27.でも、お高いんでしょう?
猫が今、探しているもの。
品質低めの魔宝石。レア度高めの最低品質素材。本とか、教本。レトやルイの新しい装備。あ、猫もそろそろ装備変更したい。
まだ戦闘性能的には全然不足はないんだけど、リーさんとかポユズさんは会うたびに服が違ったりするし、猫もそろそろ違う服が着たい。
…いや、正直に言おう、猫って今、基本装備が『影走り』シリーズじゃない? 脚絆とスカーフとブーツ。シノビ感にあふれている。あと帽子も黒だし。もうちょっとニンジャ成分を減らしたいのだ。
ニンジャのスキルとジョブは欲しいけどニンジャにはなりたくない複雑な猫心。
でもさっきのラインナップを見るに、服装備はミーさんの店にないので除外だ。
お高い魔宝石も除外。
本と教本、メモっぽいのはあったけど、あれはレシピや設計図ぽかったので、ひとまず候補止まり。
それから、レア度高めの最低品質素材。
うーーん、でもこれを風猫族に求めるのはもったいない気がする。冒険者ギルドでも買えるわけだし。
他に探しているものといえば、そう。
「妖精が使う、幻属性のレシピや魔法を探してるにゃん」
「ニャフン」
白猫ミーさんはふくふくの片手を口許に当てた。そしてにんまりと笑う。
「同胞はさすが、お鼻がいいニャン! ミーのお店からマボロシの匂いを感じとるニャンて」
ミーさんは並べられた商品の中から、スッスッといくつかを選び取った。
「今あるのはこの3種ニャン。どれもオススメのアイテムだけど、どれも癖の強いモノばかりニャン」
猫の前に並べられたアイテムは3つ。
1つは瓶。ポーションよりも小さくて丸い。色はオレンジ。魔法薬?とかいうやつかな?
「これは『姿隠し』ニャン。飲めば少しの間、姿が消えるニャン。臭いと音は消せないから、要注意ニャ」
1つは木の実。どうみても松ぼっくり。
「これは『妖精の通貨』ニャン。とある妖精さんはこれでしか商売のやり取りをしてくれないニャ。でもその妖精さんは幻属性については右に出るものはいないニャン」
1つは紙の切れ端。ぐにゃぐにゃの図が書いてある。魔法式だろうか。
「これは幻属性魔法の『ポヨ』ニャン。ポヨってするニャン!」
ポヨ…。
「にゃん~~全部」
「ニャ! こういうときは1つしか選べないのがお約束ニャン!」
「なんでにゃん!?」
「その方が面白いからニャン!」
「にゃん~~!」
わかる~~!
売り手側としてはめっちゃやりたいわそういうの。
買い手側はめっちゃ悩むけど!!
ええ……。何もわからん。
でも『姿隠し』は『解析』があればレシピがわかるのかもしれないが、猫は持ってない。ポユズさんに頼む手もあるけど、猫としては知りたいのは姿を隠す方法じゃないし、レシピでもないので優先度は低い。
その点、『妖精の通貨』は「幻属性の魔法が上手い人と取引する」ためのアイテムだ。問題はその妖精が何者なのか、何処にいるのかが謎なところ。今すぐ手に入るわけじゃないところが難点。
最後の紙片は、猫の目的にもっとも合致している。
よくわからんながらも『魔法』と明示されているからね。
18属性目の魔法覚えたことでおめでとうSPが来る可能性もあるし、幻属性の十八道遁術と換算されるかもしれない。そうすればジョンさんに報告、走の術ってのを教わることが出来る。
これしかない気もするのだが。
『ポヨ』ってなんなんだ。
ポヨってするって、なにがポヨってするの!?
謎すぎる。
「『ポヨ』てどんな魔法にゃん? 攻撃にゃ?」
「守りの魔法ニャン。幻属性だから癖はあるけど強力ニャン! 同胞にも向いてると思うニャン?」
「猫にもオススメにゃん?」
「ミーのお店の商品はどれでも逸品ニャン! 全部オススメ出来るニャン!」
手堅い…!
「今ならなんとミーの講習付き! 覚えるまで手厚いサポートをお約束するニャン? 更に応用編まで教えちゃうニャン!」
「にゃん~おいくらにゃん?」
でも、お高いんでしょう?て言いたいけど風猫族マニュアルその3、「高いは禁句」。使いたくても使えないフレーズである。
「100万zになります」
「たっっっ」
っかい気もするけど、新属性の教本(?)と思えばこんなものか…!?
マニュアルその3、さっそく破りそうになってしまった。危ないところだった。
「ニャフフン、でも同胞にはとってもオススメにゃん。お安くしてあげたいところニャンだけども…」
伏し目がちにこちらをちらりと見る白猫さん、ベリベリキュートにすぎるのでは!?
いやいや。これは風猫族マニュアルその4、「物々交換が非常に有効」! ではないか?
風猫族が好きなのはありふれているが形や色が綺麗なもの、あるいは珍しいが使い道がないもの、もしくは使い道がひとつしかなくて余りがちなもの、などだ。
うーん、珍しいが使い道がないもの、『黒月影』『金月影』、いけるんじゃない?
『ムーンキャッチ』から作った『黒月影』は、みんながかくれんぼから帰ってくるまでの間に何個か作れているので予備があるし。
「にゃん~、猫、最近これを作るのに凝ってるにゃん。同胞も興味あるにゃん?」
「ニャ、ニャアン!」
『黒月影』を見せると、ミーさんの反応は劇的だった。ぴょんと跳び跳ねて猫の手をがっちりと握る。
「さっすが同胞ニャン! 同胞も観月に来てたニャン? ミーは到着が遅れてガッカリだったニャン。とってもいい月光がキャッチ出来ててニャンだふる! これをミーにくれるニャン?」
「たくさん作ったからお裾分けにゃん。とっておきはちょっぴりしか作れなかったからあげられないにゃん、ごめんにゃん~」
「ニャニャン!? もしかしてこの前の月夜は鏡月だったニャン!? くぅ、ニャンて惜しいことをしてしまったニャン~~!!」
ミーさんは頭を抱えてグネグネし始めた。かわいい。何をしてもかわいい…お猫さまパワーが強い…!
ミーさんが特別かわいいお猫さまであることはもちろんなんだけど、普通に風猫族、かわいいのでは? これは発見、大発見。そりゃNPCも仲良くしてくれるはずである。
しかし『金月影』、レトにつけてもらっていた『ムーンキャッチ』のアクセサリーが変化した分と、さっき妖精からもらったプレゼントの分と、2つしか持ってないのだ。しかも片方はアクセサリー、片方は『ムーンストーン』製とどちらも片方にない特徴があり、なんとも手放しづらい。
「こんなことならドゥーアの崖崩れなんてほったらかしておけばよかったニャン~!」
風猫族マニュアルその5、『困っている人がいると助けずにはいられない(ただしお金は取る)』やつ…!
崖崩れなんてあったのかドゥーア。今度行くし、ちょっと情報収集しておかないと。
うーむむむ。
1個ではなく2個はあるし、妖精からプレゼントでもらった方は元々なかったようなものだし、うん。これはきっと一連の物々交換クエストだったのだ…ということで、ミーさんにあげちゃう。推しに貢ぐぜ!
「しょうがないにゃあ…。2個あるから1個あげるにゃん~」
「ニャニャニャン!? 同胞は太っ腹ニャーン!」
『ムーンストーン』の方の『金月影』を渡すとミーさんは大喜びでくるくる回った。
「同胞は精霊を捕まえたニャン?」
「捕まえたにゃんよ~、黒月の方だと思うけども」
「ニャフン、それは当たり前ニャン。金月の精霊は天窓の洞窟の中でしか会えないニャン」
「それは知らなかったにゃん~、探してみるにゃん!」
「天然の迷宮洞窟ならどこでも生まれるって噂ニャン。黒月の精霊が暗い沼地の森にしか現れないのと同じニャン?」
おお、金月の精霊スポットに加えて、黒月の精霊スポットのヒントまでもらえてしまった。やったぜ。
「とっても良いものをもらったから、お安くしておくニャン~!」
ミーさんは『ポヨ』の紙片の横に『妖精の通貨』を並べた。
「今ならニャンと! 2つで50万zのご奉仕価格!」
「買うにゃん~~!!」
「まいどありニャン!」
ミーさんがまふまふと拍手する。
乗せられた感がしなくもないが、どっちにしろ月影の換金価値は今のところないらしいのだ。
フーテンさんいわく、現段階ではイベントアイテム扱いになってるから、マケボに置いても買える人はいないだろうって。つまり黒月夜か、金月夜のイベント未通過の人は検索しても出てこないそうだ。
大商人の情報交換はやーい。
『黒月影』はまだ5個あるし、『金月影』は先の通り、棚ぼたで手に入れたものだからね。
『ポヨ』だけでなく、『妖精の通貨』まで手に入って、新情報も入手できたのだ、上々である。
さて、『ポヨ』である。
てっきり読んで覚えるのだろうと思ったら、これは書いて覚えるタイプの魔法らしい。
紙とペンを用意して(猫は本屋さんで買ってあった)、見ながら写す。最初はガッタガタの線のぐちゃぐちゃな魔法式しか書けなかったが、何度か挑戦して、ようやく完成。
完成すると、原本の紙片はブワッと塵になり、猫の手の中に吸い込まれた。
『おめでとうございます。18属性の魔法を覚えました。SP10とプレゼントボックスを入手しました』
やったぜ。
なんだかプレゼントボックス先輩もお久しぶり。今度またパカるぞ。
「おめでとうニャン! 『ポヨ』は写し伝いの魔法ニャ。魔法式が完全に書写されると、書写された側の魔法式が発動して書写したものに魔法を転写するニャ。同胞はその新しい紙片を誰かに写し伝うことも出来るし、ミーが買い取ってもいいニャン」
「にゃあ、誰かに写し伝うようにするにゃ」
「了解ニャン! もし持て余すようなら同胞に売ってほしいニャン」
写し伝い、というのは魔法の覚え方の形式のことで、魔法の内容とは関係ないそう。
幻属性の魔法には多い形式だが、他の魔法にもぼちぼちあるらしい。
「遺跡に残ってる魔法式は写し伝いが多いって聞くニャン」
ふむふむ。
しかし、遺跡の魔法式の解読などめちゃくちゃ難易度高い上、どういう魔法かは覚えてみるまで全然さっぱりわからない、というか覚えてもわからないこともある。呪いの可能性もあるので、下手に手を出してはならないそうな。そらそうね。
そして『ポヨ』については簡単。
「受けたら死ぬようなダメージを、ポヨってするニャン」
つまり致死ダメージをなかったことにする魔法。
え、なにそれめっちゃ強いじゃん?て思ったけど、もちろんそううまい話はない。
まず、『ポヨ』の指す致死ダメージとは、最大HPを越える量のダメージであること。同じく致死ダメージをなかったことにする『ド根性』とも、性能がかなり違う。
『ド根性』は「HPが2以上あるとき、それを越えるダメージを受けた」場合に確率で発動だ。つまり最低2ダメージでも発動する。なお発動確率は残HPが多いほど高い。
一方、ポヨは「最大HPを越える量のダメージ」で確定発動である。最大HPを越えないダメージでは発動しない。
なるほど、これはたしかに妖精の魔法というのもわかる。HP低めじゃないと、全然使い道がない。
しかしこれ、対象は自分だけじゃなく、他の人にもかけられる。レトならかなりのダメージを無効に出来るんじゃないかな?
と思いきやそう甘くない。
事前にかけておくバフの一種だが、持続時間は5秒と短め。運用的には、反射とかシールド系に近い。咄嗟に他者にシールドを張るのかなり大変そう。
それから重ね掛けも出来ないので、連続ダメージにも無力。強力に見えてなかなか癖が強い。
しかしMP5魔法で、タイミングさえ合えば致死ダメージを無効化出来るってのはなかなかぶっ壊れ性能な気も。
応用編としては、高所からの落下ダメージもポヨれるそうだ。
「いざというときの手段として覚えておくといいニャン!」
たしかに大事、命綱。
…高所落下対策といえば、『パラシュート』も教本を積んだままでしたね…。『マジックロープ』共々はやく覚えねば。
元々ミーさんは、『黒月影』がないかな~と思ってこの村へ来たらしくて、目的を達成したからともう発つようだ。行動が早い!! さすが風来坊。
「それじゃあ同胞、またいつか! ニャアン!」
御者台からミーさんが手を振る。シャランラ~。
ミーさん、決めポーズ?するとキラキラエフェクトが出るんだけど、あれはアクションなのかそれとも別のなにかなんだろうか?
聞いていいものかわからなくて聞きそびれてしまった。
荷車を引く巨大鳥がクゲーッと鳴くと、あっという間に加速して見えなくなった。
うん、NPC風猫族との遭遇はレアって意味が理解できてしまったな。
用事がなくなるとすぐ旅立っちゃうんじゃ、そりゃなかなか会えないはずだわ…。
ポヨッポヨ
評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。
『小説家になろう』(または『小説を読もう!』)TOPのバナーから行ける「データでご紹介!今日の一冊」コーナーにて、第215回として猫が紹介されました。
こうしてご縁に恵まれたのも、いつもこの話を楽しんでくれる方々のおかげです。ありがとうありがとう。