14 討伐戦 前夜
ヒロから近々、モンスターの討伐作戦があるかもしれない。そんな話を聞かされてから、夕陽は、あちこちで、町の人から討伐作戦について、訊かれる事が多かった。
「 ねぇ、ユウヒちゃん。近々大々的なモンスターの討伐作戦があるって聞いたけど、本当かい?」
夕陽がいつものように、食材の買い出しに、商店街をあるいてたところ、八百屋のおばさんから不安気に質問された。
ーーーまたか。
夕陽は、何度も訊かれて少々うんざりしているが、モンスターは、日本で言う地震や台風のような天災に匹敵する脅威なのだ。
心配するなという方が無理だ。
日本なら出来る限り、役所から情報公開するところだろうが、この国では、情報をあまり出さない。
以前、情報公開した事で噂に尾鰭がどころか手足までつき、それを信じた住民が街を捨ててしまい、一つの街がなくなるという事態が起きた。
それ以降、ギルドや役所からの情報公開は、必要最低限にし、住民からの問い合わせには、こんな感じで返答するようギルド所属の冒険者は通達がなされている。
「はい、そうです。でも王都から騎士団派遣されますし、ギルド本部からも高ランクの冒険者が来る事になってますので安心してください」
王都から高ランクの冒険者だけではなく、騎士団も派遣されるという事は、国が中心になってこの作戦は、行われるから安心してほしいという事を示すという事らしい。
「 そうかい。あの噂は、本当なんだね。時に、ユウヒちゃん。あんたも、その作戦に参加するのかい?」
「 はい。俺も参加します。ギルドから通達があれば、参加するのは、義務なので」
心配そうな顔のおばさんに、夕陽は、そう答えた。
「ユウヒちゃん。頼むから、無理しないでおくれよ。 あんた、無茶するからさ。この前も、ユリカちゃんの言うこと聞かないでさ、ゴロツキに一人で立ち向かっただろう。モンスター相手に、一人突っ走るのだけは、およしよ」
「善処します」
夕陽は、苦笑いして、そう言った。
夕陽は、しばしば、向こう見ずな行動に出る事が、あるので、おばさんは、危惧しているのだ。
「 約束だよ。死んだりしたら、承知しないからね」
「 分かりました」
夕陽は、そう言って、おばさんと別れた。
「ただいま」
買い出しを済ませた夕陽は、帰宅した。
台所に入ると、ヒロとヴァネッサとユリカ。それと、アルジェの町の町長とスラリとした男性がいた。
「お帰り、ユウヒ。こっちに来て座りな」
「はい」
夕陽は、ヴァネッサに促されて、空いていた椅子に、座る。
「ギルバート、この娘がさっき、話した、ユウヒだ。ユウヒ、こいつは、ギルバート・ローズ。王都で、騎士団の団長をやってるあたしの愚弟だ」
ヴァネッサのぞんざいな紹介に、ギルバートは、顔をしかめる。
「姉上、紹介が、適当すぎます。一応、貴族の令嬢でしょう」
「 貴族。ヴァネッサさんが?」
夕陽は、意外な事実に驚いた。階級はわからないが、貴族令嬢がなんで冒険者なんてやっているんだろうと、ヒロ以外の人間は思った。
「あっ? そんな身分は、とっくに捨て去った。今は、冒険者さ。貴族の身分なんて、豚の餌にもなりゃしない」
「姉上!」
ギルバートは、ヴァネッサの態度に、呆れつつも、夕陽に向き直り自己紹介する。
「ユウヒ殿。はじめまして、私は、ギルバート・ローズ。騎士団の団長を務めてます。以後、お知りおきを」
ギルバートは、夕陽に丁寧な態度で、自己紹介した。
夕陽は、テレビか本の中でしか知らない丁寧な自己紹介に、しどろもどろになる。
「 えーと、ユウヒ・ヒラハラです。お願いします」
「ヒロ殿の言う通り、なかなか、可愛らしいお嬢さんで」
ギルバートは、ニコニコと笑いながら、夕陽を見ながら言う。
「可愛いくても、手ぇ出すんじゃないよ。愚弟。 それより、ダークベアーの討伐作戦について、話しな、愚弟」
ヴァネッサは、機嫌悪そうに、ギルバートに命令する。
「はああ、分かりました。姉上。ヒロ殿。お願いします」
「では僭越ながら、不肖、ヒロ・スズノがお話せて頂きます」
ヒロは、そう言って作戦について、話はじめた。
「という訳で、騎士団後の皆様には、住民の誘導をお願い致します。後処理は、我々にお任せを」
「ギルドの方には、本当に申し訳ない。モンスター相手となると、王都の者は、慣れない者が多くて」
「仕方ありません。王都は、王族の皆様に守られてますから、モンスターが、入ってくる隙もありません」
ヒロは、そう言ってから、夕陽とユリカに視線を向ける。
「 この二人は、ランクこそ Cランクですが、実力は、ギルドの中でも、トップクラスです。 Sランクの部隊に入れようと思います」
「おお、それは、頼もしい」
ギルバートは、関心したように言うが、夕陽とユリカは、抗議の声を上げた。
「ちょっと、待って下さい。鈴野さん。無理です」
「そうですわ、よくて、Bランクの部隊です」
ヒロのとんでもない提案に、二人は抗議する。
「お前ら、甘えた事言ってんじゃねぇ。ランクってのは、クエストポイント貯めりゃ上がるんだ。ランク=実力とは、限らん。お前らは、冒険者になって日が浅い。ランクが低いのは当たり前だ。お前らの実力は、ランクで、言うならAランクに匹敵する」
「 なんで、そんなに、言い切れるんですの?」
ユリカは、ヒロに疑問をぶつけた。
「 簡単だ。クエストの成功率。特に、モンスター関連の成功率が、ほぼ100%に近い。普通、失敗するもんだ。昨日、今日冒険者になった奴ならなおさら」
ヒロは、淡々と二人の成功率について、淡々と語った。
「 つう訳で、お前らは、俺の部隊な。よろしく」
ヒロは、この場の空気に似合わない程爽やかな笑顔でこう言った。
二人は、ギルドに所属する以上、ギルドマスターであるヒロに逆らえるハズもなかいので、仕方なく従う事にしたのだった。




