25.十八道遁術
次回更新は6/10(月)、来週は更新お休みします。
結局『イザヨイの書(巻ノ一)』のあとに巻ノ二が出てきたり、カナイの書が出てきたりはしなかった。いや、この系列でいくと十八はなんなんだって話になるか。イマチの書?
「さすが猫、もう金の歩を覚えてくるとは」
「にゃん?」
本の返却についていったらジョンさんから、ニヒルな笑みと共にそう言われた。
金ってことはさっき覚えてきた『刃』よな?
「『イザヨイの書』を読ませてもらったにゃん」
「ふむ、猫は金であったか」
「にゃん~? 『刃』だったにゃんね?」
何を当たり前のことを言っているのか、と首を傾げていると、どうやら『イザヨイの書(巻ノ一)』には3つの魔法が書かれているらしい。そしてその中のどれが読めるか、というのは、本人の傾向によりけりなのだそうな。
「…もしかして俺が先に読んで貸したのって影響する?」
「そなたは風か。風と金は相性がよい。…なるほど、その可能性もある」
又貸し状態で読んだから、3種ランダムじゃなくて、フーテンさんが覚えた『刃』しか覚えられない状態になっていたかもしれんのか。
「あらら。ごめんねえ」
「にゃん~、貸してほしいって言ったのは猫にゃん、全然問題ないにゃんよ~」
他の2つの魔法も新属性っぽいから気にはなるけど、猫が頼んだのだし。
「某の見立てでは、猫には幻属性が合う」
「まぼろし」
「うむ。特に非力でいたずら好きな妖精が好む属性だ。かれらはその力でドラゴンとすら渡り合うという」
「ロマン属性にゃん」
「たぶんピクシー系の特殊魔法だねえ。謎に厄介なのがよくあるよ。あれって魔物専用魔法じゃなかったのか……」
「ちなみに、もう1個の属性は何にゃん?」
「星属性だ。星の力を司る」
「メテオにゃん」
「ロマン2連発にゃん~」
いや、重力かもしれない、あるいは両方。それはそれでロマン。
とはいえたぶん発動に高いMPを必要とする魔法だろうから、猫には縁のないやつだ。攻撃力の高い魔法って、MPや魔力の必要最低値が決まってたりする。
だからこそ、砲台魔法師が魔力以外を捨てないといけなかったりするのだ。砲台魔法ってやつは強力な代わりに、習得条件が鬼畜らしいから。
そんな鬼畜であろう星属性はともかく、妖精が使う幻属性はかなり気になるところ。
「『イザヨイの書』を、フーテンさんじゃなくて猫が借りることは出来ないにゃん?」
「今の猫ではこの本から新たな魔法は覚えられまい」
『再挑戦制限かな? LV上げてから来ると突破出来たりする』
『なるほど』
「残念にゃん~」
いずれリベンジだ。
猫はまだまだ村巡りをするけど、フーテンさんは一度、自由都市へ帰るというのでここでお別れ。
他の面子を迎えにまた隠者の村へ来るので、そのとき猫も拾っていってくれるそうだ。富豪のタクシーありがたや~。
「それじゃ猫ちゃん、またねえ~~」
「またよろしくにゃん~!」
なんだかお久しぶりのソロに戻った猫は、十八道遁術について教えてくれる人がいないかの村巡りを開始。
とりあえずは、会ったことのある人に挨拶してこよかな。
はい。
薬屋のおばあちゃんから、『料理』でも作れる『毒止み茶』のレシピを教わった。
『毒止み茶』は緊急事態ではないときの毒消し薬だそうで、ゆっくり効く。体が弱っている人には、むしろこういうお茶で治療する方が消耗をおさえられてよいのだとか。
『風邪薬』みたいな、一部のイベントで重宝するアイテムっぽい。
『毒消し草』他、数種類の草(猫はまだ入手したことのない植物だった)を蒸してから、乾燥させつつ揉む。いわば『薬草茶』の『毒消し草』バージョン。最後に薬草粉も足して全体を混ぜ、しっかり乾いたら完成。
茶葉での鑑定結果は「薬草茶の亜種。味は悪くないが薬効は少なめ」と出る。薬効が少ないのは猫が『調薬』持ちではないからっぽい。
ちなみに『料理』はないらしいおばあちゃんが作った方は「苦くて渋いが、効き目は保証する」だ。ううむ、これがスキルの差。
「これが治癒の歩だよ」
「魔法じゃないにゃんね?」
「十八道遁術は『いかに隠れ、忍び、逃げおおせるか』というのが元々の教えらしくてねえ。そのための術であれば、魔法とは限らないのさ。レシピもあれば、技もある」
おばあちゃんいわく、元々は何処かの高貴な人が、血筋を繋ぐためにいかに生き延びるか、という知恵を子々孫々伝えたものが『十八道遁術』であるらしい。
忍者の『火遁の術』とかって「忍者が使う魔法」として一人歩きしちゃってるけど、本来は遁走術だと聞いたことがある。相手を撹乱して隙を見て逃げるための術。
この隠者の村で教えてもらえる邪道ってやつも、その派生なのかもしれんね。生き延びるための、道を外れた術。
高貴な人といえば、この世界の国際情勢?も、結構ややこしい。
自由都市は商人の商人による商人のための都市であるから、わりとフリーダムで、国とか貴族関連のクエストが少ないけど、他では結構起きるらしい。
そしてそういうしがらみ型のクエスト展開が多いのは、意外にも廃都エリアだったりする。
廃都エリア、猫が行こうとしているのは『はじまりの街ルイネ』までなんだけど、実はその向こうに、辺境伯領っていうのがある。3つほど。うち2つは第二エディションでの追加エリアなんだけどね。
つまり3国が廃都ルイネと国境を接しているわけだ。
国境、異界の扉、ルイネの林檎あたりが絡み合って、廃都エリアはきな臭い地域なのである。
ついでにこの辺の事情が、プレイヤーたちのCVC要素にも関係している。陣営固定種族は、この3国(+ルイネア)のいずれかの所属になってたりするのだ。
なお人族は所属地を選べる。所属地によってメリット・デメリットがあり、空白にすることも出来る。
空白にするメリットが初期にはあまりないので、人族は大抵、初心者の内は陣営固定だ。陣営を変えるには離脱クエストをする必要があって、お金も時間もかなりかかるらしい。
ちなみにフーテンさんたちは自由都市所属、陣営フリー、ルイネア陣営と結構バラバラだ。CVCもPVPもしなければ、そこまで陣営でプレイが制限されることはないそう。ごく一部のメインストーリーを除く。……そこ重要では?
まあ陣営別れるのもたまには楽しいんだって。
猫は風猫族だから風来坊、もちろん陣営フリーだ。何処にでもいけちゃうけど、何処にいても特権はない。ちなみに風来坊特性のある種族は、陣営をウロウロ出来るけど固定は出来なかったりする。猫はPVPしないし、クランもないから気にならんけど、その辺やる人にとっては致命的らしい。ソロ向け。
廃都エリアは、第二はもちろん第三エディションでもかなり拡張されていると聞く。
でも猫は、とりあえずはゲーム始まりの地を見に行くだけだ。聖地巡礼的な心持ちで。だから拡張エリアについてはノータッチ。要求LVも高そうだしね!
そも、途中であれこれ踏んだせいですでに旅行は腹八分を越えている気もしなくもない。
でも猫、ここらでしばらくはまったりするにゃん~てしたら最後、もう、はじまりの街ルイネには辿り着けない気がする!
なのでルイネまでは頑張る所存。
……閑話休題。
なんだっけ?
そう、高貴な血筋ってやつだ。
ルイネの林檎の木がまだあった頃、ルイネアはある人間の国と同盟を結んでいた。その国は今はないらしいんだけど、『亡国の血筋』てことでいろんなところでチラチラしたりするらしい。
考察スレによると、ルイネアの林檎の木周辺のみがルイネアの地で、その周囲を亡国が守ることで林檎の恩恵を得ていた国と考えられている。
他国と共謀してルイネアを裏切ったのか、それともルイネアを最後まで守ろうとして滅びたのかは謎。なにしろ、長命のルイネア以外みんな死んでる大昔だ。
当時から生きてる超長生きルイネア、のじゃハイティーン姫なユーリハーも、亡国の進退について多くは語らず、口を噤んでいるのだとか。
まあそんなわけでこれもあるいは、亡国の血筋に関わる話、なのかもしれない。
でもナナちゃんさまは亡国の姫? て感じじゃないしなあ。だってそうしたら亡国、ニホンになってしまう。ジパングは東洋の島国じゃないと反発も多かろうて。そんなメタ読み。
「十八道遁術は、ありふれた、特別ではないもので最大限の効果を出すことに特化しておる。ゆえに、治癒の術も最低限での最大限、じゃ」
「なるほどにゃん~」
もしかしてこれ、『料理』『調薬』が両方なくても『毒止み茶』は作れたりするんだろうか。激渋めちゃマズ、効果もわずかだけど、ほんのちょっとの毒消し効果はある、みたいな形で。
そういえばおばあちゃんは、浄水も魔法なしでの作り方だった。
……もしかして十八道遁術は、ラーニングの道標的なものだったりする? いやいや、さすがにそれは穿ちすぎか。
おばあちゃんと別れた後、またうろうろ。
次に教えてもらえたのは運送ギルドの受付さんから。
今度は魔法。
星属性魔法の『軽』、一定時間モノの重量を減らす魔法だ。星属性、やはり重力魔法だったねえ。
欲をいえば幻属性を覚えたかったが、これはこれで。
『軽』は星属性の生活魔法に当たるもので、対象となるもの、重量、時間にかなり制限がある。もちろん制限のかかってない魔法もあるので、それは自分で探すか、自分で解除の方法を考えるといいよ、とのこと。
ちなみにNPCが使う『収穫用コンテナ』などのアイテムには、星属性と空間属性の両方の魔法がかかってるのだとか。へえ~!
猫たちプレイヤーは、マレビトに備わってる特殊な力で普通の鞄もインベントリに拡張する力があるんだけど、NPCにはそういうのはないので、『マジックストレージ』という魔法のアイテムが必要になる。それにも使われるんだって。
『マジックストレージ』には時間経過を減らす魔法も必要なので、時、星、空間の三属性アイテムで、めっちゃお高いそう。
なおこれ、プレイヤーにも今、大人気。『運搬』LVが低くてもインベントリがどどんと増やせる上、コンパクトで邪魔にならないのが受けてるらしい。第二エディションから入った人は『運搬』持ちが少ないっていうから、それとダンジョンが増えたのが噛み合った需要もあるんだろね。
それにしてもこの『軽』、かなり癖のある魔法だ。
アイテムにかけると、効果が切れるまでインベントリにしまえない。だからインベントリの重量削減に…とは使えない。
それでも自分に掛けられるなら『軽業』やルイの負担軽減にと使い道は無限大なのだが、生命体へは掛けられない。なんとも残念。
それこそ運搬依頼で荷車押すようなときにしか使えない、かなり限られた魔法となっている。
十八道遁術、イベント特化型説。
星の歩を覚えた。
無、金、治癒、星と4つだ。5つ集めたら走を教えてくれるとジョンさん言ってたから、あと1つ。
ここはやはり幻属性が知りたい。
さて誰なら教えてくれそうか、と考えていて思い出した。
いたじゃん、妖精。泉に!
いや、泉の妖精が十八道遁術教えてくれるのか??て話ではあるけど。あと、猫、あの妖精さんとは話が出来ないけど。
うーーん。いや、でも一回、行っておこう。
かくれんぼの神の祠にも、ちゃんと参っておきたいし。そしてあわよくば更なる加護をもらい、猫は『隠密』を覚えたい。
あ、あと探し物の神にも見つかってありがとうしておきたいな。それならシャラさまこと鎖結びの神も一応、参っておこうかな。
しかし走の術までいってもラーニングやジョブには辿り着けない気もするので、エンドレスクエストになりそうでちょっと不安もある。
うん、ハイ。しばらくはこの村、猫には重要そうな気配がします。
たしかに猫向けだったや……。
ニンジャの系譜がちょっぴり。あと28話でも少し補完される予定。
猫は陣営固定ではないので主君もなく、本当にただのRPGニンジャ。
陣営固定の人には派閥によって裏シナリオとかダークな暗殺依頼的なものも出るかもしれないけど、風来坊種族は陣営が固定出来ないので、陣営クエストがそもそも出ない仕様。
評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。
今週、そして今月もお疲れさまでした。
前書きでもお知らせしたとおり、次回の更新は6/10(月)、来週は更新をお休みします。
実はまだアルテザ編を書き終えてないのです。
隠者の村連載中に書き終わる予定だったんですけど、村編の手直しがなかなか終わらなかったこと、それから気温差と低気圧で予定が完全に狂いました。
ストックも激減してしまい、今31話を書いています。ストック30話欲しい…!