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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
3章 金欠猫には旅をさせよ~誘惑の山旅編~
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17.幽世の澱み

 おお、光った。メタリック星再び。

 そして火柱。よく燃えてるなあ。山椒魚というかサラマンダーは皮下脂肪が厚いからよく燃えるって話があったっけ。意外と火が弱点だったのかも…。


 あっ、うわ、火の雨、引火した泥が降ってる!?

 範囲攻撃っぽいので幸いこっちまではこないけど、一瞬にして阿鼻叫喚だ。連続で赤いフキダシがどんどん弾ける。巨大山椒魚が燃えたまま大暴れしてるのだ。


 猫は下級ポーションしか持ってないけど、ないよりマシか!

 スリングでポーションをポイポイと投げて支援しつつ、レトにも連続でのヒールをお願いする。レトのMPが減ったらMPポーション。うう、せめて中級ポーションがあればなあ!


 今度リーさんにアイテム投擲のこと、ちゃんと聞いてみよ。たぶんそれをメインにしてるってことは、アイテム使用になんらかの特典があるスキルかジョブがあるんだと思うんだ。アイテム師的な。


 考えつつまたレトのMPを回復させると、レトがルイの頭の上に乗って、杖を両手にヌン!と掲げる。

 全快だったレトのMPが全部消えると同時に、ポポポポポポポポと連続してパステル紫のハートが猫たちの頭上に浮かんだ。もちろん、みんなの上にも。

 ひとつひとつは80程度の小さな紫ハートだけど、数十個浮かんだハートはとりあえずの足しにはなったらしい。


 レトはムフーッと鼻息を吐いてやりきった顔だ。


「…今のもう一回出来るにゃん?」


 聞いてみると首を振る。杖を振り振りなんか説明してる?けど、ごめんよ、マルモ語はわからない。

 そういえば『使役』や『召喚』には『魔物言語』みたいなのないのかね? いや、あったらマルモが役立たずとは言われてないか。

 猫に伝わらないのがわかると、レトは目に見えてしょんぼりした。……ごめんて!



 それからまもなく、最後の力を振り絞って大暴れした巨大山椒魚は力尽きた。纏っていた炎が燃え尽き、ぐしゃりと全身が崩れ、コールタールのように暗く溶け出す。

 同時に、フッと足元が溶けたかのように浮遊感に襲われる。

 そして周囲の光は消え、真っ暗闇に包まれた。





 ええ、と?

 キョロキョロ見回してみるも、ルイやレト含む猫たち以外の姿が見当たらない。夜目もあるから、暗くても多少は見えるはずなんだけども。これはもしやPT毎のインスタンス?


 アライアンスそのものは解除されてないが、チャットは沈黙している。『にゃーん』しても『にゃーん』が返ってこない悲しみ。

 ここはいったいどこだろ、と思ってふと気がついた。


「もしかして、幽世かくりよの澱み…?」

『そう。そうだよ。見つかっちゃったあ』


 『かくれんぼの神』の声がどこからかする。見つかった、というわりに姿はまったく見えない。

 神殿や祠で聞いたときは笑い含みの子ども声だったんだけど、今はグラスハープというか、ハンドパンのような音色に言葉が吹き替えされているみたいな、不思議な声色。

 暗闇の中にわん、と反響する。


『忘れられてしまうとね、みんな姿を思い出せなくなるんだよ』


 それはかくれんぼの神のことなのか、それともさっきの『墜ちし荒ぶるみたま』のことなのか。たぶん、後者なんだろうとは思うけども。


 ぽわ、と足元から光が浮かび上がる。

 猫は、3m四方ほどの小さな箱?の中にいたらしい。床全体がじわじわと光り、やがてパラパラと剥がれ落ちるように、箱の外へこぼれていく。


『見つけてもらえて、嬉しかったんだって。

 見つかってしまって、悲しかったんだって。

 滅ぼされてしまって、安心したんだって』


 足元が光りながら崩れていくのはなかなかドキドキ体験だが、ルイが全然動じてないので安定感ある。さすがルイ。なおレトは大興奮。

 崩れるといっても、足に触れる床が消えるわけではない。ちょっとプロジェクションマッピングぽい。でも足下の地面がポコポコ動く感覚はあるので、なんだか面白い。


 かくれんぼの神が言ったのは、やはり堕ち神のことなんだろう。


 存在を忘れられた神は、発見されて喜ぶと同時に、既に神格を失った姿を見られて悲しかった。忘れ去られると姿を思い出せなくなるらしいから、おそらく元の姿とはかけ離れた姿だったのだろう。


 …元はなんだったんだろね? 両生類だったってことは、泉の下に祠か御神体でも埋まってた?

 泉の底の泥浚いイベントでも起こさねばならなかったのか。泥浚い……あっ、もしかして腐葉土!?

 作物の実りがよくなくて…、てあれ、もしかして魔石が原因で終わりじゃなくて、更に発展要素があったとか!?


 あー…。

 これは農家の猫の失態かもしれん…。途中で農家クエからは離れてしまったからなあ。自分でも出来るクエストなのに、丸投げしてしまった。

 いや、終わってしまったことは仕方ない。たぶんそっちのルートでも堕ち神を元の神に戻すとかではなかっただろうし……たぶん。たぶんたぶん。


 光の粒はふわふわと上へのぼっていく。これは精霊、ではないのかな?


「この光はどこへ行くにゃん?」

『世界となりにいくよ』


 フワッと風が吹いて光の動きが変わる。吸い込まれるように動く方へ目をやると、暗闇の中に裂け目がある。闇の向こうからは冷気が漂い、周囲より更に暗い空間が広がっている。

 その裂け目に光が群がってはポツポツと消えていく。向こう側へ吸い込まれている…わけではないな。じわじわと裂け目が閉じていってる?


『黒月は永劫の闇。暗黒の幽世と繋がっている。界が揺らげば、現世うつしよは暗くなっていくよ。気をつけて…』


 はい。

 神さまからの別クエのご案内だ。

 隠者の村以外には『月夜じゃないけど精霊が見える場所』ってまだ見つかってないみたいだから、黒月夜の他の場所は探すの大変そうだ。村とか里はまだまだ未発見の場所が結構あるって噂も聞くし。


『生まれ、巡れよ、世を慈しむ子よ。共にあり、共に暮らせ』


 ふわりとまた浮かび上がって、猫の前で留まる光。


 …祠がなくて堕ちちゃった神さまは倒されて、今、足元で剥がれ落ちてはキラキラ上っていく光はその亡骸が世界へ帰っていくところ…みたいに思ってたんだけども。

 やっぱりこれも、精霊で合ってるのか。


 神さまと精霊の関係ってどうなってるんだろ。運送神は「名前が変わるだけ、何も変わらない」みたいなこといってたし、神さま=実は大精霊、とかそういう認識でいいんだろうか?

 それで神さまたちは月が満ちるたびに精霊を生み出し、それで異界の扉になりそうな裂け目を修復してる…?

 でもそうなると精霊をもらうのはあんまりよくないのでは。…でも、くれるんだよなあ。


「世界になる光をもらっていってもいいにゃ?」

『今は小さな子も、いずれもっと大きくなるかもね。

 今は綻びに溶けるだけの子も、いずれ世界を繋げられるかもね』


 なるほど、成長させて帰してね、てこと?


 今回は特に何もアイテムを用意してきてないし、そのままロニのパワーアップだ。特に何かをキャッチ&リリースしたわけでもないから、新規精霊は来ないだろうし。

 ブローチを外して差し出すと、ふわり、ふわりと光がやってきて吸い込まれた。ぅえっ? なんで今、2個あった!?

 ビックリしていると、更にふわふわと何かが飛んでくる。


 んん??

 これは、ミニミニ大山椒魚…、いや違うか、あの大山椒魚が巨大すぎただけで、これが通常サイズ? いわば小山椒魚。


『連れていくかい?』

「にゃあ…、一緒に来るにゃん?」


 ふわふわと浮いてるミニ山椒魚をつんとつつくと、それはくるりと玉になったかと思うと、リューシーの入ってるレトの首飾りに吸い込まれていった。

 アッ、そっちのパワーアップもあるの!?


『隙間が消えていくよ。

 全部真っ暗なんてつまらない。気をつけて。

 ……また遊ぼうね』


 ばいばい…と声が聞こえて、光が星空のようにぱあっと広がっていく。綺麗だなあ、と眺めながらふと周囲を見回して、あ、と気づく。


 そっか。

 かくれんぼの神さま、人型じゃなくて、マヨヒガみたいなタイプか。

 あの小さな四角い空間そのものが、どうやら神さまだったらしい。

 海底で運送神がとぐろを巻いて猫たちを保護していたように、守っていてくれていたのだな。


「ありがとうにゃ。また隠してほしいにゃん」

『……見つかっちゃったぁ。隠れたくなったらイオリにおいで』


 おや。これいおりじゃなくて、もしかしてお名前かな?

 異界の扉防衛は、神のお名前ゲットイベントでもあるんだろうか??






『おめでとうございます。異界の扉の防衛に成功しました。DP20を入手しました』


 やったぜ。


 今回は二段構えでなく戻ってこれたらしい。泉の前だ。

 DP20ってことは、完全防衛か。神は堕ちて失われたけど、堕ち神倒してエンドってことなんだろうか。失われた神の資料探しと祠の建て直しをして神を復活させよう、みたいなクエストがもしかしたらあったのかも~とか予想してたけど、それは別になかったっぽい。


 周囲をぐるっと見回してみるが、みんなはまだ神さまイベントが終わってないのか、帰還していないらしい。アライアンスは生きてるけどマップ上に存在しない状態。フレ欄の所在地も<イベント中>表示だ。


 ふむ。BOSS戦が終わったのでここもセーフエリアになっており、猫ひとりでも危険はない。

 ほかに何も出来ることはなさそうだし、待ちつつ『ムーンキャッチ』に黒月の光を当てておくか。いつも通りに椅子を出して『ムーンキャッチ』を並べる。


 おっと、精霊確認しておかねば。

 今回はロニもリューシーもパワーアップイベントが起きたし、名前のない精霊はいないはずだけど、一応ね。


 まずロニ。

 2匹も吸い込まれたのでビックリしたけど、中身はやっぱりロニのままだ。でもかなり大きくなってる。そして入ってたブローチは『蛇目月へびのめづきのブローチ』になった。

 なんで蛇目??

 蛇目の季は春の3番目の季で、今は4番目の春明はるあけの季。もう過ぎてるはずなんだが。謎だ…。

 謎だけどMP増強は200MPにどどんと増えた。やったぜ。ロニでレトの召喚コストが賄える。信じてたぞ。


 次にリューシー。

 …あれ? これリューシーがパワーアップじゃないな。真っ黒ミニ山椒魚が1匹、一緒に入ってる。同居パターンもあるのか。

 ふわりと出てきた山椒魚に、つんと触れれば、ぽわんと目の前にウィンドウが出た。


『精霊に名前をつけてください』

「ロアン」


 ぽわ、と光って契約完了だ。

 元々精霊はロ縛りでいこうと思っていたんだけど、いきなりリューシーで縛りを外してしまってやっちまったなと思っていたのだ。

 なので基準に戻ってみた。リューシーと同居だからリュー縛りにするかなともちょっと思ったんだけど、なんかこの子にリューは合わないなと。

 なので精霊のロ縛りと、あとはかくれんぼの神の庵で、ロアン。

 3匹目がくると思ってなかったので、名前考えてなかった。行き当たりばったりだな!

新しい精霊が仲間になった!



評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ねこちゃん色々運ありすぎてにゃんだふるにゃん
[一言] ちょっとしんみり…にゃーん おそらく接戦だった空気王の座は誰の手に?
[良い点] とりあえず『にゃーん』と入力する猫さんかわいい〜。チャットが機能してたら誰か『にゃーん』で返してくれてたんだろうな、というノリや雰囲気も良いですね。 そして新しい仲間の詳細も楽しみです!…
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