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ブレーメンの錬金術師は散財したい  作者: 初鹿余フツカ
3章 金欠猫には旅をさせよ~誘惑の山旅編~
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6.丸投げころころ

「具合悪いにゃ?」

「ああ…、ただの風邪だよ…、寝てれば治るさ」


 風邪か~。

 なんか、なんかあったな……、あっ、 『風邪薬』ってあったなそういえば!? 初心者圧縮potから作れたはず。

 たしか『調薬』の納品用アイテムって聞いたような。猫が『調薬』か『風邪薬』を持ってたら、作ったり渡したりするクエストがここで出てくるはずだったのかもしれん。


 猫が検証で作った分はフーテンさんに売り払ってしまったから、これから作る…、いやあれ初心者pot100個使うんだった。下級転移石と同じと思うと怯んじゃう。マケボで探すか。

 ………ない!

 やはり正道に『調薬』組に頼むか~。


 あ、ポユズさん畑移動してる。今がチャンス!


『ポユズさん、収穫終わったにゃん?』

『ひとつ終わったよ。何かあった?』

『たぶん『調薬』が必要にゃん~。『風邪薬』が必要なんだと思うけど、違うかもしれないしちょっと来てほしいにゃん』

『了解、すぐ行くよ。病気の治療なら任せて』


 ポユズさんはたしか『解析』も持ってるんだっけ。あれは薬から材料を分析することも出来るけど、症状から必要な薬を割り出すことも出来るスキルだったはずだ。

 後者はデバフを効率的に治す薬の順番がわかるって効果もあるけど、結構いろいろなクエストでもお役立ちのスキルらしい。頼もしいぜ!


「にゃあ、猫の知り合いに薬屋さんがいるにゃん。ちょっとお薬持ってくるにゃ」

「ああ……それなら『風邪薬』をもらいたいね。ゴホッ、体が動けば自分で作るんだが…」

水甕みずがめ、空になってるにゃんよ~、お水補充しておくにゃ? 井戸とかあるにゃん?」

「井戸は裏手にあるが、その甕の水はいつも浄水を入れておくんだよ。井戸水をじっくり沸かして、光に当てておくと浄化される…」


 これは『ピュリファイ』を使わない浄水の作り方、か? 浄水って光に当てて作るの?

 それでいくと猫の庭の水桶は常に光に当たっている。もしかして浄水の質が高いの、そのせいなんだろうか。


 『ピュリファイ』が使えるというと水甕に補充してほしいと頼まれたので、補充。浄水なら任せろー。


 まもなく猫の現在地を目指して来てくれたポユズさんを薬屋さんに紹介して、このクエストは丸投げだ。


『ここを終えたら解決するかもしれないけど、農業ギルドでも「薬草が欲しいけど、薬草があっても仕方ない」みたいなことを言われたにゃん~。猫では発展しなかったから、拾えたら拾ってほしいにゃ』

『了解、リー、手隙ならそっちは頼んでいいかい?』

『任せて! もうすぐ畑1個終わるから、収穫の持ち込みついでに聞いてくるわ。それにしても、ここで『調薬』ね。薬草は畑で収穫出来ないみたいだし、外で摘んでくるクエストがある可能性もあるかしら?』

『ありそうやなあ…。でも薬草の在庫なんて山ほどあるやろ?』

『ラーニングのために若葉たくさん採ったしねえ』

『商業ギルドに若葉の納品依頼あるにゃんね?』

『あれ納品してもお代わりされるよ~。2回納品して消えなかったから、無限か、あるいはPT人数分お代わりすると進むタイプかどっちかと思ってとりあえず止めといた』


 もしかしたら猫ちゃんも納品するかもと思って、とフーテンさん。さすが気遣いの人だな?

 ちなみにエドさんは移動中のところをヤマビコさんが捕まえて、PTチャットの内容を共有してくれているらしい。

 テイマーがPT入るのって、なかなか不便なもんだな~、とこういうときちょっと実感しちゃう。


『猫も1回納品してお代わりきたから止めたにゃん~』

『賢明にゃん~。参加人数だとしたらあと2回だけど、新しくアライアンス組んだ分がまた増えてるかもしれないし、こっちはもう難しいかな~』

『そうなるとやっぱり、冒ギの薬草採取か』

『何かありそうなところを飛ばすのも気になるし、一応採取クエストもやってみようかしら』

『それやと畑終わらんやろ』

『にゃあ~、アライアンスで声かけてみるにゃん』


 PTチャットからアライアンスチャットに切り替えて、経緯を説明しなおす。


 『調薬』関連のクエストで薬草が必要といわれるが、畑の薬草は枯れてしまっていて採れない。農家してるので薬草の在庫は豊富にあるのだが『採取しにいくと何か起きるのでは?』という意見も出て迷っている。こちらは畑の収穫で手が足りてないので、もし暇ならやってみてくれる人はいないか?


 そんな感じでにゃんにゃん聞いてみると、ティアラさんたちの方は大岩調査が不発気味で手詰まりだったらしく、薬草採取に行ってくれることになった。


 とはいえ全員が『採取』持ちなわけではなく、採取班は4人ほど。残りは村で調査に残ることに。

 なお採取持ちはあと2人いたのだが、もし他のクエストでスキルが求められることがあったとき迅速にフォローに入れるように、という理由で、ひとりしか持ってないスキル持ちは村班に回された。

 なおひとりしかいないスキルは『陶芸』以外に『楽士』とのこと。それは珍しいや。


 薬草摘み班はリーさんがギルドで納品し、薬草についての話を聞く際に同行して、繋げて採取依頼を受けられないか試してみるらしい。


『こちらは任せてくださいまし!』


 よろしくにゃん~!




 そんな感じでアレコレと方々へ丸投げしてしばらく。どうやらうまく転がり始めたらしい。


 まずポユズさんが薬屋のおばあさんから症状を聞き、この風邪は従来の風邪と違い、体内の闇属性が一時的に強くなりすぎたことによる体調不良と突き止めた。『属性風邪』とも呼ばれるもので、どの属性であっても初期には風邪に似た症状が出るのが特徴らしい。


 特効薬は反対属性の名を冠する風邪薬だそうで、今回でいうと『光風邪薬』。薬屋の在庫に素材があったため、これをその場で調合、おばあさんは復調。

 「最近変な風邪が村で流行っていたので、きっと村の皆も同じ病だろう」とのことで、薬を量産することに。

 おばあさんは薬で風邪症状は収まったとはいえ、体力面でまだ万全の体調ではなく、薬作りはポユズさんの担当だ。

 薬屋の在庫では足りない材料があったが、それは近辺に自生する『ギンリョ草』だったので、採取班が薬草から切り替えてそちらを採取にかかっている。



 さて、この体内の属性バランスが崩れて風邪に似た症状が出る『属性風邪』、これはそもそも感染症ではないんだって。

 感染症ではないが、何らかの属性が崩れる原因があって起きる病なので、局地的に流行る。

 だからおばあさんは、最近村へ訪れた奴らが『闇の精霊石』でも持ち込んだのではないか、と言っているそうで……。


『闇の精霊石にゃん?』

『そうなんだ。それで、精霊石とは何かと聞いたら、この村にはルイネアの精霊使いが住んでいるらしくて…』

『精霊使いキター!?』

『ヒュー!!』

『ついに就職デキルー!?』

『このお馬鹿たちッ、静かになさって! ごめんなさい、続けてくださいな』


 PTチャットだと二度手間になっちゃうねー、ということでアライアンスチャットで話している。

 ティアラさんはおかんむりだったけど、いいのよ、囃し立ててくれても! 猫もヒュー!って思ったもん。


『とても気難しい人だけど、ルイネアなら懐かしくて会ってくれるかも、という話なんだ。でも僕は『調薬』が途中でいけそうになくて。そちらにルイネアはいないかな?』


 おお、ジョブやスキルだけでなく種族指定なんてパターンもあるのか。いや、そりゃあるか、選べるんだもん。小人族のコロップみたいに、故郷みたいなとこもある。


 風猫族? 風猫族は故郷ないよ。風来坊だし。

 他の妖精族の里になぜかちょいちょい風猫族が住んでて、彼らに会うと種族奥義とか教えてもらえるらしい。どの里にいる風猫族かで教えてもらえる奥義が違うとか。他の種族は、種族の里があるから、1ヵ所にまとまってるもんらしい。


『残念ながら、こちらにルイネアはいないのですが…』

『あ、はいはい! 俺、『調薬』と『解析』あるんで調薬の方、代われないかな?』

『ありがとう、助かるよ!』


 ルイネアの精霊使いに会いに行くためにポユズさんが薬屋を離脱し、新たに硝子連合の調薬師さんが薬屋にイン。



 そして次に、ギルドで『風邪薬』について話していたリーさんの方でも事態が進んだ。


『風邪薬だけじゃダメっていうポユズの見立てと『光風邪薬』を示して見せたんだけど、なんだか疑われてるみたいなのよ。出てきたのが商業ギルドだから、たぶん商人よね?』

『まさか大商人の出番があったにゃん!?』

『悪意を感じるにゃん~~! どこでも通じる大商人の信頼ヂカラを見せてやるにゃんよ~!』

『見に行きたいけどお荷物の配達があるにゃんよ~』

『別に見にこなくていいから配達頑張ってねえ~~!』


 はい。

 大商人の信頼ヂカラ、続報に期待である。




 猫の配達は順調といえば順調だ。個人商店だいたいみんな寝込んでるけど。

 やはりみんな風邪引きさんなので、お薬待ちだ。


 ちなみに猫たちプレイヤーはこの手の感染症や、局地的な病にはかからない。中身が妖精で繰り返しよみがえるマレビトの肉体は、現世うつしよの生命に関わる物事の影響を受けにくい、とかそんな感じらしい。

 なのでこういう「病の発生源へ行って原因を探ってほしい」っていうクエストは、『調薬』界隈ではよくあるんだって。いろいろなクエストがあるねえ。


 『調薬』もお薬も持ってない猫が出来るのは、各店に荷物を届けるついでに水甕に『浄水』を補充して回るくらい。

 浄水を飲むと、ひとまず咳だけは治まるらしい。薬屋のおばあさんが魔法に頼らない浄水の作り方を教えてくれたのは、おそらくこのためだったんだろう。

 咳が止まると、少しだけ長く村人とお話が出来る。


「薬屋さんが回復したそうだから、すぐお薬もくるにゃん。もう少しの辛抱にゃんよ~」

「ありがたい、ゴホッ、猫さんも気をつけるんだよ、ゴホッゴホッ。クロッコが入り込んだのかもしれないから」


 クロッコ??

 なんか新しいのが出てきたな。

 お大事ににゃん~。




『粗麦畑発見! 刈り取ったら粗麦粥出来るで!』

『料理人の出番にゃん~!』


 実は粗麦粥だけじゃなく、粗麦もインベントリに入らないアイテムだ。粗麦粥を作るためにはその場で粗麦を採るか、買ってこなければならないらしい。

 粗麦粥の納品クエストって報酬もランクポイントも少量だし、めんどいので見掛けてもやらない依頼なのだとか。

 そういうのって何か隠れてるお約束なのでは?と思いがちだが、これクリアしても消えないタイプの依頼なので、金のない初心者がランクポイントと小銭を稼ぎたい時の定番なんだって。なるほど、粗麦は安いし、現地調達なら燃料費しかかからんもんね。燃料費も薪拾いで賄えば無料。


「せやけどここまでいろいろあるなら、ここにも何かしらあるやろ」


 あってほしいよね。

 薬は飲んだけどまだ本調子でない、て人が粗麦粥食べると回復が早まるとか、そういうのを期待したい。


 ちなみに粗麦は、植えてからなんと100回刈り取ることが出来る。100回!??

 年一の植え付けで、その年ずっと賄えるというのだから、コスパ抜群の植物だ。生命力あるにも程がある。

 なお、お約束的にプレイヤーは育てることが出来ない。インベントリに入らないんだからそれはそう。



 そういえば、さっき村人から聞いたクロッコとやらは、どうやら山の方に生息する虫の別名らしい。

 正式名称は泉闇虫イズミノヤミムシというそうで、なんか黒くてうぞうぞした虫(?)なんだって。こいつが現れ始めると、月夜のない日が長く続くそうだ。

 つまり、黒月夜の前兆ってことかな?


 泉闇虫は魔物ではないのだが、闇属性を持っている。なので属性風邪で思いついたんだろうね、と他の村人は言っていたそうだ。

 薬屋のおばあちゃんにも聞いてみたけど「例えば壺いっぱいの泉闇虫に漬け込まれたりしない限り、生きている人間がそこまでの影響を受けることはない」そうで。

 うぞうぞ虫が壺いっぱい、て辺りでアライアンスチャットで悲鳴が上がったので、これはとりあえず置いておくことに。


 まだ情報が少なすぎるし、そっちはひとまず『闇の精霊石』を探してからになりそう。


 さてさて、猫の最後の配達はお宿。

 宿屋、楽しみ!


サブタイトルを『猫の宅配便』にしたかった(あまり宅配してないのでころころが勝ち残った)

猫以外も動いている都合上、どうしても伝聞形式が多くなりがち。

次回、猫側で事態が動く!?


評価、ブクマ、イイネ、感想、誤字報告ありがとうございます。

今週も金曜まで予約投稿済です。

GW明け、ゆっくりまったりいきましょう~

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― 新着の感想 ―
[一言] 猫は柔軟だから情報の潤滑油に……
[一言] 猫の宅配便というか、猫のイベント宅配な気がする。 みんな猫が歩くとイベントにあたると思ってそうだよね。
[良い点] 更新ありがとうございます。 次も楽しみにしています。 [一言] お使いのレイドや
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