8.悪徳商人成敗物語
そうなると次に問題になってくるのは、この村に『闇の精霊石』を持ち込んだ商人たちがどこまでを狙って行ったか、だ。
商人は、ジョンさんの主の元に『闇人形』を持ち込み、人形の力を取り戻してくれないかと交渉にきていたらしい。
しかし主さんにとって『闇人形』は、離ればなれになっていた娘のような存在だった。そこで主さんは逆に『闇人形』を買い取れないか交渉したものの平行線、そして商人と接触しているうちに、主さんは風邪に倒れてしまった。
主さんは間違いなく、この『闇人形』で風邪を引いちゃったみたい。
更にその後、どういうわけか村でも風邪が流行った。
うん、どういうわけなんだ??
「商人たちが故意に風邪を広めた、と?」
「その可能性が高いと思います。他に原因となりそうなものがありませんし…」
エドさんが言うと、商業ギルドの受付さんが難しそうな顔をする。
「でも、何の目的で? そんなことする意味ある?」
フーテンさんが尋ねる。
うむ、猫もそこが疑問。だって村に風邪を広めても仕方なくない?
「前、クロッコ…泉闇虫に気をつけてって言われたけど、それは関係ないにゃん?」
「泉闇虫は、名の通り泉の周辺にしか出てきません。周期的に月なしが近いので、泉に近づく者は村人にはいないでしょう」
うーん、まあ状況的にも商人たちがめちゃくちゃ怪しいし、庇う理由も今は特にないか。
そうなると、気になってきちゃうのが、商人に届けられたこの新たな荷物はいったいなんなのか。
このまま届けて新たな事件が起きると困っちゃうので、商業ギルドへ商人を呼び出す、という形で決着がついた。
といっても今日はもう夜時間になっちゃうので、それは明日の朝になってから。
クエストも一段落したし、猫たちもちょっと休憩だ。
さて。時刻は真夜中。
猫はお宿の前に来ています。
テカテカと輝く『闇人形を商人たちから取り戻せ!』のクエスト文字。
なんということでしょう…!?
夜時間は解散してそれぞれ作業しようね~とお別れしたのが夕方過ぎ。
調薬組は薬屋で調合してるし、あとヤマビコさんは粗麦粥を煮ている。やはり光風邪薬飲んでから粗麦粥を食べると回復速度が早まるようだ。料理ギルドで依頼ついでにクエストも引っかけることができたそうな。
硝子連合の大半は特に請け負えるクエストがないので、マイルームの生産工房であれこれ製作したりしてる。魔鉱炉はまだ買ってないけど、硝子のカットとかなら出来るんだって。
猫も特に請け負ってるクエストなかったし(収穫作業は夜は出来ない)、マイルームで錬金術することを選んだ。
錬金術っていうか、釜に『タイムパス』かけるだけだけど。
MP回復中暇だったので、ロマン砲スレをとばしとばし読みしたりしつつ。鳥の糞を検索しても出てこない理由が判明したりしたけど、それにしても話題の転換が激しいスレだな。
大陸羽根、本当に飽きられるの早いかもしれん。急がねば!
そんなわけでレトも『タイムパス』を手伝ってくれて中級釜の圧縮時間をどんどこ縮めて、なんとか羽根は完成。
『大陸鳥の技羽根』になった。無事に狙い通りのアイテム。やったぜ。
中級釜に再び新しい羽根は仕込んだが、ここからMPを注ぎ込んでも、減る時間は雀の涙だろう。ひとまずMP切れまで『タイムパス』をかけたけど、時間はかなり余ってしまった。
ギルドは24時間営業、というわけではないが、運送ギルドの発送着荷は夜でも行える。だからとりあえず出来上がった『大陸鳥の技羽根』を、セルバンテスさんに着払いで送ってメールもしておこ~とマイルームを出て、ギルドへ来たらば、よ。
ギルド前にジョンさんがいた。
そして「悪しき商人の手から姫の娘御を取り戻さねばならぬ!」てさっきまで張り切ってた。でも彼は『風邪薬』をまだ飲んでなかったので、また咳が止まらなくなり、結局おうちに帰らせた。
そのままにしておくとちょっと症状治まったら出てきそうだったんで「猫に任せておくにゃんよ~」て言った。
はい、言いました。
気休めのつもりだったんだけど「では任せたぞ」とかいってクエストが発行されちゃってですね…。
突然始まるスニーキングミッション。
なんでさ!?
もしかして猫向けクエストにこういう忍び込む系とかあって、それが変則的に絡んできちゃってる、とか??
それにしたっていきなり忍び込んで盗んでくるとか、そんな怪盗じゃないんだからさ~…。
…うーん。さすがに一人じゃ心細いな…。
『エードーさーん、一緒にお宿に忍び込むミッションしないにゃん?』
『また何を拾ってきたんだ、ラン?』
『悪徳商人から人形を盗んでくるミッションを頼まれたにゃんよ~』
『はあ?? 誰に?』
『ジョンさん』
『自分でやらせておけ』
『寝込んじゃったにゃん~~』
『あいつも風邪引いてるのか…。倒しとけばよかった』
特に用もないから来てくれるそうだ。ありがたや~。
『木工や革工の依頼も特になかったからな』
『そういえばギルドもないにゃんね?』
来てくれたエドさんは畑レイドのときに見たような黒マスクと黒装束だ。ウィザードドレスのときは広がる裾がロングコートっぽくてかっこよかったが、今回はヒラヒラしていないし、矢も浮いてない。「あれは潜入向きじゃない」とのこと。なるほど。
『あ~…、ネタバレ微妙になってきたよな』
『ジョンさんにゃ? たぶん猫向けの既存クエストの登場人物にゃんね~』
『そう。あれがクエストの裏BOSSみたいなもんだ』
『にゃん。表のBOSSがナナちゃんにゃ?』
『いや、そいつはチュートリアル要員。弱いし、生産担当だな』
ナナちゃん、お会いしたかった。猫、チュートリアル大好き。
『まともに踏めなくなってる可能性が高いよな。なんか悪かったわ』
『元々猫が誘ったにゃんよ~。一人でやってもジョンさんは拾ってた気がするにゃん』
『それもそうか? まあ今後どう転ぶかわからんが、簡単に言うとこの村には、邪道の技術を極めるクエストが埋まってる』
『邪道!?』
えっ、なんか完全に予想外の方向にきたな!?
『『調薬』なら回復薬じゃなくて毒薬、『狩人』系列なら特に毒玉や毒矢、『木工』『革工』でもその辺りの特化武器防具、道具類だな。要は正攻法以外の戦い方を『邪道』と呼んでるらしい』
『なるほど…!』
たしかにそれは、まさに猫向けだ。正攻法じゃ無理なのが猫だもの。カモン、物理デバフ!
『俺がわかる範囲ではその辺だが、他のスキルやジョブにも教えてくれる師匠がいるらしい。そんで邪道クエストの登場人物が、各ギルドの受付も兼ねてる』
『それであってもおかしくなさそうなギルドがなかったにゃんね~』
狩人にしても木工革工にしても、森がそばにあるのにないのって、なんか違和感があった。それでか~。
『そういえば隠者の村は斥候系オススメって見たけど、探索ギルドには邪道ないにゃん?』
『斥候担当がジョンじゃないかと言われてる』
『推定』
『各ギルドを利用するためには、勝負を挑んで勝つ必要がある』
『なるほど裏BOSS理解にゃん』
エドさんはまだ倒せてないらしい。
倒せた後に教えてくれるスキルについては制限スレが立っており、一応秘匿スキルとなってるそうな。
エドさんとしては予想はついているので倒したいけど『ジョンの出現率そのものが低い』んだって。村にきたとき探してたNPCというのも、ジョンさんだったらしい。
出現率……。レア魔物扱いか。いや、うむ、裏BOSS納得。
『ジョンさん強いにゃ?』
『強いというか、使ってくるスキルがトリッキーで謎が多い。ついでに時間内に倒せないと消える。だから新ジョブ付きのスキルだろうといわれている』
エドさんは伏せてくれたけど、ジョンさん、絶対ニンジャだよね…。黒装束だし、壁に貼りつくし、早着替えだし。
ロマン砲スレで見た忍んでないニンジャって彼のことか??とか思ったりもしている。
『にゃ、『調薬』があるってことは、薬屋のおばあちゃんもにゃ?』
『あの婆さんも手強いらしい』
手強いのか…。
デバフの手段として教わりにいった方がいいんだろうか。いや、まず『調薬』スキルを取らないとダメか。ううむ。
…おばあちゃんに勝負を挑んで勝つ、とは? 調薬勝負とか? うん、きっとそう。
ちなみにナナちゃんは生産全般で出てくるらしい。生産者向けお助けキャラ的な。
とりあえず彼女に勝てばヒントを教わることが出来て、そこを足掛かりに他ギルドに勝負を挑めば勝ちやすくなるんだとか。なるほどねえ。
あれこれ話しつつ宿の裏手に来た。
実は忍び込める場所を探していたのだ。だから会話も、目の前にいるけどPT会話でしていた。
PT会話っていわゆる念話のようなものなので、音が外に漏れないようになっている。口が動いて声帯で喋るわけじゃない意思伝達方法、というシステム的解釈。なのでそばでPT会話すると、口動かないけど音が出てるように聞こえたりする。腹話術っぽくてちょっと面白い。
さておき、場所の選定は完了。
人の気配が少なく、比較的越えやすい壁、商人の泊まる部屋にも近い。うむ、いい感じ!
ちなみに商人の部屋の情報は運送ギルド経由でジョンさんから聞いた。いいのかプライバシー? ないぞプライバシー!
「さて。ラン、『隠密』のLVはいくつだ?」
「にゃん??」
隠密…? 知らない子ですね。
「猫が持ってるのは『隠れる』にゃん」
「……よし、ランは留守番だ」
「にゃん!?!?」
戦力外通告!?
なんでもこの宿屋へのスニーキングミッションは邪道クエストでも一度あったのだが、『隠密』LVが20以上推奨らしい。…猫、『隠れる』ならそのくらいあるけども。
『隠密』は斥候系スキルで『忍び足』から発展するそうだ。持ってない。忍び足したことないな。どこでするんだい忍び足…。…今か!!
『歩法』『隠れる』から出てくるパターンもあるとか。『歩法』は『剣術』系でラーニングしやすいんだっけ。あと『軽業』でも出ることがあるとか。…猫、ルイに乗っててあんまり歩いてないからなあ。
なお味方の『隠密』に対してかかるバフアーツがあるので、猫が『隠密』10LV越えてたら連れていけたそうだ。残念。
「にゃあ~、申し訳ないけどエドさんにお任せするにゃん」
「気にするな。俺だって錬金術クエ踏んだらランに丸投げする」
「それは任せろにゃん~。くれぐれも気をつけてほしいにゃ~!」
「あいよ。じゃあ、いってくる」
そんなわけでエドさんは闇に溶けていった。え…見てたのに消えた……。『隠密』怖い。
そのままなんとなく宿を見守っていたらぽわと通知が来る。
『『夜目』をラーニングしました』
お。やったぜ?
暗い場所で一定時間活動すると覚えるスキルだっけ。そういえば最近は、夜にあれこれしてることが多かった気がする。月夜関連を連続して踏んでたからね。
夜目は視界が明るくなるというよりは、彩度は落ちるけどもののかたちがはっきりするような感じ。なんだか暗視カメラっぽい。
風猫族は元々『夜目』に近い性質を持ってるらしいから、たぶんラーニングにかかる時間は人族より少なめだったろう。
視力系スキルは初めてだ。弓や投擲系で『鷹の目』とか出ると聞く。遠距離攻撃をするなら視力系スキルは集めておいた方がいいらしい。
うーん、気になるスキルいっぱいよ。
見守っていても仕方ないし、猫が原因で見つかることになっても申し訳ないので帰ろう。
ここでマイルームに入ると、朝出たときに合流に手間がかかるし、ギルド前まで戻らねば。
抜き足、差し足、忍び足…。
意外と出来てるんじゃない? やはりガワが猫ちゃんだからだろうか。それとも靴にそういう補正がついているのかも?
『ラン、ヤバイことになってるぞ』
『にゃ? 捕まったにゃ?』
『そんなヘマはしない。…商人が血を吐いて倒れている。部屋はぐちゃぐちゃに荒らされ、『闇人形』はすでにない』
じ、事件にゃん!!?
評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。
前回は100話達成お祝いありがとうございました!
気がつけば連載5ヶ月目、そして100話。たくさん書いたなあ。
私はいつでも楽しく書いてますので、これからも楽しく読んでもらえれば幸いです。