5話
王女登場です。
異世界3日目。
その日は戦闘組に混じって、朝から他のクラスメイトと一緒に魔法や召喚術を学ぶ事になった。
だが残念なことに、どちらも才能が無いことが判明した!
魔法少女あかり、営業終了のお知らせだ。ショック!
これ以上教える事はありません、と宣言されたわたしは。スゴスゴと、若ちんのとこへ戻った。
「そっか!しゃーねーな!大丈夫、きっとお前にしか出来ない、すっごい力がある筈だ!気長にやってこーぜ」
わしゃわしゃと頭を撫でられた。
若ちん…良い先生だな。
その優しさにちょっと泣きそうだ。
胸がじんわりあったかくなった所で余計な一言が出た。
「でもって早くシーマ頼むな!」
「だから何かわかりませんて!」
近くにいたクラスメイト達が笑ってる。この漫才みたいなやりとりも昨日から恒例になってきたぞ!
その後は、気分転換に他の戦闘組でも見学するか?と若ちんに誘われたのでついて回った。
始めに立ち寄ったのは格闘系のグループだった。
何組かの練習を見学していると、一際人が集まって盛り上がっている場所があった。
見ると、客寄せ担当だったウサギとパンダが戦っている!!
しかも結構強い!高くジャンプして回し蹴りしたり、バク転して攻撃をかわしたりしてるぅ!
「若ちん!あれ!あれどうしたの!?」
「あぁ、何か着ぐるみ着たままこっちに来た時に、何か恩恵を受けたらしいぞ。本人達が楽しんでるからな。まぁいいんじゃねーか?」
おおー。まさか着ぐるみにそんな力が宿るとは。ここに来た当初はモンスターと間違われた彼らは、着ぐるみ拳闘士として活躍してるそうだ。
続いてやって来たのは剣や槍等を扱う組だった。
クラスでも運動神経が良い体育会系のメンバーが、大体ここに振り分けられたらしい。
指導役の本職さん達と木刀を使って打ち合いや、素振り、打ち込みとかをしていた。数人だけど女子もいた。カッコいい!
その中でも群を抜いて目立っていたのは、やっぱり勇者の大河だった!何ていうか、動きが他の人と違う。
若ちん曰く、元々の能力値というのが他のメンバーより格段に高いらしい。
「おう、あかり。魔法系の練習はもういいのか?」
大河がわたしに気づいて声をかけながら近寄って来た。
その後ろに、見たことないゴージャスで派手で綺麗な女の人達が数人くっついて来た。
綺麗だけど、なんか気が強そうなオーラが凄まじい!
「勇者様、誰ですの?その方は」
「あー。こいつも一緒にこっちに来たクラスメイトです」
若干、大河は迷惑そうだ。
「まあ。この方も勇者様御一行ですの?」
真ん中の1番綺麗な人が値踏みする様にジロジロ私を見てきた。
ドキドキドキドキ。
なんか緊張する。
この状況は何だか嫌な場面を思い出させる。
「あかり。もう今日の特訓は終わりなんだろ?」
「う、うん」
「じゃあ、これやるよ。持ってた鞄に入ってたから」
そう言って大河はノートと筆箱を渡してきた。
「もしかしたら何かヒントになるかもしれないだろ?スケッチとかしてみれば?」
「あ、ありがとう」
大河の気遣いが嬉しい。紙と鉛筆はわたしの精神安定剤だ!
軽く震える手でそれを受け取ろうとした時。
先ほどの綺麗な女の人が、あぁ、なるほど!と声を上げた。
「貴女ですの。妄想なんたらという変わり種は。他の方達はすぐ能力開花したのに、未だに方向性がわからないって噂ですわね」
女性から明確に伝わってくる悪意が怖くて、手の震えが止まらなくなった。ノートと筆箱が地に落ちた。
怖い。怖い。怖い。
恐怖で眩暈がしてきた。
「あかり!おい!大丈夫か!?」
大河が焦ってわたしの肩に手を置いて顔を覗き込んできた。
「な、何よ急に。具合が悪いフリして」
「勇者様の気をひこうとしてるんですわ!」
女性達が騒ぎ出す。
そこに若ちんの声が加わった。
「おい!そこの着飾るしか能が無いクソ女ども!俺の大事な生徒に何しやがる!」
「まあ!私はこの国の王女よ!無礼だわ」
「俺らはこの国の人間じゃねぇからよ。そんなもんクソほどの価値もねえよ!」
「そうだ!そうだ!俺達の仲間をいじめるな!」
「気が散るから帰れー!」
若ちんやクラスメイトの声が、遠くから聞こえてくるみたいだ。
「伊藤。こっちはいいから、田中を非戦闘の方へ連れて行ってくれ」
「はい」
何だかフラフラする。もう目も開けてられなくて、思わず目を閉じた。身体がふわりと浮いて、どこかに運ばれていくのがわかった。
あかりの症状には、彼女なりの理由があります。