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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
3章 金欠猫には旅をさせよ~誘惑の山旅編~
134/259

40.それぞれの近況

 青年は猫の露店を眺めて、まず最低品質素材をドサッと売ってくれた。ありがたや~。空中を眺めていたところを見ると、インベントリの中をあれこれ探してくれたんだろうね。

 一通り売ってくれて、それから並んでる商品。

お、『鍵魔法玉』1個売れた。まいどあり。


「これは『緑ラペ』、ではない?」

「それは『白ラペ』、大きく育ちすぎちゃったから食感が悪いにゃ。従魔のおやつ用にゃんね。うちのマルモは白の方が好きにゃん」

「ならこれを、30……、いや40で」

「まいどありにゃん!」


 おばちゃんの最低品質野菜はいつでも100個まとめ売り、例によって猫は20もあれば十分なので、多く買ってくれるなら助かる。

 なお前回いくらで売ったかなど覚えてないので値付けは適当、1個10z。


「それからもう1匹、実は好物のわからない従魔がいて…、ちょっと相談にのってもらってもいいかな」

「わからなくても怒らないならいいにゃんよ~?」


 怒らない、と笑いながら青年は手をあげかけ、途中で止めた。

 ん?


「忘れてた、虫なんだけど大丈夫?」

「猫は蚊とムカデ以外は平気にゃん」


 蚊は人類の敵、そしてムカデは人類を敵だと思ってるのでわかりあえない。


 青年はほっとしたように胸を撫で下ろし、それから両手をおにぎりのようにしてそっと開いた。おや、先に断るからでっかいのかと思いきや、思ったより小さい。


「にゃあ、『アゲハバタピー』にゃんね」

「詳しいなあ」

「猫はチョウチョ好きにゃん」


 眺める分にはチョウチョいいよね、芋虫でも。

 ベランダをバタフライガーデンにしてみたい夢があったが、ご近所に虫嫌いがいると一瞬で終わるのであきらめた。殺虫剤焚かれると詰む。

 …ゲームの中でならその夢も叶うかもしれんな。ちょっと検討してみたい。


 さておき、青年の手の中にあったのは、リアルと同じであればアゲハ蝶の中齢幼虫だった。アゲハの幼虫といえば比較的かわいい方に分類されるものだが、中齢幼虫はちょっと好みが別れる風体。しかしこれは可愛めにデフォルメされている。黒地に白い丸がひとつ、それから黄色い角。威嚇されてる!


 長さは15cmくらいと、かなりでかい。リアルでも30cmくらいの蝶が南国にはいると聞くが、成虫はそのくらいか、それ以上になりそう。

 それにしてもマニアックな従魔だな?


「実は虫が好きなんだ。ホッパーはでかすぎて無理だったけど、畑ホッパーサイズは可愛いなあ、て思ったらつい虫探しに夢中になってしまった」


 照れ臭そうに笑う青年、虫取網は天恵だったそうな。「虫取に夢中になるなんて、童心に返った気分だったよ。採集は楽しいね」と爽やかに言われてしまった。

 いやあ、猫ったら知らん内に善行を積んでた。


 そんななか捕まえたアゲハの幼虫だが、食事はわかるが、おやつが皆目見当もつかないそうな。


「普通、幼虫は決まった葉しか食べないにゃんね」

「そうなんだよ。若葉もあげてみたけど、反応が芳しくなくて」


 ちなみに食事は『リミカの葉』だそうだ。『リミカの実』は山椒に似た、柑橘系の香りのする実だ。

 うーん?


「この子って、レベルで脱皮するタイプにゃ?」

「いや、レベルというよりは食べる量っぽい気がする」

「なら進化前に蝶になる可能性もある?」

「…ああ! もしかしたらあるかもしれない」


 LV関係なく見た目が育っちゃう従魔には、『ヒナ』という鳥型の従魔がいる。ヒナの段階ではなにになるかわからないんだけど、LV関係なく月齢で育って進化する。

 何事もなければドゥドゥーやピジョネになることが多いらしいんだけど、ヒナが育ちきる前に進化させるとレア進化するっていうんで有名だ。

 LVだけじゃなく好感度を稼ぎきらないといけないので、相当大変らしいけどね。


 その例があるんで、アゲハバタピーも同じく、進化前に名前や容姿が変わる従魔の可能性もある。


「そうだとしたら、蝶になってから食べるものが好物になってる可能性はあると思うにゃん」

「なるほど、花の蜜とかか。それはまだ試したことがなかった。一度やってみるよ、ありがとう」

「あってるかはわからないけど、どういたしましてにゃん~」


 青年は大切そうに手のひらでまた包んでアゲハを送還させると、少し迷ってから、猫の商品台にころころといくつかのアイテムを乗せた。

 露店の商品台にアイテムを乗せるというのは、『買取を頼む』という意味であり、交渉を持ちかけることになる。

 乗せられたのは『魔力の木の実』が3つ。

 お、おおお?


「これはお礼に。よかったらマルモにあげて」

「にゃん!? ミモモにはいいにゃん??」

「ミモモは上限まであげてしまったから」


 『魔力の木の実』は、従魔や召喚獣に与えると魔力が育つ、いわゆるステータス増強アイテムだ。他に『力の木の実』『素早さの木の実』なんかもある。

 1匹につきあげられるのは5個までと決まっている。なのでミモモは上限を越したのだろうけど、それにしたってミモモだけしかいないわけじゃあるまい。

 いいのだろうか? これ、買うと相当お高いはずなんだけど。


「見てもらうとわかるけど、ひとつは通常だけど、残りふたつは最低品質なんだよ。最低の方は能力は上がるけど好感度が下がるから、もし下げたくないなら避けた方がいい。その場合は、適当に売却してもらって構わない」

「にゃあ…」


 言われた通り、たしかにふたつは最低品質。木の実の最低品質はなんだったっけ。種と一緒?

 だとしたら親の気質を受け継いでないとかか。まあ、親は味がいいけどこの種は不味い、とか単純にそういうことなのかも。

 レトだったら魔力が上がるといえば不味くても喜んで食べてくれそうな気がする。とはいえシステム的に好感度が下がるといったら下がるので、猫が思うよりはるかに不味いのかもしれない。それはそれで気の毒だな…。


 それにしたって、これは明らかにもらいすぎだ。しかしこれにお金を払ってはいけないことは猫もさすがにわかる。どう見ても猫より上級者だしな。


 あ。そうだ。


「ならありがたくもらっておくにゃん! いいものくれたお兄さんには、もうひとつ情報とおまけをしちゃうにゃん~!」


 ハイ、取り出しましたるは『ムーンキャッチ』のアクセサリー。従魔にもつけられるペンダント型にしてみました。


 実は今、すでに『ムーンキャッチ』は品薄でちょっと値上がりしている。

 元々そんなに需要のあるアイテムではなく、ティアラさんも見た目がかわいいからアクセサリーにしてただけで、月光で変わる性質を求めて作ってたわけではなかった。ときどき求められることがあるので普通のも販売はしてたけども。

 月明つきあかり系アイテムもあるなら使うけど買ってまで欲しいアイテムでもない、という人も多く、需要があるのは一定層のみというものだったそうな。


 結果的に明確に供給源として活動してたティアラさんが販売しなくなると、『ムーンキャッチ』は市場から消えて転売価格のものしか残らなくなった。たぶん、猫が万能薬でやってたのと同じような状態になってる。

 といっても200zくらいだったのが1000zになってる程度で、そこまでひどい価格にはなってない。元々の需要が少ないからだろうね。いや、5倍も相当か?


 ちなみにその後アクセサリーとして売り出すことも踏まえて、ムーンキャッチはとりあえず、3万zで揃えて売りに出すそう。

 すでにアクセサリーにしてあるものは5万から。きちんとした効果のあるアクセサリーとしてはむしろ良心的な価格設定。


 初心者でも、MP追加アクセサリーかつ成長要素もありならちょっと頑張って買う価値のあるアイテムだ。

 月夜を渡り歩いて名前が変わるまで育てれば200MP増強のアクセだもの。


 価格設定については大商人のフーテンさんと生産商人のティアラさんで結構ぶつかったようだが、結局大商人の意見が勝った。ティアラさんは『ムーンキャッチ』でボりすぎではないかと気にしてたんだけど、「これより安く売っても、結局大多数は転売でしか手に入らない」ていう話で納得したみたい。


 値段がだいたい初期の召喚石くらいっていうのも、感覚として正しいような気が猫もします。


 そんなわけで『ムーンキャッチ』、明日からおそらく爆発的な人気になるアイテムである。

 ガラス工自体は少なくないが、『ムーンキャッチ』を作れるLVに達しているものは多くない。安定的な供給には時間がかかるだろう、とのこと。


 使ってよし、売ってよし、お礼としていいアイテムなのでは?

 いつだって他人の褌で相撲を取る猫である。商人だもの。


「今はただのガラス玉にゃ。価値が出るのは明日以降のお楽しみにゃん~!」

「明日…暗黒夜を過ぎてから、てことか。楽しみにしておくよ」


 二度あったのも何かのご縁ということでフレ登録をして、青年とは別れた。

 にゃふん、なかなかいい取引が出来た気がするぞ。



 それからも順調に商品は売れたし、買取も潤った。従魔のおやつ屋はなかなか需要がある気がする。

 まあ、おばちゃんとタイミング合わないとなかなか最低品質野菜は買いづらいからね。誰もが猫のように通ったりしていないのだろう。


 途中、アルミハクさんが寄ってくれたので『青ラコラ』『青ラコラの種』を分けたりした。分けたっていうか、買ってくれたんだけど。


「どんくさい白ラコラみたいな感じにゃん」

「なるほど、育てやすそう」


 白ラコラ飼い同士、話がスムーズなのは大変よい。

 アルミハクさんからは『紫チェナの種』『赤シスルの種』『緑ラペの種』をもらった。


「これは例の村で手に入った種なので『猫さんのおかげだから無料で分ける』というのが神官農家たちの総意なんだ。だからどうぞ、そのまま受け取って!」


 ぐいぐいと言われたのでありがたくそのまま受け取った。ありがたや~。

 ラコラを駆逐して庭を取り戻さなければ…。


 シスルは、どうやらアザミのことらしい。おや、おばちゃんとこは園芸もしてたのね。

 詳しく聞きたいところだが、秘匿村の情報は扱いが難しい。


「私も何を言ってよくて何がダメなのか把握しきれてなくて。猫さんにはオールオッケーだけど、猫さんもどれが秘匿かわからないと困るよね?」

「猫は口が軽いから困るにゃん~。大丈夫、猫は待てる子ですにゃん」

「えらい猫さんにゃん」


 にゃんにゃん。


 『猫のおかげ』についてはイベント発見もだけど、そもそもイベントも『プランツ・サンクチュアリ』祭だったんだって。あれを畑に張ったら、なんと害獣が入れなくなったらしい。途中でそれに気づいて、畑を守ったり浄化したり回復させたりする方向に切り替えてどうにか事なきを得たそうな。

 そして畑を守ってて気がついたことは、なんと害獣マークディア、ただの鹿ではなくゾンビ鹿だったらしい。


「もし畑の近くで倒してたら、村が汚染されてしまってたかも。だからむしろ守りに入るのが正解だったみたい。やっぱり神官に求められてるのは殴ることじゃなくて、守ったり回復させたりすることだったんだな~!て後でみんなで大反省会したよ」


 気がつくのが遅かったもんで、かなりギリギリの防衛を強いられたのだとか。しかしかろうじて畑を守りきり、かくしておばちゃんの村は守られた。めでたや。


 ついでに決め手は『ホーリーファーム・サンクチュアリ』なる合体魔法であったらしい。畑のHP(畑のHP???)がそれで回復することに気づいて、なんとかなったんだって。


「なんかすごい柱が立つ」

「柱が」

「効果としてはプレイヤーは死んでても範囲内にいれば全回復で生き返るし、ついでに範囲内を浄化、敵には聖属性と思われる大ダメージが入る、のかな?」

「破格にゃんね!」

「農家神官18人が同時に『プランツ・サンクチュアリ』とかいうアホみたいな条件だから、もはや儀式だし、畑以外では再現不可能なやつだったよ」


 なるほどヒーラー祭はなかなか開催できるもんじゃないしなあ。

 各PTひとり農家神官がいたとして18PT合同って時点でかなり非現実的だし、その神官が自分たちのPTを捨てて同時に『プランツ・サンクチュアリ』を使うのもまずあり得ない。

 そんな儀式魔法を惜しみ無く使って得た勝利だったわけだ。数の強み、層の厚さ!


 畑に被害なくクリア出来たことでDP20だったんだって。だから実は『マレビトダンジョン』に注ぎ込んだDPも、ほぼ報酬のDPで賄えたそう。

 それが特に揉めずに『マレビトダンジョン』が開けた理由なんだって。

 持ち出し分多いと、どうしてもそういうのって揉めちゃうもんね。必要DP500の内、参加24人で480pt、残りを持ち出したのはノーカさんだそうだ。


「怪しかった場所ていうのは洞窟だったんだけど、そこからゾンビ来てたみたいだから最後に塞いじゃおうって話だったんだよね。で、ノーカが『そうしたいのは自分のワガママだから残りは俺が出します』って言い張ってさ。結局、DP注ぎ込んだら入口に石の扉?が出来たから、塞ぐっていう用は『マレビトダンジョン』でも果たせたみたい」

「今後ゾンビが現れないなら安心にゃん!」


 異界の扉からなにかが現世うつしよにあふれてくる、てパターンで被害があるケースもあるんだな。アトノ島なんかは平和な方だったんだねえ。


 今度、マレビトダンジョンに招待するのでメール送るね! 待ってるにゃん!と約束して、お別れした。

 ちなみに『鍵魔法玉』を新しく出しておいたら売れてた。さりげなく買ってくれてありがとう…。




 売るものがなくなったので閉店~~。

 2時間くらいは露店してたかな? 買い物ついでに話しかけられたり、暇でも教本読んだり掲示板読んだりしているのであっという間だ。フレも来てくれると、特に時間が早い。


 露店をたたんで路地に出るとすぐに次の露店がニョっと立ち上がるのは、露店通りの面白いところだ。


 そのまま流れるままに露店通りを進む。

 露店で交わされる会話は、通りを歩く人にも聞こえる。とはいえログには乗らないし、ざわざわうるさいし、会話をすべて理解するには至らない。小声ならさっぱり聞こえないしね。

 それでもあちこちから漏れ聞こえる会話は、知らない土地やアイテムの名前も多くて、露店通りはいつだってワクワクしてしまう。


「ニャハハ、おかげさまで商売繁盛ですニャン!」


 お、風猫族かな?

 ひときわ大きく聞こえたニャンの声に誘われ目を向けて、猫は驚いた。


 なんと、あれはケータくんじゃないか!


 ニャハハと笑いながら接客している様は先日見たときとは大違いだ。ニャンと言っただけで赤面して逃げ出した子がこんな立派になって…。

 いやはや、男子三日会わざれば刮目かつもくして見よとは言ったもの、人の成長とは侮れないものだな…


 猫がその成長ぶりに感動していると、視線を感じたのかケータくんはハッとこっちを向いた。しまった、目があってしまった。

 ケータくんがみるみるピンクになっていく。赤面すると風猫族ってピンクになるのね。


 猫はそっとラララアクションをしてエールを贈り、その場をどんぶらこっこと流れ去った。


 同胞よ、幸あれにゃんにゃーん


にゃんにゃーん!

あれもこれもと詰め込んでいたら久々に6000字きてしまった。


バタフライガーデンというのは庭の形式のひとつで、花ではなく蝶を愛でるために整えられた庭のこと。蝶を育てて放ったり、蝶がよく来る蜜源植物を植えたりする。


リミカの実→1章36話

アルミハク(ラコラ農家)→2章24話

猫のおかげクエスト→2章29話

カンラ菜→1章幕間 野菜農家スレ



評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

次回更新は7/1(月)です。

今週、そして今月もお疲れさまでした。

来週からは旅を再開、アルテザへ出発です。

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― 新着の感想 ―
テイマー青年、おまえをこの畑から追放する!
[良い点] にゃんにゃーん
[一言] ケータにゃん子の見られたくない所に出くわす関係性が出来上がった?ww 家政婦(猫)は見た…!
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