24.属性が多すぎる
ジョンさん(ナナちゃん)の家を出た。
やはりニンジャ…。ニンジャだとわかっていたら弟子にならなかったのに! さすがニンジャやることが汚い。
えええー…。
でもラーニング統合SPがあるならほしい。猫は現金ないきもの。
というかよく考えたら魔力を練るとか、MP増えるとかとは全然関係ない技じゃなかった?
猫、ジョンさんに騙されてない??
唸っている内に、教本を読み終えたフーテンさんがマイルームから帰還。
「おかえりにゃん~。新しい魔法なんだったにゃん?」
「ただいまにゃん~。金属性の『刃』だって。生活魔法系列みたいね~」
金属性は手に持ったものを変質させる魔法で、『刃』は指先ほどの刃を数秒だけ形成するらしい。その辺の木の棒がナイフ代わりに使える生活魔法だって。
「金属性魔力は金属と相性がいいから、金属なら変質が残ったりするみたい。たぶんこれ、修繕系の魔法でもあるんじゃないかな~」
なるほど。
あれ、でも待って。
「生活魔法にゃん?」
「うん? MP5でロックかかってる魔法だからたぶんそうかなと思ったんだけど」
「にゃあ~~! ジョンさんに騙されたにゃん~~!」
「あー…」
猫は気を使うことに長けてないから駄目ってのはなんだったんだ!? MP5なら覚えられるじゃん!
やはり『属性魔法』スキルの有無なの!?
「読んでみる? また貸しで読めるかはわからんけど…」
「読むにゃん!!」
レンタル時間はまだ残っているので、早速教本を借りる。生活魔法ってことは0まで減らした方がよさそう? あ、120くらいまで大丈夫? ならそのくらいで。
生活魔法の系列だというのに、習得時のMPが多めなのは後に出てくる教本だからかね?
おっと、立ったまま待たせるのはなんなので、椅子を出してフーテンさんに勧めておく。いや、小さいか?
フーテンさんも椅子は持ってるそうなので、休んでてもらうことにする。
猫も椅子に座って、帽子脱いで『ジュエル』してレトに渡して…、MP調整完了!
よし、読むぞ!
……はい。
新属性ということで初見の内容が多かったのと、魔法式がかなり複雑だったので解読に時間がかかってしまった。
傾向としては闇と火と土、雷と光、それから無が混ざっているっぽい。無が混ざってるとかなりわかりづらくなるな。
魔法はフーテンさんから説明してもらった通り、物質に魔力を通して変質させる魔法だ。金属性の魔力に反応する魔力を1ヵ所に集めて変質させることにより、刃をつける。
ざっくりいうと、たとえば1本の枝を用意して、全部の水分を先端に集めて凍らせてここに氷柱を作る、みたいな感じか。この水分が魔力。
魔力をぐぐっと1ヵ所に集めて変質させるので、元のアイテムの強度や魔力量によっては変質後、破壊されてしまう。
たとえば木の枝とかだと、『刃』をかけて数秒は強度を保っているが、効果時間を過ぎると崩れ去ってしまうらしい。しかしその効果時間中だけは鉄と同等の強度を持つ。使い方によってはいろいろ出来そうね。
かける物質はなんでもいいらしいけど、変質に耐えられず壊れるかもだから運用は計画的にね、といったところ。
なお、生命体には使用不可。水分を多く含むものも不可。つまり氷を刃に、というのは出来ない。葉っぱも駄目。ただし枯れ葉ならいける。そんな感じ。
石にも掛けられるが、魔力(MP)が多くかかる場合もあるため、生活魔法の範囲に含まれる『刃』ではなく、金属性魔法をきちんと学んだ方がよいそうだ。
鉄のミニナイフくらいなら、『刃』でも問題ないみたい。そして変質も残るので、手入れにも使える。なるほど。
というか、使い道としてはこっちがメインっぽい?
ただ鍛冶師に研いでもらうほどには直らないので、応急措置程度。
鍛冶師が使うとまた別なのかもしれないねえ。
それでは実践。
なんか使えそうなアイテム…石ころは駄目らしいから、葉っぱ…は水分があるやつしか持ってないな。瑞々しい。
鱗、はこの前使いきっちゃった。
んん~、最低品質素材ならあれこれあるけど、通常品質素材が無さすぎるな!
あ、ペングーの羽根。矢羽根になりそうだから執事さんにでもあげるかと思ってたけど、それどころじゃなくて忘れてたやつ。これにしよ。
切れるかの実験のためには『黄キャロ』を用意しました。あ、待って待って、切ったらあげるのでルイはステイ! よしよし。
羽根を手に持って、『刃』、そしてスパンと。おおお、羽根でにんじんが切れた!
これなら装備無しで遭難しても安心! …いやインベントリあるからそういう事態は起きんか。
テッテレー、『刃』を覚えた!
残念ながら16属性目のアナウンスは無し。18集めたらまたSPもらえるのかな?
ルイに黄キャロをあげて撫でる。今日も良い毛並み。
「お、猫ちゃん出来た?」
「出来たにゃん~! ありがとうにゃん!」
はい、と教本を返すと、何かいいたげなお顔。あれ、レトったら珍しく一緒に教本を読まずにフーテンさんの方行ってたのか。
「猫ちゃんや」
「にゃん?」
「マルモ、進化した?」
「したにゃん。マジカルマルモにゃん」
「まさかの新種……!!」
ワアッと顔を覆ってらっしゃる。……アクションはなし。ちょっと残念。
「来るとしてもビブリオマルモと予想してたのに、飛び越えちゃったか~」
「ビブリオも進化先に出たにゃん。でもマジカルも出たら、マジカルにしちゃうにゃんね?」
「それはしちゃうにゃんね~~」
どうやらレトは、フーテンさんにヒールをかけて魔法を自慢していたらしい。先に『ダークフォグ』は使わないよう言っておいてよかった…!
「猫ちゃん、堕ち神戦のときヒーラーしてたみたいだから、また何見つけてきたのかと思ったら進化か~~」
「にゃふふん」
そうそう、実は猫、BOSS戦のリザルトでヒーラーMVPもらったのだ。レトったらメインヒーラーだった。
回復総量では3位だったから、たぶんヤマビコさんやリーさんのが上だったんだろうけど、回復した人数と、ナイスヒール(この回復がないと危なかったとかそういうときにつけられる得点らしい)が多かったらしい。初めて知る項目だったぜ…。
ちなみに今回のBOSS戦のアライアンス設定も、経験値分割じゃなくて各自で挑んだ。
というのも硝子連合がみんな生産寄りの半生産だし、頭割りだと完全に吸っちゃうことになるから各自にしてほしいと申し出があったのだ。フーテンさんたちはイベント進められたのはみんなのおかげもあるから、せっかくだし経験値吸っておいきよ~て感じではあったのだが、最終的には本人たちの意思を尊重して各自になった。なお猫も各自で賛成派。
だから今回、ダメージ行動をしていない猫の実質獲得経験値は、泉闇虫を浄化した分くらい。
あとはBOSS戦参加の貢献度によるものだ。
泉闇虫駆除はアイテムを用意したことが貢献に入ったようで、2位。1位はたぶんリーさんか、ポユズさんだろう。神官で聖属性持ちだし。
それとヒーラーMVPで、かなり経験値もらえてしまった。レトのおかげですな。レトのふんどしで相撲を取る猫。
…まあ、まあね、アライアンスというか集団戦、いやPTにしても、猫の役割はテイマーサモナーなわけで、レトの活躍=猫の活躍ってことはちゃんとわかってるのよ。
わかってるんだけども、レトのMP回復しかしてなかったな~とかは気になってしまうわけだ。サモナーとしても、ちゃんとレトの支援をしてあげないと駄目だったな~とか。『パウダー』失敗だったし!
やはり『従魔法』か…。
バフ魔法を教本で覚えるのと、どっちがいいか迷ってしまう。完全にLV依存でしか魔法を覚えないのもつまんないし。従魔法にも教本もあればいいのになあ。
「マルモはまさかのカーバンクル系列かぁ」
「にゃん? 石、出来てないにゃんよ?」
「そうなんだよねえ、そこが謎。ペリドットミミットみたいに、前段階として角が出るわけでもなさそうだしねえ」
ミミット→ホルンミミット→ペリドットミミットで進化する魔法系列のミミットは、ペリドットからカーバンクルと呼ばれる。
このゲームでは、頭周辺に魔宝石がある小型の魔法タイプを『カーバンクル』と総称するのだ。
その点、レトは耳が少し大きくなったかなという程度で、額にも頭にも角が出来てはいない。いや、頭周辺は絶対触らせてくれないので見えない角があったらわからんのだけども。
『カーバンクル』は、従魔・召喚獣どちらにもいる。「頭付近に魔宝石がある小型の魔法タイプ」は全部カーバンクルと呼ばれるから、範囲が広いのだ。
そして敵側にいる場合は必ず特殊な魔法を放ってくるが、味方の場合は使わないという残念な特徴がある。
そういえば「カーバンクルは謎の魔法を使う」ってあれ、言われてみればレトの魔法に似てる、のかも?
もしかしてレトの全体魔法は、種族特性の可能性もあるんだろうか。でも単発のヒールも普通に撃てるんだよ。
「にゃん~、レトは種族進化前に、装備で『時属性魔法』を持ってるにゃん。それから、進化して『回復魔法』が出たにゃ」
「おお、時属性とは珍しいね~。魔法スキル付き装備をそのLV帯で手に入れる猫ちゃんにもびっくりなんだけど。時属性だったのはランダムで?」
「そこはわからないにゃん」
カーバンクルの魔法石だから、カーバンクルの使用属性がランダムで引き継がれた説と、青月夜の持つ属性に時属性があるからそれが原因なのか。諸説あります。
かくかくしかじか~と『魔宝石の組み紐ペンダント』の入手経緯についてざっくりと説明。
「元がカーバンクルの魔法石だからカーバンクルの魔法が出てる可能性もなきにしもあらず?」
「でもたくさんハートが出た魔法は時属性の『リカレント』だったにゃん。たぶんそれまで使った数だけ繰り返す魔法だったにゃんよ。起点は『カウント』にゃん。だから、猫としては時属性が怪しい気がしてるにゃ」
「あの大量ハートありがとねえ、燃え死ぬかと思ったから助かったわ~。しかし時属性かあ……うーん、スキル持ってるのひとりしか知らんのよな~」
そういえば前に、属性魔法スキルを6種全部取って時属性を取った人がいるって聞いたっけ。
「猫ちゃんさえよければ、俺の知り合いの時魔法師にそれ投げてもいーい?」
「もちろんいいにゃんよ~」
「……あ。今メールしたら『カウント』覚えてるって。それなら教本買えるし、買って読むように伝えてみるわ~。『リカレント』も買わせておこ」
さすが秒で返信がくる男、連絡が早い。話しながらメール打てるの素直に感心してしまうな。
というか向こうも返信が秒だな?
習得済なのに教本買う??と思ったら、自動で覚える魔法は30文字程度の説明があるだけで、詳しい解説はないんだって。
だから習得はしているものの、基礎はともかく応用がわかってない魔法があるのではないかとのこと。
そういえば、猫は自動習得の魔法って『ジュエル』しかまだ経験がないんだよな。『ジュエル』も大概謎すぎるんだが、みんなこんな謎な状態で魔法使ってるのか…すごいな…。
習得済魔法の教本は、MPを合わせなくても読めるらしい。習得済魔法の教本も売店から消えないのは、そういう理由もあるんじゃないか、とはフーテンさんの言。
なるほどねえ。猫も『ジュエル』の教本あったら絶対買う。今度受付さんに聞いてみよ。
連絡したら早速読んでみるとのことだったので、あとは本人に実験してもらって、結果をお楽しみに~とのこと。
丸投げにゃん。
「いいんだよ~、出来ること少ないっていつも嘆いてるし。これでカーバンクルになれるならヤツも本望でしょ」
「フーテンさんもカーバンクルになるにゃん」
「砲台とは相性悪いかな~~」
たしかに。
カーバンクル式はヒールとか支援系、あとデバフとも相性がよさそうだ。
「そういや猫ちゃん、ジョンからはスキルだった?」
「にゃん~…。一応、魔法だったにゃん」
「おや、魔法なの? …煮え切らないお顔?」
「たぶんラーニング統合系だと思うにゃん、5個覚えたらまた来るように言われたにゃん。ラーニング統合はしたい、でもこのスキルを覚えるのは気が進まないにゃん…」
「そんなに嫌がるなんて何だったの?」
「シノビになれって言われたにゃ…」
「あ~…」
やはり予想はついてたらしい。
「ニンジャ、嫌なの?」
「嫌にゃん~、いくらなんでも猫には属性過多にゃん? ニンニンにゃんにゃんはダメにゃん。ござるにゃんはもっとダメにゃん!」
「ニンニンにゃんにゃんござるにゃん!?」
たいへんリズムがよい。
しかし猫でニンジャなんて属性積み過ぎてよくない! 猫はシンプルがいいにゃんよ~!
「いやいやいや、一応シノビの者なんだし、そこで個性出す必要はないんじゃない? 忍んでいいのよ?」
「にゃあ…」
それはそう。
……それもそうね?
ニンジャというとなんかやっとかないといけない気になってしまってたな…。
きっとたぶんジョンさんのせい。
「ニゃン法くらいでいいと思うよ~」
「ニゃン法!?」
「ニゃン法!にゃんとかの術~!」
他人事だと思って!
…採用します!!
猫は『刃』を覚えた!
お久しぶりのしっかり教本学習編をしたらいつもよりうっかり増量。
拙者、ゲーム内で「何に使うんだこれ」と突っ込みたくなるでも現実には欲しいフレーバー魔法が大好き侍。ティンダー!
評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。