6 初クエスト
4 クエスト
「変換モード 箒」
夕陽の声に反応して、杖が箒に変化する。
夕陽は、箒に乗ると呪文を唱える。
「 上昇」
フワリと地上50センチ程の高さに箒が浮かぶ。
「 飛行」
夕陽の声に反応した箒は、ぐんぐん上昇していく。
―――前へ
夕陽は、そう念じて、体をやや前傾させると、箒は素直に前へ進む。
数日前、空中を乱高下していたのが嘘のようである。
夕陽の乗る箒は、優雅に舞うように空を飛んでいた。
「夕陽、飛行魔法マスターしちゃったねぇ」
「 そりゃ、練習頑張ったし。 ヴァネッサさんに報告せんといけん」
「 そうだね」
夕陽とそらは、町の中心にあるギルドに向かう。
いつも、食材を買ったりする商店の通りから1ブロック向こう側に、冒険者ギルドはある。
教会や町役場など、アルジェの町を、支える主要な施設が立ち並ぶ。
その中に、堅牢な石造りの建物が見える。
表の看板には、こう書かれていた。
〈 アスール冒険者ギルド アルジェ支所 〉
夕陽は、ドアを開けてギルドに入る。
「 ユウヒさん。どうされたんです?」
先日、冒険者ギルドに登録する時に、色々教えてくれたリリスが、声をかけてきた。
「 ヴァネッサさんに、用があって来たんですけど」
「 ヴァネッサさんですか? さっき、書庫で見かけたんです。ちょっと、待っててくださいね」
夕陽は、リリスにお礼を言って事務所に行く。
事務所に着くと、ドアに付いているカードリーダーに、ギルドカードを近付けるとカチリと音がしてドアが開いた。
ギルドの部屋は、トイレ以外、カードリーダーが付いている。ギルドカード無しには入れない仕組みになっている。
「 おや、ユウヒどうしたんだい?」
事務所に入ると、ヴァネッサが声を、かけてきた。
「大した事じゃないけど、飛行魔法マスターしたから、報告しとこうって思ってきたんです」
「 へぇ、やるじゃないか。さすが、あたしの弟子だ」
ヴァネッサは、笑顔で夕陽を誉めた。
「 えーと、それで早速、クエストを受けようかと思うんですけど」
「 ああ、行っといで。あんまり、危険じゃないの選ぶんだよ」
「 はーい」
夕陽は、返事をしながら、母さんみたいだなと思った。
夕陽は、ギルドの掲示板の前に立って、クエストの依頼票を見ていた。
「 ポルポルの実の採集。四十個。期日は、明日までか」
「 ポルポルの実って、ポーション作りに必要な実なんだよ」
「 へぇ。じゃこれにするか」
夕陽は、掲示板から依頼票を取って受付に行く。
「 リリスさん。クエストを受けるので手続きお願いします」
「 はい。分かりました。では、カードの提出をお願いします」
夕陽は、リリスへカードを渡す。
「 少々、お待ち下さいね」
リリスは、そう言って端末を操作する。
「 はい。これで、手続き完了です」
リリスは、夕陽のギルドカードを返す。
夕陽は、カードを首からさげてるパスケースに入れた。
パスケースは、日本で電車のICカードを入れていた物に紐を付けて使用している。
「 ポルポルの実は、西の森に沢山生ってるはず。ヴァネッサさんよく行ってるから」
「そっか」
―――そらって物知りだよな。けどなんで?
「そいや 前から、訊こう訊こうって、思ってたんじゃけど、そらは、なんで魔法の事詳しいん?」
「 うーん。ヴァネッサさんに保護されてからかにゃ? 別に、ヴァネッサさんから教わった訳じゃないけど、何故か、魔法の知識が頭の中にあるんだにゃ」
「ふーん。じゃ、ポルポルの実も見たら分かるか?」
「 分かる」
そらは、きっぱり言い切る。そらは、目を閉じひげをピクピクさせながら、森の方向を前足で示し説明をする。
「 西の森は、ここから三キロ先だから、飛行魔法で行ったほうが早いにゃん」
「 よっしゃ。行こう」
夕陽は、杖を箒に変え飛行魔法で、西の森に向かった。
「 スゲー不気味なんじゃけど。お化けとか出てきそう」
夕陽は思わずそんな感想を漏らす。
鬱蒼と木が生える西の森。ギャアギャアと鳥の声やフィィとよくわからない鳴き声が聞こえる。森に入ると薄暗い。
―――クエストの選択間違えたかも。
夕陽が、そんな風に考えているのを知ってか知らずか、そらが、呑気な声で、ポルポルの実について説明する。
「 んとね。夕陽、ポルポルの実はねぇドングリにそっくりな形してるの」
「分かった。早よう探して、こんな不気味な所出ようで」
「 んにゃ?夕陽は、お化け出るとか思ってるにょ?」
そらに、図星をつかれ夕陽は、顔を赤くして怒る。
「 やかましい。それより、ポルポルの実探すで」
「 あいさっさ」
夕陽は、ズンズンと森の中を進む。そらのアドバイス通りに、ポルポルの実をみつけ採集する。
「 ポルポルの実、四十個採れた。そらのおかげじゃ。サンキュー」
夕陽は、相棒を撫でて誉めた。
「 じゃ、ご褒美に、甘い木の実を所望しますにゃ」
そらは、前足を揉みながら言う。
「 猫なら魚じゃろ?」
「 んにゃー、そらは、猫じゃない。精霊にゃー。魚は、食べない」
「 さっきの仕返しじゃもんね 」
夕陽は、そらに意地悪な笑みを向けた。
「 んにゃー、可愛くない。そんなんじゃ、モテないにゃー」
「 別に、ええし」
そんな会話を交わしながら、夕陽とそらは、森を出た。
来たときと同様に、飛行魔法でギルドまで戻った。
「 初クエスト成功おめでとうございます」
リリスにそんな事を言われて、少し恥ずかしい夕陽は、小声でお礼を言う。
ギルドカードにポイントを付与してもらい、報酬を受けとる。
「 明日、そらに甘い木の実を買っちゃる。今日大活躍してくれたし」
「 わーい。やったー」
そらは、夕陽のまわりでパタパタと飛びながら小躍りした。
小躍りするそらを見ながら、笑みを浮かべる夕陽。
そんな二人を物陰から見る一人の少女。
「 理想の娘ですわ。絶対、わたくしとパーティーを組んでいただきますわよ」