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5 夕陽の日常

 アルジェの町の外れ。ヴァネッサの家の方からハスキーな少女の叫び声が聞こえる。



「どわああ」


そんな叫び声と共に、ぐるぐると夕陽の乗るホウキは、空中を乱高下する。


「夕陽。早く呪文!呪文 !」


夕陽にくっついて、飛んでいたそらは、大声で叫ぶ。


「うわわ ! 止まれ!(ストップ!)降りろ!(ダウン)


 ホウキは、夕陽の声に反応しピタリと止まると、ゆっくりと地上目指して降りて行く。


「 ふぃ〜。目がまわる」




 箒から降りて夕陽は、ペタリと地面に座り込む。


「あっそうじゃ。変換(チェンジ)モード標準状態(スタンダード)


夕陽がそう唱えると、傍らの箒が、先に魔法石が付いた杖に変化する。

 魔法使いが使う杖は、呪文一つで変化する。

先程まで、夕陽が使用していた箒状態は、(ブルーム)と呼ばれ、飛行魔法を使用する時用の形態。筆記用具(ペンシル)は、ぱっと見は、万年筆か高級なボールペンに見える形をしている。

夕陽が持っているのは、標準状態(スタンダード)と呼ばれる形態だ。 

魔法使いによって好みがあるので、素材やデザインは、人それぞれだが、基本的に人の背丈くらいあり、先には魔法石がついている。夕陽の杖は、木製で、ゼンマイのようにねじれ上の瘤のような部分に魔法石がはまっている。


 

 夕陽が杖を置いて、ボケチョと座り込んでると、パタパタとそらが夕陽の側に降りてきた。 降りるなりそらが、夕陽に注意する。


「夕陽。座り込むのはいいけど、また広げ過ぎ」

「んあ? どうせ、誰も見とらんって」

「そういう問題じゃないってば」

「わかった」


そう言いつつも、直さない夕陽。

そらは、夕陽の無防備な姿に、呆れつつ、そろそろ|教育的指導(猫パンチとか猫キック)しなきゃ駄目かしらん。と己の手足を見つめて考えていた。


そらが座ってそんな事を考えている脇で、夕陽は座りこんだ体制からゴロリと寝転ぶ。


「それにしても、飛行魔法だけ何度やっても、成功せん。他の魔法は、マスター出来たのに。なんでじゃろ」


 空を見上げながら、さっきまで練習していた飛行魔法の事を考える。

最初、この世界にやって来た時に、神様から、四つある属性は、全て使えると言われた。

事実、攻撃に使う魔法や怪我を癒したりする治癒魔法は、何も問題なく使えた。けれど、飛行魔法だけは、上手く使えない。属性としては、風属性。四つある属性の中で、一番相性のいい属性なだけに、余計に腹が立つ。


「 呪文は間違えてないし、原因は何か分からん」

「とりあえず、出来るようになるまで、練習するしかないんじゃない。それより、そろそろ夕食の買い出し行ったほうがよくない?」


そらがいつの間にか、スマホを持ち出してきて、夕陽に時間を見せながら言ってきた。


「あー 十五時か。早よ行かんと、ええもん無くなる」


ちなみに、この世界の一日の長さは、地球と同じ二十四時間である。



夕陽は、体を起こし家に入ると、財布を取ってくる。杖と財布を持って買い物に出かける。

杖も一緒に持って歩くのは、いつ戦闘に巻き込まれても、大丈夫なようにする為である。




 アルジェの町の中心。多くの商店が立ち並ぶ通りに夕陽はいた。


「今日は、何するかな。つっても、日本みたいに、色々な料理って訳にいかんもんな。 あー白いご飯食べたい」


 夕陽は、ついそんな一人事を漏らす。この世界に来て、主食がパンばかりなので少々飽きている。


 アルジェの町は、この国アスールでも最南端なのだが、隣国から沢山の荷物が入ってくる為、普通なら手に入り難い新鮮な野菜や肉が、豊富に揃っている。



「 よっユウヒちゃん。いい鶏肉が入ったんだ。どうだい?」


夕陽が歩いてると、肉屋のおじさんが話かけてきた。


「鶏肉かー。ヴァネッサさんが、シチュー作れって今朝騒いでたような」

「買おうよ。 あたしも食べたい。夕陽のシチュー」


夕陽の頭に乗ったそらが、パシパシ前足で夕陽の頭を叩いて騒ぐ。


「わかった。わかったけぇ。叩くな人の頭。おじさん。鶏肉ちょうだい」

「 あいよ。毎度あり」


夕陽は、代金を支払い鶏肉を受けとると、包みが一つ多い事に気づく。


「おじさん。俺、鶏肉しか頼んでないけど」

「あっそれ、オマケな。ベーコン美味しいよ」

「えっ 悪いですって」

「いいから、持ってけ。母ちゃんが世話なったからな」

「 この前、荷物持ってくれたお礼だよ」


肉屋のおじさんの後ろから、奥さんが、顔を出す。


「当たり前の事しただけじゃに」

「まあ、いーじゃん。貰っとけば」


そらに言われて、夕陽はお礼を言って肉屋を後にする。


夕陽が、通りを歩いていると遊んでいた一人の男の子が転んだ。


「うわーん。痛いよ〜」


泣く男の子の元に夕陽はいく。


「転んだのか。 そら、荷物持っといてや」

「あいさっさ」


夕陽は、そらに荷物を預けると、男の子の膝に手を翳して呪文を唱える。

膝の擦り傷はみるみる治り男の子は、泣きやむ。


「 よし、終わり」

「お姉さん。ありがとう」


男の子は、ニコッと笑って夕陽にお礼を言って去る。


「 気をつけろよ」


夕陽は、去っていく男の子に、そう言った。

男の子が去ったあと、夕陽はじゃがいもを手に入れる為移動する。

 行きつけの八百屋の入口で、夕陽は、おばさんに声をかける。

 


「すみません。じゃがいもとニンジンをください」

「 あいよ。いくついるんだい?」

「 うーんと、二つください」


八百屋で、店主のおばさんと会話してると、奥から男の子の声がする。


「あっさっきの猫さん、連れたお姉さん」

「あれ?さっき転んでた子?」

「 転んだ?」


 八百屋のおばさんは、怪訝そうな顔で息子を観察する。

転んだにしては、顔や手足に擦り傷一つないし、ガーゼや絆創膏のたぐいも見当たらない。


「 えとね。僕が転んで怪我した所治してくれたの!光

がね、わーって集まってね。そしたら怪我が消えちゃったの!」

 男の子の身振り手振りを交えた説明に、八百屋のおばさんは

納得したようで、



「んまー。そうなの。それは、うちの子が、お世話になりました。杖持ってるの見ると魔法使いさんだね。てことは、ヴァネッサさんのお弟子さんかい?」

「はい。そうです」

「あら、最近噂になってるのよ。ヴァネッサさんが凄い可愛いお弟子さんをとったって、あなたの事だったの。可愛いだけじゃなくて、こんなに優しいなんて。冒険者やる魔法使いって大体、横柄な人多いのよね。 でも、ヴァネッサさんのお弟子さんだもの信用出来るわね。あっじゃがいもとニンジンは、あげるわ」

「 ええ。そんなつもりで、この子の怪我治したんじゃないし」

「 いいから、持っていきなさい」

「 はあ。ありがとうございます」


夕陽は、なんでこんな事にと思いつつ、家路についた。


「 お金ほとんど、使わなかったね」

「うん。 当たり前の事しただけなんじゃけど」


夕陽はうーんと首をひねった。


そりゃ、こんなに、可愛いくて、優しいと何となく沢山お礼したくなるわ


そらは、夕陽がいく先々で物を貰う原因をそう結論づけた。





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