れがあって、複数人の手を経る方が装備としてのランクが上がるって仕様が出来たらしいんですよ。そのおかげで『このルート異端だったんじゃね?』て気がついた人も増えたみたいなので、軽装備界隈も賑わうんじゃないですかね』

『そんな仕様が…! じゃあ私が作った素材をランさんが使ったりするとランクが上がるんですね』

『異素材、異種職、違う製作者っていう分業制が一番効果あるらしいですね~。ポーションの効能が上がったのもそのせいらしいです。ガラス工調薬師とかはブチギレ案件だったようですが』

『ああー…。それはそれで気の毒にゃんねえ』


 あっちを立てるとこっちが立たず、はゲームではあるあるだけど、完全に巻き込み事故だなあ。


 錬金術師的には、もしかして『薬草玉』を『ポーション』にしてもらう…ていうのが効能の上がる組み合わせなのかね。そして原料の『薬草葉』にしても、買い取る方がよいと。

 『薬草葉』は下級ポーションの材料にしかならないと聞いたし、買い取り素材としていいかもしれない。回数稼ぎによさそう。



 そんなPT会話で雑談しつつやってきた職人街、ハサミ通りの一角。

 うん、一角だ。

 一際大きな店舗がひとつ、そしてその周りには大小の店が軒を連ねている。なんとそのすべてがプレイヤー所有の建物。

 クランホームやプレイヤーホームは、PVPがある仕様上、領地に入るとアイコンが出るんだよね。

 GPSの指す店は大きいあの建物だと思うんだけど、そのだいぶ手前からクランホームだし、各店は『裁縫師互助会』のクラン名が入っている。プレイヤー店舗、これだけあると壮観だ。

 うーん、さすがこれまで選ばれしものしかなれなかった職。裁縫御殿たちだな。


『なんだか大きな建物ばかりで気後れしちゃうにゃんね~』

『あ、ぼくクラマスとフレなので、連絡してあるから大丈夫ですよ。ズイズイいっちゃってください、実家のような気持ちで!』


 無茶をいいおる。

 だって近づくにつれてなんかすごい豪華でキラキラしているのが見えてくるんだよ。なんだあれは。成金御殿なのか?

 そう思っていたら、店の前に飾りつけられた垂れ幕が目に入る。


『歓迎!! ラン・ワールドウォーカー様ご一行』

『ようこそ裁縫師互助会へ!』


 ……。

 めちゃくちゃ歓迎してくれていることだけは理解した。


 は、はいりづら……。




「いやあ、すみません、裁縫師がお力になれるクエストと聞いて、皆もういてもたってもいられず」


 扉を開けた瞬間、クラッカーと拍手の花道を歩くことになり始まった謎の記念撮影会が(猫が宇宙へ旅立った以外は)つつがなく終了し、今はシックな応接室でお茶をいただいている。

 さすがいい茶葉を使っておられる…。


「心頭滅却するためのクラフトまで浮かれポンチですみません」


 そうして謝る互助会のクランマスターさんも紅白ピエロの服装で背景に『歓☆迎』て背負ってるので、そこに触れた方がいいのかあえてスルーすべきかを迷っている。

 いや、猫は我が道を往くぞ…! 全力でスルーだ!


「そんなに歓迎してもらえるなんて嬉しいにゃんよ~、お話はオードリーさんからメールで伝わってると思うけど、追加情報はショーユラさんから来てるにゃん?」

「はい、スプーキー・インプに贈る反物探しが始まってる、とうかがっております」


 クラマスさんは七三スタイルで髪をアップにまとめた黒髪メガネの美人さんだ。落ち着いた喋り方や声といい、出来る雰囲気を感じる。服装が全てを台無しにしているが。


「反物をこちらでご用意することは簡単なのですが、おそらくそういうことではないらしい、とも」

「にゃん、どうなるかはまだわからないにゃん~、半日あったら、布は織れるものにゃ?」

「半日どころか、スタミナとMPポーションさえあれば5分で反物が織れますね」

「にゃあ、なるほど」


 スタミナとMPが物を言う世界、そりゃそうか、ゲームだもんね!


「それならまずアライアンスを組んでもらって、クエストを受けてから用意する方がいいと思うにゃん」

「アライアンスを組んでから、クラフトすればいいんですね!」

「にゃん~、出来ればちょっと街を歩いて、普段と違う素材が出てないかを見てほしいにゃん。猫はアルテザに来たばかりで、何がクエストで何が普段と一緒か、なにもわからないにゃんよ~」

「我々にもクエストアイテムの入手が可能になっている、ということでしょうか?」

「だといいにゃんね~という希望的観測にゃん」

「希望があるって素晴らしいことですね」


 うん、と力強くうなずいたクラマスさんが手を差し出してきたので、猫はアライアンス申し込みをつけてその手を握り返す。


『アライアンスが結成されました』


 よし、反物はこれで万全!



薬草玉と薬草葉について→1章29話


ようやく裁縫師互助会と合流。そして裁縫界隈の特殊な事情について。

戦闘用の軽装備が派手なことになってるのはこの裁縫関連の事情もあります。上級者に生産装備が行き渡らず、アーティファクト(ドロップ)が多いのでとにかくでかくて派手、という(裁縫生産品はコンパクトな装備も多い)


評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
>>「はい、スプーキー・インプに贈る反物探しが始まってる、とうかがっております」――とありますが、メエメエ様では? 3章-51.アルテザの昔話 >>「反物、てことはずいぶん大きいにゃんね?」「うん、…
[一言] たぶん歓迎の準備しっかりしてソワソワ待ってたらもう終わってた悲しい並行世界が発生してるにゃん…
[一言] 互助会の気持ちが分かるにゃん。 しかも裁縫って、プレイヤースキルも反映させやすそうだし。あと、基本的にひとりで完結させるジャンルにゃんよー。分業って達成感が少ないにゃん。 季節的に猫ちゃんに…
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