4 冒険者登録
4 冒険者登録
ヴァネッサに連れられて 、夕陽は、アルジェの町の冒険者ギルドにやって来た。
ちなみに服は、ヴァネッサが、若い頃に着ていたワンピースに着替えている。
ちなみに夕陽は、女性物のズボンは無いかと訊いてみたが、キュロットスカートの様な物はあるが、
日本にあるようなデニムパンツやパンツスーツに類する物はないという。
夕陽の側では、羽付きの真っ白い猫になったそらがパタパタと飛びながらついてきている。
「あれ? ヴァネッサさん。今日お休みじゃ?」
ギルドの受付に行くと、眼鏡をかけた茶色い髪をショートにした二十代はじめくらいと思われる女性が、ヴァネッサに話しかけてきた。
「あーそうなんだけど、リリス。 この娘の冒険者登録をお願いしたいんだ」
「あら、お弟子さんですか? 」
「ああ、そうさ。ユウヒ。この娘は、リリス・アルバート ギルドで受付を担当している」
「 はじめまして、リリス・アルバートです。
ギルドで、わからない事があったら何でも訊いて下さいね」
「 平原夕陽です。宜しくお願いします」
「 ユウヒ、言い忘れてたけどね。ファミリーネームは最後にくるんだ」
「 そうなんですか? 気づかない俺も、俺だけど、そういう事は早く言って下さいよ」
夕陽は、ヴァネッサに言われて、リリスに自己紹介し直す。
「ユウヒ・ヒラハラです。リリスさん」
「ユウヒさんですか。変わったお名前ですね」
「オレと同じ日本人だからだろ」
そう言って、リリスとの会話に割り込む男性が現れた。
ボサボサの黒髪、無精髭の三十代半ばにみえる男性である。
「マスターどうしたんですか?」
「 ヴァネッサが、可愛い娘を連れているって聞いたんで、その顔を拝みにきたんだよ。今の話聞いてたら、お前さんも、日本人みたいだな?」
「そうです。 つうか、あなた何者ですか?」
「オレは、鈴野ヒロ。ここの責任者。ギルドマスターだよ」
「俺は、平原夕陽です。鈴野さん、」
「さっきも、思ったけど女の子にしちゃ、サバサバし過ぎじゃねぇか? 俺って言ってるし 」
ヒロは、夕陽を見てそう言う。
夕陽は、どう答えるか迷っているとヴァネッサが、助け船を出した。
「その娘にゃ、少々特殊な事情があるのさ。ヒロ」
「ヴァネッサ、特殊な事情って。オレみたいに、一度死んでってやつだろ? どうせ、オレの場合来たくて来たんじゃねえけどな」
「ユウヒもそうだよ」
ヴァネッサの言葉に、ヒロの目の色が、変わる。興味深そうに、夕陽を見てからヴァネッサにこう言った。
「へぇ。でも、それだけじゃねぇだろ? ヴァネッサ、もう少し詳しく話聞かせろ」
「 ああ、いいよ。ユウヒ、あっちで、ヒロと話してくる。リリスあとお願いね」
ヴァネッサは、そう言ってヒロと奥の部屋に行った。
受付にポツンとそらと一緒に残された夕陽は、リリスに呼ばれる。
「ユウヒさん。こっちで、登録の手続きしますから来てください」
「はい」
夕陽は、リリスについて移動すると一枚の書類を渡された。
「ここに、名前とか職業とか書いてください。これを元にギルドカードを作成するので」
「これだけですか?登録の手続きって」
「そうです」
「はあ」
日本の役所みたいにあれこれ時間が、かかると思ってた夕陽は、拍子抜けした。
リリスに書類を渡してから数分後、見た目は、日本で見るクレジットカードにそっくりなギルドカードを渡された。
「はい。これが、ギルドカードです。身分証にもなりますので、無くさないで下さいね」
「 ありがとうございます」
夕陽は、受けとると自分のカードを見る。表に、ギルドの紋章らしきマークの側に自分の名前が刻印されているのを確認した。
「ユウヒさんは、今ランクがDランクなので真っ白いですけど、ランクが上がると色がか変わります。Cはピンク。Bが青。Aは銀。そしてSは、金色になります。 まあ、Sランクは、めったにいません。ちなみにマスターは、Sランクですけど」
「へー」
「 ランクを上げるには、クエストつまり冒険者への依頼をこなして、このカードにポイントを貯めるんです」
「ゲームそっくりだな」
「へっ?なんです」
「こっちの話。リリスさん、ありがとうございました」
「いいえ。これが、お仕事なので!あっそうだ。ユウヒさん、このあと暇ですか?」
リリスが、何故かキラキラした目で夕陽を見詰めて訊いてくる。
「暇ですけど、なんです?」
「あたしの新作の服着てもらえませんか?」
「えー ちょっと待って」
夕陽は、リリスに強引に引っ張られてギルドの別室へ連れていかれた。
数十分後。膨れっ面の夕陽がギルドの入り口にいた。
「よくお似合いです。ユウヒさん」
「夕陽。よく似合うよ」
リリスは、笑顔で夕陽を誉める。そらは、ニマニマと笑いながら、パタパタと夕陽の周りを飛んで、観察していた。
「なんで、俺がこんな格好せんにゃならのよ」
夕陽は、げんなりとした顔で、自分の服を見た。
グレーのブレザーみたいな上着と、白いブラウスに紺のリボン。下は、上着と同色のキュロットスカートに黒のニーハイとショートブーツ。
「気に入りませんか?」
リリスは、悲しそうな顔で訊いてくる。
夕陽は、あわてて、首を振り全力で否定する。
「 いんや。全然。ただ、こんな可愛いの着たことないんで、戸惑ってるだけじゃもん。気にせんで下さい」
「よかったー。顔がちょっと、怖かったから気に入らないのかと思いましたよ」
「 怖かったですか? ごめんなさい」
「 いえ、いいんです。 気に入ってもらえて、今回の服自信作なんです。 守護魔法の作用も前より、アップしてるし」
「守護魔法?」
夕陽は、聞き慣れない単語に首を傾げる。
「あっご存じないですよね。マスターと同じニホンの方ですもんね。説明しますね」
とリリスの簡単魔法講座が始まった。
リリスの説明によると、守護魔法というのは、服や靴、ブレスレットやネックレスといった身につける物に物理的な攻撃や攻撃魔法やモンスターの毒による攻撃から、ある程度守護する効果を付与する魔法。もちろん、完全に守る事は、無理だが、守護魔法を付与された服を着るのと着ないのとじゃ随分違うので、大概の冒険者は、買って身につけているらしい。
「へー。リリスさんは、守護魔法を付与した服を作るのが得意なんですか?」
「そうなんです。 女性の冒険者の方から注文を受けて作ってます」
「えっじゃお金」
「いいです。 それ、プレゼントです。お誕生日なんでしょう。今日、十月十日」
「へっあっ」
夕陽は、先程、冒険者の登録の為に書いた書類に誕生日を記入したのを思い出した。
「おめでとうございます。お誕生日」
「ありがとうございます。リリスさん」
夕陽は、本来なら迎える事のなかった誕生日を祝ってもらって、嬉しくて少し泣いてしまった。