21.月の軛
区切りの関係で少し短めです
ふわんと再び大岩から出てきたシャイアネイラさんはなぜか姿が変わっていた。
白いドレスは黒に、銀髪は色濃く、鋼色に。ドレスはふんわりした素材から革っぽく変化して、大分印象が変わった。
ぴっちりと肌にくっついて、服というより皮膚の色が違うだけ、みたいにも見える。ドレスの破れ方がそのまま継承されたようで、足や腕はところどころ色が混ざっている。そこに緑の蔦が這うように絡まっていてなんだか倒錯的。
球体関節でヒレの脚、それから長い髪の先が銀の鎖になっていて、異形感もある。
……ううん、サキュバス…いや、女王様系か?
顔は同じなんだけど、かなり変えてきたなあ。
『これは推せる…!』
『シャイアネイラの儚さはどこへ消えた!?』
『脱皮するとイメチェンしちゃうんです??』
『やだあ、シャイちゃんがグレた!』
音を立てる鎖の先からは、蛍のように光が生み出されていく。これは、精霊?
『これは私たちの絆。私と、私と、私の、私の絆』
フルートのような声が鳴り渡り、エコーがかった言葉が追いかけてくる。
『私は繋ぎ止める。世界に留まる、とどめる、ここで、あなたを繋ぎ止める』
シャイアネイラさん、すっかり神さまみたいな喋り方になっちゃって…。
リフレインが多くて、意味が重なって、聞きやすいような聞き取りにくいような不思議な言葉。
無事に新神祀り上げ作戦が成功したのは嬉しいけど、なんか違うモノにしてしまったようで、ちょっとの罪悪感がなきにしもあらず。
おおお、とNPCのおじいちゃんが呻くように声を上げる。
「そうじゃ、思い出したぞ…! ワシが子どもの頃にばあさまから聞いた……鎖繋ぎの神じゃ!」
『この爺ぃー! 何度聞いても「はて、なんじゃったかのう…」とかいってたくせにー!!』
『ここにきて突然でばりよる』
『お爺ちゃんなんでついてきたのかと思ったらもしやこのため…!? 実はジョンより強い師範代説を推してたのに!』
おじいちゃんは堕ち神さまの名を継いでいた神官系の末裔とか、そんな感じか? 情報を全部集めてから聞くと突然思い出すやつ。…逆にいうと情報を集めない限り、ボケ老人を極めてしまう。
ポワワワワワンと猫の前に光が浮かび『鎖繋ぎの神』の加護を得た。やったぜ。
効果は『ひとえつぎの神』と同じく絆値関連。同じ加護の神さまもいるんだねえ。今回はリューシーも、それからロアンも加護を得られたようだ。
『私はシャラ。繋ぐものあれば喚びなさい』
シャララララ…と髪の鎖がなびく音を残して、シャイアネイラさん改めシャラさまな鎖繋ぎの神は、溶け消えていった。
元『鎖繋ぎの神』だった大山椒魚な古い神さまは大岩が損傷したことで岩に戻れなくなり、やがて忘れ去られて堕ち神になってしまった。
でもその『鎖繋ぎの神』を元々固定していた岩にはその性質が多少なりとも残っていて、かつシャイアネイラさんと融合した『闇の精霊石』分の魔力もあった。だからもろもろひっくるめて融合した結果、性質が変化して『鎖繋ぎの神』を受け継ぎ、新たにシャラさまが生まれた…てことでよいのかな??
たぶん、シャイアネイラさん(人形)の元々の名前がシャラさんだったんじゃないかな、と。鎖の音がシャラランでシャラではない、はずだ!
『おめでとうございます』
『空白に注ぎ込まれた偉業により、稀なる界に扉が繋がりました。『マレビトダンジョン』についての情報が新たに解禁されます』
『おめでとうございます』
『空白に月の軛が繋がり、新たな神が生まれました。『鏡月』についての情報が新たに解禁されます』
ポワワワンと再び連続でアナウンスが出た。
なんかさっきのアナウンスともちょい被ってる上に、見たことのない文字色をしている。
はて、これはいったい。
『……今の、ワールドアナウンスでは?』
『マ!?』
マ!?
最後にいろいろな衝撃を受けつつも、こうして黒月夜(鏡月夜)イベントは終わったのだった。
いやいや、『マレビトダンジョン』てなんなの!?て話だ。
これ、最初は全然わからなくて猫たちも混乱したんだけど、蓋を開けてみれば『マレビトダンジョン』に関わるワールドアナウンスは、猫たちとはまったく無関係の話だったっぽい。
つまり我々と同じように鏡月夜のイベントに挑んだ人がいて、そちらは『マレビトダンジョン』を踏み、こちらは『月の軛』を踏んだ、とどうやらそういうわけだったみたい。
「まだ何もわからんので、一通り調べたらまた報告します」という人が掲示板に現れたので判明。
うん、わからないことだらけで書けることないよね、てことで、こちらも『月の軛』についての書き込みは保留。たぶん鏡月夜関連のイベントに関するものだろうから、報告まで日付が多少開いても問題なさそうだしね。
ワールドアナウンスの『鏡月についての情報が解禁』というのはヘルプに情報が出るとかそういう話ではなく、NPCと話したり、本を読んだりすれば、鏡月の情報が手に入るかもね、みたいな話らしい。
このゲームでは、メインストーリーが進むとよく出る文言なのだそう。
これまでも前にも情報、手に入ってたみたいじゃん?と思ったら、情報の入手難易度が下がるんだって。
例えばこれまで「鏡月って知ってる?」と街中で聞いても「そういう月があるらしいね」で触り部分しか教えてもらえなかったところ、「最近はよく耳にするね、私が知ってる話だと~」のようにちょっと詳しく教えてくれるようになる。
つまり、プレイヤーにとっては「この単語で調べてみなさい、そうすれば何が起きてるか(起きるか)がわかりますよ」という案内になる。
いやはや、おかげで掲示板がにぎわうにぎわう。おかげで安楽椅子探偵ごっこが出来ちゃうぜ。ありがたや~。
そんなわけで鏡月について、お暇なプレイヤーたちが早速聞き込んでくれた結果がこれだ。
まず、古くからの伝承によると、空には5つの穴が空いていたそうだ。そしてそれは5つの幽世と結びつき、穴の向こうに見える違う世界を人々は『月』と呼び習わしてきたそうな。
そして昔は、5つの月が巡っていた。今はないが、金色の月があった、という伝承はたしかに残っているんだって。
『これは金の月が巡っていた頃…』という言い回しは、このゲームにおいては「むかしむかし」の凝った言い方だそうな。へえ~、見たことなかったな。…猫がいかに昔話系を読んでなかったかがバレる。ペチカちゃんなら知ってたかもしれん。
次に、では月が4つになったということは、じゃあ5つめの空の穴はどうなったのか?
そもそも月の満ち欠けというのは世界に空いた穴が世界の呼吸(?)によって伸びたり縮んだりして起きているらしい。最大に広がったときが満月で、新月には閉じてると。
この世界に空いた穴というのは『異界の扉』ではなくて、要は精霊界とか物質界みたいな、元々繋がって(重なって)いる、安定した別の世界、であるらしい。
ネタ元としてはたぶん、北欧神話の世界樹ユグドラシルなんじゃないかなーという気がする。ルイネアの林檎の木も世界樹っぽい雰囲気出してたしね。掲示板でもその辺で盛り上がっていた。
つまり金の月を失った、とは、世界の繋がりがひとつ断たれたということ。かなり大きな事件だったんだろうねえ。
で、この繋がってない5つ目の穴。
幽世とは結びついてないまでも、伸縮はしている。そして最大になると、どういうわけか青白赤黒のいずれかの月が映るらしい。
なので一見、普通の満月でわからない。
これがまるで真似事をする鏡のようだから、鏡月と呼ばれているんだって。
そして鏡月夜は必ず月蝕(?)が起きる。ほんとあっという間に終わるけど、月が金色に変わる。これが特徴だそうだ。
なるほどね~。
鏡月は他の月夜と違って、毎季あるわけじゃないようだから、狙うとなるとすごいややこしそう。
『月と精霊の扉』にも鏡月のことは書いてなかったし、また別の本を探してみようかな。
で、『月の軛』に話は戻る。
これはおそらく、この今現在パカッと開いちゃってる空の穴を、元々繋がっていた金の幽世に繋げることを指しているのでは?というのがみんなの見解だ。
猫もそう思う。
異界の扉がパカパカするのはよくないんだけど、穴が開きっぱなしなのもよくないはず。扉は閉じれる分、まだマシなのでは?
いやあ…、しかし『軛』は気になる表現ではある。あんまりいい意味で使う言葉じゃないし。
運送神やかくれんぼの神も、青や黒の幽世が現世を侵食していくから気をつけろ~みたいなこと言ってたし、うーん?
アナウンスでは祝われたけどね! はたして本当にめでたいことなのか?
運営を信じていいのかどうか、猫はかなり疑心暗鬼よ。
神さまが生まれるのは、たぶんいいことなんじゃないかな~、と思ってはいるんだけども。
情報解禁についてアライアンスで話し合ったりもした。でも月の軛について説明するには、まず精霊関連を出さねばならない。なので情報公開について猫は「おまかせするにゃん~」で丸投げだ。
精霊関連で大変になるのは、硝子連合をはじめとする『ガラス工』だしね。猫が口を挟める問題ではない。はい。
ワールドアナウンスの内容についてはこんなもんかな。マレビトダンジョンについては続報に期待だ。
ようやく隠者の村編のメインイベントが終了。
次回はクエストリザルト。それに伴う報酬関連で、もうしばらく村に滞在します。
今週も金曜まで予約投稿済です。
まったりのんびりいきましょう~