10ユリカと買い物
夕食を済ませて風呂から出た後、自室のベッドで夕陽が寝そべりながら、本を読んでいた時の事。
風呂を終え、寝間着姿で戻ってきたユリカが顔をしかめてこう言った。
「 ユウヒさん。なんですの。その格好?」
「 んー? 通ってた高校の体操服じゃけど」
夕陽は、体を起こしてTシャツを引っ張る。
男だった時の物だから、かなりブカブカでユルユルだから、引っ張ると余計に胸元が見えそうになっている。
夕陽のそう行動を見て更に顔顰めた。
「言いにくいのですが、ブカブカ過ぎて胸元が見えそうなんです」
「誰も見とらんじゃん」
「そう言う問題では、ありません」
ユリカは、説教を始めた。
「誰が見てようと見てまいと、関係ありません。 普段から、気を付けてないといけませんの」
「でも、寝間着がわりこれしか無いんよね」
「町で買えばいいのでは?」
「恥ずかしくて、買いに行っとらん」
夕陽は、正直に白状する。普段着ている服は、リリスに頼んで作ってもらっている。
だがその他の衣類は、まだろくに揃えていなかった。
「ヴァネッサさんが、下着を少し買ってくれ
たけど」
「いつもの服には、守護魔法が、かけてあるでしょうから、寝間着とか明日買いに行きましょ」
「え〜。どうしても行かんといけん?」
「駄目です。行きます」
ユリカは、きっぱりと言う。夕陽は、買いに行くのを避けたかったが、無理そうなのでやめた。
翌日。ユリカと夕陽は、アルジェの町の商店街を歩いて、服屋を目指した。
夕陽がいつも、食材を買い求める店舗の並ぶゾーンから、少し離れた所に衣類や装飾品を扱う店が並ぶゾーンがある。
ユリカは、その中でも下着や寝間着類を中心に扱う店に入っていく。
「いらっしゃいませ」
女性の店員が、笑顔で挨拶する。ユリカは、挨拶してきた店員に訊く。
「すみません。寝間着が欲しいんですけど、どちらに行ったらいいですか?」
「あちらになります」
店員は、店の奥の方を示した。
「 ありがとうございました。さっ行きますわよ」
「 へ〜い」
夕陽は、どうでもよい気分で適当過ぎる返事をした。
二人は、女性用の寝間着売り場にやってきた。
夕陽は、すぐ隣が下着売り場なので恥ずかしくて、仕方ない。
夕陽の複雑な思いを知らないユリカは、嬉々として、夕陽の寝間着選びを始めた。
「 これ、可愛いですわ。見てくださいな」
ユリカは、ワンピースタイプの寝間着を、手に取って夕陽に見せる。
「ピンクかあ、可愛い過ぎん?」
夕陽は、ユリカの持つ寝間着を見ながら、そんな感想を言う。
ピンクで胸元にリボンが付いたシンプルなデザインだが、ついこの前まで、男だった夕陽には、少し抵抗のあるデザインだ。
「むっ。わたくしは、シンプルでいいと思いますけど」
「こっちは〜」
店内をパタパタと、飛んでいたそらが、器用に一着の寝間着を持ってくる。
「あっそっちがええ」
夕陽は、そらが持ってきた寝間着を手に取る。
淡い水色でトップスとズボンに別れたセパレートの寝間着である。
「地味な気がしますけど、ユウヒさんが気に入ったのなら仕方ありませんわ」
ユリカは、少々不満そうに言う。
「えと、ごめん。あっちに、気になるのがあるけぇ、見てきてもいい?」
「いいですけど、昨日、買いに行くの嫌がってませんでした?」
「うっ、だって、選ぶのが、楽しくなってきたんじゃもん」
日本にいた頃は、服に大して興味がなかったので、いつも適当に選んでいた。
16歳の今になって、服をじっくり選ぶのが、楽しい事だと思わなかった。
それに、女性の服の方が寝間着一つでもこんなに、種類があるとは知らなかったので、余計に楽しい。
「けけ。夕陽スッカリ女の子を楽しんでいるのにゃ。あんなに、不満タラタラ言ってたのに」
夕陽が、気になる商品をチェックしてると、そらがニヤニヤ笑いながらからかってくる。
「やかましいわい。ニャンコロは、黙っとれ」
「んに〜。ヤダヨ。黙らないもん。今日は、寝間着だけのはずなのに、下着まで買おうとしてるにゃ。どういう風の吹き回しにゃん?」
「……別に、枚数足りんなって、思ったけぇ買うだけじゃし」
「 ふ〜ん」
「 もう、ええじゃろ。そら向こう行っとれ。恥ずかしいけん」
夕陽は、顔を赤くしながらそらを追っ払う。
そらは、ニヤニヤしながら、ユリカの元まで飛んでいった。
「本当にあれだけ、嫌がっていた人間の行動とは、思えないほど買いましたわね」
大量に荷物を抱えて待ち合わせ場所にやって来た夕陽を見たユリカは呆れていた。
「 あ〜うん。自分でもこんなに、買うと思わんかった」
でも、最初は、イヤイヤだった寝間着選びがいつのまにか楽しくなって、つい、あれこれ買ってしまった。
「 まあ、俺が少しは、成長したって事かな?」
「 少しはね。でも、まだまだですわよ」
夕陽は、ユリカにそう言われて、少し悔しかったりした。