11 危機の予感
11 危機の予感
とある日、夕陽は、一人でクエストに臨んでいた。
「 炎よ、敵を食む火球となれ。ファイアボール」
夕陽が、詠唱すると、火球が目の前のモンスターを焼き尽くす。
「 ネズミモドキの駆除完了。まったく。最近モンスターが町の中にまで来るけぇ。いけんわ、ほんまに」
夕陽は、愚痴りながらギルドへ戻る。
本来、 モンスターは、町の中まで入ってこない。どの町も、教会に所属する魔法使いや神官によって、結界が張ってあるからである。
けれど、最近どういう訳だかモンスターが、町の中まで入ってくるのである。
そのせいで、モンスターの討伐依頼が絶えない。
ちなみに結界を調査したが、特に問題は無いと調査結果が出た。
「 おっ、夕陽。クエスト頑張って、こなしてるみてぇだな」
ギルドに戻ってきた、夕陽に声をかけてきたのは、ギルドマスターの鈴野ヒロ。
ワイシャツに黒のズボンというギルドの男性スタッフ用の制服を着てはいるが、ボサボサの髪に無精髭なので、夕陽には、ギルドマスターというよりくたびれたサラリーマンにしか見えない。
ヒロは、夕陽と同じように十代の頃、この世界に転生した日本人。以来、冒険者として生きてきた。
今では、この国で数人しかいない、Sランクの冒険者である。
「 何とか。ヴァネッサさんやユリカのお陰です。 今も、ネズミモドキの駆除してきたところです 」
「 ほお。そういや、リリスから聞いたが、ランクが上がったって?」
「 むぅ。秘密にしといてやって言ったのに、おしゃべりだな。リリスさん」
夕陽は、眉をひそめ項垂れる。
「はは。オレが、無理に聞き出したんだよ。夕陽は、どんな様子だ〜って。言わないと減俸だって脅してな」
ーーーなんしようるんじゃ、このおっさん。ここが日本なら、パワハラで労基に訴えられる案件じゃね?
「 あんたは鬼か。つか、職権濫用じゃろ!パワハラ!」
「いいじゃねぇの。そのくらい、娘を心配する親父の気持ちだと、思って許してくれや。なっ」
「 なっ じゃねぇ。なっじゃ。いつから、俺はあんたの娘になったんだ」
「 さっき」
ヒロは、語尾にハートマークが付きそうな、勢いで言った。
「あのな。勝手な事言わんといてや。鈴野さんの事は、冒険者として尊敬してますけど、人を娘扱いせんといて下さい」
「まあ、そう言うな。ヴァネッサだって、口に出さねぇけど、そう思ってるぜ、ありゃ」
「そうなんです? そいや、ヴァネッサさんと仲いいですよね。 なんか、夫婦みたいだな」
夕陽は、二人がしばしば、一緒にいるのを目撃している。
二人のやり取りが、長年連れ添った夫婦のように見えるから夕陽は、思わず言ってしまったのだけど。
「 まあ、そうゆう風に見えても、しゃーないなー。昔は、ヴァネッサとパーティー組んでいたからな。まっそこは、想像にまかせるわ」
ヒロは、そうはぐらかした。
ヒロとヴァネッサの仲に関しては、このギルドでも
七不思議の一つにされるくらいだ。
なぜくっつかないのか皆うわさしていた。
そんな事を考えていた夕陽の思考を遮るように、ヒロが、真剣に話し始めた。
「それはそうと。最近、モンスターの動きが活発化している。夕陽も知っていると思うがギルドにも、モンスター駆除の依頼が増えてきてている。一つひとつの依頼は、低レベルのモンスターなんだが、これは、大事の前兆だ」
ヒロは、苛立ちを隠せないようで、胸の前で組んだ腕を指先でトントンと叩いている。
「そういや、町のの中にまで、モンスター入ってきてますよね。それも、関係してるんですか?」
「 大有りだ。 本来、モンスターは、町の中まで入ってこれねぇ。結界があるからな。まぁ、結界がなくても、よっぽどの事が無い限りモンスターが入ってくる事は、無いな。どんな小さな町や村にも、大体、騎士団の詰め所か冒険者のギルドは、設置されているからな。魔力が沢山あるつっても、滅ぼされるのわかってるから、人間の町や村には、近寄らない。せいぜい、収穫期の畑を荒らすくらいだ」
ヒロの言葉に、夕陽は、先日のシマヘビをおもいだす。
「 しかし、低レベルのモンスターが、結界を越えられた。 これは、高レベルのモンスターに操れてんだ」
「モンスターが、モンスターを操るんですか?」
「 ああ。 自分の餌となる人間の数を、調べたりするためって言われてるな」
「へー」
「とにもかくにも、近々このアルジェの町にも、警戒網がしかれる。近日中に騎士団とギルドと合同で討伐作戦が行われる事になったんだ。いつでも参加出来るようにしといてくれ」
「わかりました」
ヒロは、説明が終わると、騎士団の人達と話し合いがあると言って、夕陽の前から去った。
夕陽は、ヒロの話を聴いてから、ずっと嫌なイメージが、頭の中に浮かんでいた。
アルジェの町が、モンスターに滅ぼされる。そんな、イメージが、頭から離れない。
夕陽は、嫌な気分で、家に戻った。