16 提案
ダークベアを倒したあと、治療の為、ギルド内に設けられた医療施設に運ばれた夕陽。
治癒魔法により怪我は、治ったものの、重傷を負った状態と杖を装備しないまま魔法を連続使用した事が原因で、生死をさ迷っていた。
「 バカな子だよ。本当に。ソラに杖を預けるなんて ! 」
医療施設の入院ベッドで、眠り続ける夕陽に、向かって怒鳴るヴァネッサ。
杖は、魔法使いにとって命にも等しい。
魔力を使い過ぎないよう、あるいは、感情により魔力が暴しないよう制御する為の物である。
そして魔力は、人間の生命を維持する為にも、重要な役割を果たしている。
だから魔力が枯渇すれば人間は、死ぬ。
つまり、杖なしで魔法を使うなどあり得ない。自殺行為にも等しいのである。
「 ヴァネッサ様 かわりますわ。昨日から、休まれてないのでしょう?」
ヴァネッサの側にユリカが、やって来てそう言葉をかける。
「 じゃあ、お言葉に甘えようか。ちょっと、休むから変わっておくれ」
「 そうして下さい。 このお馬鹿さんがもし、目を覚ましたら、たっぷりお説教しておきますわ」
ユリカは、にっこり笑顔で言う。
「そらも言うこと聞かない、お馬鹿な人に説教したい」
ユリカの脇で、パタパタと飛んでいたそらも、そんな事を言う。
「そうですわね。 二人でお説教しましょうね。 ソラ」
ユリカは、そらを抱えると、ヴァネッサの座っていた椅子に座る。
ユリカ達が、そんなやり取りをしていた頃、夕陽は、夢を見ていた。
果てしなく広い広い何もなくて、真っ白い空間に夕陽に立っていた。
「 こんにちは。平原夕陽さん」
夕陽が振り向くと一人のお爺さんがいた。
銀髪と呼んでも差し支えがない腰まで伸ばした髪に髪と同じ色のひげを蓄え、白い足首まである貫頭衣をまとったその姿は、宗教画などで見る神様の姿だった。
「 こんにちは。ここは、どこですか? 」
「 ここは、あの世とこの世の境じゃよ。 今のお前さんは、生死の合間じゃからの」
おじいさんは、そんな説明をしてくる。
「 ふーん。で、俺は、どうしたらいいですか?」
「 儂の話聞いてくれんかのぉ。お前さんに、重要な話なんじゃ」
「 わかりましたよ」
夕陽は、そう言うとその場に胡座をかいた。
「 では、話を始めようかの」
「 夕陽よ。 お前さんは、何処かのお馬鹿な神様のせいで、異世界に来てしまった。ここまでは、よいな?」
おじいさんの問いに、夕陽は頷く。
「 本来、やるべき手続きを、踏まなかったおかげでの、お前さんのチート能力として、与えた魔力が、逆にお前さんの生命の危機にさらしておるんじゃ」
「 どうゆう事ですか?」
おじいさんから、聞かされた事実が、突拍子なくて思わず、おじいさんに詰め寄る夕陽。
「 まんまじゃよ。 細かい説明は省くがの。要するにチート能力が、あまりにも強すぎる。夕陽の能力で、操りきれない物を付与してしまったんじゃな」
「 だったら、手続きを最初からやり直してくれればよかったんじゃ?」
夕陽は、おじいさんに抗議する。
「 まあ。本来ならそうじゃ、こっちの不手際な対応のせいなんじゃし。でものう、件のお馬鹿な神様が、儂に隠れて、お前さんの記録改ざんしてくれての。おかげで、こんな事になるまで、お前さんを見つけれなかったんじゃ。本当に、すまん」
おじいさんは、ペコリと頭を下げる。夕陽は、そこまでされると、怒る気が失せる。
「 そこでじゃ、儂から一つ提案したい」
おじいさんは、居住まいをただして、話す。
「 色々と条件はあるが、元の世界つまり、日本に転生し直した方がいいと思うんじゃ。無論、今の世界が気に入っとれば、其なりの事はさせてもらうがの。どのみち、早かれ遅かれ今回のような目にあって、死ぬのがオチじゃがの」
おじいさんは、身も蓋もない事をサラリと言った。
「 ほぼ選択肢0ですか。ちょっとだけ時間を下さい」
夕陽は、そう言った。
「 分かっておる。 答えは、明後日まで待とう。 それ以上は、無理じゃ」
「わかりました」
「 じゃ、一度戻って、こい。それ」
おじいさんはポンッと夕陽の背中を押した。
夕陽は、そのまま落下する。
「うわあ、何するんじゃ。乱暴過ぎよ!」
夕陽は、おじいさんに向かって、怒鳴る。
「 ほっほ。すまんのう。こうするのが手っ取り早いのじゃ。 あっいい忘れてたけど、儂一番偉い神様。あの神様は、たっぷりお説教しといたからの」
おじいさん‐神様は、呑気にそう言った。夕陽は、落ちながら、気を失った。