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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
3章 金欠猫には旅をさせよ~誘惑の山旅編~
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19.昇華

「では、シャイアネイラ。『昇華』をしましょう」

『待ちわびたわ』


 おお?

 謎アーツ『昇華』がここでくるの?


 どうやらシャイアネイラさん、人形と融合している精霊石に『固定』済なので、このままでは精霊としては動くことが出来ず、『融合』できないんだって。

 やはり『固定』は自分の意志では出てこれなくなる、かなり重要なアーツっぽい。


 そして『昇華』は先にも説明を受けた通り、現在の器を飲み込み消化して進化する、いわば脱皮? 蛹の羽化?のようなものらしい。

 その際、これまで器としていたものはすべて、精霊の糧として消費される。


 つまりシャイアネイラさんは人形の体を捨てるために、まず『昇華』が必要なのだ。


『人形破壊されちゃううああ!!』

『あああ精霊石よりぶっちゃけ魔真鍮のが欲しいですうう!』

『魔陶片んんん!!』

『お黙りなさい、見苦しい!』

『いやいやいや、ティアラちゃん、考えてみて! 人形だよ? ビスクドールだよ? 絶対グラスアイじゃん!!』

『破壊は絶対よくありませんわ!!!』

『草』

『ごらん、これが目先の欲に振り回される大人の姿だよ…』


 アライアンスチャットは大盛り上がりだが、話の流れに口を突っ込むものはいない。

 というかシャイアネイラさんの人形ボディ、損傷が激しすぎて、痛ましいくらいなのだ。これはもう、保たない。耐用年数をはるかに越えている。

 肩掛けとか膝掛けで隠されてたからわからなかっただけで、ネグリジェだけだったらすでにボロボロなことにすぐ気づいただろう。


 だからこれはたぶん、見守るのが正解だ。


 皆の無言の促し(一部は唇を噛み締めつつではある)で、シャイアネイラさんは黒い月を見上げ、腕を天へ伸ばした。月を抱き締めようとするかのように。錆びだらけの肘が軋む。


「『昇華』」


 声が聞こえ、シャイアネイラさんの体が黒く染まり、まるでつぼみが咲くように膨れ上がる。

 そして花開いた闇をひっくり返して、にょきりと白く、仄かに輝く半透明の腕が生えた。頭が、体が現れて、人型をかたちづくる。


 そして現れた精霊シャイアネイラさんは、グラマラスなお姉さまだった。

 闇人形が着てた金属のドレスを、布にしたらこんな感じ、というふうな、あちこち破れたちょっとボロいドレスを身に纏っている。

 しかしドレスと身体が一体化しているようで、ドレスの裂目から覗く肌は炎のように揺らぎ、光の粒になって夜に溶けていく。

 下半身はふわりと長い裳裾に覆われているが、スリットが入っていて足先が見える。うーん、チラリズム。まあチラッと見えてる足が、どういう融合をしちゃったのか球体関節な上に爪先にヒレがあるっていう不思議さなんだけども。


『なるほどハーレム野郎はこれかぁ…』


 あー。

 名前わかってるし、魔宝石とかに宿ってもらって、なんらかの装備にして『固定』したら、そういう感じになるのかも。


 このイベント、アライアンス用っぽかったけど、ソロ用はソロ用で何かあったのかも?

 というか、そうだよ、猫たちはアライアンス。ひとりだけの精霊とか、どうしたらいいんだ?? 分裂してくれたりはさすがにしないだろうし。

 いや、シャイアネイラさんがプレイヤーに着いてきてくれるとは限らんけど。


 新生シャイアネイラさんは、ナナちゃんが腕に抱えていた人形の首に手を伸ばす。首がサラサラと砂になっていくのを硝子連合たちが『アアーッ!』と声なき悲鳴をあげた。さらば新素材。

 頭には精霊の入った魔宝石だって入っていたはずなので、そちらを惜しむ声も少々。

 改めて考えると人形、めちゃくちゃ金かかってるな。人形遣い、ブルジョワスキルの最高峰と言えるのではなかろうか。



 ナナちゃんが懐から大粒の魔宝石を出してシャイアネイラさんへ差し出す。

 こんな人間サイズでもあんな小さな石で住処になるのか、と眺めていると、シャイアネイラさんが何度も石に触れて、撫でたり、両手で包んだりしては首を傾げる。


 あれ? もしかして、入れない?


『お客様の中になにかいい感じの魔宝石をお持ちの方はいらっしゃいませんか???』

『たしかになんかそんな感じのイベントっぽい?』

『アライアンスだからかね? みんなでひとつずつ出して、選ばれた人を恨みっこなしよ?』

『いや恨みっこなしにはならんやろそれ』


 たしかに。

 猫だって魔宝石なんて何度も都合よく持ってない。


 ……あ!

 そうか、そういうことか。


『にゃん~、猫にひとつ考えがあるにゃん。でもたぶん誰も精霊は手に入らないし、何の得もない可能性も高いにゃ』

『猫ちゃんの好きにしていいよ~』

『私もランさんにお任せしますわ! こういうものは誰かひとりが得るより、誰も手に入らないほうが禍根が残りませんもの』

『んだんだ』

『第二のハーレム野郎にはなりたくないですし』

『まだひとりだから正妻なのでは?』

『精霊の限界数がまだわからないのに、正妻なんて決められねぇよ…!』

『優柔不断系ハーレム野郎は絶許』

『ほろぼせ!ハーレムの槍!』

『下ネタはよせ! 猫ちゃんもおられるのだぞ!』


 アライアンスチャットでも同意を得たので、猫は新生シャイアネイラさんに話しかける。


「シャイアネイラさんに入ってもらいたい石があるにゃん~」


 精霊となったシャイアネイラさんはふわりと微笑んでうなずく。あれ、人形から出ると話せなくなっちゃう?

 両手を差し出されるので、首を振った。


「猫の持ち物じゃなくて、村の大岩に入ってほしいにゃ」

「大岩ですか?」


 疑問を呈したのは、ナナちゃんだ。


「そうにゃん。あの大岩はたぶん、元々御神体だったんだと思うにゃん」

「御神体…」

「祠の一部とかだったんじゃないかにゃ? 何か彫ったような跡がついてたにゃん。たぶん神さまの役割とかが書いてあったんだと思うにゃ」

『私が入っていいのかしら』


 シャイアネイラさんがおっとりと首を傾げる。話せないかと思ったら話せた。

 しかし人形だったときはちゃんと人の声だったけど、今はなんだかフルートっぽい声だ。

 精霊の声は音楽で、彼らが語りかけようとするときだけ言葉がわかる…とかそういう演出なんだろうか?


「にゃん~、猫にはわからないにゃん。でも『闇人形』は、泉闇虫イズミノヤミムシ、つまりは堕ち神さまの闇の魔力で動き出したにゃん? その『闇人形』と融合したシャイアネイラさんは、堕ち神さまを継承してる……と言えなくもない、気がするにゃん」

『なるほど、たしかに??』

『言えなくもないけど、言えなくないこともない辺りを攻める高等テクニックにゃん~』

『つまりごり押しにゃん?』

『押しつけるにゃん!』

『この扉は押したらきっと開くにゃん!』

『押せ押せにゃん!』

『その手腕に痺れる憧れるにゃん~!』


 アライアンスチャットがヤイヤイしている。

 なお猫の狙いはシャイアネイラさんを新神と祀りあげて、旧神は倒したのではなく世代交代したことにしようという証拠隠滅である。

 押せ押せにゃん!



 他に案もないことだし、シャイアネイラさんは大岩へ入ってみることになった。『固定』しない限り基本、出入り自由らしいので、まあお試しに。


 『固定』についてはナナちゃんが詳しく教えてくれた。

 そのままの状態では住み処(家)になるところを、閉じ込めて守るようにするのが『固定』らしい。つまり監禁。

 『固定』出来るかどうかは住み処にしている石のサイズや、精霊の声が伝わるかどうかによりけり、だそうだ。


「精霊の声にゃん?」

「はい。精霊の持つ力が石に及ぼす効果、それを世界へ伝えるのが精霊の声です」

『ホワッツ???』

『ナナちゃん、相変わらず説明が独特!!』

『親切なのか不親切なのかわからない、それがナナちゃんさまよ…』


 なるほどわからん。

 えーと、精霊の持つ力が石に及ぼす効果、は順当にいけばアクセサリーにしたときに判明する装備効果、てことよな。

 それを世界に伝える……。硝子連合の誰かが固定試してみたときには、1日1回アイテムとして使用出来るようになったって言ってたっけ?


『つまり、装備アーツのことか?』

『ぽいわね』


 エドさんとリーさんの会話で納得。なるほど、アーツ扱い。

 装備時にスキルが使えるようになるものは装備スキル、装備時にアーツが使えるようになるものは装備アーツ。


 装備アーツ=精霊の声であるなら、装備できないアイテムには『固定』出来ないってことか。


 ……大岩は装備できんな?


「大岩でも大丈夫にゃん?」

「精霊にたいして、石やそれを組み込んだものの大きさが十分にあれば大丈夫です。シャイアネイラであれば、直径3mほどの岩ならば問題ないでしょう」


 石が窮屈で閉じ込めてしまうような場合には、装備されることで声を外に出す仕組みがないと、精霊は弱ってしまうらしい。

 しかし精霊が十分に休める大きさがあるならば、声を出す仕組みはなくてもいいんだって。

 だからシャイアネイラさんを3m以上ある大岩に『固定』するのは問題ないらしい。


 ……なんだか自分で言い出したことながら、それ封印て言わんか?て気もしてきたな??


「『固定』は精霊を物質に縛りつける、と嫌うものもいますが、外部の影響を受けやすい精霊は、『固定』されることで揺らがなくなるという利点もあるのですよ」

「悪いことばかりじゃないにゃんね~」

「注意点としては、『固定』された精霊は徐々にそれそのものが本体となっていきます。でも物理的に存在するということは、劣化していくことでもあります」

「たしかに、装備は耐久度があるにゃんね」

「はい。ですので、精霊は『昇華』を行い、進化しては新しいものに『固定』される、という過程が必要になるのです。そうすることで、精霊自身もより大きな存在へと変わっていく」


 ふむ。

 精霊そのものにはLVがなく、アイテムに固定することで声=装備アーツを発現する。『固定』しなくても装備効果は出ているけど、『固定』しないと装備アーツは出ない。

 人形は『固定』しないと自律式にならないようだったし、いろいろ利点はあるんだろう。

 そして耐久値が落ちてきたら、昇華してアイテムを破壊、中の精霊だけを取り出す。


 かくれんぼの神さまも大きく育ててね~的なことをいってたし、精霊使いは『固定』『昇華』をうまく使ってパワーアップしていくことになるのかも。

 つまり精霊使いもブルジョワスキルにゃん?


 ……まあ他力本願するスキルはどうやってもお金がかかるね~~。仕方ない。



ナナちゃんによる精霊使いチュートリアル(基礎編)


評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ――つまり、精霊とはヤドカリだった!←
[一言] ナナちゃんさまの説明がよく分からないから「にゃーん」と言っておこう。いずれ猫ちゃんが実際に関わったら分かるだろうスタンス(すみません)。 アライアンスまでにゃんにゃん言ってて楽しいにゃん。 …
[一言] シャイアネイラにゃんを堕ち神様要素で強化していくと 人形型→人魚型(下半身山椒魚)→人面魚型(山椒魚メイン)って感じの見た目に変化していくにゃん?
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