七 パーティー結成
初のクエストを成功させた翌日、夕陽は大活躍したそらに、甘い木の実を買う為に、商店街を歩いていたら大声で話しかけられた。
「 そこの貴女!わたくしとパーティーを組んで頂きますわよ」
「 はあ?!」
唐突に、しかも大声でパーティーを組んで頂きますわよ。なんて言われて、思わず間抜けな声を出してしまった夕陽。
振り返ると、夕陽より少し身長が低くて、黒髪をお下げにした少女。着ている服は、白いブラウスに赤いチェックのスカートと黒いタイツとブーツ。上からローブを羽織り手には杖を持っている。
「 いきなり、パーティー組めって、あんた何なんじゃ」
「 わたくし、あんたって名前じゃありませんわ。 ユリカ・ アイリス・スズキという名前がありますの」
「 あーそうかい。俺は、ユウヒ・ヒラハラ 。用事があるけぇ。またな」
夕陽は、踵を返しユリカと名乗った少女の前から立ち去る。
( 面倒な事は、避けるに限る。)
夕陽は、本来の目的を果たすため小走りに商店街を通り抜ける。
ユリカをまくつもりで、人混みに紛れる。
「 逃げても無駄ですわ。ユウヒさん」
「 なんで、おるんじゃ。お前は!」
目の前に、表れたユリカに驚く夕陽。
「 別に、どうって事ありません。ユウヒさんが、発する魔力の痕跡を辿れば先回りも不可能では、ありませんわ」
「 えっ、杖で制御しとるのに?」
夕陽は、手にした杖を見る。杖の役割は、何も魔法を使う為だけではない。
魔法使いの魔力枯渇や魔力暴走を、防ぐ為の重要なアイテムである。
杖はその為、必要に応じてサイズを変えれる。けれど、大概の魔法使いは面倒なので、標準状態と呼ばれる状態で持って歩いている。
夕陽の焦る様子を見てユリカは、楽しげに口を開く。
「 確かに、魔力制御はされてますわ。でも、完璧には無理です。特に、ユウヒさんの様に魔力が強い方はね」
「 ……どういう事よ? 詳しく教えてえや」
「 良いですわよ。だたし」
「 パーティーでも何でも組ませちゃる。じゃけ、早よう教えろや」
「 きゃー やっぱり、わたくしの思った通りですわ。わたくし、あっちに美味しいケーキを出すお店見つけましたの。あちらで、ゆっくりとお茶しながら、教えて差し上げますわ」
「 へ〜へ〜 行きましょ」
夕陽はユリカに連れられてお店に入る。
「 で、さっきの話の続きしてもらおうか。 ユリカさん。」
「 ユリカと呼び捨てで、構いませんわ」
「 分かった。」
「 魔力の事ですわね。 ところで、ユウヒさん。お師匠さまから何も聞いてませんの?魔力について」
「 ヴァネッサさん。俺の師匠は、何も教えてくれん。 基本的な事は、教えてくれて、それきり。習うより慣れろって言うてから、自分で調べたり練習したりかな。ギルドで、他の魔法使いに訊くけど大体は、バカ高い授業料ふっかけてくる」
「 冒険者やる魔法使いというのは、大体そうですわ。 人の為に魔法を使おうなんて人は、いません。ヴァネッサ・ローズ様あの方だけは、違いますけど」
「 そのヴァネッサ・ローズさんが、俺の師匠なんだけど。」
「 あらま、そうでしたの」
ユリカは、目を丸くしてそう言う。
「 なら、納得いきますわ。ヴァネッサ様は、本来、お弟子さんを取らないので有名ですもの。魔法とは他人から教わる物ではなく、自ら学ぶものと、仰られるそうですわ」
「それで、習うより慣れろって言うのか。成る程ね」
「 そのヴァネッサ様が、お弟子さんを取られたのか%理由を知りたいですけど、今は、魔力についての話でした」
ユリカは、話がそれているのに、気付いて魔力についての話に戻した。
「 まず魔力ですけど、魔力は、基本誰にでもありますの。これは、ご存知?」
ユリカの言葉に、夕陽は、頷く。ユリカは、話を続ける。
「 冒険者の剣士や国軍所属の騎士の方がスキルを使えるのは、そのせいです。ただ、魔法を使える程の魔力となると話は、別ですわ。魔法を使うのには、莫大な力を使いますもの。力仕事に体力や筋力がいるのと同じです」
「 へぇ」
「 魔力は、常に、血液のように体内を巡ってます。血液と違うのは、体の外にも溢れ出るとでもいいましょうか。 魔法使いの中には、オーラと呼ぶ人もいます。そのオーラは、契約した精霊の力にもなりますわ」
「 成る程。もしかして、そのオーラで、ユリカは俺を探し当てたって事、なん?」
「 そうです。ユウヒさんは、強い魔力をお持ちですから、杖で制御されていてもわずかに、漏れたオーラを辿れた訳です」
「 理由は、分かったんじゃけど。そもそも、なんで魔力を制御する必要があるんよ?」
「 少し、気分が悪くなる話になりますが、いいですか?」
ユリカは、夕陽に心配するような目を向けて言う。
「 ええけど?」
「 魔力は、わたくし達の自身の体力みたいな物です。使えば、当然疲れます。だけど、休めば元に戻ります。普通は」
「 うん。それは、分かる」
「 けど、先ほどお話したように、個人差は、ありますが魔力は、体の外にも溢れでます。オーラとして。中には、それだけで魔力枯渇する方もいらっしゃいます。魔力枯渇は、わたくし達の死にも関わります。なので、杖で制御してるんです」
「ふーん。そうなんじゃ」
「 ええ、でも、それだけでは、ありません。
魔力を餌として生きるモンスターから身を守る為ですわ。 モンスターは、魔力の強い人間に寄生して、魔力を吸いとるんです。スライムみたいな低レベルのモンスターなら、問題ありませんが、高レベルのモンスターに寄生されたら、最後ですわ。死ぬまで魔力を吸いとらるんですのよ」
「うええ。 マジですか」
夕陽は、顔を青くした。あの時の自分は、最高にヤバい状況だったのだ。
転生したばかりなのに、再び死ぬところだったのだ。
「だから、言ったじゃありませんか。気分悪くなりますよって」
青くなった夕陽にユリカは、そう言った。
「 うう。それは、そうと話してくれて、ありがとう」
「 いいえ。わたくしこそ。ユウヒさんとパーティー組めたし、お茶も出来てラッキーでしたわ」
ユリカは、そう言って笑顔で、紅茶を飲んだ
二人は、ケーキを食べ終えると外に出た。
「 明日、早速クエストをうけましょう。ギルドにパーティーの届け出もしませんと」
「明日、朝早くから俺は、ギルドにおるけぇ受付に声をかけてもらったらすぐに行けるようにしとく」
「分かりましたわ。じゃ明日から宜しくお願いいたしますわ。ユウヒさん」
「こっちこそ。宜しく」
二人は、握手を交わして別れた。
夕陽は、そらに、木の実を購入し家路についた。
「遅かったねぇ。夕陽」
「ちょっと、色々あって。そら、俺に仲間が出来たんで」
「へぇ。 そうなんだ。凄いね。で、どんな人? やっぱり剣士?」
「いんや。魔法使いで女の子」
「魔法使い〜 接近戦出来る人じゃないじゃん」
「まあ、そうなんじゃけど、でも、いい奴だよ。ユリカは、ちょっと変わってるけど。明日、早速クエストをうけようって話になってるけぇ」
「へ〜。 じゃ明日の楽しみだね」
そらは、木の実を器用に、枝から外しながらそんな事を言った。
「 そういや、モンスターの駆除依頼のクエストがあったような。明日、ギルドに行って確認しよう。出来そうなら、受けよう」
夕陽は、ユリカとのクエストについてあれこれと計画を頭の中で立てていた。