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1 神様のミス

久しぶりの長編です。

1神様のミス


  広い広い野原のど真ん中に、肩にかかるくらいの長さの髪を一つに束ね、黒い学ランを着た少年が一人ポツンと佇んでいた。


「 俺、さっきまで学校におったよな?」


 学ラン姿の少年――平原夕陽はそう独り言を言う。

女の子かと一瞬思わせるような中性的な顔には、焦りと不安が入り混じっていた。

  

 周りには、建物も道路も見当たらず、人っ子一人もおらず、ただひたすらに周りに広がるのは野原のみ、ここがどこなのか示す看板も標識一つもない。

おまけに―――



「 教室出て、スマホで時間チェックして、電車乗り遅れそう、やべーって思って……駄目じゃそこから、思い出せん」


 夕陽はそう言って、草むらに座りこむ。

ふと、脇を見ると愛用のメッセンジャーバックがある。 

何故か気になり、中を開けるとポツンと白い封筒が入ってた。


「 手紙? 」


ーーーめっちゃ怪しい!


 そう思うが、夕陽はビリビリと封筒を破くと、モクモクと煙が出てきた。

 

 


「 うわあ、煙? 玉手箱かよ」


夕陽は、思わず封筒を投げてしまう。

 夕陽は、落ちていった封筒から、煙が落ち着いたタイミングで恐る恐る拾い上げ、中を覗く。


「 何も入っとらん。空じゃ」


 夕陽はそう言ってみたが、念のために封筒をブンブン振って、また中を覗くという事を二、三回繰り返してから拾う。

 

―――やっぱり空じゃ、(なん)も入っとらんし。


 夕陽は、空の封筒をとりあえずメッセンジャーバッグへしまい、さてどうしよかと考える。

 ここにぼけっとしていても仕方がない。

とりあえず人に助けるを求めるが、相変わらずだだっ広いだけの野原があるだけだったが……



「 ちょっとー、私の存在無視ー?」

「 はあ? どっから、声がしとるんよ」


 夕陽がキョロキョロと辺りを見回していると、い

つの間にか夕陽の眼の前に、黒のスーツを着て、肩にレディース物のトートバッグを下げた若い女性がいた。 

ぱっと見、会社員か就活中の大学生の出で立ちだ。

 ここが普通の街中なら、いても不思議じゃない出で立ちだが、人っ子一人もいなかったこの場所に急に現れたのだから、普通なら、話しかけられても困るのが、今の夕陽はそんな事さえ気にならないほどだった。



「 んもー。あたしを投げるなんてひどい」

「 そりゃ悪かった。じゃのうて、封筒から煙が出りゃ誰でもびっくりするじゃろ。てかあなた誰?」

「 あたしは神様よ。平原夕陽」

   

 神様ですと言われて、信じる人間ははいないだろう。   

 



「 俺の名前知っとるかは訊かんとこ。 大体、予想はつく。 この展開だと、あなた異世界転生しませんか? じゃろ」


幼なじみからその手の小説を死ぬ程読まされた夕陽は、ズバリと言い切った。


「 んーん。違う。あたしのミスでね。夕陽。君は転生してます」

「 必要な説明とか俺の選択権とか無しにですか」

「 あとねー。私のミスで君の性別ね。女の子になってんのよねー」


 あははと笑いながら話す神様。本当


ーーーはい?今、何て言うた?ミス?

  


そんな疑問を口にする前に、神様の襟首をグワシッと掴むと、怒鳴り散らす。




「 あははじゃなかろうが、あははじゃ」


神様をガクガクと揺らして怒る夕陽。


「 いや。ちゃんと情報チェックしたつもりなんだけどね」


神様は、ぶつぶつと言い訳をする。夕陽は、そんな神様の態度に苛ついて、ドスのきいた低い声でこう言った。


「 そんな、言い訳はせんでええけ。早よぉ説明せぇや。ねえちゃん」


夕陽のドスのきいた脅しのようなセリフにも、動じず神様は、説明をはじめた。



「はいはい。本当は、死んだ人って、あの世行ってゆっくりと過ごしてから転生するか、すぐに転生するか。本人とあたしが面接して決めるんだ」

「 へー。それで、その面接がなんで、俺は、すっ飛ばされとるか、教えて下さいや」


夕陽は、不機嫌な顔を神様に向けながら質問する。


「 このまずは、このパソコン見てちょ」


そう言って、神様は、肩から下げていたレディースのビジネスバックからノートパソコンを取り出す。


夕陽は、言われた通りにノートパソコンを覗きこむ。  

 そこには、履歴書に似たフォーマットが映し出されていた。

 夕陽の顔写真、夕陽の名前、夕陽の生年月日、夕陽の生前の住所、夕陽の生前の自宅の電話番号、夕陽の携帯番号は、ここまでは、普通の履歴書と変わらない。

 普通の就活やバイト応募なんかに使う履歴書と違い学歴や職歴が記載されるところだが、そこは『生前歴』とあり、生まれてから死ぬまでの経歴が記載され、最後に『生前の在住国の法律における犯罪等による懲罰歴』 夕陽は、ごくごく普通に生きてきた高校生なので、万引きや喧嘩なんてやった事はない。

だから『生前の在住国の法律における犯罪等による懲罰』の欄には懲罰無しの記載と済と赤いハンコデカデカと押してあった。



「このパソコンに死んだ人の情報がね、こんな感じ送られてくるのよ。で、夕陽の情報を居眠りしながら、チェックしてたらね。夕陽本人がくる前に、面接すべて終了した事になってたのよ。 いやーごめんね」


 現し世の社会人ならクビになってもおかしくない

仕事ぶりだ。

まあ神様でもダメダメな仕事ぶりだろうが。


「 あんた、神様の癖に居眠りすんなや。真面目に仕事せえや。あんたが真面目に仕事せんけぇ、俺は、いきなり異世界に転生とか、意味分からん事になっとんじゃろうが!」


夕陽は、神様をガクガクと揺らしながら、怒鳴り散らす。


「 本当にマジでごめん。あと揺らすのやめて、聞いてあたしの話」


夕陽は、神様から手を離すと居住まいを正した。


「 確かに、あたしの手違いで夕陽を異世界に転生させてしまった。 それは、謝る。

しかも転生後の体の性別もこっちのミスで、女の子になったのもね。でもね。本来、前世の記憶なんてきれいサッパリ消えるの。しかも赤ちゃんか幼子の姿で転生するの。でも、夕陽は前の記憶を持ったまま、しかも容姿が殆ど変わらず転生した。多分理由があるんだよ」

「………壮大なミスなのに最後いい感じにまとめられとるんじゃけど?」



 夕陽は、呆れ果てそんなツッコミを入れつつも、腹をくくる事にした。




「 まあこっちで頑張るしかないじゃろ」

「 あっそうそう。 夕陽に餞別だよ」


神様は、そう言って夕陽の頭に手を翳す。

夕陽は暖かい何かが、頭から足の先まで流れていくのを感じた。


「いわゆるチート能力ってやつ。この世界は、魔法が使える。 四つ属性があるんだ。えっと、風と光と水と炎ね。普通は、一つもしくは二つまでしか使えないけど、夕陽は、四つ全部使えるようにしといた」

「 ふーん。それで、俺はどうしたらいい?」

「このまま、南の方に歩いて行って。必ず夕陽を導いてくれる者に出会える。後は、その人に訊いて。これ以上はあたしは干渉出来ないから」


神様はそう言って、夕陽の前から消えた。


「 じゃあ。健闘を祈る」


何処からか、そんな声が聞こえた。


「 はあ、適当すぎる。 まあええか。言われた通りにするか」


夕陽は、足元のメッセンジャーバックを肩から下げると南のほうに足を向けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よくある駄目な神様で、こういうのは面白いですね。 [気になる点] 神様から予めネタバレされてしまって、後で自分の体を見て驚いて戸惑うというよくあるTSものの醍醐味は見えなくなりますよね。
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