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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
3章 金欠猫には旅をさせよ~誘惑の山旅編~
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10.大穴と大岩

 妖精は猫が前に出ると両手を広げて、イーッと威嚇してみせる。これは通せんぼ、かな?


「にゃあ…、近づいたらダメにゃん?」


 今度は両手を大きく振って、しっ、しっ、と。ううむ、来るなというアピールだな。

 泉を守ってるんだろうか?


 泉は木々や茨が取り囲んでいる。妖精が守っている辺りはちょうど木陰になっていて、日中だというのにかなり暗い。そのせいか泉の水は暗く、すごく深そうに見えて不気味だ。


 大穴かー。

 しかし道が出来ているので、入っちゃいけない場所ってわけでもなさそうなんだよね。むしろ、道なりに進むと順路こちら、て感じの正しさがある。


 でも通せんぼされてる。順当に行くなら、妖精にどいてもらうためのフラグが建ってない説。

 そもそもここ、ちょっと木陰にしても暗すぎる。まるで、隠されているみたいだ。


 ひとまず妖精さんの怒りを買わない辺りまで下がって、周囲を伺ってみる。

 やっぱり、泉に近づくと暗くなりすぎる気がする。だって泉になってるならそこには木がなく、むしろ樹冠は開くわけで、中の方は明るく見えてもおかしくないはず。

 なのに泉の奥に当たる、妖精の向こう側の方がずっと暗いのだ。


「泉に近づこうとしない限りは、妖精は気にしないみたいなんだよね」

「だから周囲を調べてはみたんだけど、なにしろ暗いじゃない?なーんにもわからなくて。さっきまで、松明使ってみる?て言ってたんだけど、山火事ふつうに起きるみたいだし、さすがにやめとこか~て」

「つけたら確実に燃え移りそうにゃんね~」


 ふむ、明かりをつけるっていうなら、猫には『灯』がある。妖精には無力だったけど、そっちなら協力できるかな?

 話してみると、光属性持ち助かる!と喜ばれ、試してみることに。光属性=神官だから、ポユズさんしかいないし、忙しそうだし呼ぶのが憚られたんだって。


「にゃん~、『灯』だけならフーテンさんたちもみんな使えるにゃんよ」

「えっ、そうなの!? ならチャットで呼びかけてみればよかった」


 さすがにスキルすべてオープンにはしてないので、そういう行き違いはある程度は仕方ない。生活魔法使いにしても、15属性全部必ず持ってるわけじゃなくて、5属性ランダムっていうのがまだ通説のようだし。


 直接魔法をかけるのはさすがに怒られそうだし、いったんこっちで『灯』を使ってから近づいてみることに。

 青ブナの杖(自由なる魔法師の杖はレトに上げたので猫の杖は一段階戻った)を装備して、『灯』、と。

 一瞬ふわっと明るくなった後、すぐにかき消えた。

 あれ?


『まぁだだよ』


 おっと??

 聞こえた声に思わずきょろきょろしてしまうが、ナマナマさんたちはきょとんとしている。


「どした猫ちゃん?」

「えっ、も、もしかして猫ちゃんだけに見えちゃう感じ? 」

「今、声がしたにゃん」

「ヒィ!」

「あたしなんも聞こえんかったけど!?」

「にゃん~、大丈夫、ホラーじゃないにゃん。たぶん神さまの声にゃ。ここは神さまが隠してる場所みたいにゃん」


 今の声は、聞き間違いじゃなければ『かくれんぼの神』の声だった。

 なるほど、隠者の村に本尊があるんだとしたらぴったりだな。


「猫ちゃんの加護神か。ちなみに何の神さま?」

「かくれんぼの神にゃん~」

「ぶは、そのまま!」

「てことは、いま無理に暴かない方がいいっぽい?」

「そうだと思うにゃん。『まぁだだよ』だったから時間解決かも?」

「たしかにそれなら『もういーよ』になるまでは近づかない方がよさそうだな」

「なかなか和製ホラーみがある感じでグッドですね!」

「神域に立ち入ったやつから死ぬのが村モノのお約束…」

「村モノにすな!!」


 誰もいなくなっちゃうやつとかは困るのでやめてほしいな!


 泉についてはまだ触らない方がよさそう、てことで二人は村へ帰っていった。狩人のおじさんに神域らしいことを話して追加情報を得られないか調べてみるって。よろしくにゃん~。


 猫はちょっと気になるので、下流の大岩を見に行くことにした。観光名所らしいし、せっかく近くまで来たのでちょっと見たい。

 どのくらい大きな岩なんだろな?



 ぽくぽくと下流へ進む。

 川自体は見えなくても結構しっかりとした水音がするので、音のする方へ降りていけばいいだろう、というアバウトな移動をしています。

 隠者の村は柵で囲ってあるとかではないので、セーフティーエリアがちょっとわかりにくい。なのでマップを見ながらじゃないと、フィールドにはみ出そうだ。

 マップは行ったことないところ真っ黒だけど、大岩のGPSはもらってるから大丈夫。


 ルイは山道でも苦にせず猫を運んでくれるのでありがたい。こんな坂道、猫が徒歩で行こうとしたらかなり大変だっただろう。小柄種族ってそういう不便さがある。


 下っていった先にあったのは、大きな川。思ったより全然広い。下流とはいえ、まだ山中なのでかなり流れが早い。これは水音もすごいはずだわ。


 そしてその川のど真ん中に突き刺さる大岩。うむ、大岩。これはそうとしか言いようのないでかさ!

 岩の周囲が中州になってるので、どうにかして川を渡ればいけそう。


 ここは『テレポート』の出番だろう。

 失敗したくないので大岩に『ターゲット』してから『テレポート』、よしよし、思い通りの位置に出れた。やはりターゲット・テレポは安心。


 しかしでかいなー。観光名所になるのも納得。猫が小さいから余計でかく見えるってのもあるかもだけど、高さ10m近くはあるのでは?

 小山って感じで安定しているので、側についても崩れそうな不安はない。

 ところどころに蔦が巻きついていて、模様のように不思議なかたちを描いている。あちこちヒビが入っているようだから、そこから種が芽吹いたのだろう。なんだか趣がある。


 …うーん? いや、これなんでこんなヒビがたくさん入ってるんだろ。

 ぐるっと大岩に斜めに線を引くように、穴まではいかないヒビが入ってる。誰かがこの岩を切り出そうとしたりしたんだろうか?

 ヒビから出た蔦はかなりどっしり古そうだし、ヒビの周囲も若干風化して丸みを帯びているから、かなり昔っぽいけど。


 ぐるっと大岩の周囲を巡ってみる。あ、なんかこれ、彫ってある? 細い溝が重なってるところがある。

 形の揃った模様?が複数並んでいるので、たぶんこれ、文字っぽい。でも風化して欠けてる部分もあり、全然わからない。なんか読めそうな気もするんだけども…。

 うーん? どこかでこういうの見た……、あ!フロントの教本! そうか、向きが違う?

 転がり落ちたという話なら、もしかしたら逆さまだったり、斜めだったりする可能性もある。


 うんうん首を捻ってみたり、あっちこっち移動して見てみたけど、やっぱり欠けが大きすぎて、どっちから読むのかすら判別がつかない。

 んんん~~、わからん!

 お手上げ!


 『大岩になんか文字が刻んである気がするけど読めないにゃん~』と書いてアライアンスにGPSと一緒に投げておく。

 もしかしたら解読系スキルとかあるかもしれない。誰か頼んだぞ!


 それにしてもリアルでも山の中とか海の中(砂浜?)とかにある大岩ってアレコレと名前をつけられて、天狗が持ってきたとか神様が引っ張ってきたとか謂れがあったりするもんだけど、「転がり落ちた」以外になにか逸話があったりしないんだろか。

 ティアラさんたちは何も言ってなかったし、空振りだったようだから、特にないのかね??


 観光名所といえば、隠者の村の精霊スポットはどの辺なんだっけ?と調べてみると「大岩から川に沿って遡ったところ」とあった。……たぶん泉の近く、支流に逸れない辺りかな?

 「森の方から精霊が出てくるが、光で照らしても消える」、うん、さっきの泉のところだな。


 てことはあの泉、異界の扉なのかな。

 それを神さまが隠してる、守ってる? 運送神みたいに、それぞれの神さまで担当の扉が決まってたりするんだろうか。


 リューシーのように事前に精霊(?)と縁を結んでおけば、扉防衛後に来てくれたりするのか気になるが、ここではキャッチアンドリリース出来そうなものなんて虫くらいしかない。

 そういえばクロッコ、泉闇虫イズミノヤミムシが泉の周囲にはいるっていってたっけ。

 ちょっとうろうろと周辺を探してみたが、そう都合よく現れたりはしなかった。

 今回は難しそうね~、残念!




 大岩を見に行っている間に、もうひとつGPSが飛んできていた。することもないし、そちらも見に行くことにする。

 さっき神官を呼んでた人が調べてた祠だ。


 村人の話だとふたつあるはずなのにひとつしかないぞ、ということで神官を呼んでいたらしい。ちなみに向かった神官はポユズさん。ポユズさん大忙し。


 こちらはやはり祠はひとつしかなかったらしく、村人に報告しに行くと、もうひとつの祠は見える人にしか見えない、と言われたそうな。

 それで出来ればみんな見に行ってみてほしいとGPSがアライアンスチャットに投げられた次第。


 たぶん、かくれんぼの神とさがしものの神の祠だと思うんだけど、どうだろね?


 ちなみにこの村では、祠に奉られている神さまの名は伝わっていないし、何にまつわる神さまかも伝えられていないそうだ。でも、今ある祠自体は村の守り神として、大切にされている。

 大昔には三柱の神さまがいたと言われていて、いまひとつしか祠がないのは、他の神さまが失われたからだと考えられているそうな。

 この辺は村の神職らしきおじいちゃん情報。


『神さまが失われることなんてあるにゃ?』

『失われた神ってのは大抵、邪神とか堕神とかいわれるやつだねえ』


 悪堕ちすると神性が失われるのか。


『御神体がなくなったりしても『失われた神』とされますわね』

『人為的ミスで失われる神』

『オークションで売られる神』

『戦いとかで敵の神像壊しちゃって…ていうパターンもある』

『あれは悪堕ちしましたぞ』

『そうだった!』


 なるほど、御神体も大事らしい。神像や祠に祈ることで加護を得られるから、神=神像みたいな感じなのかね?

 それにしても『失われた神』にもいろいろある。


 そんなわけで祠に行ってみると、やはりこれは『探し物の神』だった。

 神像は加護もらってると色がうっすらついて見えたけど、祠もなんかこう、存在感がある。ほのかに光っているというか。だからすぐわかったのだ。

 早速お参りして、お祈りする。


 『闇人形』を探してますにゃーん。


鏡月夜かがみづきよの泉で待ちなさい』

「にゃん」


 お返事もらっちゃった。

 鏡月夜か~~。明日は黒月夜じゃなくて、鏡月夜ってことなのかね?


ココロ・ロココ

ホラー好きな怖がり。村ものには心がときめいているが、実際に怪異にあったら真っ先に逃げる。怖い話は自分に関係ないところで展開してほしい。他人が巻き込まれてるのにはワクワクする。「この話を聞いた人の元には怪異が訪れる」系の話を憎んでいる。来ないけど! 知ってるけど!



今回、フーテンとエドとの行動が多いのは、リーは調薬、ポユズは神官(調薬、ルイネア)、ヤマビコは料理と役割があってなにかと忙しいから。お暇な人が合流しやすい仕様。

なおティアラは料理ラーニング済なので、料理班にいる。


評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

今週もお疲れさまでした。

次回の更新は5/13(月)です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 案外 『も〜いいか〜い』なんて言うと返ってきそうな気がするにゃ
[一言] 鏡月...水鏡の月って言葉もあるし泉から月に繋がるとか?
[良い点] かくれんぼの神ってどんな声だっけ?と思って神像巡りのところ読み返してきた。声については多分なかったけど、かわいくて幼い感じ? 神像巡りの時も光で見つけてたし、光魔法と何らかの関わりがある…
感想一覧
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