3 相棒誕生
3 相棒誕生
異世界に転生して二日目の朝、体の上に何か乗ってる感触で目が覚めた夕陽。
手探りで布団の上を探ると、ふわふわした物が手に触れた。
半分寝ぼけた夕陽は、実家で飼っていた猫の名前を呼んだ。
「 タマ、どけや。重い」
「 タマじゃない。そらだよ〜 」
呑気な少女の声を聞いて、夕陽は完全に目が覚めた。
夕陽は、ガバリと上半身を起こすと、お腹の上にそらが乗っていたのだ。
「 そら ! お前、なんでおるんよ」
「 なんでって言われるとわかんない。夜中に目が覚めて、何となく夕陽の所に行きたくなった。安心出来るからそのまま、夕陽の上で寝てた」
目をこすりながら話すそら。まるで猫に懐かれたようだと夕陽は思う。
「 そうか。起きるけぇ退け」
「 ね〜。頭に乗っちゃ駄目?」
「 好きにせい」
「 わ〜い。よいしょと」
そらは、テチテチと夕陽の肩から頭に乗る。ますます猫っぽい行動に思わず、夕陽は苦笑する。
「 なんか、猫になつかれた気分じゃ」
「ところでさ。夕陽は、なんでそんな話し方なの?」
「 生まれ故郷の方言」
「 ふ〜ん」
夕陽はそらとそんな会話を交わしながら、昨日通された部屋に行く。 入ると、ヴァネッサが朝食の準備をしていた。
「 おはよう。ユウヒ。ソラ」
「 おはようございます。ヴァネッサさん」
「 おはよう。ヴァネッサさん」
二人が挨拶すると、ヴァネッサは夕陽の頭を見て、言う。
「 ソラ、ユウヒの頭に乗ってるのかい」
「うん。落ち着くから」
昨日出会った時より、若干ではあるがそらの口調が、幼い子供のような口調になっている事に、夕陽は、気づく。
「 そうかい。なら、ソラの主は、ユウヒだね」
「 えっ! どういう事ですか?」
「 朝食を食べながら話そう。 まずは、顔洗ってきな」
「 外に、井戸があるから。行こう!」
妙にハイテンションのそらは、抱っこをせがんだ幼い子のように、夕陽の頭をポフポフと叩き、早く早くと急かす。
「 わかったから、 頭の上で暴れるな。ほら行くで」
「 あいさっさ」
夕陽は、そらを連れて外の井戸に向かう。
井戸から水を汲んで、顔を洗う。
「 冷た。目が覚める」
夕陽は、パジャマの代わりに着ている体操服の裾で、顔を拭く。
夕陽はつい癖でやっているのだろうが、体操服のTシャツがお腹の上らへん、ギリギリ胸元が見えるか否かの所まで捲っている。
人がいたなら、目の遣り場に困るだろう。
その様子を夕陽の頭の見ていたそらは、ぼそりと指摘する。
「 人がいないからいいけど、服で顔を拭くのは、どうかと思う」
「 タオル持ってくるの。忘れたんじゃもん」
「行儀が悪いってのあるけど、それ以前に若い娘が
人前で肌チラさせんなつうの!はしたない!」
―――若い娘って。お前もじゃろ?
夕陽はそうツッコミたかったが、怒られそうなのでやめておいた。
「 そういう事かい。以後気をつけます」
「 分かれば、いいの」
「 なんか、ひなみたいな奴じゃ」
夕陽は、そらの口調が、少し幼なじみに似ていたので思わずその名前を口にしてしまう。
「 ひなって誰?」
「 俺の幼なじみ」
「 なんだ、彼女じゃないの」
「 ノーコメント」
そらと会話をしながら、夕陽は、髪に手櫛で梳かしただけで、髪を昨日から手首に着けたままの髪ゴムで結んだ。
「 やっと戻ってきたかい。さっさと、食べちまいな。この後、ギルドに行って色々手続きするから」
ヴァネッサにそう促され、夕陽は席について朝食を食べはじめる。
「 あのさっきの話ですけど。そらの主とかどうとか」
「 ああ、忘れるとこだった。昨日も話したように、ソラは今のままじゃ外に出れない。モンスターのご馳走になっておしまいだ。その為にも、魔法使いと契約して精霊に生まれ変わるしかない。でも、契約するのだって、相性が悪いと無理だ」
「 そうでしょうね」
夕陽は、頷く。
ヴァネッサは、夕陽の頭の上で寛ぐそらに話し掛ける。
「 ソラ、ユウヒの側は居心地がいいだろ?」
「 うん。 暖かくて気持ちいいの」
「そうかい」
ヴァネッサは、苦笑しながら視線を夕陽に戻す。
「 あーやって、ソラがユウヒの事を気に入ってるって事は、すごく相性がいい証拠だ。ギルドに行く前に契約を済ませよう」
そう言って、ヴァネッサは朝食を済ませると、自室へ戻っていった。
夕陽は、朝食の残りをあわてて食べると皿を片付けた。
暫くして、ヴァネッサは一枚の紙とナイフを持って戻ってきた。
「 ここに、魔法陣が書いてあるだろ。そこの中心に血でユウヒの名前を書いて魔法陣に触れるんだ、その時に契約する者の名前、この場合はソラの名前を呼ぶだけだ」
「 でも、俺この世界の文字書けたり読めないですよ」
「 多分、大丈夫だ。やってみな」
「 えー 」
夕陽は、半信半疑で言われた通り、ナイフで自分の指に傷を少しつけて血で名前を書いてみる。
「 あれ、本当に書ける。なんで?知らんはずじゃに」
すらすらと、ユウヒ・ヒラハラと自分の名前が綴られるのを変な気分で見ていた。
魔法陣に触れ、そらの名前を呼ぶと、そらの体が、光に包まれて暫くすると、ポンという音共に、羽が生えた真っ白い猫がいた。
「 わ〜い。これで、外に自由に行ける! 今日から夕陽の相棒にゃー よろしくにゃー」
「 ああ、よろしく」
夕陽は、こうして、空を飛ぶ猫を相棒にした。