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2 エンカウントは、モンスターとゆーれい?

2 エンカウントは、モンスターとゆーれい?


 夕陽が、神様に言われた通り歩きはじめた頃、野原をフラフラと、さ迷う者が一人いた。

 腰まで伸びた黒髪。紺のブレザーにワイシャツとミニスカート姿の少女である。

 


「 もう、ヴァネッサさん人使い荒いんだから。…‥保護してもらってなかったら消滅しちゃうからさ、あんまり文句言えないけど」


 少女 そらは、自分の主に普段、誰も近寄らない町外れの野原に、強大な魔力を放つ者がいるから探して保護してこいと命じられて、野原をフラフラとさ迷っている最中である。


「 大体。この辺りは低レベルとはいえ、モンスターの生息地じゃない。町じゃ冒険者か騎士団以外立ち入るの禁止してる場所に人なんかいるわけないじゃない」


そらはそんな事を言いながらも、律儀にも人探しを続けた。


――――


「 歩けど歩けど、広い広い野原。人っ子一人おらんし、疲れたし。 休憩しよ」


 夕陽は、そう言うとその場に座り込むと、メッセンジャーバックを地面に置き、中からスマホを取り出し時間を見る。


「 二時間も歩いたんか。 あの神様、俺の持ち物、そのまま使えるようにしてくれとるのは、ええんじゃけど。学ランや靴が大きいのは、ちょっと困るんよね」


夕陽は、着ている学ランの裾や袖口を折ってはいるが、身体が一回りくらい小さいので、ブカブカだ。

 履いているスニーカーも同様にブカブカで歩きにくい。

 余談だが肩から下げているメッセンジャーバックの中身もそのままなので、明らかに役に立たないであろう学校の教科書類も入ったまま、あの神様のいい加減さを如実に表している。

 


「これも、神様が俺の体を女にしてくれたせい。早よう人と会って、着るもん変えたい」


ーーーでも異世界から来たってあっさり信じる人おらんじゃろ。後、女ってバレたら色々面倒だよな。 最悪、売られるとか?


夕陽は、そう考えて一気に、気分が沈む。

けれど、ここで呑気休んでいても仕方ないので、再び歩こうと立ち上がる。

がさがさと夕陽の足元で音がした。


「 何かおる?」


夕陽が、恐る恐る草むらをかき分けると、透明なブヨブヨのゼリー状の生き物がいた。


「 スライムとか、そういう系の生き物ですか?」


アニメやゲームで見るような可愛いらしい感じではなく、いかにもモンスターですよと嫌悪感を抱かせる生き物を見て、夕陽は、ゾゾゾっと鳥肌が立った。 

 そして本能的に夕陽は、察知する。こいつはヤバいと。

 




「 ここは逃げる一択じゃろ!」


 夕陽は、そう言ってメッセンジャーバックをひっつかみ、駆け出した。魔法が使えると聞いているが、呪文一つ知らないし、どうやって魔法を発動させるのかさえわからない。

 とりあえず走って逃げる。

スライムらしきモンスターは、逃げる夕陽をピィィと奇声を発しながらゼリー状のブヨブヨした身体をニュルニュルと体を動かしながら、追いかける。

 見た目に反して以外と早い。速度的には、ニョロニョロと動くヘビくらいだろう。

 

 見た目に反した速度も厄介だが、それ以上に厄介な事をモンスターはした。

 


「 えっ分裂した!反則じゃー!」 


  夕陽が悲鳴を上げるのも無理はない。

モンスターは、ブヨブヨの身体をムチムチと千切りながら分裂していく。

それも一つ、二つではなく、数十、下手したら百くらいの数に分裂し、四方八方から夕陽を追いかけてくる。

 

  必死で走るもブカブカの学ラン足にまとわりつき、ブカブカの靴が脱げかけて、転びかける。

 なのに、モンスターはどんどん距離を詰めてくる。



「 このままじゃ、俺食われるし」


ーーー絶対絶命!


夕陽がそう思った時、どこかから声が聞こえてきた。


「 あたしの言う通りに呪文を唱えて! 炎よ、敵を食む(はむ)魔球となれ!ファイアボール」

「 なんで、そんな厨二くさい呪文唱えといけんのや」


 夕陽は、声の主に怒鳴りつける。絶体絶命のピンチながらも、恥ずかしさ故に夕陽は、怒鳴らずにはいられなかった。

 だがモンスターは、ピィィと奇声を発し、四方から「いただきまーす」と言わんばかりに、ガバぁっと大口を開けて接近中。

 夕陽に選択肢はなく、恥ずかしかろうがなんだろうが、呪文を唱えて、魔法を放つしか生き残る方法はない。



「 いいから、さっさとする」

「 ええい。わかったわい。炎よ。敵を食む(はむ)魔球となれ!ファイアボール」


夕陽がやけっぱちに呪文を唱えると、無数の火球が現れるとスライムらしきモンスターを襲う。

モンスターは、ピィィという悲鳴をあげて消えた。


「 助かった。ありがとな」

「 別に、あたしは呪文教えただけだもん」


夕陽は、息を整えると呪文を教えてくれた声の主を探す。


「 あれ、どこにおる?」

「 ここよ。上を見なさいって」

「 上って、幽霊!」


夕陽は、驚きの声を上げた。夕陽の頭の少し上を半透明の少女がフヨフヨと浮いていた。


「 幽霊って、事実だけど。貴方的には色々、ツッコミたいだろうけど、とにかく今は、あたしの主の所まで一緒に来て」

「 えっちょっと待てや」

「 いいから、来る」

「へいへい」


夕陽は少女の幽霊についていった。


――――


 夕陽は、フヨフヨと浮く少女の幽霊について暫く歩くと、ヨーロッパの田舎にありそうな三角屋根の家の前にたどり着いた。


 家の中から、三十代半ば程の黒いシンプルなワンピースを着た金髪碧眼の女性が出てきて、少女の幽霊にこう言った。


「 お帰り、ソラ。無事連れて帰ってきたみたいだね」

「 ただいま。ヴァネッサさん。本当にこの子?」

「 ああ、そうだよ。ソラは、お前はさっさと家の中にお入り。 でないと消滅するよ」

「はーい」

「そこのあんたも、家に入りな。色々、訊きたいことも話さないといけない事があるんだ」

「 えっでも。ちょっと」

「いいから!」


  女性は、夕陽を強引に家へ招き入れた。

女性

玄関入ってすぐに、暖炉と簡易的な流しとコンロと覚しき物が置いてあるキッチンとその側には、テーブルと椅子が二脚置いてある。

 女性は、夕陽に座るように言う。

夕陽が椅子に座り、下げていたメッセンジャーバッグを邪魔にならないように置いている間に、

軽く手を一振りしたかと思うと、ポポンとテーブルへポットとティーカップが現れた。

 



「 さてと、まずは自己紹介をしないとね。あたしの名前は、ヴァネッサ・ローズ。魔法使いさ。昔は、冒険者やってたんだ。今は、この町 アルジェの冒険者ギルドで裏方の仕事をしている」


 と女性ーーーヴァネッサは、タパタパとお茶を入れながら話し、先程と同じように軽く手を一振りし、小皿に盛ったクッキーを出す。 

 

―――魔法。スゲー


  今しがた自分が魔法を使った事実を棚にあげ、

ヴァネッサの魔法に感動した。


「 俺の名前は、平原夕陽です。あの女の子の幽霊の事や俺をここへ連れてこさせた理由とか訊かせて下さい」

「 まあ、先に、ユウヒ、あんたの事情を訊かせてもらおうじゃないか」


夕陽は、ここに至るまでの出来事を、ヴァネッサに話した。


「 なるほどね。 ソラと同じ世界の人間か。ソラ!ソラ出ておいで」


ヴァネッサは、一人ごちると少女の幽霊 そらを呼びだす。


「 あに〜 ヴァネッサはん」


 ぽちぽちと歩いて出てきたのは、夕陽をさっきこの家まで、連れてきたそらだった。

但し、その姿は、さっきまでの半透明ないかにも幽霊らしい姿と違い、アニメのミニキャラみたいな姿だった。


「 実体化しとるし」

「 この家の中なら、あたしの魔力で実体化出来るんだ。ただ、これにも限界がある。改めて、魔法使いと契約して精霊に生まれ変わる必要がある」

「 どういう事ですか?」


夕陽は、ヴァネッサの言う意味が分からず、頭からはてなマークを飛ばしている。


「 まずは、さっきのユウヒの質問の答えだけどね。ソラは、ユウヒと同じ世界つまり、日本に住んでいた人間だ」

「 えっ?」

「 あのね。あたしは、ヴァネッサさんの言う通り、日本に住んでいた人間なの。女子高生として、学校にも通ってた。ある日ね、事故で死んじゃったんだ」

「 あれ、俺と同じようなパターンじゃ?」


夕陽の一言に、そらは首をふって否定する。


「 夕陽とはちょっと違う。暫く日本に留まってたけど天国に行く決心がついたから、行こうとしたのに、何故か、この世界にいたんだ」

「 それで、どうやってヴァネッサさんと会ったん?」

「 モンスターに、襲われていたところをあたしが保護したのさ。モンスターにとって、死者の魂は最高のご飯だからね」

「うぇぇ」


ヴァネッサの最後の一言に、気持ち悪くなった夕陽は、思わずそんな声を出した。


「 魔力だって、そうなんだよ。特にユウヒは、強力な魔力の持ち主だからね。そういう奴は、モンスターに狙われる。魂と違って食べたらおしまいじゃないけどね。だから、あたしの所に連れてきた訳だ。あたしは、魔力探知が得意でね。ユウヒが現れたとたんに、強力な魔力を感知したから、ソラに連れてこさせたんだ。あたしの命令は、短時間なら、聞けるからね」

「ヴァネッサさん。人使い荒い」

「はいはい。そりゃ悪かった。ソラは、もう寝な」


ヴァネッサは、そう言うと、そらを抱えて彼女専用のベッドに寝かせた。


「さて、ユウヒ。あんたも、着替えて休みな明日は、色々忙しいよ」

「えーと、俺をこの家に置いてくれるんですか?」

「最初からそのつもりで、保護したんだから当たり前だろ」

「ありがとうございます」


 夕陽が頭を下げると、ヴァネッサはそっぽを向いて


「礼はいいから、さっさと寝な!」

 と言って、やや乱暴にカップを下げ、洗い物を洗い始めたのだった。






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[一言] 夕陽さん、元日本人のソラちゃん達に助けられる。
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