10.巨大な羽根
区切りの関係で短めです
露店通りへカポカポと移動。
ティアラさんはどこかな。看板出てるし、露店開いたときに連絡とGPSをもらってるので場所ははわかるが、そこへ辿り着くまでちょっとかかるのが露店通りだ。
せっかく通るからには素通りできず、ついつい露店覗いちゃうし。といってもだいたいは何かわからない謎の素材だし、談話してるだけの露店だったりして(検証実験とかしてるのかもだが)通りすぎるだけだ。
謎素材の露店はいくつも覗いているとどうしても目が滑る――おお!??
あの巨大な羽根は!?
「その羽根はもしやロックランドバルバトロスにゃん?」
「おや、興味が……、えっ、初心者さん? セカンドとかですか?」
「バリバリの初心者にゃん。第三エディションからきました」
「ようこそようこそ」
セカンドというのは2体目のキャラという意味ではなくて、作り直しのことを言うらしい。
このゲーム、2体目は別に禁止されていないが、いろいろシステム関連や設備の面で相当面倒らしく、作り直しの方がはるかに簡単、と言われている。
なのでなんか知識のある初心者がいるときは作り直しか?と思われるそうな。
「初心者さんがロックランドバルバトロスをご存じとはまたマニアックですな」
「さっき本で読んだにゃん」
「おお、鳥の本はなかなかレアなのですよ。よかったですね」
好々爺っぽい喋り方に執事のような格好のロマンスグレー、片眼鏡まで完備! しかし露店だからかゴザの上に体育座りなのがイマイチ決まらない。
「椅子に座らないにゃん?」
「家具は一度設置してしまうとマイルームから持ち出せないのですよねえ。アイテムとして持ちあるくにはやや嵩張りますし。…しかしやはり椅子は欲しいですよね」
すっと何か操作したかと思うと、執事さんは立ち上がって再び座る。
「椅子にゃん!?」
「マケボで買いました」
「即決にも程があるにゃん」
「ずっと迷っていたのですがいい機会でした。ありがとうございます」
何故かお礼を言われた…。
ロックランドバルバトロスの羽根は、孔雀の尾羽より大きい。成人男性の身長くらいの長さがある。なんとこれで風切羽根らしいので、本体のでかさもわかろうというもの。
色もそこそこ派手で、根本が緑で先端は赤から紫といった具合。絵で見ていたけど実物を見ると鮮やかさに圧倒される。
え、欲しい。
「この羽根はおいくらにゃん?」
「おや、買われますか? このサイズだと矢羽根などへの加工は出来ませんよ? 家具として飾るくらいしか役に立ちませんが。買われるなら100zでも構いませんよ」
「いくらなんでも安すぎるにゃ??」
「初心者さんはまだご存じないかもしれませんが、これはいわゆる外れドロップというものなのです。ロックランドバルバトロスは魔宝石や鉤爪が出るので、空の巨大魔物としては比較的狙われる魔物です。しかしその外れドロップの多さは群を抜いています。8回取れるのに7回羽根とかですな。肉とか嘴とか目とか脚とか鉤爪とか取れずに羽根ばかり羽根ばかり! たまに羽毛」
「羽根はいっぱい生えてるから仕方ないにゃん」
「まさにまさに。これだから鳥魔物は!という怨嗟に包まれるのですな。もう少し小型であれば羽根ペンや矢羽根への加工と需要も高いのですが、このサイズではもはや家具かステージ衣裳かの二択しかありません」
「ステージ衣裳の選択肢があることに驚いたにゃん」
「おや、自由都市マケットには演劇場があるんですよ。劇団も多数おりまして、舞台も日々演じられています。そのなかの道化師役ですとか、あとはそのままロックランドバルバトロスの役ですとかがありまして、たまに需要があるのです。本当にたまに」
「滅多にないことはわかるにゃん」
ロックランドバルバトロスが出てくる演劇とは??
怪鳥と戦うストーリーなんだろうか。それはそれでちょっと気になるな。
「そんなわけでたくさんあるんですよ。捨てようと思うこともあるのですが、掘出し物屋が埋まっても困りますし、99個までは保管してあげるのが供養と言いますし」
「初耳にゃん?」
「この世界ではよくある言葉ですよ。箪笥の肥しは99まで。九十九神になるまで諦めるなとはよく言うものです。捨てた次のアップデートで化けるアイテムも山のようにありますからね」
「思ったより歴史のある言葉だったにゃ…」
「ちなみにこれは供養をはみ出た分です。30枚ほどありますが、いかがいたしますか?」
「全部買うにゃん!」
役に立たないアイテムなら更に嬉しい。
物欲も実利も取れるじゃないか。
「なんと気前がいい。大丈夫ですか? これ、手放そうにも全然売れませんし、ありとあらゆる生産で使い道がありませんよ?」
「にゃん? 錬金術もだめにゃん?」
「おや、錬金術師の猫さんでしたか。錬金術で圧縮すると、羽根のサイズが小さくなるそうですな。小さくなったところで、矢羽根などに出来るわけではないので需要はやはりないようです。飾りとして装備品に使用されることはあるとか。知人に錬金術師がおりませんので、伝聞ですが」
「小さく出来るなら願ったりにゃん! たくさんくださいな!」
「ふむ、猫さんは何か使い道の目処がついてらっしゃるのですかな?」
「羽根は指揮杖の代わりになるにゃん」
「指揮杖? 魔道杖ではなく?」
「指揮杖にゃん。錬金術師は指揮杖を使うにゃ」
「ほう、初耳ですな。それは道具として指揮杖を使うということですか?」
「道具? うーん、装備?かな? 錬成陣とかに魔力を流すときには指揮杖を使うといいって本に書いてあったにゃん。魔道杖や指輪は、錬成陣も魔道具だから反発して、魔力効率が悪くなるらしいにゃん?」
「錬金術ってガラガラ釜にいれてチン!てしたり、布にものを置いて床に手をついて『錬成!』とかしてるだけのイメージだったのですが、意外と奥が深いのですね」
「ドサッとしてチンで合ってるにゃん。ドサッとした後にボタンを押すのを指でするか指揮杖でするかの違いにゃん」
「なるほど、些細な差が道を分けるのですな…? ふむ、30枚無料でお分けしますので、出来上がったものをおひとつ譲っていただくことは可能ですかな?」
「もちろんいいにゃん! 指揮杖に興味があるにゃん? でも羽根の指揮杖は、消耗品らしいにゃん」
「ほう、それはそれは。もし使えるものであるなら、ちょっと需要が見込めそうですな。温めておいた甲斐があるというものです」
うんうん、と満足げにうなずく執事さん。
しかし外れドロップかあ。そういうのもたしかにあるよね。需要にたいして供給あふれちゃうアイテム。
特にたくさん出るアイテムは、消耗品の材料でもない限り、どうしたって溢れてしまう。……いや、ロックランドバルバトロスってどう考えても通常mobじゃないよね? 単純に狩りすぎのような???
…まあいいか!
「執事さんの温めておいた外れドロップで、小さくて、傷があったり、屑が入ってたりで価値が劣るようなアイテムはないにゃん? 錬金術はそういうのが大好きにゃん」
「ふむ…、その条件に合致するアイテムは多くありますが、傷のある素材はギルドの買取で低級品として引き取ってもらえますし、低級品を保管するなら通常品質以上を一枠でも多くいれたいと思ってしまいますから、保管しているものは特にないですなあ」
「にゃん~残念にゃあ」
そううまい話はないか。
「私は入手次第売ってしまうので持っておりませんが、屑が入ってる、で最初に思いつく有名素材はカーバンクルの魔宝石ですな」
「お高そうにゃん」
「お高いですぞ。このカーバンクルの魔宝石は上質なものは少なく、説明に『歪みがある』とか『魔屑が混ざっている』とか出る質が低いものが多いのですな。質が低くても中級用として需要はまあまああるのですが、いわゆる劣化装備と呼ばれるものになるのです」
「劣化装備?」
「本来持つべき力を発揮していない装備のことで、『偽』とか『つまらない』とかアイテム名につくのです。失敗とは違い、ちゃんと使えるアイテムなのですが、まあまず名前がよろしくありません。『つまらないカーバンクルロッド』とか『偽物のカーバンクル鞄』とかですから」
「悪意を感じるにゃん!」
「はい。そしてこれらは耐久があまりよくありません。こまめに修理したり、魔力を吸わせたりする必要があります。劣化装備は他の装備と比べると性能に対して安く売られていますが、実際には他の装備より維持費がかかってしまうのですよ。なのでオススメしませんし、掲示板では『罠装備』と呼ばれていることもあります。ただ、自分で修理が可能なスキルを持っていればデメリットは少なくなりますので、一定の需要はあるのです」
「なるほど、装備もいろいろあるにゃんね…」
「…あ。そうだ、指揮杖の素材にもヒビのあるものはよくありますね。初心者さんも会えるものですと、角兎ことホルンミミットの角ですね。アイテム名でいうと『ミミットホルン』ですが」
「安直にゃん」
「はい。『ミミットホルン』はヒビのないものを取るまでに熟練の技が必要、と言われて、弓使いが属する狩人ギルドで納品を求められるのです。昔は初級の超難関クエストでしたが、今は暇潰しに中級が狩った品がマケボに溢れてますから、金で解決できます」
「後続あるあるにゃんね」
それに助けられる面もあり、悲しい面もあり…みたいな。納品クエストってそういうとこあるよね。
「ホルンミミット自体、出る地点が決まってまして。『ミミットホルン』以外のドロップはミミットと同じですから、クエスト以外では倒されない魔物です。今はヒビなしで狩れる人しかほとんど相手にしてないので、ヒビ角の方がレアかもしれません」
「逆転現象にゃん…!」
「然り。外れドロップならまだしも、低品質のアイテムを溜め込んでる人はまずいないでしょうから、入手は逆に難しいでしょうな。金がかかってもよいのであれば買取露店をする、或いは冒険者ギルドの素材カウンターでももしかしたら購入出来るかもしれません」
「なるほど、すごく参考になったにゃん~、ありがとうにゃん!」
「いえいえ、どういたしまして。新しい素材の使い道はいつでも歓迎しておりますよ。俺の倉庫が火を噴くぜ、でございます」
「火事にゃん?」
「在庫を燃やし尽くすバーニングを期待しております」
…この執事さんもだいぶ変なひとだな?
執事さんから『大陸鳥の風切羽根』を30枚もらった。
ロックランドバルバトロスは大陸鳥の異名があるのだ。つまり超デカイ。そんな鳥と戦ってるんだなあ執事さん。やはり商人はゴリラ。間違いない。
フレンド登録をしてもらい、羽根を圧縮したら連絡することにして、お別れした。
新たなフレンドの名はセルバンテス・ドンキホーテ。
見た目は執事、中身は商人ゴリラ(狩人)。
評価、ブクマありがとうございます。
Q. 錬金術師そんなにレアなの?
A. みんな隠れてるだけ。あなたの隣にもほんとはきっといる。
釜に入れてチンで作ってるので生産者として下に見られがちで、生産手間賃渋られるなどの要素からスキル持ってても明かさない人が多い。あと大量のアイテムが一瞬で溶ける金食い虫なので、取ってはみたけど使ってないという人もかなり多い。
レシピさえわかればスキルLV問わず釜チン出来る仕様上、利益を守るためにレシピは秘匿、情報交換しようにもレシピに触れないようにすると話題がほとんどないため、スレが常にカンコ。(ブリッツのレシピなどが置いてあったのは過去の遺産)
質問を書き込んでも誰からも一言も返事が来ないことで有名。圧倒的孤独。もちろん錬金術師同士の横の繋がりとかない。
ちなみに、知り合いの錬金術師がさ~などと言うと「とかなんとかいっておまえが錬金術師なんやろ?」てなるのでみんな錬金術師の知り合いはいないって言う。いやほんとにいないんだけどね。
すぐに同業が見つかったり、ギルドで会えたりした猫はレアケース。
ちなみに錬金術ギルドで会ったお兄さんは錬金術師仲間を初めて目撃して感動し、普段はしないアドバイスなどもしてみた。
それなのに猫というやつは。
(あとがきで文字数の少なさを補おうという作戦)